家電製品ミニレビュー
ソニー「ホームエネルギーサーバー CP-S300」
ソニーの「ホームエネルギーサーバー CP-S300」 |
11月に入り、各電力会社から冬の電力需給に関する予定が発表された。具体的な節電目標が明示されたり、逆に節電目標がなかった地域もあるが、停電は電力不足だけでなく、雷雨や自然災害などでも発生する。
そこで今回は、停電した時のための、イザというときのバックアップ電源を紹介しよう。10月に発売されたソニーの「ホームエネルギーサーバー CP-S300」だ。
メーカー | ソニー |
製品名 | ホームエネルギーサーバー CP-S300E |
価格 | オープンプライス |
直販価格 | 148,000円 |
■ボタンはたった2つだけ! カンタン操作でイザというときにスグに使える
本体のボタンはたった2つだけだ。左のボタンを押すと、バッテリの残量が4段階のグラフで表示される |
このホームエネルギーサーバーの第一印象は、「非常にシンプル」。何しろ、本体に用意されているボタンは、本体上面にあるたった2つだけ。しかも“長押し”やら、“このボタンとこのボタンを同時に押す”なんていうコンビーネーションもない。
この2つのボタンを解説すると、左側の「電池残量確認」スイッチは、その名の通り電池の残量を確認するもの。ボタンを押すと、4段階のグラフに見立てた緑色の残量ランプが光り、内蔵バッテリー残量がひと目で確認できる。
右側の「出力 ON/OFF」ボタンは、100Vの給電開始スイッチだ。ボタンをカチ! と押し、3秒ほど待つと、本体にある2つのコンセントから100Vの電気が取れるようになる。さらにもう一度押せば、給電が止まる。ここで充電用のACアダプタが差し込まれていれば、自動的に充電が始まるようになっている。
この簡単な操作を更に簡単にしているのが、本体に印刷されたマニュアル(の一部)。充電や給電のしかた、そしてどんな機器を接続すると何時間ぐらい使えるのかがひと目で分かるように印刷されている。しかも、イラストやアイコンを使った説明になっているので、子供でもお年寄りでも、操作がイメージしやすいだろう。
右のボタンを押し、3秒ほどすると100V出力がスタート。電源ONの状態では、常に残量グラフが表示される | 電源ボタンの周りには蓄光塗料が塗られており、夜突然停電になってもボタンの周りが暗闇でも光る |
充電器を本体に差し込んでおけば、スイッチを切った瞬間から充電が始まる。 | 本体には、使い方のマニュアルが印刷されているのでマニュアルなしでも使いこなせる |
サイズはちょうど一斗缶(いっとかん)ほど。一斗缶をご存知ない若い人に説明すると、ペンキ屋さんなどが使っている業務用の塗料缶のこと。四角いゴミ箱のような缶だが、建築現場などで一度は見かけたことがあるだろう。こちらには、ペンキや薬剤などが18L入るが、ホームエネルギーサーバーには、おおよそ250Whぶんの100V電気が詰まっている。
なお内蔵している電池容量は、スペックには最低290Wh、平均で300Whとある。しかし、内部の回路などのロスがあるため、おそらく実際に使えるのは250Wh程度だろう。
これがどれくらいの電気に相当するかというと、デスクスタンドなどに使われている消費電力20Wの蛍光灯ならおよそ9時間、60W相当の明るさのLED電球なら22時間使えるほどの容量だ。接続する機器によって容量は異なる。
ちなみに、以前にレビューしたパナソニックの「ポータブル電源 CB-LS01H」と比べると、蓄電容量は2~2.5倍、重さは4倍、価格は10月31日時点のヨドバシカメラ価格で比較すると1.6倍となっている。容量の割には、価格は安いといった感じだ。
重さは約12kg。重いが、本体の両サイドに取っ手があるので、10kgの米袋をスーパーから抱えてくるよりは楽に持ち運びができるだろう。
