大河原克行の「白物家電 業界展望」

三洋電機がみせるエネループのデザインへのこだわり

~“ショコラ”には幻のカラーが存在した?
この12月に累計出荷2億個を達成する、三洋のニッケル水素電池「eneloop(エネループ)」。今回はそのデザインの狙いに迫る

 三洋電機の充電式ニッケル水素充電池「eneloop(エネループ)」は、今年12月に、累計出荷が2億個に到達する。

 2005年11月14日に第1号製品を出荷してから、約6年での達成。国内ニッケル水素電池市場では65%のシェア、国内普及率は28.1%と、4人に1人以上がエネループを所有しているほか、国内における市場認知率は83.5%という高い人気を誇る製品だ。現在では、全世界60カ国以上で販売されている。

 エネループで特徴的なのが、そのデザイン。電池としては異例ともいえる「白」を採用。これが、環境にやさしい充電池という、エネループのイメージを定着させることにもつながっている。そして、このほど、2億個を記念したモデルとして、ブラウンを基調とした「エネループ トーンズ ショコラ」を限定モデルとして投入。エネループをより楽しく使える提案を行なっている。

 今回は、エネループシリーズのデザインを担当した、三洋電機 強化事業推進本部 eneloopユニバース事業推進グループデザイン部・水田一久担当部長に、エネループのデザインの狙い、そして今回の「ショコラ」に込めた想いを聞いた。


従来の電池のような力強いデザインを捨て、“白”を選んだ理由

三洋電機強化事業推進本部eneloopユニバース事業推進グループデザイン部・水田一久担当部長

 「エネループは、電池におけるデザインという点では、まさに”隙間”をついたもの。それに挑戦できるチャンスが私に巡ってきた」

 エネループのデザインを手がけたきっかけに話が及ぶと、水田氏はこんな言葉でその背景を振り返った。

 一般的の電池のテザインに共通しているのは「パワー訴求」や「容量訴求」。つまり、力強さを前面に打ち出したデザインが主流となっている。

 「もしかしたら、白を基調とした電池のデザインを考えていたデザイナーがいたかもしれない。しかし、力強さを感じさせるデザインが、電池のデザインでは固定概念として定着しており、誰もそこに踏み出すことができなかった。それに対して、エネループは、従来の電池とは、技術、コンセプト、ターゲットが異なる。電池のデザインの固定概念を破るチャンスが来た」

 エネループが発売当初から打ち出していたコンセプトは、“くり返し使える充電池”。使っては捨てるというそれまでの乾電池とは一線を画す、環境性の高さが最大の特徴だ。

 繰り返して使用することで、ライフスタイルまで変えようというコンセプトは、これまでの乾電池の路線とは違う提案が必要。そこではむしろ、パワー訴求は不要だ。また、最初のターゲットも主婦層としており、その点でもパワー訴求は必要ないと考えられた。

 白地をパール系としたのは高級感を演出するためのものであり、ここでも従来の使い捨て乾電池との差を示してみせた。

 白をベースとしたデザインは、こうしたエネループならではの開発背景から生まれたものなのだ。

 そして、文字をブルーとしたのは、当時、三洋電機が掲げていたブランドビジョン「Think GAIA」に則った「地球環境を考える製品である」という考え方を示したものである。2009年には、販促資料などに使用されるエネループのロゴマークを、青の単色から青のグラデーションへと変更。より高級感を持たせるようにしている。

これまでの乾電池にはなかったカラー「白」を採用。「電池のデザインの固定概念を破るチャンスが来た」(水田氏)当時のブランドビジョン「Think GAIA」に則ってデザインされたエネループのロゴ。2年前から青のグラデーションが採用されている

 電池では異例である白を基調にし、青いロゴを施したエネループのデザインは、製品コンセプトに合致したデザインとして、社内でも満場一致で受け入れられ、スムーズに決定したという。

 さらに白の質感を実現するために水田氏はこだわりをみせた。白地をパール系としたのもこだわりの1つだが、塗装そのものもこだわりをみせた。

 例えば、一般的な乾電池では、表面の印刷は4版(4重に重ねて印刷すること)が主流だというが、エネループでは、銀地の表面に白を2回敷き、そのうえにブルー、オレンジ、黒、グレー、パールを加え、最後にニスで塗装する。実に「8版」の印刷を行なっているのだ。それぞれの版はコンマ数ミリという精度で重ならないように塗装されていく。

 「手にとった時に、これまでの乾電池とは違うという印象をもってもらえるはず」という狙いがあった。


三洋がデザインしたシャンプーボトルが、結果的にエネループのパッケージに繋がる

エネループの特徴のひとつである、再生ペットを使用したパッケージ。この決定には紆余曲折があった

 電池そのもののデザインが受け入れられた一方で、社内で最後まで議論となったのが、再生ペットを使用したエネループ特有のパッケージだった。

 一般的な乾電池はビニールで包装され、電池1つ1つを切り離すというものだが、水田氏は、再生ペットを使ってパッケージ化。青いグラデーションを使いながら、中身の電池は「うっすらと見える」程度にした。さらに、エネループの開発に携わっていた前田泰史氏から、購入後には保管ケースとしても使えるようなパッケージにして欲しいとの提案を受けて、工夫を凝らしていった。

