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世界シェアトップを見据えてパナソニックが買収した「ViKO」とは?

 パナソニックは、2014年2月に、トルコ共和国のViKO(ヴィコ)を買収した。ViKOは、コンセントやスイッチなどの配線器具を生産するメーカー。トルコ国内で圧倒的なシェアを持つほか、欧州や中東など79カ国で販売し、ウクライナやロシアでも高い販売実績を持つ。

 パナソニックは、創業100周年を迎える2018年度に、配線器具で世界シェアナンバーワンを目指す計画を掲げており、それを達成するためにViKOは欠かせない存在となっている。このほど、トルコ・イスタンブール郊外にあるViKOの本社工場を訪ねる機会を得た。本社工場の様子をレポートする。

2018年度の売上高目標を達成するための足がかり

 ViKOは、1966年に設立したトルコの電設資材メーカーで、配線器具のほか、低電圧路機器やスマートメーター、ビルオートメーションシステムなどの開発、生産、販売を行なう。

 資本金は5,000万トルコリラ(約25億円)で、売上高は2013年度実績で3億700万トルコリラ(約150億円)。約720人が勤務する。

トルコ・イスタンブール郊外のViKO本社
本社入口にある1966年から使われていた成型機。20年間使われていたという
ViKO本社の受付の様子
エントランスの様子。吹き抜けになっている
ViKO本社内のショールームの様子
社内向けのキャラクター。改善提案を行なうことなどを促進する役割を担うという

 パナソニックがViKOを買収したのは、同社の世界戦略において、ViKOが重要な役割を果たすと考えたことが大きい。

 パナソニックは、創業100周年を迎える2018年度に全社売上高10兆円を目指し、そのうち、住宅関連事業では2兆円を目標に掲げている。

 2018年度には、配線器具だけで現在の1.5倍となる約1,300億円の売上高を目指す計画であり、とくに2桁台の安定的な収益率を確保できる事業として重要な役割を果たす。

 また、配線器具は、アタッチメントプラグを創業製品とするパナソニックにとっても、重要な製品分野。日本では約8割という圧倒的シェアを獲得しており、2018年度では世界シェアナンバーワンに向けて、積極的な事業拡大を進めている分野だ。

 配線器具は、国ごとに規格や仕様が異なり、ボックス形状では日本やアジア、米国で利用されている「Aタイプ」、インドや中国で利用されている「BSタイプ」、トルコや欧州、インドネシアで利用されている「Cタイプ」に大別される。

 日本およびアジアで事業を展開してきたパナソニックは、Aタイプの製品づくりに長けているが、2007年のインドのアンカー買収によってBSタイプでの展開を開始。そして、2014年のViKO買収によって、Cタイプの製品を網羅。全世界の需要に対応できる体制が整ったといえる。

様々な製品群をラインアップする
Theaが最上位ブランド、ViKO airlineが中位ブランド
地元で人気アニメのキャラクターを採用したキッズ向けモデルも用意

 70年前から参入した台湾でのシェアナンバーワンをはじめ、アンカーの買収によるインドでのシェアナンバーワン、ViKOの買収によるトルコでのシェアナンバーワンなど、現在、9つの国と地域でシェアナンバーワンを持つ。

 配線器具で世界トップシェアの仏レグランは、10%強のシェア。これに対して、パナソニックのシェアは10%弱となっており、これを10%台半ばにまで引き上げて、2018年度には世界シェアトップを目指す。

 配線器具市場は、2018年度までに年率5%の市場成長が見込まれており、現在、全世界8,600億円といわれる市場規模はさらに拡大傾向にある。そのなかで、パナソニックは、シェア拡大を見込むことになる。

ViKOの製品を前にするパナソニック エコソリューションズ社の有井利英副社長
「ViKO by Panasonic」と、ViKOのブランドを残しながら展開する

 「パナソニックの配線器具事業は、日本からアジア、そしてインドからトルコへと事業を拡大する『GO WEST戦略』を推進している」と語るのは、パナソニック エコソリューションズ社の有井利英副社長。ヴィコエレクトリック会長、アンカーエレクトリカルズの会長も兼務する。「今後は、さらに中東、CIS、アフリカへと事業拡大を図り、2018年度には全世界でシェアナンバーワンを目指す」と意気込む。

