【CEATEC JAPAN 2011】
パナソニック大坪社長、「エコでスマートな暮らし」を提唱

~“このままでは今ある豊かな暮らしが立ち行かなくなる”
パナソニックの大坪文雄社長

 CEATEC JAPAN 2011の初日となる2011年10月4日、パナソニック・大坪文雄社長が基調講演に登壇。「エレクトロニクスがもたらす、新たな『くらし革命』」をテーマに講演した。


20世紀の生活スタイルを変えた電気製品。資源不足を防ぐため「Eco & Smart」の実現を

 大坪文雄社長は講演の冒頭で、「2009年のCEATECでも基調講演を行なったが、振り返ると、その時に語った当社の取り組みの方向性はまったく変わっていない。2年前は“Eco & Smart”というキーワードを使ったが、社会、政治、経済の変化は、その動きを加速させている」と前置きしながら、「日本では1960年頃から電気製品の普及がはじまり、多くの製品て世帯普及率が100%近くになっている。日本の一般的な一戸建て家庭には照明機器を含めて、100点ほどの電気製品がある。しかし、その一方で、この3月には電気が止まるという影響の大きさを身を持って感じた。電気は我々の生活に深く入り込み、生活スタイルや生活感を変えてきた」と、日本の電気製品の歴史を振り返った。

 大坪社長は、同社が1957年に新聞に掲載した広告で、電気製品の普及がいかに主婦の生活を変えることができるのか、といった提案を行なったことを紹介。「欧米では主婦が家事をする時間は4時間、自由な時間が9時間。それに対して、日本の都市部の主婦は家事に8時間、自由な時間は3時間しかなかった。日本の男性に、奥さんを重労働から解放しようと訴えた。それから数年後、創業者の松下幸之助は来日した旧ソビエト連邦の首脳に対して、あなたがたは人民を解放したが、僕は主婦を解放したと胸を張ったという。現在、主婦が家事に関わる時間は劇的に減少し、社会に出る女性も増え、20世紀は生活スタイルが大きく変化した。最近では男性も家事を引き受ける。私も掃除機をかけるのは得意だが、全国平均でみるとそれはまだ数分に留まっている」と、電気製品と生活の変化を、エピソードを交えながら示した。

電気製品の普及率の変遷パナソニックはかつて“主婦の家事労働からの解放”を新聞広告で提案した家事に関わる時間は大きく減少した

 しかし、電気製品が社会を変えた一方で、それを取り巻く環境として、資源不足の問題があるという。「このままいけば世界の人口は2050年には90億人に達し、アジアでは2億人だった中間層が16億人に増加し、人間による資源の消費量は爆発的に増えることになる。2007年の時点で人類が1年間に消費する資源は、地球が1年をかけて生み出す資源の1.5倍に達したという。46億年かけて地球が生み出してきた資源を猛烈な勢いで食いつぶしている状況にある。このままではいまある豊かなくらしは立ち行かなくなる」と指摘した。

 大坪社長は、これからの生活スタイルを「Eco & Smart」であるべきだと主張。「地球環境に配慮し、必要なものだけを賢く選ぶという消費行動にこそ、豊かさを見いだす考え方が必要だ。東日本大震災は、いまの社会が持続できないとどうなるのかという疑似体験を世界中に示す形になった。20世紀には、家電製品やIT機器は、世の中を便利で、快適で、安全なものに変えた。新たな時代においては、Ecoで、Smartな生活を牽引する役割を担うべきだと考えている」とした。

世界中の資源が枯渇しようとしているパナソニックが目指すのは「Eco & Smart」パナソニックが掲げる創業100周年ビジョン


“事業を展開すればするほど、環境に貢献するという姿を実現したい”