 このパッケージの誕生の裏には、2003年、2004年の2年間渡って行なわれたデザイン部門の新たなビジネスへの取り組みが見逃せない。

 同社では、2年間の短期的な取り組みであったが、外部企業からのデザイン受託を行なっていたのだ。その際に水田氏は、シャンプーボトルのデザインを担当。ペット素材を使ったデザインを手がけていた。

 「エネループのデザインを手がける直前に、経験した事例があったからこそ、再生ペットを使用し、保管ケースとしても使えるパッケージのアイデアがすぐに浮かんだ」と振り返る。

 実は、このデザイン部門の外部受託活動は、もう1つの意味で、エネループのパッケージ誕生の大きな原動力となっている。

 「外部企業へお邪魔し、デザインの提案をすると、『電気製品のようなデザインしかできないんじゃないの?』、『三洋電機のデザインは決していいとはいえないよ』という声を直接聞いた。なかには『三洋電機のデザインはダサい』とまで言われた。格好いいデザインをしたい。三洋電機のデサインはこれだけすぐれたものであるということを証明したい。そういう気持ちで取り組んだのがエネループだった」

 これまでの乾電池にはない色調やバッケージデザインは、そうした水田氏の想いが詰まったものだった。

 だが、エネループで提案したデザインは、これまでの乾電池にないものだっただけに、社内では反対の声が出た。上長からも、約2時間に渡って説明を求められた。

 その時、水田氏は自らの想いを伝えた。

 「三洋電機のデザインは、クールで、格好いいという印象を多くの人に与えたい。そのためにはこの挑戦は必要である。このデザインには自信がある。私を信じてやらせてほしい」

 評判が悪かったときには、すぐにパッケージデザインを変更するという条件で、三洋電機はエネループのパッケージデザインは、他社とは大きく異なるイメージを打ち出す形で作られることになった。

 市場では、新たな乾電池という印象を感じさせるパッケージとして、このデザインが受け入れられたのは周知の通り。そして、そのパッケージデザインは、6年後の今でも継承されているのだ。

 

通常のエネループ以外にも、さまざまなエネループ電池が発売されている。写真は手軽に使えるイメージを演出するために、軽やかなブルーを採用した「eneloop lite(エネループライト)」誤使用時の電池温度上昇を抑制する「eneloop plus(エネループプラス)」は、白地をベースにお洒落なデザインとした
 

エネループショコラのターゲットは、30代~40代後半の“大人の男女”

 では、今回のショコラトーン8色入りの限定パッケージ「eneloop tones chocolat(エネループ トーンズ ショコラ)」はとんな経緯で生まれたのだろうか。

ショコラトーン8色入りの限定パッケージ「eneloop tones chocolat(エネループ トーンズ ショコラ)」カラーは全8色

 三洋電機はこれまでにも、累計出荷1億本の達成時に、8色カラーの限定パッケージとして「eneloop tones(エネループ トーンズ)」を発売。また2010年11月には、発売5周年記念限定パッケージとして「eneloop tones Glitter(エネループ トーンズ グリッター)」を発売した経緯がある。

 「過去の限定モデルに共通しているのは、ユーザーターゲットを明確に捉えている点。限定モデルだからといって、デザイン先行で進めたものではない」と水田氏は語る。

 つまり、限定モデルをきっかけにエネループに親しんで使ってもらうことを目的にした製品であり、単なる色変更という考え方を前提とはしていない。

累計出荷1億本達成記念限定パッケージの「eneloop tones(エネループトーンズ)」発売5周年記念限定パッケージの「eneloop tones Glitter(エネループトーンズグリッター)」

 最初の限定モデルとなったエネループトーンズは「クレヨン」をイメージしてデザインされたもの。主要ターゲットであった主婦層が、より楽しんで使ってもらうことを目的に作られたものだった。

 そして、昨年発売されたエネループトーンズグリッターは、若年層を意識したデザイン。エネループが今後拡大していきたい新たな需要層を狙ったものである。このように限定モデルにも明確なターゲットを示しながら、デザインを行なっているのだ。

 では、エネループ トーンズ ショコラはどんな需要層をターゲットとしたのか。

 水田氏は、「一言でいえば、大人の男女。30代~40代後半を主要ターゲットに、その前後の年齢層の男性、女性に使ってもらうことを狙った」とする。

 「2億個の累計出荷を持つ製品にまで成長したエネループだが、まだまだ利用していただいていない方々も多い。自らのライフスタイルにあわせたカラーとして、あるいは、これならば使ってみようという気持ちになってもらうカラーとして、ショコラをデザインした」

 ブラウンは今年秋冬のトレンドカラーの1つ。そのなかからショコラをモチーフに、シックで、ラグジュアリーなデザインを醸成。使うものにこだわる人への提案へとつなげるというのがデザインコンセプトだ。

