大河原克行の「白物家電 業界展望」

パナソニックのBtoBシフトは成功するのか〜北米市場の取り組みを追う

 ここ数年、パナソニックが明確に打ち出しているのが、BtoBへのシフトである。2013年1月に、毎年、米・ラスベガスで開催されるInternational CESの基調講演において、パナソニックの津賀一宏社長がBtoBへのシフトを明確に打ち出して以降、コンシューマ・エレクトロニクス・ショー(CES)の名称を持つイベントでありながらも、BtoBの展示を強化。その流れは今年も加速している。実は、米国市場におけるテレビや家電製品などのBtoC製品の販売構成比は約2割。裏を返せば、パナソニックが目指すBtoBシフトをいち早く推進できる土壌にあるのが、北米市場なのだ。北米におけるパナソニックの取り組みを追った。

白物家電、デジタル家電のメーカーから脱却?

 日本国内においてのパナソニックのイメージは、依然として、洗濯機や冷蔵庫、エアコンといった白物家電を発売するメーカー、あるいはテレビメーカーといったものだろう。

 もちろんそれは、パナソニックにとって重要なビジネスであり、これからも変わらない。

 白物家電は、国内市場において、高いシェアを持つのは周知の通り。テレビもプラズマテレビからの撤退後も、液晶テレビによって、国内市場で大きな存在感を発揮している。

 また、海外においても、アジア、中国市場で白物家電事業の実績を持つほか、欧州市場を中心に白物家電ビジネスの拡大に取り組む姿勢をみせている。

パナソニックの津賀一宏社長

 今後、白物家電事業は、国内生産への回帰を計画しているが、パナソニックの津賀一宏社長は、「日本で白物家電を生産するのは、円安への対応という受け身のものでなく、日本流のおもてなし心のある家電を、アジアなどの他地域に日本から輸出していきたいという狙いがある。その際に、日本の商品をそのまま持って行くのではなく、現地テイストに焼き直した形で、MADE IN JAPANの製品を輸出するという新たなビジネスモデルにチャレンジしたい」とコメント。国内生産への移行が海外事業の拡大にもつながると見込む。

 「まずは40機種ぐらいのMADE IN JAPANの製品を海外に持って行きたい」と津賀社長は語る。

 だが、その一方で、ここ数年、パナソニックが打ち出しているのが、BtoBシフトだ。パナソニックが2018年度に目指す10兆円の売上高のなかで、家電事業の売り上げ構成比は、2兆円。つまり、2割が家電事業ということになる。

 ここに向けてどう舵を切っていくのか。これが現在のパナソニックの変革の根底にある。

 実は、この2割という家電事業の構成比を、すでに実現している市場がある。それが北米市場なのだ。パナソニックの近未来の姿が北米市場にあるといっていいのかもしれない。

電機業界全体がソリューションに舵?

 いまから2年前の2013年1月、International CESの基調講演において、パナソニックの津賀一宏社長は、同社の経営戦略を、BtoCからBtoBへとシフトすることを明確に打ち出した。

 それ以降、車載関連事業、住宅関連事業を中長期的な成長の柱に据えるとともに、BtoBソリューションによる収益拡大を図る姿勢を示してきた。

 そして、今年のCESの会場を視察した津賀社長は、「パナソニックは、自社ブースの展示内容を、昨年、今年と、BtoBの方向へと変えてきた。今年の展示は、私がイメージしていた姿にかなり近づいてきている」と前置きながら、「このブースの構成は、CES全体を見たときにも違和感がない。自動車メーカーの出展が増え、CESそのものが変化してきていること、ハードウェア主体のショーから、ソフトウェア、コンテンツを含めたショーに拡大している。CES全体がソリーションに向かっている」と指摘する。

2015年CESのパナソニックブース

 そして、「世の中の変化にあわせて、パナソニックも変化していることを実感している」と自信をみせた。

 今年のInternational CESにおいて、BtoB展示やソリューション展示が増加していたのは事実だ。サムスン、LG電子、東芝、シャープがIoTを軸としたソリューション、東芝やシャープがエネルギー関連や車載関連ソリューションの展示に力を注いだのもそれを裏付ける。

 これは、お膝元となる北米の電機市場、そして、CESが全世界の電機業界の流れを決定づけるということを捉えると、業界全体がBtoBを軸とした方向へと舵を切り始めていることの証だといっていいだろう。