 大坪社長は続いて、パナソニックが実際に社会に対する取り組みについて話を進めた。

 創業者の松下幸之助氏が、「会社は社会の公器であり、社会に役に立たないならばその会社は潰すべき」という持論をもっていたことを紹介するとともに、モノづくりで社会の発展、豊かなくらしに貢献してきたことを示す一方、2018年の創業100周年に向けたビジョンとして「エレクトロニクスNo.1環境の環境革新企業」であること、すべの事業の機軸を環境に置き、人々のくらしを変える「Green Life Innovation」と、ビジネススタイルに変革を起こす「Green Business Innvation」に取り組むことで、「事業を展開すればするほど、環境に貢献するという姿を実現したい」などとした。

 Green Life Innovationの取り組みとしては、革新的な製品、技術、サービスによって、再生可能エネルギーの活用と省エネによりトータルでCO2を出さない暮らし、リサイクルができる循環型商品に囲まれた暮らし、電気自動車やハイブリッドカーが当たり前に普及している暮らしを生み出すことを目指す。

 しかし大坪社長は「エコを追求するために便利さや快適さを規制してはならない。また、これまでのように単品の商品での機能訴求では不十分であり、くらしにおける様々なシーンで総合的なソリューションを提案していくことが必要」とした。

Green Life Innovationでは世界中の人々に持続可能なくらし提案を行うGreen Business Innvationでは、究極の環境負荷低減を実践する


エナジー/スマートAV/セキュリティ/ヘルスケアの4部門でソリューション展開

 ソリューション提案については、「エナジーソリューション」、「スマートAV」、「セキュリティソリューション」、「ヘルスケア」の4つを取り組むという。

 エナジーソリューションでは、CO2排出量ゼロをを実現するために、創エネ、蓄エネ、省エネの3つの観点に加え、これらをマネジメントすることでエネルギー効率を追求するシステム「エネマネ」が重要であるとし、LED照明をはじめ、太陽光発電システム、家庭用燃料電池、蓄電システムなどに取り組むとした。

 LED照明について大坪社長は「まだ進化を遂げる製品であり、生活を変えていくことになる。“あかり文化”のさらなる進化に取り組む。また家庭用燃料電池は、ガス会社がエネファームの名称で展開している製品であり、今年4月から第2世代のものを出荷し、普及に弾みがつくことになる」などと語った。また、蓄電システムについては、今年7月にポータブル電源、8月に業務用蓄電システムを発売。「今後、容量や機能の異なるタイプを順次発売する」とした。

エナジーソリューションの中心的役割を果たす「SEG」。住宅内のネットワーク家電を一元管理するエネルギーマネジメントが、重要な鍵になるとする

 さらに、住宅内のネットワーク家電を一元管理する「SEG(スマート・エナジー・ゲートウェイ)」が、エナジーソリューションの中心的役割を果たし、家全体の電気使用量をテレビやスマートフォンに表示し、最適制御するエネルギーマネジメントを行なうことで、これまでにないくらし価値が提案できると語った。これらの取り組みとして、シンガポール・プンゴルのエコタウンでの実証実験が行なわれていることも紹介した。

 スマートAVでは「キーワードはつながる」と前置きし、「テレビはクラウドとの融合でさらに進化する。今年春から欧米で展開しているビエラ・コネクトは、クラウド型のテレビ向けインターネットサービスであり、これを今日(10月4日)から日本でもサービスを開始する」と語った。

 セキュリティソリューションにおいては、セキュリティカメラシステムを中心に紹介。顔検出技術、認証技術により、防犯性能を向上する一方、性別や年代、人数といった判定機能を活用することで、マーケティング用途にも展開できることを示した。

大坪社長が自ら体験したという洗髪ロボット

 ヘルスケアでは、院内業務支援、在宅ヘルスケア、早期診断・治療の3つの観点で取り組んでいることに触れ、「共通的なキーワードは『Affordable』。無理なく、手軽に、世界中のより多くの人々に手が届くヘルスケアを目指す」と語った。

 ここでは、家電や生産設備の開発で培った技術を応用して開発したという医療福祉ロボットについて、動画を交えて紹介。介護ベットの一部が車椅子に変化するロボティックベット、手で洗うような動きで髪を洗う「洗髪ロボット」が可能になる様子をみせた。

