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大河原克行の「白物家電 業界展望」 今シーズンのエアコン市場を振り返る
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Reported by
大河原 克行
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今年夏の猛暑の影響もあり、7月、8月のエアコン市場は活況を呈した。とくに、7月は、前年が涼しく、エアコン需要が低迷したこともあり、エアコンの販売台数は、前年同月比70%増近い伸びになったと見られる。
業界団体である日本冷凍空調工業会(JRAIA)でも、7月のエアコン出荷実績は、157万2,831台と、前年同月比60.3%という高い成長率となっている。なかには、「7月は、台数ベースで前年同月比2.5倍」(ビックカメラ)というように、驚くべき好調ぶりとなった例もある。
一方、8月は前年同月が大幅な伸びを見せたこともあり、業界全体では、前年同月比3割減という状況になったようだが、それでも、7月、8月の合計では業界全体で前年同期比20%増という成長。4~8月の実績でも、前年同期比10%増程度で推移していると見られ、年度始めに懸念された新築着工件数の減少などを背景にしたエアコン需要の不振を払拭した格好だといえよう。
一部には、「8月後半から9月にかけては、秋以降、各社のエアコンが値上がりするとの一部報道を受けて、値上がり前に購入しようとする駆け込み需要もあった」(ビックカメラ)と、思わぬ需要増も見られたようだ。
また、高機能モデルの売れ行きが増加したほか、リビングの大規模化に伴い、16畳以上の製品の販売比率が上昇するといった傾向も見られている。
● 各社各様の機能を訴求
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人気の高かったナショナルの「Xシリーズ」。人の動きと運動量に合わせて風量・温度設定を自動調節するセンシング技術が特徴
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なかでも、ナショナルブランドで最後の商戦を迎えたパナソニックは、業界全体の伸びを上回る実績で推移し、シェアを拡大しながら、トップシェアを維持したと胸を張る。
最上位機種となる「Xシリーズ」では、センシング機能を利用することで、人の動きや人の運動量に合わせて、風量および温度設定を自動調節する「いるとこサーチ」機能を搭載。これによって、部屋全体を冷やすのではなく、人のいる場所に風を送るため、最大45%の省エネ効果を実現。省エネの観点でも高い評価を受けたという。
ナショナルアプライアンスマーケティング本部商品グループ空質商品チーム・田中聡チームリーダー(※編注 役職名は取材当時のものです)は、「省エネは、訴求ポイントとしては重要な要素の1つ。省エネを付加価値の1つとして捉える人が増えている」と語る。
加えて、2006年から搭載した気流ロボットや、2005年から搭載したお掃除ロボット機能も、さらに機能が進化したことを、販売店などに対して改めて訴求。他社が搭載する同じ機能でも、松下電器ならではの特徴を訴求することで、店員が積極的に販売するといった動きが見られた。
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ナショナルのエアコン「CS-X」シリーズのフィルター自動掃除機能。青く光る箇所がフィルター掃除を行なうユニット「お掃除ロボット」
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本体には気流をコントロールする「気流ロボット」が搭載されており、足下までしっかり暖めるという
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実際、同社の販売構成比のうち、最上位のXシリーズが全体の2割を占めているという。
同社では、秋以降の新製品で、パナソニックブランドのエアコンをいよいよ投入することになる。「ナショナルブランドで培った要素をそのままパナソニックにも引き継ぎたい。省エネ性、快適性、そして簡単なリモコン操作が可能なUDの観点を捉えた操作性の向上を追求していきたい」とする。
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富士通ゼネラル「nocria(ノクリア) Zシリーズ」。業界最小サイズが特徴
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一方、シェアを引き上げているのが富士通ゼネラルだ。一部調査では、夏商戦の本格化を前に、シェアを2位にまで引き上げてきた。
新開発の高密度マルチパス熱交換器により、熱交換器の小型化を達成。これにより、省エネ性能と暖房能力の向上を図りながら、室内機そのものを小型化することができたという。カーテンレールの上部のような狭い場所への設置を可能としたほか、リビングの圧迫感を抑えられるとして人気を博している。
また、三菱電機やダイキン、日立、シャープ、東芝も、それぞれが得意とする機能を前面に打ち出したことで、シェアを高めている。
「三菱電機ではセンサー機能、シャープでは気流機能に注目が集まっている。また、日立はステンレスによる清潔性の訴求が成功しており、それぞれの顧客にニーズにあわせた売れ方をしている。各社が得意とする機能を打ち出すことができた商戦であったともいえる」(ビックカメラ新宿西口店家電製品アドバイザー・臼井一晃氏)とする。
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三菱電機「霧ヶ峰 MSZ-ZW368」。人感ムーブアイと呼ばれる高いセンサー性能が人気の1台だ
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表面パネルに温度や運転状態が浮かび上がるのも最近のエアコンのトレンドの1つ
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ほとんどの機種でフィルター掃除機能は標準でついてくるようになった
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シャープ「KIREION(キレイオン) SX」シリーズ(上)と「SV」シリーズ(下)。風が直接体に当たらない「つつみこむ気流」が特徴の製品
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ビックカメラでは、各社の性能をまとめた「ビックカメラ省エネエアコンカタログ」を独自に作成し、各社のエアコンの機能比較がしやすいようにしており、これも各社の機能面でのメリットを訴求する点で効果を発揮しているという。
● 省エネ機能に高い関心が集まる
