節電意識を高めるのにデスクトップガジェットが効果

~大阪大学とマイクロソフトが1年以上に渡る実証実験の成果を発表

 日本マイクロソフトと国立大学法人大阪大学サイバーメディアセンターは、2010年12月にスタートした「大阪大学CMC(サイバーメディアセンター)グリーンITプロジェクト」の実証実験の結果について発表した。

大阪大学サイバーメディアセンターサイバーメディアセンターは大阪大学の豊中キャンパスにある

 大阪大学CMCグリーンITプロジェクトは、ITを活用し、大学におけるエネルギー消費の可視化に向けた実証実験で、2010年12月1日から、大阪大 学サイバーメディアセンターを対象に、ITを活用した効果的なエネルギーマネジメントに関する研究および検証を行なった。

 同実験は、大学施設における節電に関するプロジェクトとして東日本大震災前から開始。当初は約半年間の実験期間だったが、その後の節電に対する関心の高まりを背景に、2012年3月まで期間を延長。その成果を検証した。今後は、大学の節電への取り組みのほかにも、企業や家庭などの節電に対する取り組み提案の1つとして活用される可能性もありそうだ。

 プロジェクトでは、地下1階、地上7階の大阪大学サイバーメディアセンターの各フロアの分電盤に、パナソニック製のエコパワーメータを設置。また、実験を推進する同センター長・竹村治雄教授の研究室がある5階フロアに関しては、より詳細に電気使用量を管理できる多回路エネルギーモニタを設置。個別回路ごとの電気使用量を計測した。

設置されているエコパワーメータはパナソニック製(上部の黒い機器)
分電盤のなかで回路ごとに設置されているセンサー(白い機器)電力監視盤の内部。計測したデータは多回路エネルギーモニタを通じてサーバーに送られる大阪大学CMCグリーンITプロジェクトで使用しているサーバー

 計測に関しては、実証実験が開始される2010年9月から実施し、計測ポイントは、同センター全体で85カ所にのぼる。

 これらで計測された情報は、ユビテックのUBITEQ GREEN SERVICE(旧BX-Office)で収集。Windows Server 2008 R2およびSQL Server 2008 R2に蓄積、集計されるとともに、SharePoint Server 2010を通じて、ポータルサイトやデジタルサイネージ配信。図表の作成には、Visio Premium 2010やExcel 2010などが用いられている。

デジタルサイネージに表示されるスライドは研究室から操作する。表示用には34枚のスライドを用意18種類のスライドを表示して、電意識を高めることにつなげる

 今回の実証実験では、こうした見える化、見せる化の活動を通じて、学生や教職員の意識や行動の変化を分析し、今後の消費電力の削減の取り組みに生かすという狙いもある。

 一般的に大学組織は、企業や住宅に比べてCO2排出量が高いといわれている。大阪大学では、CO2排出量の78%が空調、照明、コンピュータなどの電力消費に起因したものであり、とくに理工系の研究室では、実験設備などに電力を消費するといったことが多いという。また、教育機関においては、もともと電力消費削減に対する意識が低いという指摘もあるように、省エネ化への取り組みが遅れていた背景もあった。

コンピュータを利用して授業を行なう教室教室ごとに分電盤が設置されている構造。ここでもセンサーが設置されている

 そうした観点からも、ITを活用して可視化した電力消費データを共有することで、電力消費に対する意識を向上させ、大学における効果的なエネルギーマネジメントの実現に寄与するといった狙いもあった。

 大阪大学サイバーメディアセンター情報メディア教育研究部門・間下以大助教は、「サイバーメディアセンターは、文系および理系の5つの研究室が入り、教室のほかにも、サーバールームや事務室を持つなど、大学の『縮図』として捉えるには最適な環境だった。電力消費を、照明、空調といった物理的な属性と、研究室ごとの動きや行動時間帯などのユーザー属性に合わせて、柔軟に可視化できる情報システムを構築することで、サイバーメディアセンターの教員、職員、学生が、電力消費の状況をポータルサイトやデジタルサイネージなどを通じて共有するようにしている」と語る。

