松下電器製品を専門に扱う地域専門店「スーパープロショップ(SPS)」の売り上げが増加しているという。
SPSは、いわば「あなたの街の電器屋さん」と称される、小規模の地域密着型の家電店である。ナショナル、パナソニックの看板を掲げ、現在、全国に5,600店舗が存在する。
近年、大型量販店の出店が全国規模で相次ぐと同時に、大型店舗を中心とした業界再編の動きが加速している。そのなかで、地域専門店は、量販店の価格戦略、ポイント戦略に押され、むしろ苦戦ぶりが伝えられてきた。だが、SPSの成果を見る限り、実状はそうでもなさそうである。
● 地域密着型の販売手法が功を奏す
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スーパープロショップは、全国に5,600店舗が存在する
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従来のナショナルショップをベースとして、SPS制度がスタートしたのが2003年度。松下電器の発表によると、この年を100とした場合、2006年度のSPS全店の売上高は125%に拡大。そして、今年4~8月の実績では、2003年4~8月と比較して、なんと162%に達しているというのだ。2004年度以降は、電機業界全体の成長率を上回る実績で、SPSの売り上げが推移しているのだという。
さらに、前年同期比2桁増の成長を記録している店舗が、今年4~8月実績では全体の39%を占めるという高い実績となっている。
では、なぜ、SPSは、これだけ高い成長率を維持しているのだろうか。
それにはいくつかの理由がありそうだ。
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SPS制度の開始後、売り上げは年々増加。今年4~8月に限ると、2003年の同時期の62%増という高い数字を示している
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前年比で成長する店舗の数も増えた
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2004年度以降、業界全体の成長を上回る実績を残している
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● 地域密着型の提案がSPSの最大の強み
1つは、地域密着型の商品提案が売り上げ増加に直結している点だ。
長年、その地域で店舗を構えているSPSの場合、最大の強みは、顧客の家族構成、家庭の間取り、そして、どんな家電商品を使っているかといったことを熟知している点である。
白物家電の耐用年数を捉えた提案のほか、プラズマテレビの商談でも間取りを勘案したインチサイズの提案が可能だ。
実はこんな逸話がある。あるSPSで、高齢者の顧客を対象に、プラズマテレビの商談が発生した。価格下落が激しいプラズマテレビだけに、来年になれば、さらに価格は下落するのは明らかだ。その顧客も、同様のことを語り、来年以降に買いたいといっていたという。だが、SPSの店主は、「先に逝っちゃったおじいちゃんに、なんでハイビジョン放送のきれいな画像を見てこなかったんだといわれるよ」と言ったという。
こんな言葉は、気心の知れた人にしかいえないセリフであり、ジョークである。量販店の店員がこんなことを言ったら、お客は怒ってすぐに帰ってしまうだろう。だが、SPSの店主がいえば、それは購入につながるのである。
これほどまでに、SPSは地域に密着した販売活動を行なっているのだ。
現在、SPSには、新POSレジと、顧客情報を把握するための「新パナ情報Vシステム」が導入されている。
これにより、顧客情報を把握、過去の販売履歴もとにした見込み客抽出が可能になり、買い換え提案を推進することが可能になっている。これも店舗の戦略的提案の実施と、生産性向上に大きく寄与している。
また、このデータベースマーケティングは別の観点からも効果を発揮している。
あるSPSでは、回収対象となったFF式石油ファンヒータの対策にあたり、蓄積したデータベースから70数件の販売顧客リストを抽出。その日のうちにすべての対策を完了したという。
● 小型店舗の弱みを強みに変える
一方、小型店舗であることをあえて強みとする取り組みも行なわれている。それは、各種機器との連動提案である。
量販店では、プラズマテレビとデジタルカメラ、ビデオカメラは売り場が離れており、一緒の利用シーンの提案はあまり現実的ではないのが実態だ。
だが、SPSの小規模店舗内であれば、プラズマテレビのすぐ横には、DVDレコーダーが置いてあり、さらに、デジカメもビデオもある。VIERA LINKや、SDメモリーカードによる連動提案がやりやすい環境にもあるのだ。
その成果は明らかだ。SPSでは、プラズマテレビ「VIERA」購入者のうちの3割が、同時にDVDレコーダー「DIGA」を購入しているという実績が出ているほか、VIERAを購入した顧客を対象に、デジタルカメラ「LUMIX」の拡販を展開したSPSでは、1カ月に70台以上のLUMIXを販売することに成功したという。
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地域密着展開を狙い、体験型キャラバンカー「DreamCar」を投入。写真はプラズマテレビを搭載する「デジタルDreamCar」
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そして、地域密着展開に向けた具体的な支援策の1つとして松下電器が用意したのが、イベントおよび催事をサポートする体験型キャラバンカー「DreamCar」である。