 ViKOについては、「強力な販売網と、ブランド力がある。この人脈や販売網は日本の企業では築けないもの。中東、アフリカへと展開する上で、この買収は重要な意味があった。ViKOブランドを残しながら展開するのは、今後の事業拡大戦略の上でViKOブランドが重要な意味を持つからだ」とする。

 また、「ViKOは、同社の持つ生産設備による作る技術、商品を企画する技術が優れている。本社では自動化生産ラインと、人手によるアセンブリラインを擁し、製品の特性にあわせた生産を敷いており、月産600万個の体制を整えている。金型製造や射出成形の生産工程も持っている点も、大きな強みになる」とする。

約6万平方メートルの巨大な本社工場

 本社工場では、1階および2階の約6万平方mのスペースを利用。1階は金型製造工程と、金型を使った射出成形工程があり、2階はアセンブリラインを持つ。

1階、2階部分を工場として利用。6万平方メートルの広さを持つ
本社工場内の様子。レンガをデザインしたお洒落な雰囲気がある
金型の生産工程。金型を工場内で作製する体制がある
金型倉庫。約1,000種類の金型があり、そのうち約750種類をここに置いてある。残りの250種類は外部倉庫に保管
樹脂による成形を行なう工程の様子
スイッチやコンセント類の成形を行なっている
射出成形機。自動的に成形する
自動化した機械のなかに金型を設置し、射出成形をする
成形されたコンセント
トレイ内にきれいに並べられた部品
こちらは成形されたものにネジを止める作業を行なってからトレイに乗せる
完成した成形品を搬送用トレイに乗せる
こちらは完全自動化されてトレイの上に並べられる

 アセンブリラインは、手作業のラインが6ライン、自動化のラインが7ラインで、今回は、自動化ラインの写真撮影は禁止されたが、円形で組み立て工程が構築され、1人の作業者がアセンブリ作業を管理。ひとまわりすると配線器具が組み上がるという仕組みだ。

 自動化ラインで生産する製品は、製品寿命や生産性などのコスト面、求められる品質水準や生産速度などを考慮して決定するという。

2階フロアのアセンブリ工程。手作業で組み込むラインが6ラインある
組み立て用の部品は前方と左側から供給される
電動ドリルを使って組み立てを行なう
それぞれが組み立てたものはベルトコンベアで送られる
組み立てられた配線器具
2階には電力計の生産ラインもあり、透明の壁で仕切られている

 日本では、三重県津市のパナソニック エコソリューションズ電材三重で配線器具の生産を行なっており、同工場では約8割が自動化。さらに縦長の生産ラインを構築しているのがViKOの自動化ラインとは大きく異なる。

 「津の自動化生産ラインは、高速で大量生産する際には適しているライン。一方で、ViKOの円形型の自動化ラインは、高速ではないがコンパクトに構築できるというメリットがある。それぞれの国にあった生産方法があり、それを尊重したい」と有井副社長は語る。インドのアンカーでは、また別の生産手法を採用しており、この仕組みも同様に尊重していくという。

 その一方で、日本のモノづくりのノウハウを活用し、ViKOブランドの最終製品の安全性を高める工夫を採用。安全面で改良するといった取り組みがすでに行なわれているという。

 「これまでのトルコ市場あるいは欧州市場にはなかった安全性や効率性、操作性に配慮した製品づくりを行なっている」(有井副社長)というわけだ。

ViKOのNusret Kayhan Apaydin CEO

 ViKOのNusret Kayhan Apaydin CEOは、「2003年~2013年までの10年間の当社売上高の年平均成長率は18%となっており、トルコの電設資材市場では49%のシェアを持つ。今後は、パナソニックとの強いパートナーシップをもとに、2018年には3億6000万トルコリラを目指す」と語る。一方、「パナソニックの技術を活用してスマートメーターの製品化にも力を注ぎたい」とする。スマートメーターの生産も、イスタンブールの本社工場で生産する予定だという。

大河原 克行