12kgと重いが、大型の取っ手がついているので、部屋から部屋への移動も楽チン | あとは電源プラグを挿し、電源ボタンを押すだけで家電が使えるようになる |
■計画停電中でも40インチ以下の液晶テレビが見られる
上部の2つが本体出力のコンセント。その下にはどんな機器が何時間ぐらい使えるのかという目安が印刷されている |
さてこのホームエネルギーサーバーだが、例えば計画停電が2時間実施されたとして、その間にどんな家電を使えるのだろうか。本体や説明書には、どんな家電を使うと何時間使えるかという目安が、次のように書かれている。
機器名 | 消費電力 | おおよその利用時間 |
ラジオ | 10W | 25時間 |
携帯電話/スマートフォン | 5W | 50時間 |
固定電話(親機) | 5W | 50時間 |
LED照明 | 20W | 10時間 |
ノートPC | 50~150W | 1.5~5時間 |
扇風機 | 50W | 5時間 |
BD・DVDプレイヤー/レコーダー | 50W | 5時間 |
液晶テレビ(40型以下) | 100~200W | 1~2.5時間 |
プラズマテレビ(40型以下) | 150~300W | 0.5~1.5時間 |
機器によってバラつきがあるものの、この表から見ても、ホームエネルギーサーバーの容量はおよそ200~250Whと言えるだろう。200~250Wの機器が1時間使えるということは、計画停電が2時間だとすると、容量を2で割って100~125Wの機器が使えるという計算だ。
しかし、100W程度だと、コタツやホットカーペットなどの家電で暖を取ることはできない。停電時は反射式ストーブや湯たんぽなどでやり過ごすしかなさそうだ。とはいえ、32型程度の液晶テレビでニュースを30分ほど見て、しかも数個のLED照明や蛍光灯を停電中にずっと灯けておけるほどの容量はある。
LED照明ならおよそ10時間の連続点灯が可能 | このテレビは消費電力が184Wなので、もし2時間の計画停電があった場合はズーッと見ていることはできない。しかし、30分ほどニュースなどを見るぶんには問題ない | たとえ計画停電が日に2回あったとしても、6時間で急速充電できる。コンセントにACアダプタを差し込んでおいて、充電プラグを本体に挿しておけば、停電が終わりしだい電源を切って充電開始できる |
また1日に2回停電した場合でも、およそ6時間でフルチャージできるので、午前の停電から午後の停電の間にフル充電ができる。専用の充電用ACアダプタを本体に差し込んでおけば、本体の電源を切るとスグに充電が始まるので、便利に使えるだろう。
なおパソコンの利用時間は、ノートパソコンについては前述の表の通りだったが、デスクトップパソコンの利用時間が明記されていなかった。そこで実際に筆者が使っている環境でも利用できるかをチェックしてみた。
【調査環境】
CPU:Corei7 870、メモリー:8GB、ハードディスク:4台(パソコンは最大限電力を抑える設定)
26インチ液晶(バックライトは最も暗くした)、CATVインターネット回線用モデム×1台
ホームエネルギーサーバーなら、計画停電中にどうしてもデスクトップコンピュータで作業しなければならない場合でも、非常用電源としても使える。ただしパソコンは省電力モードに設定して、液晶画面は最も暗くしておくこと。液晶は暗くするだけで数十Wほど減らせるのだ |
仕事ができる最低限の環境にして消費電力を測ったところ、原稿を書く程度の軽い処理なら131W、アイドル時は120Wまで落ちた。2時間停止の計画停電があっても、デスクトップパソコンでの仕事が続行できると判明! 締め切り前の2時間は、ライターにとって超貴重でプライスレスな時間(笑)。これだけでも、ホームエネルギーサーバーをマジで買おうかと検討してしまった!
