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そこが知りたい家電の新技術
東芝「extra LACOO TA-FVX100」

~コードレスでも大容量スチームを実現した高級アイロン
Reported by 西田 宗千佳

“25年買い換えないのは当たり前”のアイロンにも高級化の波

extra LACOO TA-FVX100 シルバー(左)とブラック(右)
 私は、アイロンがけが好きだ。

 短時間で、洗濯物がみるみるうちに「シャッキリ」していくのは快感ですらある。掃除や洗い物は大嫌いなのに、アイロンがけだけは率先してやってしまうくらいだ。

 だが、そんな私でも、アイロンを買ったのはずいぶん前のこと。気がついてみれば、大学に入る時に買って以来、十ウン年買い換えていない。

 考えてみれば、家電の中でも、アイロンは原始的な構造の機械である。スチームなど、いくつかの構造をのぞけば、ヘタをすると19世紀から基本構造が変わっていないのではないか。

 そんなアイロンも、昨今の白物家電の例に漏れず、高級化の波が押し寄せている。今回採り上げる、東芝の「extra LACOO(エクストラ ラクー) TA-FVX100」(以下extra LACOO)も、その1つである。価格はオープンプライスで、ヨドバシカメラでの販売価格は16,800円だ。1万円を切る製品が多いアイロンとしては、高価な製品だ。

 アイロンにおける「高級化」とはなにか。商品企画を担当した、東芝コンシューママーケティング・家電事業部の川元順子氏に話を聞いた。


東芝コンシューママーケティング株式会社 家電事業部 クリーン機器部 商品企画担当 主任の川元順子氏。「extra LACOOは、100点ではないですけれど、かなり満足度が高いですね」と自己採点する
 「確かに、アイロンはなかなか買い換えてもらえない家電の1つですね。お客様によっては、25年間買い換えていない、なんてこともありますよ」

 川元氏は、アイロンの市場をそのように説明する。私の例も、決して珍しいものではなかったわけである。アイロンはなかなか壊れないため、買い換えのタイミングが訪れない。そこで「いかに買ってもらう」かが、アイロン市場のテーマとなっていた。

 「アイロンは、手で持って、衣類に押しつけて使うため、自動化があまり意味をなさない製品なんです。しわをのばす上で、一番重要なのは、機能よりテクニック。どこまでいってもマニュアル操作が必要な家電ですから、ほかの家電のようにはいかないんです」


ティファールがもたらした「スチーム」ブーム

 そんなアイロン市場に、高級化をもたらす転機となったのは、皮肉なことに、東芝の製品ではなかった。調理器具で有名なブランド「ティファール」のスチームアイロンが仕掛けた「大容量スチーム」が、市場でヒットしたからである。

 アイロンでしわを伸ばすには、衣類の繊維に、しっかりと水分を含ませることが重要だが、ティファールでは、アイロン掛け時に毎分25ccの水を吹き出すスチームアイロンを取り扱っている。一般的なスチームアイロンでは、毎分数cc程度なので、その差は歴然だ。ティファールではさらに、家電量販店の店頭にて、大量のスチームを吹き出すデモビデオを流し、その性能をアピールしている。

 「他社さんの作った流れではありますが、我々もそれに乗らせていただくことにしたんです」と川元氏は語る。extra LACOOは、毎分12ccのスチームが出るようになった。水分量が多ければいい、というわけではないが、従来の製品に比べ、噴出量はぐっと多くなっている。

 一見数字だけをくらべると、ティファールのアイロンとextra LACOOには、スチームの量でかなりの差がある。しかし、extra LACOOは、これだけの容量を「コードレスアイロン」で実現した、ということがポイントなのだ。


コードレスアイロンのカギは「熱量の維持」。スチーム量も「熱量」で決まる

extra LACOOでは、電源はアイロンスタンドに付いており、本体はコードレスとなっている
 スチーム量の多いアイロンは、コード付きであることがほとんどだ。ティファールのアイロンも、例に漏れずコード付きとなっている。

 なぜなら、常に熱をかけ続けられないと、スチームを出せないからである。スチームは、アイロン内で水を沸騰させて作る。アイロンが熱くないと、当然スチームは出ないわけだ。