 大坪社長は、洗髪ロボットについて、2カ月前に自ら実験台になったという。「水浸しになることを覚悟で臨んだが、想像以上に気持ちよくて驚いた。一方で、実際に座ってみると、機械に頭を押されることは不安だということにも気がついた。今後の実用化に向けては、安全性はもちろん、心理的に怖さを感じさせない工夫も大切だ」とした。


「まるごと提案」で自動車や街全体もエコ&スマートに

 パナソニックでは、この4つのソリューションを組み合わせた「まるごと提案」を進めていることを示し、家、自動車という最小単位から、ビル、店舗、地域、街という空間全体での提案を進めていくと語った。

 自動車まるごと提案では、「e-コックピット」を開発しているという。「e-コックピットは、ディスプレイ技術とセンサー技術を組み合わせた次世代のコックピットであり、安心で安全な操作のサポート、エコで快適なドライブのための情報提供を行なう。自動車メーカーとともにコンセプト段階から積極的に関与していく」。

 また、街まるごと提案では、藤沢市と行なっている「藤沢サスティナブルスマートタウン」をビデオで紹介するとともに、中国・大連での大連ベストシティの取り組みを説明した。

 一方、Green Business Innvationは、「私たち自身の事業活動を変えていく取り組み」と定義し、「グリーンライフを提案しても、その実現に向けて、資源使い放題、環境負荷かけ放題では意味がない。開発からリサイクルに至るまでのすべてのビジネスプロセスにおいてCO2排出量の極小化や、廃棄物ゼロ化を進めている」と紹介。兵庫県加東市のパナソニックエコテクノロジーセンターにおいて冷蔵庫、洗濯機、テレビ、エアコンに関するリサイクル実績が過去11年間の累計台数で870万台に達したこと、この実績をもとに、来年には中国・杭州でもリサイクル工場を稼働させ、2015年には年間100万台の処理を目指すことを示した。

家まるごと、ビルまるごとのほか、工場まるごとの提案にも取り組む三洋電機、パナソニック電工を加えた新パナソニックグループとしての発展を宣言する大坪社長


生活者の視点として外していけない3つのポイント

三洋電機、パナソニック電工を加えた新パナソニックグループとしての発展を宣言する大坪社長

 大坪社長は講演の最後に「生活者の視点としてはずしてはいけないこと、重要になるポイントがいくつかある」として、「知らないうちに最適」、「自然に使いこなす」、「もしもの備え」という3つのポイントが、これからの“くらし革命”には不可欠な視点であると語った。

 「エコナビ(同社の家電製品に搭載されている省エネ機能)によって、生活パターンや生活スタイルをセンサーによって理解し、快適性を損なわずに勝手に省エネをするのがその事例。家庭内にある100点の電気製品を並行的に利用しながら、全体最適を実現できるSEGを使った電力制御もその1つだ。また、ユニバーサルデザインによる使いやすさの追求に加えて、機器を直感的に動かすことも求められており、その解決策としてジェスチャーコントロールや音声による操作も重要になる。人と機械の新しいインターフェイスに取り組んでいく。また、家まるごとになることで、停電でいきなり全部の機器が止まってしまうというリスクへの対応も重要になってくる。大規模なバックアップも大事だが、常に身近なレベルでの最低限の備えができるような提案を行なっていく」と語った。

 大坪社長は、「新パナソニックグループ」と表示されたスライドを見せながら、「世界は大きな転換期を迎えている。パナソニックも再び1から会社を作るというような気持ちを持って、20世紀に築き上げた姿を大きく変えていかなくては、社会のお役に立つことはできないと考えている。三洋電機、パナソニック電工と一緒になって、大きく事業を再編をするのは、その第1歩となる。パナソニックは、2012年1月から新体制でスタートする。グループの力を結集して、エコで、スマートなくらしに向けたソリューションを提案していくので期待してほしい」と締めくくった。






(大河原 克行)

2011年10月5日 13:33