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そこが知りたい家電の新技術
ナショナル「ラムダッシュ ES8259」

~4枚刃が深剃りと肌へのやさしさを両立
Reported by 平澤 寿康

ラムダッシュ ES8259
 T字カミソリは、気が付けば4枚刃を通り越し、5枚刃、さらには「5+1」で、実質6枚刃の製品も登場しており、どこまで刃が増えるのかわからないような状況だ。

 それに対し電気カミソリ、いわゆるシェーバーは、中央に比較的長いヒゲを切り落とすスリット状の刃と、その前後に網目状の刃を配置した3枚刃構造の製品が現在も主流である。

 そんなシェーバー業界に、ナショナル(松下電器産業株式会社)から「ラムダッシュ ES8259」をはじめとするシリーズ4機種が、9月21日に投入された。中央のスリット状の刃の横に、深剃り用として4枚目の刃を配置した製品である。まさか、どんどん刃の枚数が増えているT字カミソリに影響されたというわけではないと思うが、シェーバーで刃を4枚にすることでどういった利点が生まれ、その開発にはどういった苦心があったのだろうか。

 ナショナルのシェーバー開発を担当する、松下電工 電器事業本部 ビューティ・ライフ事業部 技術開発グループ課長の細川慎氏、同じく技術開発グループの清水宏明氏、小森俊介氏に話を伺った。


深剃りと速度、肌へのやさしさを実現するために4枚目の刃を搭載

松下電工 電器事業本部 ビューティ・ライフ事業部 技術開発グループの清水宏明氏
 なぜ、シェーバーに4枚刃なのか。まず初めに、この最も素朴な疑問をぶつけてみたところ、「早く深剃りを行なうという点と、肌にやさしいシェービングを、同時に実現するため」(清水氏)とのことだった。

 従来までの3枚刃のシェーバーに比べ、4枚刃のシェーバーでは刃が肌に当たる面積が広くなる。肌に当たる面積が増えると、早く剃れるようになるのはもちろん、肌にもやさしくなる。これが4枚刃を採用した理由だ。確かに、刃が増えて肌に当たる面積が広くなれば、同じ力で刃を肌に押しつけた場合、刃が多いほど刃が肌に当たる力が分散され、肌にはやさしくなるだろう。T字カミソリでも4枚刃や5枚刃の製品が増えてきており、そういった点からも刃が増えれば肌にやさしいということは何となく想像できる。

 しかし、刃が肌に当たる力が分散されるということは、肌を押す力が弱くなり、それだけ深剃りがしにくくなる。ところが新作の「ラムダッシュ」では、「フィニッシュ刃」と名付けられる4枚目の刃を加えて、肌に当たる力が弱くなっても、従来と同じか、それ以上の深剃り性能を実現しているというのだ。それはなぜか。その秘密は、4枚目の刃の構造にある。

 通常の刃は厚さが60μm(ミクロン、またはマイクロメートル。1μmは0.001mm)ほどになっているのに対し、この4枚目の刃は41μmと60μmの刃が組み合わさってできている。つまり、41μmという薄い刃でヒゲをしっかりすくい上げて剃るようになっているため、肌に当たる力が弱くてもしっかり深剃りができるのである。


4枚刃構造のラムダッシュ。中央右の刃が深剃り用の「フィニッシュ刃」だ フィニッシュ刃の拡大画像。6角形の網刃の2辺(写真では左右の部分)が薄くなっているのがわかる フィニッシュ刃の断面画像。中央の凹んでいる部分が41μmの刃、その左右の盛り上がっている部分が60μmの刃だ

 ただ、少々疑問に感じるのが、60μmと41μmの刃を組み合わせているという部分。全体を41μmの刃で統一すれば、よりヒゲが深く剃れるようになるのではないのか。

 しかし、「単に薄く、という思想は初めからありませんでした」と清水氏が語るように、実際にはそういうわけにはいかないらしい。刃を薄くすれば、深剃り性能は向上するが、その一方で、ヒゲを剃るときに肌もいっしょに切ってしまう恐れが高くなる。単純に刃を薄くすればいいというわけではないのである。

 「そこで、フィニッシュ刃に採用されている、厚い刃と薄い刃を組み合わせた3次元的な構造を生み出すことによって、ヒゲを深く剃りつつ、肌にやさしい刃としました」(清水氏)

 フィニッシュ刃は、蜂の巣のような6角形の網状の刃が組み合わさっている。そして、ヒゲを剃る方向(刃に対して前後の方向)の部分にのみ41μmの刃を配置し、それ以外の部分には60μmの刃を配置した。これにより、60μmの刃で肌を守りつつ、41μmの刃でヒゲをすくい上げて深く剃ることが可能になっているというわけだ。