 コードレスアイロンでは、これがなかなか難しい。一部には誤解もあるようだが、コードレスアイロンは、別に「バッテリーで温め続けるアイロン」ではない。本体内にあるアルミの塊を、台においている時だけ通電させて温め、熱を蓄積して使う。誤解を恐れずにいえば、「余熱でしわを伸ばす」アイロンなのである。

 「構造上、かけ面が冷えてくると、スチームが出にくくなります。コードレスアイロンで、大量のスチームを、長く出しつつけるのが難しかったのはこのためなんです」と、川元氏は語る。

 すでに述べたように、アイロンのカギは「いかに使いこなすか」にある。衣類の上でスムーズにアイロンをかけるには、やはりコードがない方が使いやすい。だが、スチームが出る状態を長く維持するには、「コードレス」は根本的なハンデを抱えていた。スチーム重視の人には、「コードレスは使いづらい」と言われることもあったという。「スチーム」と「コードレス」は、近年のトレンドでありながら、トレードオフの関係にあったわけだ。

 「適温時間を維持するだけなら簡単なんです。本体内のアルミの量を増やして、よりたくさんの熱量を保持できるようにすればいいのですから。でもそれでは、本体が重くなります。アイロンをかけるのはやはり女性が多いですから、重いアイロンは使いづらいんですよ」


適温持続時間は約4分(250秒)で、同社によるとコードレスタイプでは最長とのこと(資料提供:東芝コンシューママーケティング)
 そこでextra LACOOでは、本体内のアルミの量を、従来製品から約200gだけ増量。重量は約1.3kgとなったが、その分、熱の保持性能は高まった。

 また、置き台に戻すたびに温度をチェックし、下がった場合に給電することで、かけ面の温度低下を防ぐ「置くたび適温」機能も備えている。これは従来製品でも採用されてきた、東芝独自の機能である。

 これらにより、アイロン掛けに適した温度を持続できる時間は、従来は1分50秒から2分程度だったものが、extra LACOOでは4分まで長くなった。

 「実際には、数十秒衣類にアイロンをかけて台に置く、という動作を繰り返すことになるので、うまく使えば、以前の長さでも大丈夫なんですけどね。でも、スチームのことを考えると、新しい製品の方が効果的です」と川元氏は説明する。

 コード付きのアイロンでは、衣類の位置を変えるときなどに、本体を立てて置いておくものだが、コードレスアイロンの場合には、同じことをすると熱が逃げてしまう。使わない時には台に置く、という動作が基本なのだが、慣れないうちはそれを忘れがち。適温持続時間の長いextra LACOOは、「コードレスアイロン初心者」に優しい製品、といえるだろう。

 extra LACOOの性能が活きてくるのは、「ショット機能」を使った時だ。最大容量の水を、蒸気として一気に衣類にかける機能だ。衣類への水分の浸透量が増えるため、がんこなしわを伸ばしたい時に効果を発揮する。以前は、水タンクも熱量も小さかったため、7回から10回程度「ショット」すれば打ち止めだったのだが、extra LACOOでは18回から20回と、ショット可能回数が倍にまで増えている。


【動画】水を蒸気として一気に衣類にかける「ショット機能」(WMV形式、951KB) 【動画】スチームよりも水の粒子が大きい「ミスト機能」を使えば、よりがんこなシワにも対応できる(WMV形式、709KB)

水道水の「ミネラル」が原因の目詰まりを「リン酸」で防止

 さて、スチームには当然「水」が必要だが、そこにも一工夫加えられている。

 スチームアイロンの故障の原因となるのが、水の通り道がつまってしまうこと。ごみなどが原因の場合もあるが、圧倒的に多いのが「水アカ」だという。

 ここでいう水アカとは、水道水の中にあるミネラル分が析出し、固まってしまったもののことだ。特に、水の中のカルシウム・マグネシウムが原因となる。それを防ぐために用意されたのが、水タンク内の「抗菌ガラス」だ。

 「ほとんどの人は、水の入れ替えが面倒なので、一度水を入れると、切れるまで入れっぱなしなんです。入れっぱなしにしても衛生的に問題がないよう、銀イオン(Ag+)を含んだ抗菌ガラスを入れ、雑菌の繁殖を抑えるようにしました」と川元氏は説明する。

