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パナソニックの“Wi-Fi電話”に見る、スマホ時代の固定電話

Panasonic「VE-GDW03DL」

 最近、固定電話機とスマートフォンの連携が進んでいる。例えば、シャープの「インテリアホン JD-BC1」はBluetooth通信方式を採用し、“コードレス子機で携帯電話回線の発着信が可能になる”というものだ。一方で、固定電話の親機とスマートフォンを無線LANルーター経由で接続することで、“スマートフォンで固定電話回線の発着信が可能になる”というのが、今回ご紹介するパナソニックの電話機「VE-GDW03DL-W(以下、GDW03)」である。

 どちらも固定電話機とスマートフォンを繋いでいるが、シャープのインテリアホンはスマートフォンの利便性を高めるために固定電話を活用しており、パナソニックの「GDW03」は固定電話回線の利便性を高めるためにスマートフォンを活用するという発想の違いがある。現在の通信事情を考えると、スマートフォンが中心になりそうな気もするが、なぜ今固定回線を軸とした電話機をつくったのか。固定電話機を取り巻く現状や、「GDW03」の登場背景について、パナソニックの担当者に聞いてみた。

固定電話を取り巻く環境は変わっても、根強い需要

パナソニック AVCグループ 情報通信チーム コンシューマーマーケティング ジャパン本部 梶 恵理華氏

 「固定回線は減ってきてはいますが、小学校にあがる前のお子さんのいらっしゃるご家庭ですとか、緊急時の連絡網として固定回線を使われているという方は、まだまだ非常に多くいらっしゃいます。また、シニア層では、固定回線のほうが通話料も安く、安定していることをメリットとしてあげられる方もいらっしゃいます。

 ただ、その一方で、ご存じの通り、スマートフォンも非常に普及してきておりますので、なんとかお手持ちのスマートフォンを使いながら、この必需品である固定電話をうまく使っていただけないかということで、今回この商品を企画いたしました」(AVCグループ 情報通信チーム コンシューマーマーケティング ジャパン本部 梶 恵理華氏)

 スマートフォンなどの携帯端末の利用者数はここ10年ほどで激増している。総務省の「平成24年版 情報通信白書」における電気通信サービスの加入契約数を見ると、平成12年に6,196万人の加入契約者数だった固定通信が、11年後の平成23年度には3,595万人まで減っている。一方、6,678万人だった携帯電話などの移動通信は、1億3,276万人へと増加。平成23年度末には、移動通信の加入契約数が、固定通信の加入契約数の約3.7倍となったというから驚きだ。

 ところが固定電話回線契約者の全体数が激減しているのかといえば、微減にとどまっている。「GDW03」はこの現実に目をつけて登場した製品と言えるだろう。

スマートフォンのユーザーが増えている一方で、固定電話の所有率は、40代以上の家庭では依然として高い

固定電話回線と携帯電話回線のどちらを使って発信するか、スマホで選べる

 「GDW03」には、iPhoneやiPadなどのiOS端末(iOS5.0以降)のほか、Android端末(Android 4.0以降)などを最大4台まで接続して、受発信できる。受話口のないタブレットでも、スピーカーホンとして使えるのだ。親機には表示部はなく、ディスプレイ付きのコードレス子機が1台付属する。親機にはホルダーがついており、USBケーブルを用意すれば、スマートフォンの充電台としても使えるようになっている。

GDW03本体
スマートフォンを置いた様子
USBケーブルを用意すれば、スマートフォンの充電台になる

 「4台まで繋いでいただくことができますので、もしご家庭でお父さん、お母さん、息子さん、娘さんそれぞれがスマートフォンを持っていれば、わざわざ増設子機を増やさなくても、そのまま利用していただけます」(梶氏)

受信時は、固定電話にかかってきた電話を、最大4台のスマートフォンで受けることができる

 必要なのは、無線LANルーターと、スマートフォン用の無料アプリ「スマートフォン コネクト for GDW03」の2つだ。

 使い方は、子機として使いたいスマートフォンに、アプリをインストールし、親機とスマートフォンのそれぞれを無線LANルーターに接続すると、アプリ上で固定電話の発信、受話、留守番電話の確認などができるようになる。アプリはiOSとAndroid OSに対応する。

アプリをインストールすると、スマートフォンの待ち受け画面にアイコンが現れる
着信時の画面の様子
パナソニック AVCグループ 情報通信チーム チームリーダー 藤井潤氏

 実は今回の製品と同じコンセプトの製品が過去にもあったという。

 「PHSがまだよく売れていた1995年~2000年は、PHSを子機として登録できる商品として、『PHSデジタルコードレス VE-PV5J』という製品がありました。それと同じことを今回スマートフォンでやったということなんです。スマートフォンはみなさんすでにお持ちですし、それが全部子機になるので、わざわざコードレス子機を買わなくてもいいというメリットが生まれるのではないか、という発想からですね」(AVCグループ 情報通信チーム チームリーダー 藤井潤氏)

回線を使い分けることで最大9,000円お得になることも

発信時は、固定電話回線と携帯電話回線のどちらからかけるか選択できる

 パナソニックの専用アプリからは、固定電話回線か、携帯電話回線かを選択して発信できる。もし無料通話が可能な相手なら、そのまま携帯電話を選べばいい。逆に固定電話のほうが安く済む相手なら、固定電話を選んで発信すればよい。とはいっても、一体どの程度の差が出るのだろうか。

