老師オグチの家電カンフー

洗濯の夢と現実を描く「ラ・ラ・ランドリー」

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです

 もっとも人間らしい家電は何か考えてみました。

 人間らしい=人間以外の動物はやらないとすると、ひとつは洗濯機じゃないでしょうか。猫はコタツで丸くなるし、犬も音楽を聴くし、チンパンジーは調理を理解しているという研究結果もあるようです。しかし、服を着せられているペットはいるけど、洗濯はしません。芸として教え込むのは別として。

 そもそも洗濯って楽しい家事じゃないです。地味で、どちらかというと後ろ向きの作業じゃないですか。しないと着る服がなくなるから仕方なくやる感じ。料理のような成果物はないし、掃除ほど爽快感もない。映画で出てくるコインランドリーは、ほぼもの悲しいシーンの演出です。

タイトルの元ネタは「ラ・ラ・ランド」です、って言わなくてもわかりますかね

 もともとが重労働だったので、洗濯機は家電の中でも早く普及し始めました。しかし、設置される場所も、操作も地味。アピールされる性能も、大容量、静粛性、清潔ぐらい。そして、実際に洗濯物がキレイになったかも、普段はあまり意識しません。洗剤のCMのように、「驚きの白さ!」とか思わないでしょ。

 ところで、洗剤のCMはなんで大げさなんでしょう。芝生の広い庭にバーッと洗濯物が干してあって、歌って踊ったりして。ミュージカル映画の脳天気さに通じるものがあります。洗濯が地味な作業であることの裏返しなんでしょう。

 そんな地味な家電、洗濯機ですが、壊れると非常に困ります。去年、いきなりモーターが壊れたんですが、慌てましたからね。みんな普段から洗濯機のことは考えないので、だいたいが壊れてから「どの洗濯機を買えばいいですかね?」と相談してきます。熟年離婚で慌てふためく男のようです。

突然脱水しなくなったうちの洗濯機。モーター交換で直りました

 さて、タイトルから想像している人もいるでしょう。この一連の流れを、ハリウッド映画風のストーリーとして書いてみましょう。

 辛い境遇にある主人公は、夢に向かって努力する。その中で運命の相手に出会う。そして成功をつかむ(洗濯機を買う)。しかし、成功はしたものの、なんだか空しい(夢見ていた生活と何か違う)。相手への愛情や感謝の心は失われていく。そして失って初めて大切なものを知る(洗濯機が壊れる)。相手との関係を修復する、もしくは新しい恋へと歩みを進める……。

 洗濯機の話だと思うと全然感動しませんね。ミュージカル映画のように突然歌って踊ってごまかせたらいいのに。ズンチャチャチャ、チャチャチャ♪

小口 覺

雑誌、Webメディア、単行本の企画・執筆、マンガ原作、企業サイトのコンテンツ制作を手がけるライター。日経MJの発表した「2016年上期ヒット商品番付」では、命名した「ドヤ家電(自慢したくなる家電)」が前頭に選定された。

Webページ「有限会社ヌル/小口覺事務所」
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