パッケージは保管ケースとしても使える従来のデザインを踏襲している

 「チョコレートの箱を開けたときのようなときめきや楽しさを演出している」というパッケージデザインも、ショコラカラーに統一されている。

 企画段階では、実際のチョコレートと同じように紙の箱で作るという案もあったというが、高級感が失われることに加え、環境に優しいことを訴えるために採用した再生ペットを使用しないのは、当初のデザインコンセプトに反するとしてこれを見送った。

 実は、ショコラカラーは水田氏が長年に渡って腹案として持ち続けていたもので、昨年のエネループトーンズグリッターと同じタイミングで提案していたという。

 グリッターは、エネループの新たな需要層開拓という点で明確なデザインだったが、ショコラは店頭に並べた際のインパクトなどに課題が残った。ところが、今年のトレンドカラーの1つにブラウンが選ばれたこと、30~40代の需要層への新たな提案が盛り込まれたことで、このショコラカラーが2億個発売記念限定パッケージとして採用されたのである。

 繰り返し使用回数が1,800回へと伸びたこと、「5年後でもすぐ使える」という常備電池としての長期保管を提案する新たな訴求を開始したことも、落ち着いた、おだやかなイメージを持つショコラカラーには最適だったともいえる。


“ショコラ”8色のうち、女性に最も人気が高かったカラーは?

 エネループショコラ誕生には、もう1つ裏話がある。

 限定パッケージでは、シャンパン、キュラソー、オレンジピール、ショコラ、カフェモカ、カフェオレ、ブラン、グリーンティーという8色が同梱されており、これは企画の初期段階から決まっていた。ここに色の微妙な変化を加えながら、全体の色調を調整していった。

 だが、水田氏は、企画の途中で「グリーンティー」カラーを外し、より黒味が強い「ショコラダーク」という新たなカラーを加えた。「ショコラという洋風のイメージのなかに、グリーンティーという和風のものが入ることに違和感を感じた」のがその理由だ。

 しかし、その後、何人かにヒアリングしてみたところ、女性を中心に「グリーンティー」の人気があまりにも高いことがわかった。そこで、改めてグリーンティーをラインアップに戻し、最終版を作り上げたのだ。

企画段階で案にあがっていた幻のカラー「ショコラダーク」ショコラダークが加わった場合の企画案。実際に製品化されれば、このようになっていた

 一方で、2012年1月13日から2万個限定で発売する充電器セットでは、基本となる「ショコラ」カラーとともに、最も高級感がある「シャンパン」をセットにし、よりエレガントな雰囲気を演出することにした。

 これ以外にもいくつものこだわりがある。

 最終的な色の調整は、印刷所に詰めて行なわれる。水田氏は、毎日朝9時から5日間に渡って缶詰となり、細かい色の調整を行なっていった。日によっては作業が午前3時にまで及ぶこともあり、次の日の朝には、また定時に集合するということの繰り返しだった。

 表面に継ぎ目ができないような特別な技術を採用したり、ショコラでは正極のリング部の色をショコラカラーに統一し、「チョコレートがぎっしり詰まった感じを演出した」というのも、デザイン面でのこだわりだ。

 「色によって、好みや気分、充電済みや未充電などといった使い分けが可能になり、楽しさと利便性の両方を提供できる。エネループは、使っている際には見えなくなってしまう機器が多いが、少しでも楽しみながら使ってもらうという点で、デザインにはこれからもこだわりたい」とする。

2012年1月13日から2万個限定で発売する充電器セットプラス極のリング部分は通常は白だが、これがショコラカラーになっている


世代を示す王冠マークに託された、“充電池ナンバーワン”の願い

エネループのバージョンの違いを示す王冠マーク

 今回、エネループショコラで使用される電池は、繰り返し使用回数が1,800回に伸びた“第3世代”のもの。エネループは繰り返し使用できる回数で、3世代に分けることができる。

 2005年11月に発売した最初の製品は、繰り返し利用が約1,000回だったが、2009年11月に発売された製品では約1,500回、今年11月14日から発売する第3世代では約1,800回の繰り返し充電が可能になる。

 第2世代の製品を発売する際に、従来製品と区別するために付け加えられたテザインが王冠のマークである。このデザインも水田氏の提案によるものだ。そして、そこには隠れた意味がある。

 「王冠には、充電池でナンバーワンであるという想いを込めた。そして、エネループは、10年も、20年先も、繰り返し使える充電池として、価値を提供していくブランドであるということを王冠に込めた。エネループを買ってもらえば、安心して使ってもらえる信頼感、技術的優位性を持っている証でもある」

 今後発売される第3世代の製品では、王冠の下に線がもう一本つけられている。これは信頼性、技術的な優位性をさらに一歩進め、ナンバーワンのシェアを揺るぎないものにするという宣言とも受け取れるだろう。

 こうしたみると、エネループはデザインの面でも、我々にメッセージを強く投げかけている製品だといえる。






2011年11月1日 00:00