昨年11月からスタートしたDreamCarは、42インチ、65インチのプラズマテレビを搭載した「デジタルDreamCar」、IHクッキングヒーターやエコキュートなどを提案する「オール電化DreamCar」、管球、電池などによる提案を行なう「あかり電池DreamCar」の3タイプを用意。全60台体制で全国をキャラバンし、SPSの販売支援を行なってきた。
DreamCarによる実演体験は50万世帯、催事実施店舗は延べ4,300店舗、催事実施回数は延べ3,200回に達しているという。
「2006年度には、市場全体の成長率は前年比2%増であったものが、SPSでは5%増。さらに、DreamCarによる実演販促を行なった店舗では10%増の成長率を達成している」(松下電器産業常務役員コンシューママーケティング本部の佐藤嘉信本部長)と成果は上々だ。専門家による説明と、実物を体験できることで、購入に結びつけやすいのだ。
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IHクッキングヒーターやエコキュートなど、オール電化関連商品を紹介する「オール電化DreamCar」
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電球や電池、防災/防犯設備を取り扱う「あかり電池DreamCar」
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DreamCarによる実演販売を行なった店舗では、比較的高い成長率を記録している
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松下電器産業常務役員コンシューママーケティング本部 佐藤嘉信本部長
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そして、今年9月からは、新たに103インチプラズマテレビを搭載した「103ビエラDreamCar」を10台配備し、小規模店舗では展示できない、大型商品の訴求も行なうことになる。
103ビエラDreamCarでは、直接、見込み客のところに持ち込むといったことも予定しており、地域密着ならではの販売促進展開を行なう考えだ。
また、先頃、購入者向けに提供しているパナカードを一新。年会費無料の「パナカードイーカ」、17商品を対象に5年保証をつけた「パナ(安心)カード」、22商品を対象に5年保証をつけた「パナカードイーカプラス」を用意し、火災、盗難、落雷といった際のメーカー保証「家電安心保険」を、これら全カードに付加した。
これも、店舗と顧客を結びつける施策の1つだ。
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9月より投入した「103ビエラDreamCar」。その名の通り、103インチのプラズマテレビ「VIERA」を搭載する
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購入者に提供する「パナカード」を一新。全種類に火災や盗難の保険が付いている
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● 高齢者向けのビジネスも強化
高齢化社会に対応した取り組みも、SPSのビジネスにフィットしたものといえよう。
現在、日本の世帯構成を分析すると、約2軒に1軒はエルダー層が同居している世帯。また、約3軒に1軒は、エルダー層だけで生活している世帯だという。一般的にエルダー層は50代以上を指すが、今後、その比重はますます高まる傾向にある。あわせて65歳以上の人口も増加し、全国平均で5人に1人の65歳以上の人口構成比率が、2015年には4人に1人になる見込みだ。
松下電器では、「エルダー三種の神器」という言葉を使い、高齢化社会に向けた商品提案を行なっている。
それは、プラズマテレビをはじめとする「使いこなすことができるデジタル機器」、オーダーメイド補聴器やお掃除機能付きエアコン、マッサージチェアなどの「健康増進」関連製品、そして、IHクッキングヒーターやホームセキュリティ製品による「安心・安全」を提供する製品のことを指す。
オーダーメイド補聴器では、全出荷量の65%がSPSによる販売だという。エルダー層を確実に掴んでいることの証ともいえる。
さらに、これらの製品を、「購入から使いこなし、メンテナンス、廃棄までの商品生涯サービスとして提供し、また、お客様が年齢を重ねるに従ってサービスを進化させるお客様生涯サービスという切り口からも提案していく」(松下電器産業常務役員コンシューママーケティング本部の佐藤嘉信本部長)とする。
「電球一個でも取り替えにいきます」という、SPSの一部店舗で実施しているサービスは、エルダー層が苦手とする高い場所にある電球交換を代わってやってくれるもの。これも、エルダー層をターゲットとしたSPSならではの展開といえる。
● 住設への広がりも売り上げ拡大に寄与
また、オール電化、リフォームといった「家まるごとに強い」体制ができあがったことも見逃せない。
もともとナショナルショップでは、家電全般に強い点が売り物だったが、松下電工とのコラボレーションによって、キッチン、バス、エコキュート、ホームセキュリティといった領域まで踏み出した専門店が増加している。
家電プラス住設という提案によって、「家まるごと提案」が可能になっているのだ。
2005年度には、リフォーム事業などに乗り出している認定店は約2,500店舗であったものが、2006年度は3,600店舗、2007年度は5,000店舗に増加。今年4~8月実績では、エコキュートが前年同期比88%増、キッチンも12%増という実績になっている。こうした新規領域での事業拡大が功を奏しているのだ。
