冷蔵庫は、白物家電製品のなかでも、エアコン、洗濯機と並んで主役製品の1つと位置づけられる。この冷蔵庫市場が転換期を迎えている。400L以上の大容量冷蔵庫が好調。さらに、各種の付加価値を持った製品に人気が集まっており、冷蔵庫市場でも“プレミアム家電”に対する需要が高まっている。
● 大容量化で転換期を迎える冷蔵庫市場
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400L以上の需要は、今後、全体の半数を超えるとみられる(資料:日立アプライアンス)
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経済産業省が発表している生産動態統計調査によると、電気冷蔵庫(家庭向け冷蔵庫)の市場規模は、'97年の年間537万台の出荷をピークに、年々減少傾向を辿っている。2005年の出荷規模は、282万台と300万台を割り込み、ピーク時の約半分の出荷規模となっている。
今年8月までの実績を見ても、前年同期比3.8%減の187万台と、マイナス成長。業界の見通しでは、285万台とほぼ前年並の実績と見ているだけに、それと比較しても、市況はやや厳しい状況といえる。
だが、低迷する市場のなかでも、冷蔵庫は大きな転換期を迎えている。それは、大型化の進展が進んでいるということだ。
冷蔵庫市場におけるリーディングカンパニーの1社である三菱電機の調べによると、'97年には、400L以上の冷蔵庫の出荷構成比は25%と、全体の約4分の1だったものが、2006年には約36%と3分の1以上に達すると予測。さらに、来年度は4割近くまで達すると予想している。
経済産業省の生産動態統計調査でも、今年前半は400Lを超える大型冷蔵庫の売れ行きが好調で、三菱電機の予測通り、約4割が占めているという。
「食品の買い物が、1週間に1~2回という家庭が約3割に拡大しており、ほぼ毎日と回答した家庭は2001年の28%から18%に減少している。まとめ買いの増加は大容量ニーズ拡大に直結している」と三菱電機は分析する。
コンプレッサーの小型化や断熱材の改良といった技術進化によって、従来と同じサイズで大容量化できるようになった点も見逃せない。激しいシェア争いを繰り広げている冷蔵庫市場を左右するのは、400L以上の大容量分野だといってよさそうだ。
冷蔵庫業界は、10月から翌年9月までのいわゆる「冷凍年度」をサイクルとして動いている。年度始まりの10~12月に主力製品を投入し、1年間を戦う。ほぼ、出そろった2006-07年モデルを見渡すと、いよいよ大型化の流れが鮮明になった。
主要各社が軒並み500Lをオーバーする製品を投入してきたほか、400Lの製品群のラインアップを強化してきたのだ。
● ユニバーサルデザインを追求したナショナル
ナショナル(松下電器産業)では、10月から発売した「コンパクトBiG」シリーズにおいて、冷蔵庫の上半分を占める冷蔵室の底辺を9cm下げた「ローウエストライン」設計を採用。これにより、冷蔵室の容量を30L増量。その一方で野菜室は従来製品と同じ100L、冷凍室では4L拡大し、114Lとした。
「ローウエストラインの採用とともに、コンプレッサーを背面上部に設けるトップユニットの採用、構造底面の放熱器をボディ背面全体に移したコンパクトボトムシステムの採用、さらに、当社独自技術である厚さ2mmの真空断熱材『U-VacuaIV』によって、最上位のNR-F531Tでは、従来の450Lの設置サイズながら、525Lの大容量化を実現した」(同社)という。
ローウエストラインは、日本人女性の平均身長である157cmの利用者を想定し、冷蔵室からの出し入れ時に、肩や腕にかかっていた負担を軽減することを狙ったものだ。また、エルダー層向けに、高さ1,720mmの「ちょっと低め」の製品を用意したのも、今回の新たな試みである。
「これからの冷蔵庫では、基本機能や省エネに加えて、UD(ユニバーサルデザイン)が差別化のポイントになる。ここにこだわったのが今回の新製品。強い商品を投入できたといえる。年末商戦では、台数ベースで30%以上のシェアを目指す」(ナショナルアプライアンスマーケティング本部・高見和徳本部長)と語る。
● 多機能商品で巻き返し図る三菱
三菱電機は、野菜の鮮度を保つ「うまさ活菜」シリーズを投入した。
フレンチドアタイプを採用した、容積495Lの「MR-G50M」を筆頭に、400L以上のラインアップを強化。従来からの橙色LEDに加えて、新製品では青色LEDを新たに追加。これにより、光合成が起きるまでの時間を短縮。ビタミンを増やしたり、クロロフィルの活性化による保存効果などを実現した。
さらに、食品を載せたまま、最上段と下段の棚の高さを変えられる「空間上手 動くん棚」を新たに搭載することで、使い勝手を高めたのも今回の新製品の特徴となっている。
三菱電機リビング・デジタルメディア事業本部家電事業部・田代正登事業部長は、「昨年12月に発表したMR-W55Jは、545Lという大容量を実現した戦略的な製品だったが、月産2,000台の目標に対して、3倍もの台数が売れるヒット製品となった。冷蔵庫では、こうした付加価値を持ったW Class(ダブルクラス)の製品が売れる土壌ができ上がっている。大容量とともに、『ヘルシー』、『使いやすい』といった三菱電機ならではの良さを訴えていきたい」とする。