 今回の実験では、可視化のパターンとして、ポータルサイトの閲覧をユーザーの自主性に任せた場合や、デジタルサイネージによって電力消費量を公共の場に掲示した場合、個人のPCに常に表示できるガジェットを通じて、積極的に消費電力の削減を訴えた場合などについて、電力削減効果の検証を比較分析している。

ポータルサイトおよびデスクトップガジェット教職員や学生はポータルサイトで提供されるデータを加工することもできるポータルサイトの情報は自由に切り替えることができる
研究室ごとの消費電力データの推移も表示デジタルサイネージには、研究室の月別消費電力量など4種類のデータを表示
ポータルサイトは一度だけの閲覧が多く、学生よりも教職員の関心が高かった

 これによると、第1次の調査結果として、2011年7月に実施したアンケートでは、34人が回答。ポータルサイトを閲覧した利用者のうち、5割が省エネを意識するようになったとしたものの、実際に行動に移した人は約3割に留まったことがわかった。

 また、ポータイルサイトへのアクセスは、一度だけ見たという人が53%、月一度が29%、週一度が9%と少ないことも浮き彫りになった。

 「アンケートに回答した人自身が節電意識が高いということを考慮すれば、全体では節電行動に移した人は2割程度に留まっているのではないか」としている。

 一方で、2012年1月に実施した第2次調査では、デスクトップ上で利用できるガジェットと、ポータルサイトの利用による、省エネに対する意識の違いについて調査した。

 これによると、使いやすさでは「ガジェットの方が使いやすい」とした回答者が62%、「どちらかといえばガジェットの方が使いやすい」の回答が12%と、約3分の2がガジェットを評価。また、情報の取得のしやすさでは「ガジェットの方がよい」が78%、「どちらかといえばガジェットの方がよい」という回答が11%と、ほとんどの回答者がガジェットを選んだ。

 さらに節電意識の維持についての調査では、ポータルサイトでは維持できたとした回答者は6%だったのに対して、デスクトップガジェットでは43%、デジタルサイネージでは53%が維持できたと回答しており、「ポータルサイトは多くの情報を提供できるものの、節電意識を高めるという点では、ガジェットやサイネージといったプッシュ型の情報提供手段の方が効果につながる」との結論を導き出した。

 また、学生よりは、教職員の意識の方が高いという結果も浮き彫りになった。

ポータルサイトからの発信よりも、ガジェットからの発信の方が評価が高いプッシュ型の情報提供が節電意識の維持には効果が高いといえる

 だが、その一方で、「今回の実証実験では、途中で東日本大震災が発生し、原発が停止することでの節電意識が世の中全体で高まったという背景もあり、単純に情報共有による成果とは言い切れない部分もある。今後も継続的に実証実験を継続し、検証していくことが必要であろう」としている。

 なお、日本マイクロソフトでは、この仕組みを東京・品川の本社ビルで活用しているほか、ユビテックと日本マイクロソフトとの協業により、「電力消費可視化ソリューション」として、2011年4月から販売しているという実績もある。

 また、大阪大学サイバーメディアセンターでは、今後、得られたノウハウの大阪大学学内での活用を推進するとともに、他の大学や企業で展開することを目的に、シンポジウムやセミナーなどを通じて普及活動を行なっていくほか、「研究室単位での実験成果は、中小規模の事業所や家庭などへの一部応用といったことも考えられる。さらに継続的に実験を続け、さらに、節電意識の変化を捉えていきたい」などとしている。

 意識・行動パターンの分析や電力削減アクションへとつなげることを狙っており、「電力消費の傾向と行動パターンから、各ユーザーにとって、もっとも効果的な削減方法を提示していく考え」だ。






(大河原 克行)

2012年7月30日 12:21