 「1回3分、1カ月に10回使用した場合の通話料を比べてみますと、スマートフォンから発信するときは、相手が携帯電話だろうと固定電話だろうと、だいたい3分間に126円かかります。1カ月に約1,260円ですね。これを、アプリを使って固定電話回線でかけていただくと、3分あたりの料金は相手がドコモの場合で50.4円、ソフトバンクの場合55.1円で済みます。スマートフォンから直接発信した場合と、アプリの固定電話回線を使って発信した場合を、年間の電話代で比較すると、相手がドコモのキャリアの場合は最大約9,000円くらいお得になります。さまざま無料通話の条件もあると思いますので、お得だと思う方を簡単に選んで使える柔軟性がメリットですね」(梶氏)

携帯電話の回線と固定電話の回線を使い分けることで、電話代の節約に繋がるという
スマートフォンの電話帳をそのまま使える

 スマートフォンの電話帳がそのまま使えるというのも利点だ。ナンバーディスプレイを使えば固定電話でも発着信の確認はできるが、従来は登録に時間がかかるものが多かったので、これは便利だ。

スマートフォンなら、今いる場所で電話に出られる

 通話料が安くなるという以外にも、電話に出やすいというのが大きなメリットだ。通常、固定電話機は、リビングなど電話回線が引かれている場所に設置されることが多いはずだ。いくら固定電話の子機がコードレスとはいっても、着信があれば子機のある場所まで移動して取ることになる。それが、肌身離さず持ち歩いているスマートフォンが子機になれば、どこにいてもその場ですぐ出られるようになる。

 さらに、親機と連携させたスマートフォンと付属の受話子機では、内線通話や、着信の転送も可能となっている。

無線LANを選択した理由

 接続するのに無線LANルーターが必要なのはすでにご紹介した通りだが、まだ家庭内LANのないお宅では「GDW03」以外に、別途無線LANルーターも購入しなくてはならない。ハードウェアを必要としないBluetoothのほうが手軽なのではないかと思ってしまうが、そこはあえて無線LANを選択する理由があったようだ。

欧州で発売された無線LANモデルの固定電話の一例「KX-PRW120」。家が広く、部屋数も多い欧州では、子機を買い足さなくても良いという点が評価され、人気を呼んでいるという

 「実は、すでにアメリカ、カナダで個人や若い方向けにBluetoothモデルを発売しています。ですから技術的にはどちらでも可能だったんですが、あえて日本では無線LANを選択しました。なぜなら日本はヨーロッパに非常に似て、BluetoothよりWi-Fiの認知度が高い。アメリカ、カナダでBluetoothモデルが好評だったので、ヨーロッパでもBluetoothで出してみたんですが、これがさっぱり売れない(苦笑)。 Bluetoothに利便性を感じないようなんですね。そこで、今年の8月に改めて無線LANモデルを発売したところ、非常に好評でした。デザインはまったく異なりますが、使い方は同じです」(藤井氏)

 北米、欧州での経験と、認知度や使い勝手のイメージから、日本では無線LANを採用したようだ。

 こうして日本では業界初の“Wi-Fi電話”となった「GDW03」だが、開発にあたっては、電話同士の自然な音質に近づけるため、非常に苦労したという。逆に初の試みということがプラスになった部分もあったようだ。「企画、スタート段階から、何にもとらわれずに、空っぽの状態で、みんなが納得する商品を作ろうということでスタートできました」と藤井氏は語る。

 デザインの面では、シンプルかつモダンな配色でまとめられているが、今のデザインに落ち着くまでにかなりの時間を要したようだ。

 「さまざまなデザインでリサーチしてみたが、若者は赤やピンクなど奇抜な色を選ぶ傾向があり、年配者は無難な色を選択しがちになる。さらに東京、大阪、福岡など都市ごとに結果がどこも違うんです。まとまりがつかず、そこは一番苦労しました(苦笑)」(藤井氏)

モノトーンで落ち着いた印象に仕上がっている
背面

新しい切り口で固定電話を盛り上げたい

 「GDW03」と同時に、デジタルコードレス電話機「VE-GDF61」も発売されている。プッシュ式のボタンが円形に配置されており、コードレス子機を伏せるスタイルで乗せられている。とくに縦置きした際のたたずまいは、あの黒電話によく似ている。事実、黒電話のデザイン復刻を意識したものだ。

デジタルコードレス電話機「VE-GDF61」を縦置きした様子
横置きした様子。ダイヤル式ボタンを模したプッシュ式ボタンを採用。黒電話を意識したデザインだ
ダイヤルを模したパネル部分は回転し、縦置き、横置きに対応する

 さすがにダイヤルは回せないが、その外観への反響は大きく、同社のFacebookページで紹介したところ、コメントが多かったという。

 「今の若い方は黒電話を見たことはないのかもしれませんが、もともと日本の家庭はみな黒電話でしたよね。欧州でも昔の電話機の復刻版がでているというのを知って、あれをなんとか現代風にアレンジできないのかと思いました」(藤井氏)

 「GDF61」にはスマートフォンとの連携機能はなく、ストレートタイプの「GDW03」とは対極の製品に見えるが、どちらも根底に流れるものは「固定電話をもっと使ってもらいたい」という思いだ。

 「若い方や、家庭をもたれた方に戻ってきてもらえるような物作りが必要だと思っています。電話機は四角くなくてはいけないという決まりはありません。デザインや機能でいじれるところはたくさんありますから、どんどんチャレンジしていければ。その結果、あえて固定回線を入れたくなるような製品が生み出せたらいいなと思います」(藤井氏)

 今後“Wi-Fi電話”市場が盛り上がりを見せるようなら、他の電話機にも標準採用される可能性は十分考えられる。現在はファミリー層がターゲットだが、工夫次第でシングルがより便利に使えるようになる可能性もある。固定電話機の今後が楽しみである。

【お詫びと訂正】初出時に誤りがありました。親機と連携させたスマートフォン同士では内線通話は不可で、着信の転送は可能です。お詫びして訂正いたします。

すずまり