三菱電機では、上期に冷蔵庫事業が前年実績を下回っていただけに、年末商戦を柱とした下期での巻き返しに挑んでいる。
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物を載せたまま棚の高さを変えられる「動くん棚」
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野菜のビタミンを増やすLED
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三菱電機リビング・デジタルメディア事業本部家電事業部・田代正登事業部長
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● 400L以上で25%のシェアを狙う東芝
東芝は、「ツインでかでか冷蔵室 置けちゃうビッグ」シリーズを投入。「年末商戦では、400L以上の冷蔵庫市場において、25%のシェアを獲得する」(東芝コンシューママーケティング・小野聰社長)と、大容量市場におけるシェア獲得に向けて強気の姿勢を見せる。
同社では、500Lの両開きモデルを最上位として、400L以上の大容量モデルをラインアップ。大容量化の実現には、「C(コンパクト)-モジュールエンジン」の採用が大きく影響しているという。
C-モジュールエンジンでは、従来、冷蔵室と野菜室の背面にそれぞれ設置していた2つの冷却器を、野菜室の背面に並列配置。大きさを約30%削減することで、冷蔵室の容量をアップしたほか、コンパクトコンデンサーの採用やコンプレッサーのモジュール化、背面のコンプレッサーと容器の間にある断熱部の構造を見直すことにより、冷凍室の実使用容量を増大した。
また、脱臭および除菌効果を持つオゾンを冷蔵庫の冷気に含ませる「クール-プリファイヤー+O3エンジン」を開発。「E(エボリューション)-ツイン冷却」と組み合わせることで、食品の鮮度を高めることに成功した。
「イチゴなら約2週間、鮮度を保つことができるなど、新鮮な果物や野菜を食卓に並べることができる。また、冷蔵庫の買い替え年数とされる約12年間、手入れが不要という特徴もある。独自の高容積技術と鮮度保持技術により、収納性に富み、鮮度、清潔さ、使い勝手を向上させた業界トップクラスの大容量冷蔵室を実現した」(小野氏)という。
「冷蔵庫は、当社にとって、年末商戦の重点製品の1つ。うるおい冷気と湿度コントロールによって、長く鮮度を保てる点や、ラップを不要にする点をアピールしていく。また、タッチオープンという東芝ならではの使いやすさも特徴の1つとして訴えていきたい」としている。
年末商戦において、大容量冷蔵庫市場における存在感をさらに高めていきたい考えだ。
● 「愛情ホット庫」で独自路線を行くシャープ
シャープも、冷蔵庫市場でのシェア獲得に意欲的だ。
年末商戦向けには、マンションサイズながら大容量化を打ち出した「(冷⇔温)愛情ホット庫 SJ-HL」シリーズを主軸に展開する。
506Lを最上位に、401L、365Lをラインアップ。-17~60℃の範囲で温度を設定できる同社独自の「愛情ホット庫」を切り口に展開する。
他社が大容量冷蔵庫に力を注ぐなか、シャープの場合は、幅60cmのマンションサイズに、愛情ホット庫搭載機を広げるという戦略に打って出た。ユニットの小型化や、壁を薄くできる断熱材の採用によって、従来機の365L機とほぼ同じ設置面積ながらも401Lにまで容量を拡大。これにより、マンションサイズでも愛情ホット庫の搭載を可能とした。
従来機では、保温時に上から温風を吹きかける構造になっていたが、乾燥に弱いビタミンCの低減を回避するため、輻射熱を利用することで下からも温める「ハイブリッド・ヒーティングシステム」を新製品に採用。ファンの風量の削減や、水分減少量の半減。さらに、ビタミンCの損失を約40%低減するといった効果を実現した。
「愛情ホット庫に対する評価は、昨年以上に高いことを感じている。昨年は愛情ホット庫搭載製品の販売比率は約3割だったが、今年は、ラインアップを広げたこともあり、全体の7割程度にまで引き上げたい」(シャープ電化システム事業本部・庵 和孝事業本部長)と、戦略的機能の1つに位置づける。
愛情ホット庫については、「温めて保存するという機能は、食事の時間に家族全員が揃いにくいという、現在の生活パターンに合致したといえる。単に機能の良さを訴えるだけでなく、利用シーンに合致したことがヒットの要因」(庵氏)と自己分析する。
また、「愛情ホット庫の機能だけでなく、冷蔵庫としての基本機能がしっかりしているからこそ売れる。省エネ機能や、当社が得意とするマイナスイオンを利用した除菌・脱臭機能の『除菌イオン』を活用した保存機能の強化、価格やデサイン、フレンチドアやどっちもドアといった操作性とを、絶妙なバランスで提供できることがシャープの強み」とも語っている。
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食品を温めておける「愛情ホット庫」
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食品保温時の乾燥を大幅に防いだ
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シャープ電化システム事業本部・庵(いほり)和孝事業本部長
