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東芝「クワイエ VC-1000X」
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ここ数年、サイクロン掃除機の機能はどんどん向上し、「吸引力がすぐ低下する」、「こまめなフィルターの手入れが必要で面倒」といったような、数年前までよく言われていた問題の多くが克服されている。そういった中で各社は、吸引力以外の部分での新たな機能を盛り込むことで、さらに付加価値を高めるといった方向に徐々にシフトしつつある。
今回取り上げる東芝の「クワイエ VC-1000X」も、今までにはない付加価値を盛り込んだサイクロン掃除機である。その付加価値とは「低騒音」。サイクロン掃除機のもう1つの大きな弱点である騒音にも、ついにメスが入ったのである。そこで、VC-1000Xでどのように低運転音を実現しているのか、またなぜこのタイミングで低運転音なのか、話を伺った。
● 生活環境や住宅環境の変化で静音ニーズが高まる
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東芝ホームアプライアンス リビング機器事業部 クリーン機器企画部 商品企画担当主任 小林博明氏
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「最近では、共働きのご夫婦や働く女性が非常に増えています。また、マンションやアパートといった集合住宅が日本の全世帯の半分ほどを占めるようになってきました。このように住宅環境や生活環境が変化したことで、“夜に家事をする”というニーズが増えています。そういった中で、“運転音が静か”という要求が近年高まってきました」こう語るのは、東芝ホームアプライアンス リビング機器事業部 クリーン機器企画部 商品企画担当主任の小林博明氏だ。
東芝がユーザーの声を調査したところ、掃除機に求められる機能としては、「強い吸引力が続く」、「排気がキレイ」、「イヤな臭いがしない」といったものが現在でも上位にきているという。これは、掃除機に求められる最も基本的な要求であり、当然の結果ともいえるだろう。ただ、ここ2~3年では「運転音が静か」というニーズが俄然高まっているそうなのだ。そして、先ほど小林氏が語ったような生活環境や住宅環境の変化。これが、運転音が静かな掃除機の開発をスタートしたきっかけだそうだ。
● モーターを覆うカバーと二重のバネで音と振動をカット
一言で掃除機の動作音を小さくするといっても、それを実現することは容易ではない。小林氏は「吸引力の性能を落とすことなく静かにするというところが非常に苦労した部分です」と語っていたが、やはり実現はそう簡単なものではなかったようだ。
掃除機の騒音の原因は、本体内に内蔵されているモーターが発する音と、モーターの振動が掃除機本体に伝わって本体から発する音、そして掃除機内の空気の流れで発生する音の3つが考えられるが、この中で特に大きなものは、モーターが発する音と、モーターの振動が本体に伝わって発生する音のようだ。ということは、モーター自体の動作音と振動を何とかできればいいということになる。実際にクワイエの開発でも、まずはモーターの見直しから始まっているそうだ。
となると、誰でも思いつくのは、モーターの回転数を落とせばいいと言うことではないだろうか。一般的にモーターは回転数を落とせば動作音は静かに、振動も少なくなるので、掃除機でもモーターの回転数を落とせば当然運転音は静かになる。とはいえ、モーターの回転数を落とすということは、吸引力の低下を意味する。いくら静かになったとしても、吸引力が弱いようでは掃除機としての魅力は大きく失われてしまう。これでは意味がないので、クワイエでは違うアプローチでモーターの動作音と振動を少なくする工夫を取り入れている。
掃除機の騒音は、モーター自体が発する動作音だけでなく、モーターが動作することで発生する振動が掃除機本体に伝わって発生する音も大きな割合を占めている。そこで、モーターとモーターを覆うカバーの間に振動を吸収するバネを取り付けることで、モーターの振動が外に伝わらないように工夫したわけだ。
さらに、モーターを覆うモーターショックアブソーバーと掃除機本体との間にも、4個のサスペンションが取り付けられている。つまりモーターは、モーターショックアブソーバー内の3本のバネと、モーターショックアブソーバーと本体間の4個のサスペンションによって、二重に振動をシャットアウトしているのだ。
そのほか、モーター設置場所の底に見える4個のサスペンションでもモーターの振動を吸収している。
モーターからの排気は、本体底面部分に用意され、ショックアブソーバーと本体の間を通って本体上部に移動する。また、モーターの周囲の本体部には吸音材が取り付けられている。
「バネをサスペンション代わりに利用して振動を吸収するというのは基本的な方法でして、洗濯機とかではすでに導入されていますし、進化という意味合いは少ないかもしれません。しかし、掃除機に採用したということと、二重にバネで支持しているという部分は世界初の機構です」と小林氏。技術的には既存のものをベースとしてはいるが、既に洗濯機などの分野で効果が確認されているからこその採用であり、なによりそれを掃除機に取り入れたことが画期的だったというわけだ。
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モーターをケースで覆うことで、モーターの動作音を遮音している
