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Tykho Radioが表紙になった「TIME」
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今回紹介するものは、フランスのLEXONによる「Tykho Radio(ティコラジオ)」。LEXONは1991年の創立以来、世界規模で活躍しているデザイナー達と協力し、生活雑貨から電気製品まで、幅広い分野の製品を送り出している。このTykho Radioもそうした製品のうちの1つで、デザイナー・建築家として世界的に評価されているMarc Berthier(マルク・ベルチェ)がデザインを手がけた。
デザイン系のモノが好きな人なら、一度は目を奪われたであろうTykho Radio。この製品は、1996年に“rubber radio”として発表された。生まれてから12年も経過しているが、その存在感はいまだに新鮮である。フランスのポンピドーセンター、アメリカのニューヨーク近代美術館(MoMA)に永久保存されているのも頷ける。また、世界でも有数の発行部数を誇るアメリカの週刊誌「TIME」の2000年3月20日号(Vol.155 No.11)の表紙を飾ったこともある。
大きさは、140×43×145mm(幅×奥行き×高さ)、重量は電源となる単三乾電池4本込みで約400g。現在、LEXONのHPで確認できるカラーバリエーションは、2007年モデルとして、ピンク、イエローライム、バンブーグリーン、ターコイズブルー、パープルの5色。いずれも蛍光色系のビビットな色合いで構成されている。落ち着いたシックな色合いのものもネットショップで購入できるようだ。今回はターコイズブルーのものを、楽天市場で6,825円で購入した。
● 少ないスイッチ、わかりにくい表示……しかし、それを超える魅力
ラジオをはじめとするAV機器の表面には、たいてい色々なスイッチやツマミが並んでいるものだ。しかし、ティコラジオはそれを最小限、いや、必要最小限さえ持っていないかもしれない。
スイッチ類の説明を示す表示も、シリコンゴムの表面に軽くエンボス加工が施されている程度。スピーカーやスイッチ本体はキッチリとエッジがシャープに浮き立つ加工が施されているのに対し、表示字体のエッジ部分は非常に曖昧だ。チューニング部分もアンテナと兼用。一般的な機器に求められる「わかりやすい操作性、理解しやすい表示」といった部分を潔すぎるぐらい削ぎ落としている。
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AM/FM切り替えスイッチと音量スイッチ。スイッチそのものの存在はハッキリ認識できる。しかし、そのスイッチが何をするものなのかわかりにくい
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アンテナ兼用のチューニングノブ。上部がAM、下部はFMの周波数の表示
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こうして見ていると、本当にこれで良いのかと、ふっと疑問が湧いてくる。しかしこのラジオを目にして購入に踏み切った者は初めからそれを求めてはいない。何よりそのデザイン性と存在感に心奪われているのである。このティコラジオを部屋に置いた瞬間、その周りの空気が変わり、独特の存在感を醸し出す――そういった部分を楽しむためのものだ。
単三乾電池4本は、本体に同梱されている。さて乾電池をセットしようと本体をひっくり返すと気づいたのだが、乾電池をセットするにはドライバーが必要。乾電池をセットするのになんとも大げさな、と思いつつ、筆者はここで初めて取扱い説明書を読み「防滴仕様」と気づいたのである。それなら納得と思い作業を始めた。
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防滴仕様のため、電源部分は3つのネジを取り外し、乾電池をセットする
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電池カバーを取り外したところ。東芝製の単三アルカリ乾電池が4本同梱されていた
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セットする電池の向きを示す表示は、非常にわかりやすく親切
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● 明瞭で気持ちの良い音質
電池を入れた後、いよいよ電源スイッチをワクワクしながら押してみる。「ピコッ!」という感触とともに電源が入り、かすかにノイズが流れ始める。バンド切り替えスイッチを押し、ボリュームを上げ、ゆっくりチューニングしてみる。
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上部に配された電源スイッチ。スピーカーの中心線上に電源スイッチが配置されている。シリコンゴムで覆われているが、押した感触はハッキリと実感できる
