エアコンの省エネ性能は限界、今後は“ソフト省エネ”がポイント

~三菱電機が技術説明会
写真は三菱電機のエアコン「霧ヶ峰」の2012年モデル「ZWシリーズ」。この内部にある冷熱技術や省エネ技術に関する記者説明会が行なわれた

 三菱電機は、エアコン内部の冷熱技術・省エネ技術に関する記者説明会を、8日に開催。ルームエアコンの省エネ技術は、圧縮機やインバーターなど各デバイスの効率は限界値に近づいており、今後は使用環境に応じて運転を制御する“ソフト省エネ”が重要になるとアピールした。


エアコンで部屋を涼しくしたり温めるキーデバイス「ヒートポンプ」って何?

 説明会ではまず、エアコン内部の冷熱技術である「ヒートポンプ」の解説が行なわれた。

 ヒートポンプとは、熱を温度の低いところから高いところへ移動する装置のこと。ヒートポンプの内部には「冷媒」という物質が封入されており、エアコンの場合、これを圧縮することで室温を上げたり、または膨張することで室温を下げている。投入する電力に対し、得られる熱のエネルギーが多いことから、省エネ性が高い点が特徴となる。

 ヒートポンプを使用した製品は、家庭用では、エアコン、冷蔵庫、除湿機、エコキュートなどがある。業務用ではコンビニエンスストアのショーケースでも使われている。特に温度を下げる製品に多く採用されており、暖房器具や給湯機器などでは、ガスなどほかの熱源を採用する機器が多いことから、マーケットシェアは少ないという。

ヒートポンプで室内空間を冷やす原理。冷媒の圧力を下げることで温度を低下させている暖房時は冷媒の流路を逆にすることで、部屋を温める。投入電力1に対し、6の熱エネルギーが得られる効率の良さが特徴となる
ヒートポンプを搭載した製品。生活家電では、エアコン、冷蔵庫、除湿機、エコキュートなどがあるヒートポンプの製品別マップ。シェアとしては冷やす用途の機器が多い。温めるのはガスなどで代替できるからだ

代替フロンに替わる次世代冷媒は?

 現在のエアコンの冷媒には、HFC(ハイドロフルオロカーボン)というものが使用されているという。HFC以前には、不燃性で化学的安定性が良好なフロンガスが冷媒として使用されていたが、1974年、アメリカのローランド博士により、フロンが大気中に放出されると、空の成層圏まで達し、オゾン層を破壊、有害紫外線が増加して人体に悪影響をする与えるというメカニズムが発表された。

 これを受け日本では、1988年にオゾン層保護法が制定され、代替物質として、オゾン層を破壊しないHFCなどの代替フロンが普及した。しかし、代替フロンは地球温暖化をもたらすという問題点があったため、1997年の京都議定書にて、HFCなど代替フロンの排出に関する規制が設けられた。

 国内のエアコン業界では現在、新冷媒への転換促進がテーマとなっており、CO2(二酸化炭素)のような自然冷媒など、次世代冷媒の探索が行なわれている。次世代冷媒の条件としては、毒性や可燃性リスクが少ない「安全性」、オゾン層の破壊係数がゼロでGWP(地球温暖化係数)が少ない「環境性」、冷房能力が従来と変わらない「性能」、コストが妥当な「経済性」の4点が挙げられているという。

ヒートポンプの冷媒としては、以前はフロンガスが採用されていた。しかしフロンガスは、オゾン層を破壊するというデメリットがあったフロンガスの後は、HFCなどの代替フロンが普及したが、これも地球温暖化をもたらすという問題があり、京都議定書によって排出量が規制されている現在、安全性・環境性・性能・経済性に優れた次世代冷媒が求められている
三菱電機 住環境研究開発センター 空調冷熱技術開発部 隅田嘉裕氏

 自然冷媒であるCO2冷媒は、現在エコキュートで実際に使用されている。CO2冷媒がエアコンで利用されていない理由について、三菱電機 住環境研究開発センター 空調冷熱技術開発部 隅田嘉裕氏は「(CO2冷媒は)高温が得られる機器に向いている。空調用の用途だと、効率が落ちる」と説明した。

 なお、家庭から廃棄されるエアコンや冷蔵庫の冷媒は、家電リサイクル法によって家電小売店から家電メーカーに機器ごと引き渡された後、メーカーによって回収される。

デバイスの省エネは限界、今後は使用環境に応じて省エネする「ソフト省エネ」を

 エアコンの省エネ性能については、圧縮機やインバーター、送風機や熱交換器といった要素デバイスの高性能化によって進化しているという。具体的には、三菱電機の2012年モデルのエアコン「霧ヶ峰 ZWシリーズ」は、2000年モデルのエアコンと比べて、約15%も暖房・冷房期間の消費電力量を抑えているという。

 しかし、隅田氏によると、「それぞれのデバイスの効率は90%以上に達しており、(省エネ性能は)ある程度限界に来ている」という。

圧縮機やインバーターなど、エアコンの要素デバイスは進化を遂げた。2012年の霧ヶ峰ZWシリーズでは、2000年モデルと比べて、冷房・暖房の期間消費電力量を約15%削減したという送風機や熱交換器についても、高性能化が進んでいる

 隅田氏は続けて、「新しい切り口での省エネ」として、使用環境に応じて運転を制御する“ソフト省エネ”が、今後は重要になるとアピールした。

 ソフト省エネの具体例としては、2012年モデルの霧ヶ峰に搭載されている「ハイブリッドシステム」を紹介。同システムは、三菱独自のセンサー技術「エコムーブアイ」が人の体感温度を見張って、冷房/暖房運転と、ヒートポンプを使用しない送風運転を自動的に切り替えるというもの。快適さを保ちながら、自動的に節電できるという。

 「ルームエアコンではDCモーターを使っており、普通の扇風機よりも効率的に送風できる。また天井付近についているため、暖房時には、天井に溜まった暖気をかき混ぜるのに適している」(隅田氏)

三菱電機の2012年モデルのエアコン「霧ヶ峰ZWシリーズ」で搭載されている「ハイブリッドシステム」。できるだけ送風のみの運転で、快適さを維持しつつ節電する機能だたとえば冷房時は、センサー「エコムーブアイ」が体感温度を見張り、冷房と送風運転を自動で切り替える
送風のみの場合は圧縮機を動かさないため、大幅な節電が可能になるという暖房時は天井付近に溜まった温かい空気を、人に風を当てないように循環する
今回の記者説明会のまとめ。今後は機器のデバイスの省エネよりも、使用環境に応じて節電する“ソフト省エネ”が重要になるという

 隅田氏は最後に「年間を通じての使用環境はユーザーによって異なる。ソフト省エネで、利用環境に応じた省エネ制御はますます大事になる。また、エアコン単体ではなく、家庭内の空調機器を含めたシステム全体での最適利用の技術開発も重要」と、今後のエアコンの省エネ技術の進化を予測。また、次世代冷媒が導入された場合には「冷媒の特性に応じた最適化が必要になる」と、現行の技術を見直す必要があることも明らかにした。







(正藤 慶一)

2012年8月9日 00:00