 ちなみに、この刃の厚さと形状が決定するまでには、様々な試行錯誤があったそうだ。厚さや穴の形状を実際に試作し、できた試作機を使って刃の厚みをμm単位で検証、のべ1,000人以上の社内モニターも行なったそうだ。そのうえで、最終的に60μmと41μmの組み合わせにたどり着いたとのことだ。


フィニッシュ刃の拡大模型
太い部分の刃が60μm、細い部分の刃が41μmだ こちらは従来製品の刃の拡大模型。全ての刃が厚さ60μmとなっている

従来の刃では、ヒゲをすいたり、強く押しつけて肌を切ってしまうなどの負担がかかってしまうが…… フィニッシュ刃では、41μmの薄い刃が強く押しつけずともヒゲをすくい上げて深剃りする。素早く剃れるだけでなく
、肌にもやさしい

 さらに、網の6角形の形状は、深剃りと肌へのやさしさを両立するために、場所によって大きさや形状を微妙に変えている。この点についても、新たにテストを行なって試行錯誤したのかと思ったが、実際にはそうではないらしい。「実は、先人が築いたデータがありまして、刃の厚さによって穴をどういった形や大きさにすればいいのか、システマチックに導き出せるようになっているのです」(細川氏)。

 ナショナルのシェーバーは50年以上の歴史があり、過去の技術の積み重ねによって、穴の形状や大きさは理論的に確立されているものなのだそうだ。全く新しい構造を採用しながら、過去のノウハウがしっかり活かされているという点には、素直に驚きを感じた。清水氏は、本製品の刃の構造や形状を「この3次元構造によって、ヒゲが短く、かつやさしく剃れるのです」と自信を持って語っていたが、苦心の末に実現したからこそ出た言葉だろう。

 この、フィニッシュ刃を加えた4枚刃構造によって、従来までの3枚刃構造のシェーバーに比べ、ヒゲ剃りにかかる時間は70%ほどに短縮された。そのうえで、肌へのやさしさは従来モデル以上を実現した。ヒゲの深剃りと肌へのやさしさというのは、基本的には相反する命題だ。しかし、3次元構造のフィニッシュ刃の実現と、これを4枚目の刃として搭載したことによって、相反する命題を同時に解決できたというわけだ。


電器事業本部 ビューティ・ライフ事業部 技術開発グループの小森俊介氏 電器事業本部 ビューティ・ライフ事業部 技術開発グループ 課長の細川慎氏

ステンレス刃は最大のこだわり

 ところで、ラムダッシュでは刃の素材にステンレスを採用しているが、これもまた特徴のひとつだという。細川氏は「刃の材質がステンレスだからここまでできる。逆にステンレスでここまでできるのは我々だけです」と語っているが、実は他社のシェーバーの多くは、刃の素材にニッケルを利用し「電鋳」と呼ばれる方法(電解液に溶けた金属を電気的に析出させること)で製造することがほとんどだそうだ。それに対し、ナショナルのシェーバーの刃は、ステンレスを素材とし、鍛造をベースとする独自の加工技術によって製造されている。そして、このステンレス素材と製法こそ、ナショナルのシェーバーの刃に対する大きなこだわりなのだそうだ。


刃の素材について熱く語る細川氏
 なぜナショナルがステンレスにこだわっているのか。それは、「刃先の鋭利さが長時間キープできる」(細川氏)からだ。

 ラムダッシュも含め、ナショナルのシェーバーの刃の素材として利用されているステンレスは、流し台などに使われている一般的なステンレスではなく、「ステンレス刃物鋼(安来鋼)」という、様々な刃物で広く利用されている強度の高い素材だ。

 「ヒゲは意外に硬く、太さが同じであれば、銅線と同程度の強度があります」(細川氏)という。そういった硬くヒゲを毎日切り落としていると、当然、刃も日に日にすり減っていく。もちろん、内刃と外刃が擦れ合うことによってもどんどん摩耗する。硬くヒゲを切り落としても、長期間切れ味を損なわないためには、ヒゲや摩耗に負けない強度を持つ刃が不可欠。そのために、優れた強度を持つステンレス刃物鋼を採用しているのだそうだ。

