そこが知りたい家電の新技術

消え行く白熱電球の光を残したい――パナソニックの「クリアLED電球」ができるまで

by 藤原 大蔵
パナソニックのクリアLED電球「EVERLEDS クリア電球タイプ LDA4LC」(左)。クリアタイプの白熱電球(右)を再現したデザインが特徴だ

 2011年10月、パナソニックから、これまでとは全く違うLED電球が発売された。クリア電球との置き換えを狙った「EVERLEDS(エバーレッズ) クリア電球タイプ LDA4LC」である。

 一般的なLED電球は、電球のカバーが白色の半透明で覆われた「シリカ電球」との交換を狙っているため、LED電球のカバーも白く半透明なものが多く、光を広げる構造となっている。

 だがLDA4LCでは、透明のガラス製グローブを採用し、中には白熱電球の光源「フィラメント」のようなLEDモジュールが透けて見える。点灯すると、きらめき感の強い、クリア電球にそっくりの光を放つ。見た目から光り方まで、どこをとってもクリア電球にそっくりなLED電球なのだ。

 しかしなぜ、わざわざ見た目までクリア電球を再現したのだろうか?

 というのも、最近のLED電球は、見た目も明るさも実用レベルまで進化してきているものが多い。確かに形状は違うが、LED電球の弱点と言われていた光の拡散性についても、飛躍的に向上してきている。そんな流れの中で、なぜ光り方はもちろん、見た目までクリアタイプの白熱電球に近づけたLED電球を開発したのだろうか? その背景について、パナソニックの開発者に話をうかがった。

点灯したところ。全光束は210lmで、消費電力は4.4W(ワット)で、白熱電球との交換で1/5近く節電ができる光の広がりを比べた写真。右がクリアLED電球。見た目から光り方までクリア電球を忠実に再現しているが、そこまで徹底する理由は何だろか?

“あかりとしてパーフェクト”――消え行く白熱電球の光をLEDで残したい

 話をうかがったのは、LDA4LCの開発に携わった、パナソニック エコソリューションズ社 ライティング事業グループの嶋田俊朗氏と田原哲哉氏、パナソニック アプライアンスマーケティング ジャパン本部 ライティングチームの鈴木勝氏の3名だ。

 まずは「なぜクリアLED電球を開発したのか?」という単純な疑問をそのままぶつけてみると、背景には“白熱電球の製造中止”という社会的な流れがあったという。

パナソニック エコソリューションズ社 ライティング事業グループ 嶋田俊朗氏

 「2008年、経済産業省から照明メーカーに対し、省エネ性能の低い白熱電球の生産を中止するよう要請がありました。当社でもそれに応えるべく、一部の特殊な品種を除き、2012年の3月をもって白熱電球の生産の中止する予定となっています。しかし、白熱電球と変わらない照明を、とりわけクリアタイプの白熱電球が持つ“フォルム”と“きらめき感のあるあかり”を、LED電球として残したかったのです」(嶋田氏)

 クリア電球を含む、白熱電球が消える宿命は、国から4年前に既に課せられていた。対象となるのは、シリカタイプ、ボールタイプ、クリアタイプ。要は、一般家庭で最もなじみのある「E26口金」の白熱電球の製造がストップすることになる。

 生産中止が要請された1年後の2009年、パナソニックはLED電球業界に本格的に参入。業界の中では少し遅れて参入したものの、以降パナソニックは、大きさ、形、明るさ、光の拡散性などで、白熱電球と交換して遜色のないLED電球を世に送り出している。クリア電球をLED化するというのも、その流れの1つとなる。

 しかし、クリアタイプの電球をLED化するにあたり、なぜ見た目まで白熱電球そっくりにしたのだろうか。

 「なぜなら、白熱電球は電球として“パーフェクト”だからです。テクノロジーが進化した新しい形というのはありますが、それだけでは面白くありません。そこで、“我々が欲しい照明ってこんなんだよね、残したいよね”と思ったのが、ノスタルジックでアナログな雰囲気が漂う従来ランプの姿のまま、省エネ性も両立させたLED電球、ということになりました」(鈴木氏)

 「長年ランプに携わってきた技術者として、白熱電球が消えてしまうことに抵抗感がありました。そのように感じるのは、長年照明をやってきたものづくりのDNAが、自分にも会社にも刷り込まれているのでしょう」(田原氏)