タフブックを軸に垂直市場を狙うパナソニック

パナソニック システム コミュニケーションズ ノースアメリカのランス・ペーラー社長

 では、北米市場におけるパナソニックのBtoB事業への取り組みはどうなっているのだろうか。

 パナソニック システム コミュニケーションズ ノースアメリカのランス・ペーラー社長は、「社長に津賀が就任して以来、組織や関係会社の間にあったサイロ(縦割り構造で、業務部門の連携を欠いているような状態を指す)を壊して、商品やサービスが統合できるようになった。それまでは北米における各事業会社は、ディスプレイ、ビデオ、プロジェクターをそれぞれ箱売りする会社であったが、それが統合され、ソリューションとして展開することができるようになった。より幅の広い提案をBtoB向けに提供できるようになった。これが、北米市場におけるパナソニックのBtoB事業拡大のベースになっている」とする。

 パナソニック システム コミュニケーションズ ノースアメリカは、いまから約20年前に設立。タフブックを軸として、特定市場に向けて、垂直型のソリューション展開を行なってきた。警察向けにパトカーに搭載するPCで高い導入実績を持つなど、政府、官公庁、小売業界などの特定市場に強みを持つ。

 「ここ数年で、セキュリティ、POS、通信、オフィスのバックエンドと統合したソリューションが、エンド・トゥ・エンドで提供できるようになった。さらに、パートナー企業の製品も統合する環境が生まれ、インテル、マイクロソフト、シスコなどとの連携がより強固になっている」(ペーラー社長)ということも、特定市場を狙った垂直展開をさらに加速させている。

小売店舗向けに提供するPOWER SHELFと呼ぶ商品陳列棚

 今回のCESでは、小売店舗向けにPOWER SHELFと呼ぶ商品陳列棚を展示。棚に置かれた「電子棚札」は、価格の改訂などを容易に表示でき、さらに商品が棚からなくなるとスマホに情報を表示して、スタッフが商品補充を行なうといった使い方が可能だ。「小売店では、在庫切れによって売り上げの4%を失っている。こうした課題を解決できる」とペーラー社長。こうしたソリューション展開が北米市場で増加している。

北米でのデジタルサイネージで高い実績

パナソニック エンタープライズソリューションズのジム・ドイル社長

 北米市場において、太陽光パネル事業およびデジタルサイネージを展開するのが、パナソニック エンタープライズソリューションズである。エコソリューションズ社とAVCネットワーク社の2つのカンパニーが持つBtoBソリューション製品群を扱う組織だ。

 パナソニック エンタープライズソリューションズのジム・ドイル社長は、「北米市場における太陽光パネル事業は、メガソーラーを対象にしたビジネスを展開。個人の家庭向けには展開していない」と前置きし、「パネルの販売ではエンジニアリング、技術開発、調達、運用、ファイナンスまで対応している。これが北米の太陽光パネル事業におけるパナソニックの強み。とくに大規模のソーラープロジェクトを進める際に、税制優遇面のメリットを享受したり、ファイナンスの観点では、パナソニックがそれを肩代わりした提案ができるようにしている点は、大規模な商談に効果を発揮している」(ドイル社長)という。

 ファイナンス面では、CORONALと提携。所有権はCORONALが持つ形で、ファイナンスのスキームを提供。メガソーラーの大規模プロジェクトを支援する仕組みを作っている。

 一方で、AVC関連事業では、デジタルサイネージへの取り組みがあげられる。

 昨年、米ニューヨークのタイムズスクエアのナスダックのデジタルサイネージをリプレース。4Kの高精細なパネルが目を引く。

米ニューヨークのタイムズスクエアのナスダックのデジタルサイネージ

 「ナスダックは、リアルな取引所施設を持たないために、上場した際に、ここでお披露目を行なう。ナスダックにとっても重要なサイネージであり、これを受注したことは、パナソニックのサイネージ事業の強みを訴求することにもつながっている」(ドイル社長)とする。

 さらに、スポーツ施設向けのサイネージ導入が活発な北米市場において、パナソニックはこの分野でも実績を積み重ねつつある。

 NASカーレースが活発なテキサスモータースピードウェイでは、ビルの25階相当の高さに匹敵する2万5,000平方フィートの大きさを持つ、ギネスブック認定の世界最大のLEDビデオボードをパナソニックが導入。ここではディスプレイの導入だけでなく、制御技術の提供、コンテンツの制作、管理といった役割も担っている。まさにソリューション展開によって、導入を実現した事例だ。

 また、ケンタッキーダービーのホームグランドであるチャーチル・ダウン競馬場では、世界最大の4K LEDビデオボードを設置。ここでも、コントロールルームへのソリューションを提供。次のステップとして、携帯端末への連携サービスも提供する考えだ。

