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商船三井、ソーラーパネルと蓄電池を搭載したハイブリッド自動車船

〜パナソニック、三菱重工業と共同でシステムを開発
ハイブリッド自動車船「EMERALD ACE」

 商船三井は、ハイブリッド自動車船「EMERALD ACE(エメラルドエース)」を2012年6月29日に竣工する。25日、兵庫県神戸市の三菱重工業神戸造船所において内覧会を行なった。

 EMERALD ACEは、商船三井、三菱重工業、パナソニック エナジー社が共同で開発した太陽光発電システムとリチウムイオン電池を組み合わせたハイブリッド電力給電システムを搭載。停泊中にディーゼル発電機を停止し、ゼロエミッションを目指すハイブリッド自動車船では世界初になるという。全電気量の4%のCO2排出量削減が可能だという。

商船三井が次世代型自動車船として構想した「ISHIN-I」

 商船三井では、自然エネルギーを利用した次世代型自動車船として「ISHIN-I」の構想を明らかにしており、今回のEMERALD ACEでは、自然エネルギーでの発電や、蓄電といったISHIN-Iの構想を、部分的に具現化したものと位置づけている。

 太陽光発電システムでは、甲板上(ガレージトップ)の約1,000平方mのスペースに、768枚のHIT太陽光パネルを搭載し、世界最大規模となる約160kWの容量を確保。「船舶としては、桁の違う規模になる」(商船三井 技術部設計グループ 清水洋一グループマネージャー)としている。

 太陽光パネルで発電した直流電流を、250kWパワーコンディショナーで直流から交流に変換して船内に給電するほか、直流電流のまま、リチウムイオン電池に蓄電する。

EMERALD ACEに搭載されたHIT太陽光パネルとバッテリーモジュール リチウムイオン電池は18650を採用、これを30万本以上利用している

 蓄電システムは、リチウムイオン電池を312本搭載したバッテリーモジュールを1,040個搭載。これを20モジュールずつ収納した52個の電源ユニットを並列接続。30万以上の電池セルが内蔵されている。これにより、電気自動車100台に当たる約2.2MWhの電力量を実力値で備えており、大洋航海中に太陽光発電システムで発電した電力を蓄えることで、港内では蓄えた電力で船内の電力を賄うことができるという。

 「大洋航海中には約2〜3日でフル充電できる。航海中には太陽光パネルで発電した電力を使用することもできる。52個の電源ユニットをバッテリーマネージャーを通じて状態などを常時監視し、バッテリーシステムコントローラを通じて、充放電などをコントロールする。これにより、港内停泊中にディーゼル発電機を完全停止し、停泊中や荷役中でのゼロエミッションを目指す」としている。

 バッテリーモジュールに蓄電された電力は、高圧DDコンバーターを通じて、直流700V/10kWの電力を交流に変換。450V/480kWの交流電流として船内に供給する。

 さらに、リチウムイオン電池は、一般的な船では海水バラストタンクとして使用する船底部分に搭載しており、固定バラストとすることで載貨台数には影響を与えない設計としているのも特徴だ。

 リチウムイオン電池が搭載されている部屋は船前方の最下層部にあり、高さは約2m。船は航行中は約9mが水面下となるため、「電池が入っている部屋は天井でも水面下3m、床の部分では水面下5mになる」という。

商船三井 技術部設計グループ 早川高弘アシスタントマネージャー

 「これまでにも太陽光発電を搭載した船を建造してきた経緯があるが、天候に左右されたり、日中の発電に限定されていることから、安定的な電力供給ができず、出力を増やしてもディーゼル発電機の代替手段とはなり得なかった。だが、二次電池を組み合わせたハイブリッド電力システムにより、本質的にディーゼル発電機の代替になると考え、今回のハイブリッド船の設計、建造に乗り出した」(商船三井 技術部設計グループ 早川高弘アシスタントマネージャー)という。

 今回のハイブリッド電力給電システムへの投資額は数億円規模。船舶建造費全体の1割程度を占めるという。

 「今後は、電池の技術革新によるコストダウンや、今回の船での効果を分析して、今後の船舶へのハイブリッド電源システムの搭載を検討していく。現時点では、ハイブリッド電源システムによる経済効果はまだないと考えており、今回の取り組みは、将来に向けた布石になる」という。