パナソニック エコソリューションズ社 ライティング事業グループ 田原哲哉氏パナソニック アプライアンスマーケティング ジャパン本部 ライティングチームの鈴木勝氏

 あかりとして優れた白熱電球の良さを、できる限りそのままの形で未来に残したいという理想から、クリアLED電球の開発がスタートした。とはいえ、白熱電球とLED電球は光り方から構造まで全く違う。実現するにはいくつもの乗り越えるべき課題が待ち構えていた。


直線的なLEDの光を広げる秘密は、中央に浮く“フィラメント”にあり

クリアタイプ白熱電球の光の広がり方。フィラメントが光り輝き、電球の周囲に光が広がる

 最初の課題は「見た目」と「光の広がり」の両立だった。

 クリア電球は、丸見えになるフィラメントが光り輝き、電球の周り全体に光が広がる。だが、LEDは直線的な光を放つ性質があるため、光はそう簡単には広がらない。

 一般的なLED電球では、グローブを半透明にしたり、光を広げるためのレンズや反射板を搭載することで、光を広げる構造としている。しかし今回は、カバーが透明のクリア電球を見た目から再現することがテーマ。グローブを半透明にしては元も子もない。

 その問題を解決したのが、LDA4LCを見て真っ先に目に飛び込んでくる、白熱電球のフィラメントを模した一片のLEDモジュールだ。

 この宙に浮かぶLEDモジュールは、点灯すればフィラメントのように煌めきながら光る。しかも、レンズや反射板らしきものはどこにも見当たらないのに、光は上にも下にも届いている。

クリアLED電球では、写真中央部のオレンジ色の部分が光源となるクリアLED電球の光の広がり方。クリアタイプ白熱電球とほぼ同じだ

 改めてLEDモジュールの基板を見ると、透明であることに気付く。そのため、LEDの輝きが基板を通り抜け、光を広げているようだ。この透明な素材はいったい何なのだろうか?

 「透明な素材は、光を透過する『透過性アルミナ』という、セラミックスの一種です。光が通過し、熱伝導に優れているという特性から、LEDの基板として今回初めて選びました。

 白熱電球のフィラメントは、フィラメントを中心に立体的に光が広がります。しかし、一般的なLED電球に搭載されているモジュールは、不透明な基板の上にあったため、光は上方向へしか広がりませんでした。したがって、LEDモジュールのあり方を根本的に変えるところから始めました。透過性アルミナを使用することで、本来は隠れているLEDチップの裏側の光も、透明なアルミナを通して、立体的な光として活用できるのです」(田原氏)

LEDモジュールの基板を見ると、透明になっているのがわかるこの透明の基板が光を透過することで、光を広げている従来のLED電球との光の広がり方の比較。実はLEDチップからは上下に光が出ているが、不透過のセラミック基板が反射するため、上方向だけに光を送っていた

 透明の素材の秘密は分かったが、ここでもう1つ疑問が浮かぶ。一般的なLEDモジュールの場合、不透明な基板の上に青色のLEDを固定(実装)し、その上から黄色い蛍光体を被せるのが主流。青い光が黄色い蛍光体を通って、白色または電球色の光色を生み出す構造になっている。しかし、単に透明な基板に同じようにLEDチップを実装しても、裏面に蛍光体が無いため、基板の裏側から青い光が漏れてしまうのではないだろうか。

 「LDA4LCのLEDチップは、蛍光体にサンドイッチされた状態で、透明な基板に実装されています。クリアLED電球の開発に当たって、柔らかな蛍光体をフィルム状にして、透過性アルミナの上に印刷する手法を、新たに開発しました。これにより、実装には平滑な面が要求されるLEDチップと基盤の間に、本来なら柔らかく扱いにくい蛍光体を挟み込む事ができたのです。これは開発に大変苦労しました」 (田原氏)

 順を追うと、ベースとなる透過性アルミナの上に、平滑な蛍光体を印刷し、LEDチップを実装、その上から蛍光体を被せている。業界初の“蛍光体サンドイッチ構造”のLEDモジュールが完成したのだ。

LEDチップの上下に蛍光体を備えた“蛍光体サンドイッチ構造”のLEDモジュールを使用しているクリアLED電球を上から見たところ(写真左)と下から見たところ(写真右)。上下ともに発光しているのが分かる


“LEDに取り替えても全く一緒”を徹底。光源の位置からパーツまで白熱電球と同じ

クリアLED電球(左)とクリア白熱電球(右)の比較。光源部はもとより、導入線やマウント(支柱)までも同じ位置としている

 LEDモジュールの完成で、“フィラメント風”の光源ができた。改めてLDA4LCとクリアタイプの白熱電球を横並びで見比べると、光源の位置がまったくクリア電球と同じであることに驚きを感じる。さらにいえば、それを支えるマウント(支柱)だったり、電気を通す両サイドの「導入線」など、細かな部分までそっくりなのだ。