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● 「10年100L増説」をもとに、500L市場を狙う日立
日立は、最上位機種として、業界最大容量となる535Lを実現したR-SF54WMをフラッグシップとする、「たっぷりビッグ すみずみクール」シリーズを年末商戦向けの新製品として発売した。
独自開発の高流動性ウレタンの採用によって、複雑な造形にも対応。これにより、断熱材の量を削減し、壁の薄型化と同時に内部容量の拡大を実現した。
日立アプライアンス家電事業部長・石井吉太郎常務取締役は、「20年前の技術では300L、10年前の技術では400Lが限界だった容量を、今年の新製品では、500Lを超えるところにまで拡張できた。同じサイズながらもこれだけの容量を実現したのは、真空断熱材の進化や、ウレタンの進化、コンプレッサーの進化によるもの。冷蔵庫では10年ごとに技術革新が起こり、同じサイズで100Lずつ容積が増えている」として、「10年100L増」説を提唱。「今後、立ち上がるであろう500Lクラスの市場において、4割のシェアを獲得したい」とした。
また、冷凍食品の利用が増加していることを反映して、冷凍室を取り出しやすい中央部分に移動。一方で、野菜室を最下段とすることで、野菜やペットボトルといった重量のあるものを取り出しやすくし、利便性を高めた。
ツインドアタイプには、20度の角度まで閉まると自動的にドアが閉まる「かるピタドア」機能を採用。ドアを開けるのに必要な力を30%削減することにも成功している。
1932年に、国産技術による冷蔵庫を日本で初めて開発した日立。75周年モデルとして投入した国内最大容量を実現した同モデルが、大容量化へとシフトするなかで、どこまで日立のシェアを拡大することにつなげられるかが注目されるところだ。
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大容量を武器に、「500L競争」を仕掛けたい考えだ
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野菜室を一番下にレイアウト。重い野菜を取り出しやすくした
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日立アプライアンス家電事業部長・石井吉太郎常務取締役
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● 見通し不透明な三洋
一方、事業再建のなかにある三洋電機の冷蔵庫事業の行方も気になるところだ。
先ごろ、三洋電機は、冷蔵庫をはじめとする白物家電事業の再編を発表。国内営業部門を中心に、500~1,000人規模の人員削減を計画するなど、2005年度に204億円の営業赤字を計上した白物家電事業の建て直しに躍起だ。
同社の発表では、冷蔵庫分野において、中小型機の自社生産をやめ、海外メーカーからのOEM調達にシフト。一方で、中国・ハイアールとの提携効果が薄かったことを反省材料に、新たな事業体制を模索する。
現時点でも、年末商戦向けの冷蔵庫の新製品が発表されておらず、一定のシェアを確保していた三洋電機の冷蔵庫事業の行方は混沌としている。現在のところ、大容量のフラッグシップ製品の投入は見送られる公算が強いという。
はたして、今後、三洋電機が、冷蔵庫市場で、どんな手を打つのかが注目されるといえよう。
■URL
ナショナル(松下電器産業株式会社)
http://national.jp/
三菱電機株式会社
http://www.mitsubishielectric.co.jp/
東芝コンシューママーケティング株式会社
http://www.toshiba.co.jp/tcm/
日立アプライアンス株式会社
http://www.hitachi-ap.co.jp/
三洋電機株式会社
http://www.sanyo.co.jp/
関連情報
■URL
【8月31日】ナショナル、取り出しを楽にした冷蔵庫(PC)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0831/yajiuma.htm
【8月22日】三菱、青色LEDで野菜の保存効果をさらに高めた冷蔵庫(PC)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0822/yajiuma2.htm
【8月21日】東芝、オゾンで冷気を12年間浄化する冷蔵庫(PC)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0821/yajiuma.htm
【9月 4日】日立、クラス最高容量535Lの冷蔵庫(PC)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0904/yajiuma.htm
【新技術】シャープ 「愛情ホット庫搭載 冷蔵庫 SJ-HVシリーズ」(PC)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0724/kaden005.htm
■ 関連記事
・ シャープ、マンションサイズの「愛情ホット庫」搭載冷蔵庫(2006/10/02)
2006/10/25 00:08
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