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アンテナを回し、チューニングする。感触は、ほぼ遊びはなく指の感覚がダイレクトに伝わる感覚だ。音を聴きながらゆっくりチューニングする
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電源を入れる前に心配していたのは、「スピーカーを模したシリコンゴムからどんな音が流れてくるのだろう!?」というものであった。しかしその心配は一瞬で吹き飛んだ。アナウンサーの声はとても明瞭で、ハッキリとよく聞こえる。音楽も素直な音質で心地良く楽しめる。機能や操作性は最小限と言えるぐらい削ぎ落とされた本体のデザインとは裏腹に、音のデザインとしては、「削ぎ落とされた」という印象が全くない。中音域がしっかりと前に出てくる、肉厚で非常に良い印象である。長時間の視聴でも疲れないであろう、モノラルながらも好感の持てる、耳に親切な音質だ。
「電池交換が多少面倒な機構だから、乾電池を4本も使うのかな」と当初は考えていたが、「音質を大事にしているからこそ、定格電圧を6Vも確保しているのであろう」と、ラジオの音を実際に聴いて、自分の考えが変化した。
● 水まわりの設置もOKの防滴仕様
このラジオはスイッチ部分もスピーカー部分も全て感触の柔らかいシリコンゴムが覆っている。水を通さないその素材を活かすべく、バッテリー交換部分も含め、防滴仕様となっている。一般的に、音響機器は湿気や水を嫌う。しかし、防滴仕様が施されたこのティコラジオは、設置場所の幅がぐんと広がる。シャワーを浴びながら、洗濯をしながら、料理を作りながらと、いままで敬遠するべきシーンに置いても、気兼ねなくラジオが楽しめる。防滴仕様は「水滴がかかってもOK」であって、水の中での使用がOKの防水仕様でないことは書き添えておく。
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電池カバーは水の入りにくい構造となっており、水滴がかかっても問題ない構造になっている
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背面もしっかりと水滴をガード。ちなみにこの画像からは見えにくいが、背面には「TYKHO RADIO Design Marc Berthier」と刻まれている
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● チャンネル替えは面倒
チューニングの表示部分があまり明瞭とは言えない上、チューニングをアンテナ兼用のノブで行なうため、頻繁に選局するのに適しているとは言いにくい。どちらかというと、設置場所も好みの局も、ある程度固定して視聴するという使い方の方が現実的だ。電源ボタンはどのボタンよりも大きく、操作しやすい位置に配されているところからも、そのような印象を得た。
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チューニングするためには本体を持ち、アンテナを回すこの選局方法はラジオのザッピングにはあまり適さない
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アップで見ると、意外とバリが目立ったり、合わせ部分の段差が気になるかもしれない
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● 「素の美しさと強さ」が魅力のラジオ
防滴仕様も施した、軽快でシンプルな本体のデザイン性とは裏腹に、音質は非常にしっかりしており、本来の目的であるラジオ視聴がとても快適に楽しめる。
プロダクトデザインをする過程では、まず、原寸大のモックアップ(模型)を作り全体の形状の確認をするのが一般的。最終モックアップが仕上がると、そこから型が起こされ、それに対して化粧(素材が変わり、塗装され、表示がプリントされ……)が施され、製品となる。だがこうした過程を経ると、本来あった一番美しい形に別の要素がプラスされた形で世に出ることになる。
化粧を施してしまった製品は、時間が経過すると陳腐化してしまう危険もある。また凝りに凝った人工的な曲線で構成されたモノは、流行り廃りの影響を受けやすい。
改めてこのティコラジオを眺めて見て欲しい。
正円と直線で構成されたこのティコラジオは、化粧らしい化粧は施されていない。デザインの過程で決定された、本来の形である「モックアップ」が発するような、「素の美しさと強さ」をそのまま残したかのような製品である。このラジオは製造されて12年も時を経ている。しかし、色褪せるどころか、現代の一般的な「デザインされた」はずの製品が霞んでしまうぐらい、強い存在感を放ち続けている。
■URL
LEXON(英文)
http://www.lexon-design.com/en/home.php
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