 その抗菌ガラスからは、抗菌剤である銀イオンだけでなく、リン酸も出てくる。そのリン酸が、ミネラルが大きく固まるのを防止し、目詰まりを防ぐのだという。


スチーム用の水を貯めるタンクは、本体から取り外し可能 タンク内には、水アカによる目詰まりを防ぐ「抗菌ガラス」が備えられている(資料提供:東芝コンシューママーケティング)

 おもしろいのが、水アカの防止効果は、地域により大きく違う、という点である。水道水に含まれるマグネシウム・カルシウムの量は、地域によって違う。千葉や茨城、関西地域や沖縄といった、いわゆる「硬水」が出る地域は、元々、水アカの出やすい地域であるが、リン酸による水アカ防止効果は、「水が硬い地域でも、十分に機能するよう配慮されている」とのことだ。

 なお、抗菌ガラスの効果は、「少なくとも商品の保証期間である、7年間は持続する」とのことなので、安価な「抗菌剤入りグッズ」のように、すぐ使えなくなる、ということはなさそうだ。


かけ面の「すべり」は、硬い「ボロン」のコーティングで劇的に進化

 スチームと同様に、アイロンの使い勝手を左右するのが、「かけ面」と呼ばれる、アイロンの底のすべり具合である。布の上でひっかかるようでは、なめらかにアイロンがけができない。アイロン売り場では、かけ面をなでたり、服の上ですべらせたりして、滑り具合を確かめる人の姿をよくみかける。

 「ところが、かけ面のすべりについては、まだ科学的に解明されていないことがあるんですよ」と川元氏はいう。

 実は、熱をかけた時と、熱がかかっていない時とでは、かけ面のすべりが違うのだ。しかも、素材によってそれもまちまち。だから、「販売店などで、通電していないアイロンをすべらせても、本当の使い勝手はわからない」のだとか。

 一般的に、アイロンのかけ面には、フッ素コーティングがされている。のりがこびりつきにくく、なめらかなかけ味を実現できるからだ。

 だがそれでも完全ではない。「修理に出され、我々の手元に戻ってきたアイロンのかけ面を見ると、傷だらけでびっくりするんです。多くの方は、アイロンをかなりラフに扱います。ボタンの上で無理矢理動かしたり、チャックをよけずにそのままかけたり……。その結果、コーティングに傷がついて、かけ味が悪くなるんです」


かけ面は、なめらかで美しい。穴の大きさや配置は、スチームの出方に大きく影響しているという
 extra LACOOは、この面で苦労している。

 まず、かけ面にはフッ素コーティングではなく、ボロン(ホウ素)のコーティングが採用されている。ボロンは、単体の元素として恐ろしく硬い。モース硬度は9.3と、ダイヤモンドに次ぐ硬さである。そのため、チャックなどの金属の上で動かしても、フッ素コートよりも傷がつきにくい。ちなみに、ボロンコーティングの硬度は、ステンレスの3倍にあたる。

 さらに、平滑性が高いため、そもそもかけ面のすべりも良い。しかも、加熱すると、なぜかさらに滑りが良くなる。すでに述べたように、この辺の理屈はまだよく解明されていない。

 「販売店では、アイロンを通電したまま展示することができません。加熱した状態で、一度 すべらせていただければ、びっくりするくらい違うことをわかっていただけるのですが……」と川元氏は笑う。

 使ってみなければわからない、ということを示すエピソードに、次のようなものがある。

 東芝の家電製品を、バイヤーや販売店などにお披露目する内覧会でのことだ。ぱっと見て、extra LACOOを素通りしてしまった客を、営業担当の人間が、懇願して引き戻した。「お願いだから、一度すべらせてみてください。もう、全然違いますから」

 実際、一度体験したバイヤーからは、きわめて良い反響が得られているという。

 「ヘンな話ですけれど、自社の営業担当とはいえ、ここまで商品に惚れ込んでくれる製品は少ないんですよ。そのくらい、『すべり』が違うということなんですけれど」と前置きした上で、川元氏は次のように話す。

 「ボロンコーティングは、フッ素にくらべて、商品の値段にはっきりと跳ね返るくらいに、すごく、すっっごくコストがかかるんです。それでも、使いやすさを重視したいので採用したというわけです」


コストより使い勝手で「オープンハンドル」にこだわる

持ち手の方向は逆だが、業務用アイロンと同様に、ハンドルの手元部分がつながっていない「オープンハンドル」を採用している
 コストより使い勝手、という製品思想を表す、もう1つの例が、「オープンハンドル」へのこだわりだ。