 細川氏は、「刃物としてこだわっているのでステンレス刃物鋼を使用しています。ニッケル(で製造した刃)はどちらかというとメッキに近い物ですから、我々からすれば刃物ではないと思っています」と語る。実際に、ニッケル素材の刃では、1年ほど使用すると、内刃と外刃の擦れ合いとヒゲのカットにより、摩耗が進み刃厚が薄くなるため、肌が傷つきやすくなることもあるそうだ。一方、ステンレス刃物鋼を利用するナショナルのシェーバーの刃は1年使用してもせいぜい1~2μmほどしか刃厚が摩耗しないそうだ。つまり、それだけ長期間切れ味が持続するということである。

 ここまで刃の素材にこだわっているのは、優れたシェーバーを世に送り出したいから、という強い信念があるからだ。細川氏を始めとした開発陣の方々の言葉からは、様々な部分でシェーバーに対する強い思い入れと自信がひしひしと伝わってきた。そういった強い思い入れやこだわりがあるからこそ、いい製品がどんどん世に生み出されていき、また他を圧倒する競争力が得られているのだろう。


細かな部分へのこだわりも

内刃には「ナノエッジ刃」を採用。刃先が0.3μmの鋭利さとなっており、硬いヒゲもスムーズにカットできる
 フィニッシュ刃の3次元構造や刃の素材だけでなく、ES8259には他にも各所にこだわりが盛り込まれている。

 例えば、内刃。ES8259の内刃は、刃先(エッジ)が0.3μmと非常に鋭利な「ナノエッジ刃」が採用されている。従来の内刃では、刃先は1μmほどだったので、3倍以上の鋭利さを実現していることになる。これは、ナショナル独自の微細な研磨技術によって実現されているそうだが、この非常に鋭利な内刃の採用によって、従来の内刃に比べてヒゲを切断するときの抵抗が約1/2に低減されているそうだ。ES8259で素早く肌に優しく深剃りが可能となっているのは、外刃「フィニッシュ刃」に加え、内刃「ナノエッジ刃」の存在も非常に大きいと言っていいだろう。

 また、ヘッド部の刃の配置にも注目だ。4枚の刃を搭載するとなると、どうしてもヘッド部が厚くなり、特に鼻の下あたりが剃りにくくなる可能性が出てくる。実際に社内でのテスト時にも、その点の指摘があったそうだ。そこで、ES8259では、最も手前に配置されている刃を、他の刃に比べて若干低い位置に配置している。実際に刃の位置を確認してみると、0.5mmあるかないかといった程度で、数字ではちょっとした違いでしかない。しかし、それだけでも使い心地は大きく変わるそうだ。


ラムダッシュの2002年モデルは、業界に先駆けて小さいグリップとヘッドを前方に傾けたデザインを採用した
 さらに、ボディ形状にもこだわりがあるそうだ。現在では、グリップ部が握りやすいように細くなり、ヘッドがやや前方に傾斜しているシェーバーが増えているが、この形状をいち早く採用したのはナショナルだった。本体を握りやすく、ヘッドを肌に当てやすい形状を突き詰めた結果導き出されたもので、2002年頃のモデルから採用されている。

 特に当時は、バッテリーとしてニッカドやニッケル水素を使っていたため、セルを2つも内蔵させなければならず、特にグリップ部を細くすることがかなり難しかったそうだ。細川氏は、「研究を重ねてこの形状を導き出しました。今はどのメーカーもグリップを細くヘッドを傾斜させるようになっているので差別化はできていませんが、他社が追随してきたということは、理にかなっていたんだな、と思っています」と語っている。

 ナショナルがシェーバー1号機を送り出したのは昭和30年(1955年)のこと。それ以来、シェーバー開発陣は究極の目標として「ワンシェーブフィニッシュ」を掲げている。つまり、1度シェーバーを当てるだけで完璧にヒゲを剃り落とすということ。これなら、刃が肌に当たるのも1度だけとなり、肌にも究極にやさしいことになる。今回のラムダッシュで4枚刃を実現したことによって、その究極の目標にまた1歩近づいたといえるだろう。そして今後も、その究極の目標に向かって新たな製品が生み出されていくはずだ。


ナショナル初のシェーバー「MS-10」。昭和30年(1955年)に発売された製品だ 初めてリニアモーターを採用した、1995年発売の「リニアスムーサー」




URL
  ナショナル(松下電器産業株式会社)
  http://national.jp/
  ラムダッシュ ES8259 製品情報
  http://ctlg.national.jp/product/info.do?pg=04&hb=ES8259
  ビューティ&ライフ 関連記事リンク集
  http://kaden.watch.impress.co.jp/static/link/beauty.htm

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ナショナル、メンズシェーバーなど4製品を9月から発売(2007/07/20)


2007/10/17 00:01

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