藤本健のソーラーリポート
ベランダや庭でも使えるソーラー発電&蓄電池システムを試してみた
「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)
いざというときの備えに太陽光発電を導入したいけど、予算面であったり、マンション住まいといった理由から導入できない人も多いだろう。でも、10万円以下で入手可能で、かつベランダでの発電や、発電した電気の蓄電に対応した太陽光発電システムも、市場には存在するのだ。
■ベランダや庭で使える太陽光発電&蓄電池システムがある
日本国内の太陽光発電市場は、屋根にパネルを設置するのが主流。しかし、マンション住まいや借家の場合は、導入したくてもできないケースが多い |
国内における太陽光発電市場は、自宅の屋根にパネルを設置し、電力会社と連系して売買電を行なうというタイプが主流。筆者もそうしたシステムを導入して約7年近く生活しており、快適な毎日が過ごせている。
以前も記事に書いたとおり、筆者の場合は30年前からとにかく太陽電池が大好きで、まさに趣味として170万円もかけて太陽光発電システムを導入した。しかし普通は、趣味でもなければ、そこまでの出費はなかなかの覚悟がいるところ。導入に踏ん切りがつかないという人も多いだろう。
また、現在の日本の制度や仕組みにおいて太陽光発電を導入するためには一戸建ての家で、借家ではない自分の家であることが実質的な基本条件となる。そのため、マンション住まいであったり、借家であるなど、導入したくてもできないという人も多いはずだ。
でも、太陽光発電システムには、もっと安価で、コンパクトで、マンションのベランダでも使えるものも存在する。売電して収入が得られるわけではないが、太陽で作った電気でテレビを見たり、ライトをつけたり、扇風機を回したり……といったことならできる。それほどよく見かける機材とはいえないが、国内でも何社かがこうしたシステムを販売しており、最近人気が急上昇しているようだ。
今回紹介する「バイオレッタソーラーギア V12」は、比較的小型の太陽光発電システムを扱う「太陽工房」というメーカーの製品で、太陽光で発電した電気を蓄電池に蓄え、家庭用コンセントのAC100Vで出力できるものだ。今回は、そのシリーズの中で売れ筋という「VS12-M30PL-B20LA」(76,800円)という機材を借り、使ってみた。
この太陽工房は、10年ほど前から小型の太陽電池機器を販売しており、2001年に発売したモバイル太陽電池「バイオレッタ ソーラーギア VS01」は、2001年度グッドデザイン賞、中小企業庁長官特別賞を受賞した。このVS01は今でも販売されているロングセラー商品なので見かけたことのある方もいるのではないだろうか。
今回紹介するのは、ベランダや庭に置いて、太陽光で発電し、バッテリーに蓄電するタイプの太陽光発電システム「バイオレッタソーラーギア V12」だ | 発売元の太陽工房は、10年ほど前に開発した小型モバイル太陽電池「バイオレッタ ソーラーギア VS01」でも有名 |
■太陽電池パネルで発電、バッテリーでAC100V/USBに出力
さて、V12のシステム構成は、太陽電池パネル「VS12-M39PL」と、オレンジ色のバッテリーボックス「VS12-B20LA」の2つから成る。パネルは420×594×5mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は約2kg。バッテリーボックスは270×175×246mm(同)、約7.8kgで、かなりズッシリとくる。ダンボールから取り出すのも大変だった。
基本的にはパネルとバッテリー部という2つで構成される。写真は太陽電池パネル。多結晶だ | バッテリーが入っているボックス。約7.8kgと、ずっしりと重い |
まず太陽電池パネルを、見ると青くキラキラと光っていることからも分かるとおり、多結晶シリコンタイプ。裏面の仕様によれば、最大出力は30.5Wとある(17.5V/1.74A)。持ち運びができるよう、着脱式のショルダー・ストラップも用意されている。
