家電製品ロングレビュー
本当に使える空気清浄機はコレだ! 機能をガチ比較!! 後編
by 藤山 哲人(2013/11/14 07:00)
空気清浄機能だけに特化した、単機能タイプの空気清浄機3台の性能比較レビューをお送りしている。前編では、空気清浄機の性能を大きく左右するのは、次の2点ということを紹介した。
・どれだけ大量の空気を清浄できるか? 送風機の能力
・どれだけ小さい微粒子を除去できるか? フィルターの性能
そして数ある空気清浄機の中でも、スウェーデン製のBlueairと、扇風機で有名になったBALMUDAの製品の送風能力が優れているということが明らかになった。しかし運転音を調べてみると、それぞれ送風能力は互角だったのに対し、Blueairの運転音の方が静かだった。つまりBlueairは、静かだが大量の空気を清浄できる製品ということだ。
今回は空気清浄機のもうひとつの要となる「フィルター」を見ていこう。
搭載しているフィルターはHEPAクラスが基本
今年2013年は、11月5日に千葉でPM2.5の飛来が観測された。PM2.5とは今年から騒がれはじめた極々小さな微粒子で、吸い込むと健康を害する恐れもあるとして、環境省が注意を促している。ハッキリした原因が分かっていないが、おそらく発展が著しい中国から飛来する工場排出やディーゼル(エンジン)の排気粒子ではないか? とされている。直径は2.5μm(1μmは1mmの1/1000)と髪の毛の太さ(0.1mm)の1/30程度しかない。
それ以外にも空気中にはさまざまな粒子が飛び交っていて、花粉やカビなどが有名。こちらは直径が10μmなので、髪の毛の1/10程度だ。
さらに花粉とシーズンが重なる黄砂は4μmと、花粉のほぼ半分以下という小さな微粒子だ。タバコの煙や焼き肉をしたときに出る白い煙も、ほぼPM2.5と同じような直径の微粒子。これからのシーズン、風邪をはやらすウィルスは、それよりも小さな0.1μmの極微粒子で、髪の毛の太さの1/1000しかない。
さて空気清浄機は、これらの微粒子を空気から取り除くため、これらより目の細かいフィルターを搭載している。高性能の目安になるのが「HEPA」クラスのフィルターを搭載しているという点だ。HEPAクラスのフィルターは0.3μm以上の微粒子を99.97%除去できるという規格に準拠したものだ。
つまりHEPAフィルターを搭載していれば、ある程度の花粉はもちろん黄砂やPM2.5の微粒子も取り除ける高性能空気清浄機といえる。今回紹介している3台の空気清浄機は、0.1μmのウイルスまで取り除く性能を備えている。これは、各メーカーがフィルター性能を重視しているからだ。
除菌・洗浄機能や微粒子をキャッチしやすくする機構
HEPAフィルターは単なる規格品なので、各社はそこに色々な付加機能を設けたり、独自でフィルターを開発するなど、特色を出している。ここでは各社の除菌や洗浄機能、また微粒子を捕らえやすくする機能などを紹介しよう。
・Blueair
特徴は「3ステップHEPA Silentフィルター」と呼ばれるもの。通常のHEPAフィルターは、表から裏まで網の目が均一になっているが、Blueairのフィルターはあえて、目を粗くしたフィルターを独自開発している。
実際のフィルターを顕微鏡で見てみると、空気を吸い込む側は粗い目になっていて、裏側は細かい目になっていることが分かる。こうすることで、フィルター外側の粗い目では大きな粒子を、内側では小さな微粒子を捕らえることになり、フィルターの奥行きを3次元的に使えるため、一般的なHEPAフィルターの弱点であった目詰まりを解決している。また奥行きを持たせることで、事実上の表面積も増やすことができるため、より多くの微粒子を捕らえるだけでなく、より空気の流れをよくできる。
気になるメンテナンスは、半年間フリー。その後は別売りのフィルターを購入して交換する必要がある。ただし、日常的なメンテナンスから解放されるというのは大きな魅力だ。
さらにBlueairでは、空気取り入れ口に電極を設けて、空気中の微粒子をマイナスに帯電させ、プラスに帯電させたフィルターに吸着させるしくみを持っている。ちょうど髪の毛をプラスチックの下敷きでこすると、髪の毛がくっつく静電気の現象と同じで、空気期中の微粒子(髪の毛)が、フィルター(下敷き)に吸い付くというわけだ。