 「電球のフィラメントの位置がどこにあるかで、光りや影に影響します。いろいろな使い方を想定し、器具とあわせても裸電球のままでも“LEDに取り替えても全く一緒”を目指しました。導入線も白熱電球と同様、モジュールへ電力を供給する役割を果たしています。また、カバーもクリア電球に使用されるガラスを使用しています」(嶋田氏)

 「光の見え方、色の見え方、物の見え方を長年携わっている技術者にとって、立体的に光が広がる“3次元の光”にこだわるのは当たり前と最初から思い続けていました」(田原氏)

 かくして、見た目や光り方、構造までもクリア電球にそっくりな光源部ができあがった。だが、これだけでLDA4LCは完成しない。次なる問題“放熱”が開発者たちの行く手を遮る。


LED電球にお馴染みの放熱部が見えない。どこにある?

 商品化においてもう1つ重要だったのが、「いかに放熱部を小さくし、いかに効率良く熱を逃がすか」という“放熱”だった。なぜなら、大きさ、形状、構造、光り方など、全てにおいて、クリア電球と取り替えて「全く一緒」にすることが理想だったからだ。

一般的なLED電球は、口金と電球カバーの間に金属のヒートシンクを設けていることが多い。ここで熱を放出することで、効率を高めている(写真はパナソニックのLED電球の全方向タイプ「LDA11D-G」と「LDA11L-G」)

 「一般的なLED電球は、大きなヒートシンク(放熱部)に覆われています。LEDは熱を逃がさないと効率が下がるため、明るさと長寿命を両立させるには、ランプはどうしても大きくなりがちです」(鈴木氏)

 「しかしLDA4LCは、LEDモジュールを電球内部の中空に配置するなど、デザインの制約がある以上、大きな放熱板やヒートシンクは使えません。ランプ全体のデザインと効率を両立すべく、放熱部をできるだけ小さく、目立たせなくするのに大変苦心しました」(嶋田氏)

 一般的なLED電球のヒートシンクといえば、多くはアルミ製で、電球の半分以上を占めているものが多い。しかし、LDA4LCには、明確に放熱部とわかるものが見当たらない。あるとすれば、グローブと口金の間にある、白色の樹脂部分ぐらいだ。放熱部はいったいどこにあるのだろうか。

クリアLED電球では、白色の樹脂部分、LEDモジュールを支えるマウント部分で放熱しているという

 「その白色の樹脂部分こそ、LDA4LCの放熱部なのです。熱伝導性と放熱性が両立する新しい素材を開発しました。樹脂は熱を空気中に放射する性能が高く、ガラスやアルミは熱放射よりも熱伝導が得意です。樹脂も白色で熱放射率の高いものを探しました」(田原氏)

 さらに、本体中央のマウント部も、単なるデザインではなく、実は放熱に大きく貢献しているという。


 「LEDモジュールと樹脂の放熱部を繋いでいるマウントも、ヒートシンクの一部です。LEDの熱は、熱伝導性に優れたアルミ製のマウントを通って、口金方向にある樹脂性の放熱部に伝わり、熱を電球の外に放射しているのです」(田原氏)

 LED電球の開発において、明るさと効率を両立させるためには、放熱問題が常につきまとうが、LDA4LCはフィラメントを模した小さなLEDモジュールとヒートシンクを分離した、かなりアクロバティックな構造となっている。開発には相当な苦労があったことが想像されるが、実際に社内でも“開発当初は技術的に難しすぎる”という反対の声も上がったという。

 しかし現実には、こうしてクリアLED電球は完成した。LED電球の開発当初から積み重ねてきた技術、材料の研究、そして照明に携わってきた技術者が抱く思い――それぞれがひとつに集結された「理想のLED電球」なのだ。

ユーザーから高評価。デザイン賞も受賞。“地味な存在”が注目を集める

 類を見ない技術を投入したクリアタイプのLED電球は、ユーザーからの評判も高い。メーカーにも「白熱電球そっくりの光り方、雰囲気が演出できて、取り替えて遜色ない」と言った声が、開発陣の期待以上に寄せられているという。