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モーターとケースはバネで結合されており、モーターの振動が外に伝わりにくくなっている
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モーター設置場所の底に見える4個のサスペンションでもモーターの振動を吸収している
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モーターからの排気は、本体底面部分に用意され、ショックアブソーバーと本体の間を通って本体上部に移動する
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モーターの周囲の本体部には吸音材が取り付けられる
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モーター自体の構造について。筆者がまず最初に考えたのは、従来よりも騒音や振動が出にくくなるような、新しい構造のモーターを開発したのではないかと思っていた。しかし実際には、「モーター自体の回転に対する安定性の精度が高く、それによって高い静振性が得られるモーターだけを使っている」(小林氏)そうだ。このモーターは「ハイバランスド静振モーター」と呼ばれている。
とはいえ、これだけでモーターから発生する振動や音を大幅に低減できているわけではない。次の特徴となるのが、「モーターショックアブソーバー」と呼ばれている構造だ。これは、モーター自体をカバーで覆って遮音してしまうようなものと考えるとわかりやすいだろう。しかも、ただ単にモーターをカバーで覆うだけでなく、モーターとカバーは3本のバネで結合されている。このバネがサスペンションの役割を果たし、モーターの振動を吸収してカバーに振動が伝わりにくくなっている。
● モーターから排気口までの経路を長くして音の漏れを低減
これまでの掃除機では、モーターの直後に排気口があるという構造のために、モーターの音が排気口から直接外に漏れ出ていて、これも音が大きな要因だったそうだ。そこでクワイエでは、モーターから排気口までの空気の通り道を比較的長く取ることによって、その間にモーターの音を吸収し、排気音を小さくしているそうだ。
モーターが吸い込んだ空気は、モーターショックアブソーバーの底面部分から吹き出す。そして、吹き出した空気は壁を伝わって上部へと移動。これまでの掃除機では、そのまま外に排出されていたようだが、クワイエでは、そこから本体前方に向かって経路が延び、その上でさらに本体上部へと伝わって外に排出されている。モーター下部からS字を下からなぞるような経路で流れて排出されると考えればわかりやすいかもしれない。つまり、モーターから排気口までの距離が長くなっている。同じ音でも、遠い場所で鳴っている音は小さく聞こえる。この原理を実現しているというわけだ。
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本体上部を覆うフタで、さらに排気の向きが変わる
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フタの上部にはフィルターが取り付けられており、このフィルターの下から排気が出てくる
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最終的な排気口は、本体後方上部となる。モーターからは逆S字形の経路を通って外に排出されることになる
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本体上部を覆うフタには、さらに排気の向きが変わる工夫が施されているのだという。フタの上部にはフィルターが取り付けられており、このフィルターの下から排気が出てくる仕組みになっていて、最終的な排気口は、本体後方上部となる。モーターからは逆S字形の経路を通って外に排出されることになるのだ。
また、この排気が通る経路には吸音材も取り付けられている。排気経路を迂回させることによる音の減衰と、吸音材による吸音。これによって、排気口から聞こえる音が小さくなっているというわけである。
ところで、空気の流れる経路が長くなれば、それが排気効率を悪くし、ひいては吸引力の低下につながるのではないか。そう思い、この点について小林氏に聞いてみたところ、「多少の影響がありますが、十分な吸収力があります」と答えてくれた。やはり、この排気の構造による吸引力の低下は発生しているようだ。
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ヘッド部の首の構造を見直して空気の流れの妨げとなる部分を減らし、排気経路の長さによる吸引力の低下をカバーしている
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とはいえ、いくら静音を重視した製品とはいえ、十分なパワーが発揮できなければ採用されるはずがない。そこで、排気側での吸引力低下をカバーするため、ヘッドの首にあたる部分の口径を従来よりも拡げるとともに、内部の構造も見直して空気の流れの妨げになる部分を減らしている。実際に、吸い込み口からホースまで、ほぼ均一の口径が実現されているそうだ。これによって、クワイエでは従来の「タイフーンロボ」から8dBほど騒音レベルの低減を実現しながら、吸込仕事率は450Wと従来と同じレベルを達成しているのである。