 「ビデオボードからは音を出すことができないが、手元のスマホであれば、音を出すことができる。また、手元のスマホを使って、Eコマースのサービスにつなげることもできる。新たなソリューション提案のひとつになる」とする。

 2015 International CESのパナソニックブースでは、スマートフォンを使って簡単に情報を取り出せる高速可視光通信による光IDソリューション「ミュージアムサイネージ」を展示。この技術を使ってサイネージ用のパネルから情報を取り出して、スマホに表示する様子をデモストレーションしており、こうした取り組みも、サイネージのソリューション提案の加速に寄与しそうだ。

CESのパナソニックブースに展示された高速可視光通信による光IDソリューション

 津賀社長は、「もともとスマートフォンは、自分で検索して、なにかの情報を得るものだが、高速可視光通信の光IDソリューションでは、スマホはかざすだけで情報が得られる。スマホやウェアラブル機器にとっては、新たな提案ができる」と期待を寄せる。

ユニークな役割を果たすパナソニックカナダ

 北米におけるパナソニックのビジネスにおいて、ユニークな立場にあるのが、パナソニック カナダである。

 ここでは、家電を中心としたコンシューマビジネス部門、タフブック、タブレット、セキュリティプロダクツ、プロジェクタービジネスのほか、ハード、ソフトなどのソリューションを提供するBtoB部門、換気用ファンやデジタルサイネージなどの産業機器部門の3つの事業を、ひとつの会社で担当している。

パナソニック カナダのマイケル・モスコウィッツ社長

 パナソニック カナダのマイケル・モスコウィッツ社長は、「当社では、依然としてコンシューマビジネスが中心。全体の70%強を占めており、米国のビジネスモデルとは大きく異なる。だが、BtoBへとシフトを進めており、3年前には35%の売り上げ構成比を占めていたテレビは、いまでは10%の構成比になっている。人材をBtoBにシフトし、サービス、保守部門も強化している。今後、コンシューマとBtoBの構成比は、50対50になると予測している」と、BtoBへのシフトを進めている最中にあることを明かす。

 カナダにおいては、パナソニックは信頼性の高いブランドとして評価されている。ブランド認知度も、5年間に渡り、上位10社のなかにランクイン。テレビのブランドとしての認知度が高いほか、ハイエンドオーディオについても、その分野に強い専門販売店網を確保しており、今後のTechnicsブランドの展開において、重要な市場に位置づけられている。

 こうしたブランド力の強みを生かして取り組もうとしているのが、システムキッチンのテストマーケティングだ。カナダでの取り組みをベースに、今後、アジアや欧州などでも、システムキッチンを展開していく考えだ。

 「カナダは、マンションの床面積が小さいため、家電もシステムキッチンも小型化した製品に対するニーズが高い。米国市場とはまったく異なる市場性がある。広い国土を持ち、3,600万人の人口。それなりの消費量があるという市場性などを捉えると、テストマーケティングを行なうには適した市場だといえる」とする。

 様々な製品を取り扱い、セールス、マーケティング、保守、システムインテグーションまで一貫したビジネスを行なう体制を構築している点でもユニークな存在であり、テストマーケティングを行なうのにカナダが適している理由のひとつになっている。

 ここにきて、パナソニックがカナダ市場で強化しようと考えているのが、住宅関連ビジネスである。日本やアジアで実績がある住宅関連事業を北米や欧州でも展開できるかどうかを、カナダ市場を通じて模索している段階にあるという。

 「2018年に向けて、箱売りビジネスから脱却し、製品、ソフトウェア、サービスを連携させたソリューションプロバイダーに転換する。これによって収益性を高めるとともに、BtoBユーザーに対しても、パナソニックならでは価値を提供できると考えている。BtoBシフトは、一朝一夕には実現できないが、それに向けた歩みは確実に進めている」

 着実なBtoBシフトには、強い手応えを感じているようだ。

北米は5つの柱からコンシューマ事業を推進

パナソニック コンシューマー エレクトロニクスのジュリー・バウアー社長

 とはいえ、北米市場において、コンシューマ向けビジネスに力を注がないというわけではない。

 パナソニックでは、北米でコンシューマビジネスを担当するパナソニック コンシューマー エレクトロニクスのトップに、世界最大のダイレクトマーケティング会社であるガシー・レンカーやマテル、ベストバイなどで実績を持つジュリー・バウアー氏を抜擢。2013年6月から北米におけるコンシューマ事業の舵取りを担っている。社長就任以来、コンシューマ向けオンライン販売は2倍に増加。現在、ビジネス向けデジタルマーケティングも担当する。