パナソニック エナジー社イオン電池ビジネスユニットIBS事業推進部 倉達哉グループマネージャー

 パナソニックでは、「世界最高レベルのHITセルを使用した『HITダブル』を採用しており、耐塩害、耐風圧などの耐候性に優れ、反射光も取り込むことができるのが特徴。ユニット単位での充放電制御などの各種設定が可能であり、電池セル、モジュール、ユニット、システムなどの安全性対策も図っている。工場用、ビル用システムとの違いは、船内のディーゼル発電機との連動や、メンテナンス性を重視したことのほか、船特有の振動や耐塩害性などの部分で試験を行なった。一方、今回のハイブリッド電力システムの技術は、容量や出力などの拡張性の高さから、船舶用電源だけでなく、工場やビルなどにおけるピークカットや停電時バックアップ用、大規模電力用途、風力発電との連動提案など、幅広い用途への展開が可能になる」(パナソニック エナジー社イオン電池ビジネスユニットIBS事業推進部 倉達哉グループマネージャー)としている。

 なお、EMERALD ACEは、全長199.99m、全幅32.26m、喫水9.725m。基準小型車換算で6,400台の載貨台数を持つ大型船となる。12層のデッキに自走式で自動車や建設車両などを積載できる。

 2010年11月に起工し、2012年3月に進水。6月29日の竣工後、御前崎、名古屋、横浜で荷役を行ない、欧州に向けて出航する。

 また、三菱重工業神戸造船所では、今回のEMERALD ACEが、最後の商船の造船になるという。

商船三井 技術部設計グループ・清水洋一グループマネージャー

 「最後の造船となる船において、太陽光発電システム、蓄電技術が活用されたことは大きな意義がある。これは、当社が推進する船舶維新プロジェクトのなかでも重要な意味を持ったものになる」(商船三井 技術部設計グループ・清水洋一グループマネージャー)とした。

 船舶維新プロジェクトでは、電子制御エンジンと排熱エネルギーの回収によるゼロエミッションの実現のほか、大洋航行中のCO2排出量を50%削減することなどを目指しており、太陽光発電や蓄電池などの搭載のほか、風圧抵抗軽減や摩擦抵抗の低減、推進効率の最適化、最適運航支援システムの採用などの組み合わせによって、こうした目標を実現する考えだ。

船の側面には「SOLAR HYBRID」の文字がある この部分から自動車を積載する EMERALD ACEが造船された兵庫県神戸市の三菱重工業神戸造船所
全体システム概念図 太陽光バネルとリチウムイオン電池の配置図 太陽光発電システムの系統図
リチウムイオン電池システムの系統図 停泊時にはディーゼル発電機を停止する ソーラー/バッテリー/ディーゼルの3系統から電気を供給することができる
甲板に設置されたHIT太陽光パネル 約1000平方メートルのスペースに、768枚のHIT太陽光パネルを搭載 設置角度などはパナソニックのノウハウを活用。台座には耐塩害性のためにステンレスを採用している
リチウム電池室の様子。52個の電源ユニットが設置されている 電源ユニットの内部の様子 モジュールは火災対策のため、それぞれにセパレートした形で格納
これはDC/DCコンバーター インバーターを通じて交流電流として使用する
機関室の様子。ここで電源関連をすべて制御する 機関室のモニターの様子 左側の丸い緑の部分が3号発電機。真中の緑がリチウムイオン電池、右端がソーラー
3号発電機を停止させてみる 発電機の様子。1台あたり1000kWを発電。手前が停止させた3号発電機 左側の3号発電機が白くなったのは停止した状態を示す。ハイブリッド電源システムでのみ稼働している様子
配電盤の様子。G1と書かれた真ん中が1号発電機の配電盤。右が太陽光発電システムの配電盤、左が蓄電システムの配電盤。この2つは通常の船にはないものだ 太陽光発電システムを制御する配電盤の表示 蓄電システムを制御する配電盤の表示
52個の電源ユニットの個別の管理状況を表示
船内の様子。インナースロープで自動車は自走して積載される 床に穴が開いているのは、自動車固定用のもの 船を動かすエンジン





(大河原 克行)

2012年6月25日 16:24