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従来モデルのヘッドでは、首の部分に突起があり、空気の流れを妨げていた
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クワイエのヘッドには首の部分に突起がなく、スムーズな空気の流れを実現
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下がクワイエのヘッド。パイプの直径も大きくなっている
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● 二次的な騒音源にも気を配る
クワイエの静音に対する取り組みは、モーターや空気の流れによって発生する一次的な音にとどまっていない。「音(静音)をやろうと決めた時点で、モーターの音とかだけではなくて、(本体が)壁にぶつかる音などにも気を配ろうと考えました」と小林氏は語っていたが、2次的に発生する音に対する配慮も施されている。
まず、本体周囲には比較的やわらかい素材のバンパーが取り付けられており、本体が壁にぶつかった時に発生する音を低減するとともに、壁にキズが付くことを防いでいる。また、車輪にはゴムなどの軟質素材を採用して、移動時に車輪から発生するゴロゴロと鳴る音も低減。さらに、本体を立てて収納する場合に設置する部分にも軟質素材を採用し、収納時の音の発生や壁・床への傷付きを防止するといったこだわりようである。
このような、非常に細かな部分にまで配慮するというのは、まさに日本メーカーらしい気配りで、海外メーカーにはなかなか真似のできない部分だろう。
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本体前方にはラバー製のバンパーが取り付けられていて、ぶつかった時の音の低減、家具などへの傷つきを防止している
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車輪にも柔軟素材が採用されており、移動時の音を低減
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本体底面の車輪にも柔軟素材を採用している
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● “50dBを切る”ことを目標に開発
クワイエの開発が始まったのは、今から1年半ほど前だそうだ。その開発上では、当然目標となる騒音の値が設定されていたわけだが、それが“50dBを切る”というものだったそうだ。
「クワイエが登場する前では、某社の機種で51dBといのが最小の騒音値でした。ですので我々は、51dBを下回るというのが至上命題でした。それなら50dBを切って40dB台に持って行こうということで開発を進めました」と小林氏。そして実際にクワイエでは、49dBという値を実現している。
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掃除機後部1mほどの場所にボイスレコーダーを置き、動作音を録音した
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ところで、音の大きさを表す値として「dB(デシベル)」というものがよく利用されているが、dBは音の大きさそのものを表す数値ではなく、音のエネルギーを表す数値だ。そのため、1dB違うだけでも実際に聞こえる音の大きさはかなり違ってくる。ただ、やはり数値だけではわかりづらい。そこで、ボイスレコーダーを利用してクワイエの動作音を録音してみたので、どの程度の音なのか実際に聞いてみてもらいたい(MP3形式,191KB)。また、比較用として「タイフーンロボ VC-105XP」の音も録音した(MP3形式,191KB)。ちなみにVC-105XPの動作音は57dBだ。録音は、双方とも掃除機後部約1mほどの場所にボイスレコーダーを置き、最強動作時の音を録音したものだ。
この音を聞いてもらうとよくわかると思うが、8dB違うだけでこれだけの差があるのだ。クワイエの音は、従来の掃除機を中~弱ほどの吸引力で使っているかのような感じだが、もちろんこれで最強動作時の音である。これだけ静かなら、夜でも以前より気兼ねなく掃除機を使えそうだ。
このようにかなりの静音化を実現したクワイエではあるが、小林氏が「まだやれる部分が残されています」と語っていたように、実際にはまだ静音化できる余地が残されているようだ。それと同時に「本体重量も検討課題」だそうだ。最上位クラスのサイクロン掃除機では、本体のみで重量5kgオーバーはあたりまえで、クワイエでは本体のみで5.7kg、パイプやヘッドも含めた標準重量で7.5kgにも達している。
今後の方向性に関して具体的な話は聞けなかったものの、この次は重量がポイントになってくる可能性も高い。そういった意味では、掃除機はまだまだ進化を続けていくだろう。今後の展開にも注目していきたい。
■URL
東芝ホームアプライアンス株式会社
http://www.toshiba.co.jp/tha/
製品情報
http://quie.jp/quie/
掃除機関連記事リンク集
http://kaden.watch.impress.co.jp/static/link/cleaner.htm
■ 関連記事
・ 東芝、“業界一"静かなサイクロン式掃除機「クワイエ」(2008/02/15)
2008/05/29 00:06
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