ただ、PhotoShopで何枚もの画像を加工したり、動画編集などで重い処理をさせると、パソコンだけで200Wオーバー。ディスプレイやモデムも合わせると230Wになるので、停電中の2時間は凌げない。
パソコン用のバックアップ電源としては無停電電源(UPS)もあるが、家庭用では停電してからデータを保存するまでの時間を稼げる程度しか使えないものが多い。そういう意味でホームエネルギーサーバーは、「パソコンがなくちゃ仕事にならん!」という人のバックアップ用電源としての利用価値も高いだろう。
ただし、UPSのような常時パソコンに給電する機能は持っていないので、停電が起こったら、本製品に電源をつなぎ替えて再起動する必要がある。
■消費電力の多い機器だと冷却ファンがちょっとウルサイ
使用時間や使用できる機器がわかったところで、本製品を数日間使ってみた。しかし、運転音でちょっと気になることがあった。
比較的消費電力が少ない場合は、運転音は非常に静かなのだが、消費電力が多い機器を使うと、ホームエネルギーサーバーに内蔵されているファンが回り出し、うるさいと感じられた。測定してみると暗騒音(対象の製品を使っていない状態の音)が50dbなのに対して、ファンが回り出すと、本体から30cmのあたりで60dbを記録した。感覚的にはエアコンを運転したときの音ぐらいと思っていいだろう。
このファンはどうやら、本体に内蔵されている、内蔵バッテリーから100Vに変換する回路「インバータ回路」を冷却しているように思われる。本体下からエアーを吸い込み、本体上部のスリット部から吐き出しているみたいだ。それ以外の熱は、本体側面がアルミになっているので、ここから放熱をしている様子。説明書の注意書きによれば、通風の悪い場所(毛布で包んだり、カバンの中に入れたり)での使用を禁じたり、本体の周りに10cm以上のスペースを空けるなどの注意書きがあった。説明書の冒頭は読み飛ばしてしまいがちだが、この2点は注意した方がいいだろう。
60Wの白熱電球3個の160W程度では、ファンはまだ回り出さない。非常に静か | 電球4個を点灯し、出力が200Wを越えるとファンが回り出す。すこし音が気になる |
さらに、内蔵ファンが回りだすトリガー(きっかけ)を調べてみたところ、インバーターの温度ではなく、消費電力となっているようだ。その境目はおよそ200W。ホームエネルギーサーバーは最大300Wまで出力できるので、ファンが回り出すということは、出力の限界が近づいているということ。ファンの音を感じたら、接続している機器の合計ワット数をチェックすることをオススメする。
出力は最大で300Wとあるが、スイッチ投入時の瞬間的な最大消費電力にも耐えられるよう、370Wまで余裕を持たせている。それを越えると保護回路が働き、自動的に100Vの出力を停止する |
なお、出力が限界を超えると、自動的に100Vの出力を停止する保護回路が設けられている。この回路が働く消費電力を測ってみたところ、およそ370Wに設定されているようで、マージン(余裕)が70W設けられている。おそらく、スイッチを入れると瞬間的に大電流を流す「突入電流」に対する配慮だろう。したがって、場合によっては消費電力が300Wと書かれている機器であっても、スイッチを入れた瞬間に保護回路が働き利用できないもの稀にあることに注意して欲しい。複数の機器の場合は、順次スイッチをONにしていくといいだろう。
■美しい100Vのサイン波――オーディオマニアも注目だ!
さて、発電系のレビューではもはや恒例となった、100Vの波形についても、オシロスコープで見てみよう。
ホームエネルギーサーバーの出力波形。美しい…… | こちらの写真は、波形のワンセットを拡大したもの |
こちらは東京電力管内(おそらく川崎からの供給)のコンセントの波形 | 波形の“山”の角度が異なっている |
うぉぉっ!これは美しいサイン波(正弦波)! コンセントよりも理想のサイン波を描いているのがよく分かる。
細かいことを言うと、波形のワンセットを拡大してみると、中央の0Vの瞬間に若干のゆがみがあるものの、気になる程度ではない。おそらく波形の山の部分1つをデータ化していて、下に向いた山は上の山の形を反転させているため、その接合部がこのような波形に現れていると思われる。
さらに波形を拡大していくと、デジタルのジャギーが出てくるが、かなり細かく電圧を調整していることがよく分かる。
0V(グラフ中央)の瞬間に若干のゆがみが。これは波形データを接合している部分と思われる | 拡大していくとデジタル特有のジャギーが現れるが、かなり細かく高速に電圧を調整しているのが分かる |
ちなみに電圧は、101~103Vの間で安定している。消費電力が多い機器のスイッチを入れると瞬間的に98V程度まで下がることもあるが、いずれも誤差の範囲内で、すぐに102V程度で安定する。家庭用のコンセントの電圧よりも安定しているため、極めて優秀と言っていいだろう。
ここまでキレイな波形は、理想のサイン波の電源を追い求める“超”オーディオマニアが垂涎する逸品だろう。停電用のバックアップ電源ではなく、高級オーディオ専用の電源としても利用価値が高い。ただし高出力アンプ+スピーカーだと、アルバム1枚を聞いている途中で電池切れになる可能性はかなり高いので(笑)、ヘッドホンがオススメだ。
■ソニー独自の“オリビン型リン酸鉄リチウムイオン電池”を採用……って何?