独自開発のフィルターと帯電技術により、細かい粒子もしっかりとらえるということだ。
・cado
HEPAフィルターに銀イオンを塗布したものを使っていて、フィルターが捕獲したウィルスなどの菌を殺菌するフィルターになっている。銀の殺菌作用は、科学的にも実証されており、公衆浴場の風呂水の滅菌などでも利用されている。
またHEPAフィルターの目詰まり防止用に、大きな綿ホコリなどをあらかじめキャッチしてしまうプレフィルターを設けている。メンテナンスは、一般的な空気清浄気と同様に、プレフィルターに付着したホコリを吸い取って行なう。
また活性炭フィルターには、「光ブルー活性炭」を利用しているという。これは近年のエアコンなどにも使われている技術で、水で簡単に流れ落ち、油汚れを寄せ付けないというものだ。さらに光を当てることで滅菌作用も持たせたのが特殊な「光ブルー活性炭」だ。
・BALMUDA
BALMUDAの特徴は、酵素を塗布したHEPAフィルターを採用している点だ。フィルターで捕らえた菌類は、酵素の力で分解・滅菌される。ただ、塗布した酵素にニオイがあり、部屋に入った瞬間にやや薬品っぽいニオイを感じる。とはいえ、しばらく旅行に出て帰ってくると感じる我が家のニオイ的なもので、すぐに鼻が慣れてしまう。
またフィルターの周囲は、メッシュのフィルターで覆われており、ホコリなどの大きなゴミはメッシュフィルターでキャッチするようになっている。そのため掃除機などでメッシュフィルターのメンテナンスが必要になる。
実際に花粉を吸わせてフィルター構造をチェック!
実際に使われているフィルターが、どのような構造なのかを調べてみた。実験方法は次のとおりだ。
・掃除機の吸い込み口にフィルターを取り付け(試験対象が取りこぼした花粉がないかを調べるため)
・試験対象のフィルターをさらにかぶせる
・小さな台に人工授粉用の花粉増量剤を耳かき1杯撒く
・掃除機のスイッチを入れ吸い込みを安定させる
・台に近づけ花粉を吸い込ませる
人工授粉用の花粉増量剤というのは、シダの仲間の植物から採った胞子で、果樹園などで人工授粉する際に実際の花粉にコレをまぜて量を増やし、多くの花を受粉させるためのもの。パッと見ると、ピンクのチョークを粉にしたような感じ(染色してある)で、顕微鏡で見ると、だいたい直径20~30μm程度だった。
掃除機の吸い込み口に、フィルターを被せ、その上に各製品のフィルターを被せている。もし製品のフィルターが粒子を取りこぼすと、もう1枚下のフィルターでキャッチして、どのぐらい漏れたかがわかる。擬似花粉はピンク色になっているので、白いフィルターに付着すればすぐに分かるので便利だ。
なおここで、実験結果を紹介する前に注意事項がある。実際のフィルターは、折り畳んだ状態になっているので、粒子が正面から飛び込むと、網目は斜めになっていて、実際よりさらに細かいフィルターとして機能する点だ。
ここでの実験結果は、あくまでフィルター正面から吸い込ませた結果であり、実際のHEPA基準は満たされていない点をご了承いただきたい。
・Blueair
フィルター表面の粗い目には引っかからず、すべてフィルター奥の細かい目にたまっている。フィルター裏側から見ると、ほとんどの花粉をキャッチできているが、裏側を抜けてしまったものもあるようだ。2重にしたフィルターの2枚目には、Blueairのフィルターがキャッチできなかった花粉が付着していた。
Blueairのフィルターは3重構造になっており、目の粗さもそれぞれ異なっている。一番手前のフィルターの目は粗く、それから徐々に細かくすることで、フィルターの目詰まりを防ぎ、風量を確保している。そのためこのように正面から微粒子を受ける実験では、かなりの取りこぼしが出てしまうようだ。
・cado
cadoのフィルターもBlueairと同様に、表側が粗い目、裏側が細かい目のフィルターになっており、花粉は裏側のフィルターでほぼキャッチできていた。特徴的なのは、フィルターの裏側は繊維の太さも違う点。
フィルターの奥行きは4.5cmと短いぶん、目の細かいフィルターを使っているようだ。
・BALMUDA