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家電量販店では、省エネ性能を5つ星(最小★、最大★★★★★)で評価するという「統一省エネラベル」などを設けて省エネ性能を訴える(写真は「ENEX 2007」の上新電機のブース)
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夏商戦全般を振り返ってみると、最も注目されたポイントは、省エネ性能だったといえよう。この背景にはいくつかの理由がある。
1つは、家庭内においてエアコンの省エネが重視されている点だ。もともと家庭における電気使用量は、エアコンが最も大きく、全体の25%を占めるといわれている。つまり家庭内の電気消費量を削減しようと思えば、まず真っ先にエアコンの省エネ化を図るのが手っ取り早いのだ。
また、7月に開催された洞爺湖サミットを機に環境に対する関心が高まり、商戦においても、省エネを意識してエアコンを購入する顧客が多かったことも見逃せない。
さらに、省エネルギーの評価基準として導入されているAPFが、店頭に展示されているエアコンや、カタログに表記されるようになり、ひと目で省エネ性能が比較できるようになった点も、省エネを基準にして選択する購入者の増加を後押ししている。
こうしたことから、基本性能での選択に加えて、省エネの観点からエアコンを選ぶユーザーが多かったという。「もはやフィルター掃除機能は必須機能となっている。これに加えて、今年に入って最も関心が高まったのが省エネ機能。必ずといっていいほど、選択のポイントに挙がっている」(ビックカメラ・臼井氏)という。
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家電量販店でのエアコン販売風景。センシング技術やお掃除機能と同様に省エネ性能も大きくアピールされている(写真は「ENEX 2007」のビックカメラのブース)
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家電販売戦略において「エコ」は外せないキーワードとなっている(写真はビックカメラで行われていた省エネラベルキャンペーン)
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ビックカメラでは、8月までのキャンペーンとして、省エネ性能が4つ星のエアコンには4%、5つ星のエアコンは5%のポイントをプラスして還元する「エコファーストポイントアップキャンペーン」を実施。これも、省エネ性能が高いエアコンの販売を後押しした。
各社が共通で搭載しているフィルターお掃除機能も、自動的にこまめに掃除をすることで冷房能力を維持でき、結果として省エネにつながるという点も、省エネ訴求ポイントの1つとなっていたようだ。
● 今後も付加価値モデルに注目が集まる
10月には、各社から新製品が出揃い、暖房機能をベースとした冬の商戦に投入することになる。
一般的に、「夏商戦は、暑さをしのぐために、とにかく冷えればいいという需要が強いことから、比較的、低価格モデルの販売が中心となる。だが、冬の暖房商戦では、長期的視点に立って製品を選ぶ傾向がある。高機能モデルを中心とした商戦」(関係者)といわれる。また、「新旧製品が入り交じるため、製品の選択肢が広くなる時期。ただ、言い換えれば、旧製品との比較で新たな付加価値モデルを訴求しやすくなる時期でもある」という点も見逃せない。
そのため、各社もまずは、暖房性能の高さをアピールするとともに、付加価値機能の訴求が中心となりそうだ。
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10月21日発売の東芝「大清快 PDRシリーズ」。“消費電力が扇風機並み”という省エネ性能が特徴
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三菱電機が10月下旬から発売する「霧ヶ峰 ZWシリーズ」。CO2排出量を表示するのが特徴
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パナソニックブランドから出す初のエアコン「CS-Xシリーズ」。省エネ性能に加え、独自の「nanoe」イオン機構搭載で美肌・脱臭効果が特徴
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ビックカメラでは、新製品の動向などを踏まえながら次のように語る。「引き続き注目されるのは省エネ機能だろう。この傾向はますます強まっている。さらに、暖房としての基本性能やメンテナンスフリーに加えて、空気を清浄するといった空質機能に対する関心も高まっており、付加価値性能を重視する来店客の増加は今後も続きそうだ」(ビックカメラ・臼井氏)という。
都心のマンションなどでは、灯油の使用を禁止するといったケースもあり、「暖房もエアコンで」という認識が広がっていることも、秋以降のエアコン需要に追い風になっている。
一方、メーカー側では、今後の需要動向については厳しく予想しているものの、明るい要素もあり、これがどうプラス材料になるかに注目している。
パナソニックでは、「住宅着工件数の減少による影響はそれほどないだろう。また、原材料の高騰を背景にした価格の面も、付加価値機能の強化や企業努力によるコスト削減によって、そのまま転嫁するのではなく、吸収できると考えている。むしろ、灯油価格が大幅に上昇していること、安全性の観点からも、エアコンに対するプラス要素の方が大きい」とする。
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ダイキンでは暖房時の省エネ性能を向上させたエアコン「うるるとさらら Rシリーズ」を11月21日より発売する。“省エネ性”“快適性”を実現している状態だと全面パネルに「Eco」の文字が浮かび上がる
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ダイキン工業でも、「下期は市場を取り巻く環境が厳しく、明るい話題がない。新築需要も落ち込んでおり、バブルがはじけたとき以上のケースを考えなければいけない」と厳しい見方をする一方で、「環境への関心の高まりはプラス要素。また、燃料の高騰など、熱源転換による需要が見込める」として、前年並みの見通しを立てている。
だが、コスト上昇の影響は、メーカーの販売戦略に大きくのしかかかりそうだ。
エアコンには、室内機の熱交換機に大量の銅を使い、筐体部分には樹脂、室外機には鉄が多く利用されるなど、使用される多くの原材料が高騰している。実際に、多くのメーカーがエアコン新製品の値上げに踏み切るといった動きも出ている。
これが需要にどんな影響を及ぼすのかは、今後の大きな注目点といえそうだ。
■URL
エアコン 関連記事リンク集
http://kaden.watch.impress.co.jp/static/link/aircon.htm
■ 関連記事
・ 第4回:フィルター自動掃除機能とは(2008/06/04)
・ 第8回:省エネ達成率とは(2008/07/02)
2008/10/02 00:01
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