オレンジ色のバッテリーボックスは、太陽電池パネルで発電した電気を充電するとともに、AC100V(家庭用コンセント)やUSBでの電源出力を可能とする機材だ。箱の外側には2つの端子が用意されており、ここに太陽電池パネルから伸びるケーブルを接続する。今回使ったシステムでは太陽電池パネルは1つなので、1カ所に接続するのみだが、オプションとしてもう1枚パネルを購入すれば、2つ同時に接続して、より急速な充電が可能になるわけだ。
太陽電池パネルのスペック | バッテリーボックスの外側には、2つの端子が用意されており、ここに太陽電池パネルから伸びるケーブルを接続する |
では、このオレンジの箱は閉じたまま使うのかというと、実はそうではない。中には3つの機材が入っていて、電気を使う際には、蓋を開けた状態でこの中の機材に家電製品のケーブルを接続することになる。その3つの機材とはディープサイクルバッテリー(鉛蓄電池)、インバーター、バッテリーへの過充電を防止する「充放電コントローラ」の3つ。
電気を使う際には、蓋を開けた状態でこの中の機材に家電製品のケーブルを接続することになる | ディープサイクルバッテリー(鉛蓄電池) |
出力用のパーツ「インバーター」 | バッテリーへの過充電を防止するための「充放電コントローラ」 |
太陽電池パネルとバッテリーボックスの機材の関係図 |
太陽電池パネルと、この3つの機材との関係を、右にイラストで描いてみた。簡単に説明すると、まず太陽電池からの出力が充放電コントローラに入り、ここを経由して鉛蓄電池へと充電される。ここでもし直結してしまうと、逆流の危険性があるため、こうしたコントローラを介しているのだ。
鉛蓄電池に溜まった電気は、インバーターを通じて3種類の方式で出力可能となっている。具体的には、USBによる5Vと、シガーソケットによる12V、それに家庭用電源と同じAC100Vの3種類。この3つがあるなら、たいていのものは使えそうだ。最大出力は200Wとなっている。
鉛蓄電池のスペックは、公称容量が240.0Wh(12.0V/20.0Ah)、寿命は放電深度30%で1,500サイクルの充放電、75%なら500サイクルというものになっている。太陽光を使った充電時間については説明書にも明記されていなかった。
なお、図では充放電コントローラから鉛蓄電池を介して、インバータへつながるように描いたが、実際には鉛蓄電池に入力端子と出力端子があるわけではなく、同じ端子で入出力する。充放電コントローラとインバータも直結されている関係にある。
■iPadの充電や電球と扇風機の同時使用も。最大出力200Wまでしっかり出せる
とりあえず、このセットを外に持ち出し、充電してみよう。
庭で充電しているところ。パネルをボックスに立て掛ければ、ちょうど太陽光をパネル正面から受けるような格好となった |
庭のテーブルの上にパネルを置き、ケーブルをボックスの端子に接続した。これで充電が開始されることになる。撮影したのは9月10日の昼過ぎだったが、パネルをボックスに立て掛ければ、ちょうど太陽光をパネル正面から受けるような格好となった。
本来の使い方は、このまま1日外に置いておき、夕方になってから部屋に持ち込んで電気を使うという形になる。しかしまずは、外に置いたままで、いろいろな家電を使ってみることにした。太陽電池からも電気が来ている状況なら、インバーターにはバッテリーからと太陽電池からのダブルで電気がやってくるから、パワフルに使えそうだからだ。
屋外で蓄電池を充電しながら、家電製品を充電してみた。まずはiPad2。USB端子でもACアダプタでも問題なく充電できた |
まずは無難なところで、USB端子にiPad2を接続した。直射日光でiPad2本体がものすごく熱くなって、やけどをしそうになったものの、充電自体は問題なくできた。
この状態だとどのくらいの出力が出ているのか分からないので、100Vの出力にACアダプタを接続して、改めてiPad2を接続したところ、こちらも問題なく充電できた。この際の消費電力は5W。また出力電圧は104.8Vで、周波数は54.7Hzと表示された。インバーターの最大出力は200Wなので、このあたりは余裕だろう。ちなみに、このインバーターは擬似正弦波となっているため、機材によってはうまく動作しないものもあるらしいが、今回使った機器はすべて問題なく動作した。
ACアダプタでiPad2を充電している際の消費電力。5Wだった | 出力電圧は104.8V | 周波数は54.7Hzと表示された |