 バウアー社長は、「市場調査を行ない、北米市場におけるコンシューマ事業の今後の方向性を見極めた。その結果、5つの柱からコンシューマ事業を推進することにした」とする。

 コンシューマ市場における5つの柱というのは、「アドベンチャー」、「エンタテインメント」、「デジタルイメージング」、「ホーム」、そして、「パーソナルケア+ビューティ」である。

 このなかでも注目すべきポイントは、「アドベンチャー」、「ホーム」、「パーソナルケア+ビューティ」の3つだろう。

 アドベンチャーは、スポーツシーンなどで利用する堅牢性の高いデジカメやウェアラブル系の4Kビデオカメラなどを指す。米国市場では需要の高い市場のひとつだ。今回のCESでも、アドベンチャーカメラの名称で「DMC-T56」などを揃えてみせた。

 「アドベンチャーシリーズの広告訴求では、ロッククライミングを家族で楽しむ様子をみせた。こうしたシーンにおいては、堅牢性、防水性を持ったパナソニックの製品が適している。北米では注目される製品になる」と期待する。

 また、ホームでは、「コネクテッドホーム」の提案がパナソニックの差別化につながるとする。

 「家庭内の様々な家電製品と、個人が所有するデバイスを接続するコネクテッドホームでは、調査の結果、安心・安全、モニタリング機能、エンテイメント性という3つのポイントがある。技術を使って、どんな楽しみ方ができるかがポイントになる」

 とくに、安心・安全においては、長年の実績があるセキュリティカメラと、セキュリティサービスを組み合わせた「ホームセキュリティ」の提案を加速させる考えだ。

 「他社と違うところは、月額の固定コストがかからないという点。パナソニックは、創業100年近い歴史がある企業。スタートアップの企業とは異なり、老舗の企業が持つ安心感がある。ホームセキュリティでは、それも強みになる」とする。

 そして、「パーソナルケア+ビューティ」は、パナソニックが今後、北米市場で大きな成長を見込んでいる領域だ。CESでは、男性用と女性用の理美容製品によるデモストレーションをそれぞれ行なってみせた。

 「いまでも、パナソニックは、テレビメーカーというイメージが強い。だが、日本市場やアジア市場向けには、強い理美容製品を持っている。こうした製品を通じて、パナソニックの知名度をあげることに力を注いでいきたい」

 理美容製品では、イメージキャラクターにセレブリティや理美容の専門家、ビューティーブロガーなどを起用。パナソニックの理美容製品を利用することで、どんな効果があるのかといったことを、体験を通じて発信してもらうといった取り組みを開始した。インターネットや、ソーシャルメディアといったオンラインを活用したチャネル開拓にも力を注いできたという。

 こうした取り組みの成果もあり、パナソニックは、2014年の北米市場において、理美容製品の売上高を倍増させたという。バウアー社長は、「2015年も倍増を目指す」と意気込む。

 さらに、パナソニックでは、5つの柱の切り口において、「エクスペリエンシャルマーケティング」と呼ぶ、新たな体験型マーケティングの取り組みを開始した。ここでは、アトベンチャーであればアスレチッククラブやフィットネスクラブ、パーソナルケア+ビューティであればビューティーサロンといったように、それぞれの製品を実際に使うシーンと密接に関連する場においてパナソニックの製品を訴求することで、用途やメリットをわかりやすく提案するのが狙いだ。

 「日本ではたくさんのパナソニック製品が用意されている。こうした製品を米国でも投入することで、幅広い顧客層にアプローチできると考えている。日本で培ってきたノウハウを米国でも活用し、日本と北米のコラボレーションでヒット製品を売りたい」とする。

 さらにこうも語る。

 「北米市場では、BtoB事業の比率が高く、飛行機や自動車のなかで、パナソニック製品を利用しているといった人たちが多い。車載事業やアビオニクス事業といったBtoBでの実績があるという認知を高めることが、パナソニックのブランド価値を高めることにもつながる。その点でも、BtoBとBtoCのビジネスを緊密にしていきたい」

 BtoBの実績を、ブランド価値の向上という点で、コンシューマ事業に活用するというのは、日本やアジアでは見られなかった仕掛けだ。

 だが、今後の世界戦略のなかでは、BtoBをきっかけにコンシューマ事業の拡大施策を立案するという地域も出てくることになるだろう。

 北米市場でのコンシューマ事業の成否は、そうした点でも重要な意味を持つといえそうだ。

(大河原 克行)