乗っているだけという手軽さにもかかわらず、効率的な運動ができることから高い注目を集めているナショナルの乗馬フィットネス機器「JOBA」。JOBAならではの特徴とも言えるなめらかな「8の字動作」など、その技術の詳細について開発陣に話を伺った。
● バーチャルリアリティの技術から誕生した乗馬ロボット
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4代目JOBA「EU6442」
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「乗馬療法を国内でも広めたい。そのための乗馬ロボットを作れないだろうか」。
医学博士である木村哲彦氏から同社に持ち込まれた突然の打診。この提案が現在のJOBAが誕生するきっかけとなった出来事だ。
もちろん、当時のナショナルに乗馬ロボットを製作するノウハウがあったわけではない。木村氏が注目したのは、当時、同社でさかんに研究されていたバーチャルリアリティの技術だったが、馬の動きを再現するロボットを作ること自体は当然のことながら初めての試みだった。
このような経緯で1995年に誕生したのが馬型6本足ロボットだ。実際の馬の動きをモーションキャプチャすることで複雑な鞍の動きを3次元解析。これを6本のシリンダーを利用することで、X、Y、Zの三次元に加えて、各軸の回転方向の動作を再現。馬の動きのうち、常足(なみあし)、速足(はやあし)、駆足(かけあし)の3つの動作を再現することに成功した。
このようにして誕生した乗馬ロボットの効果は予想以上に大きいものだった。高齢者が腹筋や背筋を鍛えようとトレーニングするのは困難だが、乗馬ロボットを利用すれば乗っているだけで、それが自然にできる。こうして、現在のJOBAへと続く礎が作られ、乗馬療法、乗馬フィットネスというまったく新しい分野が創造されたことになる。
● 世代を重ねるごとに進化してきたJOBA
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松下電工株式会社 電器事業本部 ヘルシー・ライフ事業部 商品企画グループ 主事 遠山望氏
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とは言え、前述した乗馬ロボットは本物の馬に匹敵する大きさであったうえ、その価格も1台2,000万円と非常に高価だった。そこで家庭でも使えるように改良されたのが2000年10月に発売されたJOBAの初代モデルだ。
前述したように乗馬ロボットは6本のシャフトを使った非常に複雑な動作が可能となっているが、家庭用の製品ですべての動作を再現するのは困難だ。
そこで、必要な機能を絞り込むことで製品化が行なわれた。「乗馬ロボットの動きのうち、腰痛予防などを目的とした足腰の強化に効果のある動きを中心に検証したところ、前後へのスライド、横に倒れるような回転、前後に倒れるような回転という3つの動きが重要であることがわかりました。そこで、この動きを組み合わせたV字の動きを再現できる機器を家庭用として開発しました」(松下電工株式会社 電器事業本部 ヘルシー・ライフ事業部 商品企画グループ 主事 遠山望氏)。
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2,000万円の試作品。通称“馬ロボット”
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馬の動きを再現するため、6本のシャフトを用いている
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初代モデルによって、ようやく市販が可能となったものの、その価格は1台あたり25万円以上とまだ手ごろな価格とは言えなかった。そこでコストダウンを目指して2代目モデルが開発された。初代モデルはシート部分を前方から持ち上げることで普通の椅子としても使えるような設計になっていたが、この機構を省くなどしてコストダウンを実現した。
JOBAに転機が訪れたのが3代目モデルの登場だ。「JOBAのもともとの目的は腰痛などに悩む方向けの足腰の強化でしたが、2代目のモデルから、実際の利用者からダイエットに適してるという声が聞かれるようになりました。そこでダイエットという切り口とスポーティなデザインを3代目で採用しました」(遠山氏)。
このように新たにダイエットという切り口でマーケティングを行なった3代目の販売は、従来モデルの10倍という、大きなヒット商品となった。
この3代目のモデルでは、内部の動作機構を従来の本体下部から上部に移動するなどの変更も行なわれており、これがスポーティなデザインに大きく貢献している。ただし、基本的なVの字動作という動きに関しては3代目まで共通となっていた(3代目下位モデルでは速度が従来より高速化されている)。
● JOBAの変遷
● 8の字動作を実現した新世代JOBAへ
基本動作をさらに進化させ、より複雑でスムーズな動きを実現した現在の4代目モデルが誕生したのは2005年5月のことだ。従来のVの字動作をさらに進化させ、8の字を描く立体的な動作を実現した。
この8の字動作の秘密は内部の構造にある。と言っても、JOBAの内部構造は思いのほかシンプルだ。スチームフレームの台座にモーターと数個のギアから構成される駆動部分が乗せられており、これが鞍として動作している。先ほど、3代目モデルから駆動部が上部に変更されたと説明したが、内部の写真を見るとこの構造がよくわかる。