というわけで、ホームエネルギーサーバーが一般家庭では計画停電中のバックアップ電源として、また停電中でもパソコンで仕事をしなければならない修羅場の友として、高級オーディオの理想的な電源としても利用価値があることがわかった。でも、その心臓部のバッテリーもまた革新的なものが利用されているのだ。最後になるが、少しだけ説明しておこう。
ホームエネルギーサーバーの電源はリチウムイオン電池。電池は負極(マイナス側)の素材、正極(プラス側)の素材、電解質(プラスとマイナスの電極を埋める物質)の3つから構成されているが、ひとくちにリチウムイオン電池と言っても、3つの物質はさまざまなものが利用されている。そしてその物質によって、性能が大きく変わってくる唯一共通しているのは、正極と負極の間をリチウムのイオンが移動することで電気が発生するという点だ。
充電式電池の性能比較(ソニーのWebサイトより引用) |
一般的なリチウムイオン電池は、およそ500回の充放電で寿命となってしまう。しかし、ソニーが独自に開発した、ホームエネルギーサーバーに搭載されている「オリビン型リン酸鉄リチウムイオン電池」は、およそ6,000回の充放電が可能。つまり、ホームエネルギーサーバーを毎日1回充放電させたとしても、10年間も使えるということだ。
また一般的なリチウムイオン電池には、レアメタル(希少な金属)が使われているため、製造コストが高くつく。ビデオやデジカメの電池がバカっ高い1つの要因だ。しかしソニーの新型リチウムイオン電池は、手に入りやすい「リン酸鉄」と呼ばれる資源を使っているため、比較的製造コストも安価になっているのが特徴。これは先に紹介した本体価格からも分かるだろう。
さらに不純物を徹底的に排除し、製造工程などの改善なども行ない、安価ながら長寿命で高信頼性を兼ね備えているリチウムイオン電池なのだ。
正極(プラス側)の素材に使われているリン酸鉄リチウムの分子構造から「オリビン型」と呼ばれている(ソニーのWebサイトより引用) |
なお「オリビン型」というのは、リン酸鉄の結晶構造のこと示しているとのこと。その構造がカンラン石(オリビン)と同じことからこう呼ばれている。詳しい理由は勉強不足で理解できなかったが、この結晶構造にすることで長寿命で安全性の高い電池になっているという。ソニー曰く「ソニーのオリビンにはさらに超寿命化する秘伝のタレが使われている」とか。
しかも電池は長期間放置しておくと自然に放電してしまうが、オリビン型リン酸鉄リチウムイオン電池は1年間放置しても10%程度しか放電しないという特徴がある。
ソニーのリチウムイオン電池は、震災直後から業務用のバックアップ電源として発売された。電圧や容量に応じてさまざまなカスタマイズが可能で、例えば写真のサイズだと、一般的な家庭の1日の電力をまかなえるという。 |
この電池を使ったバックアップ電源は、震災直後の4月に業務用として発売されたが、ホームエネルギーサーバーはこれを民生用に転用したものだ。
安価ながら一般的なリチウムイオン電池に比べ約7倍もの寿命を持つ点は、非常に魅力的。いち早く、モバイルバッテリーなどへの転用が望まれる。
■東と西でモデルが違う点にご注意
長くなったが、ホームエネルギーサーバーがどれだけ「使えるもの」かが分かり、購入を検討する読者のみなさんも多いことだろう。
しかし購入にあたって注意すべき点が1つある。それは東日本用と西日本用の2つのモデルがあるという点。
形はまったく同じだが、東日本用のCP-S300E(East)と西日本用のCP-S300W(West)がある。購入時には注意して欲しい。 |
東日本用は50Hzの100Vを出力し、西日本用は60Hzの100Vを出力するようになっている。ソニーによれば「コスト削減のため」ということだが、スイッチで50/60Hz切り替えができないのは少し不安が残るかもしれない。
しかし現在販売されている家電のほとんどは、50/60Hzに依存されないものが多いので、緊急時のバックアップ電源として不便を感じることはまずないだろう。
正弦波の出力と高性能の電池を備えた、非常に優秀な家庭用蓄電池だ。災害や計画停電のときの備えとしてはもちろん、電源が無いところでちょっとした電源としても使える。家庭に一つ用意してはどうだろうか。
2011年11月8日 00:00