家電製品ミニレビュー

パナソニック「NP-TR1」 (前編)

〜食洗機生活のススメ
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食器洗い乾燥機の危機


NP-TR1
 食器洗い乾燥機――いま、もっとも注目を浴びて“いない”白物家電のひとつだ。しかし、それは間違いである、と声を大にして言いたい。私の身の回りでは、使っている人ほど評価が高く、「決して手放せない」という家電製品だ。たとえば私にしても、友人が結婚したなら、何より先に買うことを薦めたい家電でもある。

 しかし、この食洗機、売れているかといえば、まったくもって芳しくない。業界団体の調べでも、普及率は10%台半ばのまま伸びず、年々、市場が縮小しているジャンルである。そんなこともあって、今や毎年、新モデルを投入するメーカーも、パナソニックと東芝くらいになってしまった。

 そんな中で、パナソニックが2009年に発売した「NP-TR1」は、水の汚れ具合などを自動判定して省エネ・節水運転を行なう「エコナビ」機能を搭載し、久しぶりに食洗機に新局面をもたらす存在となった。しかし、その存在を知る人は少ない。

 使ったことのない多くの人が、「贅沢品」「結局、手で洗い直さなきゃいけないんじゃないの」といぶかしがる食洗機。そんな疑問に答えるとともに、最新の食洗機が「どこまでできて」「どこが限界なのか」を前後編に渡って検証したいと思う。前編では、製品の詳細に入る前に、食洗機にまつわる2つの疑問と、NP-TR1はそれにどう答えてくれるのかを概説したい。


食洗機は、今まであった作業をなくしてくれる家電

我が家に収まったNP-TR1。便利とはいえ、置き場所の問題は切実だ
 食洗機の良さを人に話すとまず返ってくるのは、「皿の数なんてそんなにないし、そもそも必要ない」という意見だ。それは本当だろうか。使い慣れた私からすると、それは「一人暮らしだから洗濯機いらない」といっているのと同じように聞こえる。

 食洗機の本質的な価値は、「時間を作ってくれる」点にある。たとえば掃除機やアイロンは、その道具によって効率が上がるとはいえ、基本的に使用している間、ユーザーの時間を拘束する。つまり、3かかる手間が1や2になるかもしれないが、0や0.2には決してならない。

 その点で、食洗機は洗濯機に似ている。人が何かをするための「道具」ではなくて、完全に「代行」してくれる機器だからだ。皿の数が多かろうが少なかろうが、お皿を機械に洗わせておいて、テレビを観るなり、音楽を聴くなり、新たな時間を生み出してくれる。この快感は使ってみないとわからない。

 となると気になるのが、「まかせておいて大丈夫なのか」という点だろう。先ほどの分類でいけば、洗濯機より、食洗機は圧倒的に「信用がない」。食洗機に否定的な人が多いのは、おそらく、ここが大きなネックになっている。最初に食洗機が普及した1980年代のころの製品の性能が、イメージとしてあるからだ。当時の製品は、水であらかた、汚れを落としてから最後に「仕上げ」をしてくれる存在に過ぎなかった。つまり、先ほどの分類で言えば、「補助」であり、「代行」まで至らなかった。

 では最新の食洗機は、どれだけ落ちるのか。具体的な検証は後編に譲るが、結論だけを先に述べると、カレーを作った鍋と皿を“そのまま”入れても、キレイになるレベルにある。カレーの鍋というと、手洗いでも完全に落としきるのは大変なシロモノだが、標準モードであっさりと汚れを落としてくれた。

 

作ってから3日ほどたったカレーの鍋側面には乾いたカレーがこびりついているこの鍋を一切、水で流さずにそのまま入れた
洗い上がりは、この通り。こびりつきもない
 なぜ落ちるのかについては、いろいろな要因があるが、(1)手洗いよりはるかに高い温度のお湯を使っていることと、(2)手洗いより濃度の濃い洗剤を使っていること、に集約されるだろう。

 結論として、まずこの製品には「代行」だけの洗浄能力がある、ということを伝えたい。


「皿の数が少ないからもったいない」

 もうひとつ、食洗機懐疑派に根強いのは「便利なのはわかるが、洗う皿の数が少ないからもったいない」という意見だ。これはなかなか説得力がある。茶碗とお椀、湯飲みに箸、皿2枚くらいしかないのに、わざわざ機械を使うことに対しての罪悪感、といったらいいだろうか。

 確かに、メーカー側もこの点は認識していて、少ないときに使うモードを設けた機種も多い。だがこうした対応の決定的な弱点は、少なくても汚れがひどいときに対応しきれないことだ。入れられた皿の状況を見ているわけではないので、一律に控えめな運転をしてしまうこの制御は、汚れ落ちと経済性をトレードオフの関係にしてしまい、「やはり食洗機は落ちない」もしくは「やっぱり、もったいない」という印象につながる面があった。

 こうした話になると、食洗機推進派の私はいつも「確かにそれはあるね……」とシュンとなっていた。

 その点で、NP-TR1の存在はエポックメイキングだ。本体内に2つのセンサーを設けて、食器の汚れと量を検知。最適な制御を自動で選択してくれる。つまり、食器が多かろうが少なかろうが、汚れが激しいときはしっかりと洗い、そうでないときは節約する、と同時に量も検知して、ムダな乾燥をしない。という、これまでのトレードオフを解消する機構を取り入れている。

 

状況に合わせて運転を制御する機構はエポックメイキングだ
 この機構を取り入れたことにより、「少量」モードは姿を消している。それどころか、なにを選べばいいのか、というモード選択の悩み自体がなくなった。つまり、この量だからもったいないとか、もう少し食器を貯めておこうという、食洗機を使うが故のストレスを解消してくれた。

 この2つめの疑問に真っ正面から取り組んだのがNP-TR1であり、だからこそ懐疑派に自信を持って薦められる製品だと言いたい。


気持ちよい洗い上がりに満足する日々

 以上、長くなったが、この製品を使い始めてから2週間、とにかく洗浄能力の高さに驚かされている。本当に、「これにちゃんとお皿を突っ込めばキレイになります。おすすめ!」と一言で終わらせたいくらい、気持ちよいほど期待に応えてくれるのだ。

 スペックを改めて確認しておくとNP-TR1は、パナソニックの食洗機の中では最上位機に当たる機種で、家族6人分、53点の食器まで対応した食洗機である、というとやはり「私にはオーバースペック……」となりがちなのだが、この「家族6人分、53点」という数字はまったく役に立たない。実情だけ先に述べてしまうと、たとえ二人暮らしでも、鍋や調理器具も洗おうとすると、一回転では入りきらず、二回転させる必要があるくらいだ。ここもまた、「誤解」を生む原因となっていることは間違いない。家族が何人であろうが、場所の許す限り、大きなサイズの製品を買うのが正解、というのが真実だ。

 というわけで前編では詳細なレビューに入る前提としてなぜ食洗機か。そしてなぜNP-TR1が優れているのかを説明した。明日の後編では実際に洗った例や消費電力について詳しく触れたい。





2010年3月10日 00:00