実際の動作は、鞍内部のモーターを回転させ、それをギアによって伝える構造になっている。もちろん、鞍内部のモーターを使って、鞍内部のギアをいくら駆動させても、鞍自体を動かすことはできない。このため、鞍内部で発生させた動力を台座部分に伝え、それによって鞍を動かすことになる。
JOBAの8の字という複雑な動きを生み出すポイントは、この駆動部分と台座部分のジョイント構造にある。モーターからの動力は内部のギアによって側面のシャフトへと伝えられている。このシャフトとギアを連結する部分は、回転する軸と芯のずれた軸が連結されたクランク構造になっており、回転運動が前後の動きへと変換されるようになっている。
もちろん、前後の動きだけでは8の字運動は再現できない。そこで、実はクランク構造の連結部分は、シャフトがしっかりと固定されておらず、ある程度左右に動く「遊び」が設けられている。これによって、前後に左右の動きを組み合わせた立体的な8の字動作が実現されているわけだ。
シンプルだが、複雑な動作ができるのは、このシャフトにあると言えるだろう。実際、この遊びの部分のチューニングは試行錯誤が繰り返されたものとなっており、遠山氏によると「構造自体を単純にマネたとしてもJOBAの動きを再現することは非常に困難」とのことだ。
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JOBAのコアユニット
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モーターは1個ながら、シャフトに遊びを設けることで、多彩な動きを再現している
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ギアのかみ合わせ
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● 乗り比べるとわかる8の字動作のスムーズさ
実際に乗り比べてみると、従来モデルはVの字と言っても平面的な動きで、鞍が動いたときに前端、後端で体にトンという感じの軽いショックを感じる。これに対して、4代目は三次元的な動きをはっきりと感じることができるうえ、全体の動作が途切れなく非常にスムーズだ。この進化は極めて大きいだろう。
また、4代目モデルでは、鞍の部分を前後に傾斜させる機能を新たに搭載し、非常に複雑な動きを再現できるようになった。「前後の傾斜によって馬が坂を上る、下るといった動作を再現することで運動中のアクセント(楽しみ)になるうえ、前傾斜で腹筋の強化、後傾斜でヒップアップとその効果も確実に高めることができる」(遠山氏)とのことで、より高い筋力アップ効果、ダイエット効果が期待できることになる。
乗馬フィットネス機器というジャンルの製品は、最近になって他社からも発売されるようになってきたが、このような複雑な動作をスムーズに実現できるのはJOBAならではの特徴と言えそうだ。
また、速い動きよりも、ゆっくりとした動きをスムーズに行なうことが技術的には難しいそうで、これを実現できているのもJOBAの優れた点とも言える。このあたりは、あくまでも乗馬の動きを再現すること、そして安全、快適に使ってもらうというJOBAならではの思想がよく現れている点と言えそうだ。
● 今後、JOBAはどう進化するのか
遠山氏によると「JOBAで大切にしているのは、安全で、楽しく効果的な運動をできるようにすることです。このため、単純に動作速度を上げるなどといった方向での進化はないと考えています。基本的には、現在訴求している6つの効果をさらに高めていくことを目指す方向になると思います」とのことだ。
もともとJOBAは、乗っているだけで高い運動効果が得られる点にある。このため、あまりハードな方向での進化は商品の方向性に合わないことになる。むしろ、今回の4代目の前後への傾斜のようなより楽しく利用できる方向での進化に期待したいところだ。
なお、4代目モデルには「JOBA F(ジョーバ フィット)」と呼ばれる小型の製品も存在する。こちらへの前後傾斜機能搭載の可能性についても尋ねてみたが、検討中とのことだった。
とは言え、この商品は、ただ小さいだけでなく、積極的な運動をしたい人に向いている製品と言える。たとえば、足を前に投げ出して浮かせて利用すると、鐙や床で足が固定されていない分、かなりキツイ運動ができる。JOBAはあくまでも手軽さが特徴だが、JOBA Fはよりアクティブに使いたい人向けの商品と言える。
遠山氏の言葉ににもある通り、JOBAには技術的にはもちろんだが、今後は、その世界をさらに広げる方向での進化を期待したいところだ。すでにフィットネスクラブや介護施設などへの導入も進んでいるが、「将来的には一家に一頭」(遠山氏)となることも夢ではない商品と言えそうだ。
■URL
ナショナル(松下電器産業株式会社)
http://national.jp/
製品情報
http://ctlg.national.jp/product/lineup.do?pg=03&scd=00003911
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2007/03/26 00:06
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