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家電に加えて、オール電化やリフォームなど「家まるごと提案」が行なえる
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東北地方では、自宅にDreamCarを出張するサービスも行なっているという
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● 相次ぐ松下電器の支援策
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松下電器では、販売店からの問い合わせを受ける「販売店商品相談110番」など、幅広い支援策を設けている
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もちろん、松下電器の販売店支援策の強化も、SPSの売り上げ拡大の大きな要素となっている。
2003年度からは、販売店商品相談110番を設置し、商品に関する質問に答えられる体制を確立。さらに、データベースマーケティングの導入支援により、顧客情報をもとにした戦略的な提案活動への取り組み、水漏れなどへの対応やリフォームの商談も獲得できるように、ナショナルリフォーム集中センターを設置して、店舗に住設の専門家がいなくても対応できる体制を整え、2日間での現地調査、1週間以内での見積もり提案が可能になっている。
さらに、人材確保についても、人材専門会社である松下エクセルがバックアップし、従業員、パート求人募集展開を行なうという支援体制をとっている。
「SPSが、限られた人材で、持続的成長を維持するためには、SPSが販売に専念できる舞台装置を用意する必要がある。それが各種の支援策になる」(佐藤常務役員)というわけだ。
● 新規開業店も募集する勢い
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一部店舗では、「テレビハウス」と「テレビ&オール電化ハウス」の看板を掲げるなど、分野に特化した店舗であること強調
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現在、SPSでは、デジタルおよびオール電化に特化した店づくりを目指している。
一部店舗を対象に、「テレビハウス」、「テレビ&オール電化ハウス」といった看板を掲示し、この分野に強い店舗であることを示している。これを今後全国展開していく考えだ。
また、ここにきて新たな店舗の募集も開始している。
SPSの空白地域を埋めるために、新聞などを通じて、電器店の新規開業を募集。過去に量販店で店員を経験したことがある人のほか、文具店、燃料店といった、地域や家庭のことをわかっていながら、成長が見込めない領域からの応募が相次いでいるという。
ある文具店経営の2代目経営者は、このプログラムに応募。今年7月には、同プログラム第1号として、SPSをオープンしている。
● 松下電器は、すべてのSPSを支えるわけではない
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SPS全店を対象に、店舗の持続的成長を目指した施策を練るプログラム「SPS経営研究塾」をスタートしている
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一方、今年2月からは、SPS経営研究塾をスタートしている。
これはSPS全店を対象にしたプログラムで、松下幸之助商学院や松下資料館を訪問し、改めて創業者の考え方を学ぶとともに、尼崎のプラズマパネル工場を訪問。さらに、2011年までの成長プランをそれぞれの店舗で立案。持続的成長に向けた施策を、自らが練るというものだ。
もともとナショナルショップには、「お得意先の電器係になろう」という精神がある。
「好きな商品を選んでくれという商売ではなく、お客様の家庭を知り、松下電器の商品を熟知した上で、この製品が最適ですよ、と提案できる商売形態であること、そして、家のことはすべて任せてもらえる店舗を目指す。この考え方は、いまでも同じ。むしろ、松下電工とのコラボによって、キッチン、バスまでを含めて任せてもらえる電器店を目指すことが求められている。いま一度、創業者精神を知っていただく場として、SPS経営研究塾を活用している」(佐藤常務役員)。
ただし、松下電器は、地域専門店のすべてを支えるつもりはない。
それは、創業者が提示した「自主責任経営、共存共栄」という言葉に集約されている。
「店舗の経営は、店舗の責任で行なう。そして、松下電器は、努力する地域専門店に対して支援を行なう。くらしに役立つ商品を松下が作り、くらしに役立つ活動をSPSが行なうことこそが、お互いの使命を共有することにつながる」(佐藤常務役員)
努力するSPSに対して支援するというのが松下電器の姿勢は、これからも変わらないという。
こうして見ると、SPSは、量販店に押されているばかりではないのが実態だ。むしろ、元気なSPSの方が多いといえそうだ。
松下電器にとって、SPSの躍進は大きな下支えになっている。
■URL
松下電器産業株式会社
http://panasonic.co.jp/
パナソニック コンシューマー マーケティング 株式会社
http://panasonic.co.jp/pcmc/
スーパープロショップ(でんきやさん)のご紹介
http://panasonic.co.jp/pcmc/le/sps/
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2007/10/31 00:00
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