 東芝のアイロンは、高級機の場合、ハンドルの手元部分がつながっていない、「オープンハンドル」という形状になっている。一般的に、家庭用アイロンは、ハンドルは手元と奥の両方で本体につながる、ドーナツのような形状であり、うける印象もかなり異なる。

 だが、別にデザインの問題で採用されたものではない。こちらの方が使いやすいから、という、純粋な使い勝手上の配慮からのものである。

 アイロンの進む方向を替えたり、持つ手を替えたりする場合、手元が開いている方が、持ち替えがスムーズにできる。持ち手の方向は逆になっているが、クリーニング店の使う業務用アイロンも、使い勝手を重視し、extra LACOOと同じく、オープンハンドルを採用している。

 「でも、オープンハンドルも、コストに跳ね返るんですよ。アイロンは、力をかけて下に押しつけながら使うもの。ですから、プラスチックのボディの場合、オープンハンドルでは、構造的に弱いのです。多くのアイロンがオープンハンドルでないのは、手元と奥の両方で、加重を支えるためなんです。我々は、オープンハンドルで加重に耐えるため、コストをかけた構造を採用しています」と川元氏は説明する。


商品寿命の長い製品だから「邪魔にならないデザイン」を

extra LACOOは、全体的にシンプルなフォルム。グリップ部まで、すべてがほぼ1つの曲線で構成されていて、飽きのこないデザインだ
 extra LACOOは、オープンハンドルを含めたデザインの良さでも評価されている。下位機種「powerful LACOO TA-FVX80」では赤系統など、いかにも女性に向けた色合いのモデルも用意されているが、最高級機種は、黒とシルバーという、かなり落ち着いた色合いだ。

 「男性的なデザインとよく言われますが、このデザインが、意外と女性にも人気なんです」

 アイロンといえば、カラフルでプラスチック感の強いデザインが一般的だが、extra LACOOはかなり趣が異なる。線が少なくシンプルな印象だ。「製品寿命が長いものなので、飽きのこないデザインを目指しました」と川元氏は説明する。

 スチームを出すためのボタンも、トランペットのバルブをモチーフにした、丸めのデザイン。長く押した時にも指が痛くならないボタンはなにか、という発想から選択されたものだ。

 従来はなおざりにされがちであった「台」にも、デザイン的な工夫が凝らされている。

 アイロンでよくあるのが、熱いかけ面をさわってしまい、やけどしてしまう、という事故だ。そこでextra LACOOでは、台のサイズを本体より一回り大きくし、台に置いている最中に、側面に触れることができないようにした。元々コードレスアイロンは、コード式のアイロンと違い、台に置いているとかけ面が露出しないため、やけどしにくいという特徴があった。extra LACOOでは、かけ面の「側面」すら触れられないよう配慮することで、安全さが増している。そのため、給電台には「セーフステーション」という名がつけられた。

 「事故が起きづらいため、赤ちゃんのいる家庭からは、特に好評です」と川元氏はいう。

 extra LACOOは、ディスカウントストアで1,000円程度で売られている商品と比べれば、確かに安くはない。だが、元々長く使われるアイロンなら、少々高級なものでも、長く使える良いモノを選ぶのは、そう悪いことではない。そのためにはやはり、機能だけでなく、デザインも重要な要素といえるのではないだろうか。


トランペットのバルブをモチーフとした、スチーム噴出用のボタン。従来は四角いものを使っていたが、「指が痛くなる」との声があったため、このように変更した extra LACOOを、セーフステーションに乗せた図。このように、かけ面が一切露出しないため、安全性はきわめて高い 下位モデル「powerful LACOO」のロゼレッドモデル。こちらも、マイカ粉を塗料に入れたパール塗装がなされていて、「けっこうコストがかかっている」のだとか

 高機能家電というと、ハイテクを使った「新しい機能」に目がいきがちだ。しかし、アイロンのように「使う側のテクニック」が重要な家電では、使いやすくするためや、安全性をたかめるためのデザインを実現するためにコストをかけることも、重要な「高機能化」になり得るのである。





URL
  東芝コンシューママーケティング株式会社
  http://www.toshiba.co.jp/tcm/
  製品情報
  http://www.toshiba.co.jp/living/irons/ta_fvx100/


2007/05/21 00:01

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