2011年のグッドデザイン賞において金賞を受賞。2012年には、ドイツのiFプロダクトデザイン賞金賞も受賞している

 評判は具体的な「賞」と言う形で実を結んでいる。2011年には、日本のグッドデザイン賞において、大賞に次ぐ金賞を受賞。続く2012年でも、ドイツの「iFプロダクトデザイン賞」の金賞を受賞している(注:グッドデザイン賞は、LDA4LCの海外向けモデルである「LDAHV4L27CG」が受賞。性能はLDA4LCと同じ)。

 「今までランプ類は、どちらかと言うと地味な商品でした。単独でデザイン賞を受賞することは、今まで無かったことです。他社の堂々たるプロダクト製品と肩を並べ、高い評価と反響を受けた事に、手が震えるような驚きがありました」(鈴木氏)


明るさ、調光……デザインを再現してもなお残る課題

 ユーザーから評価され、デザイン賞も受賞したLDA4LCだが、敢えて課題を指摘するとすれば「明るさ」だろうか。電球自体の明るさを示す全光束は210lm(ルーメン)で、白熱電球で言えば20W形相当に当たる。一般に普及している40W形、60W形の白熱電球と比べると、明るさは控えめだ。

 「最終的に目指す電球の明るさは、白熱電球の40、60W形相当に匹敵するものです。しかし、電球と全く同じサイズに収めるために、今の最高の技術で実現できる明るさからスタートしました」(田原氏)

 「明るさについては、半導体の熱をいかに逃がすか、という放熱技術がキーポイントでした。しかし、電球の見た目をそっくりにするコンセプトをキープしながらだと、より明るくするには課題は山積みです」(嶋田氏)

 またLDA4LCでは、白熱電球でできる「調光」に対応していない。これはほとんどのLED電球に言えることなので、LDA4LCだけの欠点ではないが、白熱電球をそのまま再現するという点では、まだ実現できていないところだ。

 「調光については、フィラメントはいろいろな電圧制御、電流制御に柔軟に対応できるのに対して、LEDは半導体自体が調光器に100%対応しきれていません。もちろん、白熱電球本来の姿のまま、最終的にはコレ一つあれば、他の商品が要らないというぐらいの商品を開発するのが理想ですが、まずは明るさ、その後に調光に取り組むつもりです」(田原氏)

 とはいっても、白熱電球が持つ温もりや煌き感をそのままLEDで実現させ、レンズや反射板を使わず拡散性を飛躍的に高めた。消費電力もわずか4.4Wで、20W形白熱電球から交換するだけで、消費電力はの1/5に抑えられる。これはまぎれも無い事実だ。“フィラメント型”のLED電球の第一号と言っても過言ではないだろう。


まったく同じで、まったく新しい商品。こっそり取り替えれば誰も気付かないかも

 インタビューの最後に、このクリアLED電球のお勧めの使い方を尋ねてみた。

 「お勧めは、カットガラスなど透明な素材のペンダントライトやアクセントライトといった照明器具です。きらめき感を活かせるうえ、器具本来が持つ影や輝きが、より一層印象際立ちます。また、シリカ電球を使っている器具でも、クリアタイプに変えるだけで影やコントラストが変わり、部屋の雰囲気を簡単に変えられます」 (鈴木氏)

クリアLED電球は透明な照明器具で使用すると、きらめき感や影が際立てられるというきらめきとシャープな影が、インテリアをドラマチックに演出する。影を活かした器具にも最適だ同社の演劇「LEDあかり劇場」では、食卓の明かりとして使用されていた

 鈴木氏によれば、パナソニックではクリアLED電球をはじめ、あかりを楽しむための商品を投入していく予定という。

「LEDあかり劇場」では、星空の演出にクリアLED電球が使用されていた

 「人は、光の陰影、流れ星や夜景、街のきらめく明かりを見て感動したり、美しいと感じたりします。それは外国人でも日本人も変わらずに、あかりを見て、実は楽しんでいるはずなのです。ところが、一歩部屋の中に入ると、平面的な蛍光灯だけの光で過ごしている人が多く、あかりへの関心が薄いのが現状です。今回のクリアLED電球をきっかけに、もっと積極的にあかりを意識して楽しめる製品作りを提案していきたいです」(鈴木氏)

 長い間、日本人の暮らしとともに歩んできたクリアタイプの白熱電球は間もなく消える。しかし、技術者の手により「クリアLED電球」という、ノスタルジックな雰囲気を維持したまま省エネするという、全く同じでありながら、全く新しい商品に生まれ変わった。

 クリア電球を自宅で使っているならば、この「LDA4LC」に“こっそり”取り替えてみていただきたい。言わなければ、きっと誰も取り替えた事に気づかないはずである。






2012年3月21日 00:00