次に、もうちょっと出力の大きいものを試してみたいので、ダイソンの羽根がない扇風機「air multiplier」を接続した。外で使う意味はまったくないけれど、出力25W程度で、確かに動いてくれた。60Wの白熱灯も接続すると、これもちゃんと点灯する。ワットチェッカーでは60Wと表示されている。ここでさらに、テーブルタップを利用し、白熱灯と扇風機の両方を接続してみたが、これでも動作が確認できた。
ダイソンの羽根がない扇風機「air multiplier」を接続。こちらも問題なく動いた | 60Wの白熱電球も問題なく点灯。写真のように、白熱電球と扇風機を同時に使用しても問題なかった | 白熱電球のみの消費電力は、60Wを示した |
ドライヤーは最初は動いたものの、やがて動かなくなった。定格出力の200Wを超えてしまったからだろう |
外に持ち出せる家電はほかに何があるだろう……と探して出てきたのがドライヤー。繰り返しになるが最大出力は200Wなので、さすがにこいつをつなげば容量オーバーでダメだろうと思いながら、電源をオンにしてみた。すると、普段の音よりかなり弱めではあるけれど、動いてくれた。ここでワットメーターを見ると、191Wとある。200W以下のところでバランスが取れたのだろう。
ただ、スイッチを入れたり消したりしていると、やはり容量を上回ったのか、インバーターの安全回路が作動して、運転がストップした。とはいえ、定格通り200W程度の出力は確かに出せるようだ。
■テレビも問題なく使える。“自立発電”は無理っぽい
ここまでは太陽の光を浴びて発電をしながら使ってきたが、本製品の本来の使い方は、充電し終えたバッテリーボックスを部屋に持ち込んで使うというもの。室内に持ち込んで使ってみた。
“バッテリーだけだと、さすがに200W近く出力するのは難しいだろう”と想像しつつ、シャープの37インチの液晶テレビ「AQUOS」につないで電源を入れてみた。すると、なんの問題もなく使用できた。以前、我が家の天井に取り付けた自立発電だとうまく動かなかったが、あっさり動いてしまったのだ。なお、出力は167Wだった。
液晶テレビも問題なく映る | 消費電力は167W |
長時間使ったわけではないが、カタログスペックによれば、消費電力20Wのノートパソコンが最長12時間駆動できるというのだから、単純計算でも1時間半弱使えるということになる。
なお、屋内でバッテリーを使用すると、やや運転音を感じる。屋外では感じられなかった、夜、このバッテリーを使ってテレビを見ていると、ジーンという音がある程度耳につく。
蓄電池を経由せずに接続してみたが、家電は動作しなかった |
さらに、蓄電池を経由せずに、充放電コントローラの出力をそのままインバーターに接続するとどうなるか、ということもの試してみた。これで動けば、リアルタイムに太陽の光だけで家電が動かせる、ということになる。出力は小さいけれど、以前「停電時における太陽光発電の活用方法」として記事にした“自立発電”と同じ状況になるわけだが、どうなるか。
結論からすると、残念ながら動作しなかった。やはり負荷があると、充放電システムの出力が安定しなくなるのだろうか? あまり細かな検証まではしなかったが、本製品の基本的な使い方から外れていることもあって、諦めた。
なお、電圧を測定してみたところ、インバーターオフ時で、充放電コントローラの太陽電池パネルからの入力は、だいたい16V程度となっている。一方、ここから蓄電池への出力を計ると13.54Vと固定されていた。
インバーターオフ時で、充放電コントローラの太陽電池パネルからの入力を計ると、16V程度だった | 充放電コントローラから蓄電池への出力は、13.54Vで固定されていた |
以上、小型の独立系太陽光発電システム、「バイオレッタ ソーラーギア VS12」について見てきた。これで家庭の電気を賄うというようなものではないが、バッテリーがあることで、停電時でも夜間でも、家庭用電源が使えるため、汎用性も高い。また、オマケとしてこのバッテリーに家庭用のAC電源から充電するアダプタも付いてくる。
非常用電源として、十分に実用性があると感じられた。蓄電池の購入を検討されている方は、一度チェックしていただきたい。
2011年9月15日 00:00