緑色の酵素を塗布したフィルターとHEPAの2重構造になったフィルター。酵素フィルターは粗目にもかかわらず、たくさんの花粉が付着しているのが見える。ここで取り切れなかったものはHEPAフィルターでほとんど除去している。
フィルターの奥行きは2.5cmと、紹介している3製品のうちでは最も浅いフィルターなので、2段目のHEPAフィルターは細い繊維が使われ、目が細かい。
・フィルター単体の性能は3社互角
正面から30μmほどの花粉を吸引すると、0.3μmの粒子を捕獲できるHEPAフィルターでも通り抜けてしまうということが分かった。
ただしこのフィルター構造のテストは、繰り返し言う通り、フィルター単体でかつ正面から花粉を吸い込んだときの性能であり、製品に取り付けた場合ではないことを注意して欲しい。
フィルターを実際に製品に装着した時は、Blueairは吸い込んだ粒子を帯電させてフィルターに吸着させたり、cadoはキャッチした粒子を特殊な活性炭で滅菌したり、BALMUDAのように部屋に小さな台風を起こして部屋全体をくまなく清浄するようなしくみを持たせている事を忘れてはならない。
今回テストした3製品は、いずれも0.1μm程度のウィルスまで捕獲できるので、PM2.5対策にも効果を発揮する高性能空気清浄機であることは間違いない。
経済性はBALMUDAが1日3.3円で他の半分のランニングコスト
たいていの家庭では空気清浄機を買うと1日24時間、365日運転することになるだろう。そこで気になるのが消費電力と電気代だ。
各空気清浄機を自動モードで8時間運転した電気代は次のようになった。いずれもニオイに反応する夕食時間を挟んだ結果となっている。
コンセントタイプのBlueairとcadoは8時間運転で、0.1kW程度。例えるのが難しいが、だいたい12畳以上のリビングにつけている蛍光灯式のシーリングライトの消費電力ほど。一方足元で邪魔になるがACアダプタ式のBALMUDAは、他に比べて半分の0.05kWと経済的だ。
これを1日24時間運転したときの電気代に換算すると、次のようになる。
Blueairとcadoは1日7円程度、年間にするとBlueairが2,665円、cadoが2,409円となる。BALMUDAは極端に安く、1日3.3円で年間でも1,205円となる。
大風量と手軽さからBlueairがオススメ!
さてここまで2回に渡ってお届けした、空気清浄機ガチ勝負。結論を出すときがきた。繰り返しになるが、空気清浄機の性能はどれだけ大量の空気を洗浄し、どれだけ小さい微粒子をキャッチできるかにある。
今回はフィルター性能に着目し、花粉をどれだけ捕獲できるかを実験してみたが、実際の運用方法と異なるため、フィルターの構造テストはできたが、運用時の性能差を比較できなかった。そこでどれだけ小さな微粒子まで捕獲できるか? については、各社が発表している0.1μm程度で互角としておこう。
これに加え前編で実験した風量の結果を合わせてみると、BlueairとBALMUDAが良い勝負となった。ただし設置スペースや基本性能を考えると、筆者のイチオシはBlueairだ。
・どんな家庭にもオススメできるオールマイティー大風量のBlueair
装置自体は大きいが、設置スペースが最も小さいBlueairは、一戸建てから賃貸住宅まですべてに対応できる空気清浄機だ。とにかく大風量というコンセプトを基に開発されているようで、他社製品に比べると倍近くある大きなフィルターユニットも、目の粗さで風量を稼ぎつつ極小の微粒子にはフィルターの奥行きで捕獲するという方針が見え隠れする。
また脱臭機能は、脱臭機能つきのフィルターを別売にしてしまう大胆さも評価できる。「部屋のニオイは気にならない、花粉やPM2.5の粒子を採ってくれればいい」というユーザーにオススメだ。活性炭入りの脱臭フィルターは、空気の流れの抵抗になってしまうので、空気清浄機としての性能は落ちてしまうのだ。
微粒子をマイナスに帯電させてフィルターに吸着させるしくみも理にかなっているほか、他にはない磁石でどこにでもつつけられるミニリモコンの添付も心憎い。国内メーカーのような細やかな気配りだか、消臭は別売にするという大胆さを持ち、北欧・スウェーデン製であることを認識させられる1台だ。
前編/ 後編