藤本健のソーラーリポート
買取価格が42円→38円に値下げ。今、太陽光発電を始めるのは得か損か?
by 藤本 健(2013/4/30 00:00)
この4月から、太陽光発電の売電価格が値下げされた。従来は一律42円だったが、10kW未満の家庭用は1kWhあたり38円に、メガソーラーなどを含む10kW以上の事業用は37.8円に引き下げられた。
「値下げ」ということだけに着目すると、太陽光ブームもピークを過ぎたのでは……とも思ってしまうが、実際のところは、ここ1年でシステム価格が大きく下がったこともあり、需要はさらに拡大しているようだ。だが、売電価格が下がった今年度に、自宅屋根に太陽光発電システムを設置するのは、果たして得なのだろうか?
そこで、太陽光発電の業界団体である一般社団法人 太陽光発電協会(略称:JPEA)の事務局長、茅岡日佐雄氏に、売電価格が引き下げられた理由とそのプロセス、そして太陽光発電業界の現状についてうかがってみた。
買取価格はある程度の利潤が得られるように決められる
――まずは値下げの話の前に、買取価格を規定する「再生可能エネルギー固定価格買い取り制度」についてお伺いします。現在、太陽光で発電した電力は、この制度により、高い値段で電力会社に買い取ってもらえることになっています。これが生まれた背景などについて教えていただけますか?
この制度は、太陽光や風力など再生可能エネルギーを広めていくために作られたものであり、海外で導入されていたFIT(フィード・イン・タリフ=固定価格買い取り制度)を勉強した上で、日本にマッチした形で、2012年に作られました。
発電設備を作るには、イニシャルコスト、そしてランニングコストといろいろな経費がかかりますが、そういったものを勘案した上で、導入することが“ビジネスとして成り立つ”よう設計されています。
――“ビジネスとして成り立つ”というのは、どういう意味ですか?
例えば出力10kW以上の太陽光発電施設であれば、税込み37.8円の単価で、電力会社が全量買取をします。それが20年間、ずっとこの価格のまま、固定で行なわれます。
この単価算出の根拠としては、「内部利益率(IRR=Internal Rate of Return)」的な考え方をとっています。投資に対して毎年4%の利潤を得られるようにするとともに、最初の3年間はさらに配慮して、6%の利潤になるように設定されています。
一方で、出力10kW未満の住宅用では、基本的には10kW以上と同じ考え方ですが、ビジネスとして利潤を上げるというより、節電なども含めトータルとして「導入してよかった」と思っていただけるような設定になっています。
――確かに、住宅に太陽光システムを導入しても、大儲けできるというようなものではないですよね
住宅用では、“IRRが何%”ということではなく、あくまでも太陽光を普及させるための適切な買取価格を設定しています。もちろん、システムの導入にはそれなりの費用がかかりますが、それを補填する意味合いで、余剰電力を高く買い取るかたちになっているのです。
また住宅用の場合は、結果論かもしれませんが、導入をキッカケに節電に力を入れるケースが多く、太陽光発電で電力を供給することと合わせ、国内の電力使用量を減らす上で貢献しているようです。
買取価格は基本的に下がっていくもの
――買い取り価格を決めるプロセスはどうなっているのですか? 今回はどういう理由で42円→38円に値下げされたのでしょうか
これは、経済産業省の「調達価格等算定委員会」という会議で意見をまとめ、経済産業大臣に答申するという流れで決まっていきます。考え方は先ほどのとおりで、IRRに基づいています。その審議内容も公開されており、非常に透明性の高いものになっています。
ただ、2009年11月に住宅用の48円での買取価格を決めたときや、2011年4月からの42円を決めたときは、その流れは少し違っていました。というのも、決定に基づく法律が異なっていたからです。当時は「RPS法」という法律に則って決められていましたが、現在は昨年7月に施行された再生エネルギー特別措置法に則っています。
――住宅用の買取価格は、2009年11月の48円から、2011年には42円、そして2013年に38円と下がってきました。このうち42円は丸2年間と長く続きましたが、38円の時代も2年以上になるのですか?
42円が2年続いたのは、たまたまです。基本的には毎年度見直していくのですが、先ほどのとおり、前提となる法律が変わったので、改めて新しい制度に則って計算をしなおした結果、同じ42円になっただけのことなのです。その意味では、来年度の価格については、再度、算定委員会が意見をまとめていくことになります。
理論上は、38円が続いたり、上がることだってないわけではありませんが、システムの価格が安くなっているため、実質的には毎年少しずつ下がっていくことになると思います。
売電金額は減るが、導入価格が落ちている。昔も今も大きな損得はなし
――このように下がってきたことで気になるのが、一般の方の反応です。「以前に導入しておけば高かったけど、もう下がってしまったから、いまさら導入しても……」というように、導入を敬遠する人も少なくないのではないでしょうか?
まず、ご理解いただきたいのは、売電単価の設定は、調達コストとランニングコストを元にして算出しており、そこにおける利益率は変えていません。このことは住宅用においても同様ですから、基本的には昨年度も今年度も、そして来年度においても、損得に関しては変わりません。
確かに単価が下がる分、売電金額そのものは減るわけですが、導入価格がずっと安くなっていますからね。
このように買取価格の単価が下がってくる背景には、国内外の多くのメーカーが参入し、競争が起きていることが挙げられます。これは単にパネルの価格低下だけでなく、設置する架台の価格やパワコンの価格、さらには工賃なども一様に下がってきています。
ちなみに、現在の10kW以上の規模でのシステム導入費用のうち、パネルの比率は50%を切っています。住宅においても50%ちょっとですから、パネル製造メーカーだけでなく、みなさんいろいろな知恵を出し合って、低価格化を図っているわけです。
また、産業用においては、爆発的な伸びを示しており、いま注文しても年末までに設置できるかどうか……といった状況のようです。住宅用とは事情は違うかもしれませんが、単価が下がったからといって、需要が下がるということはなさそうです。
日本は住宅向け太陽光発電で“世界一”。導入例が増えるほど補助金も減る
――その住宅用ですが、これまで国内での設置件数は、どのくらいになっていますか
2012年4月時点で、100万軒の設置となりました。またわれわれJPEAでは補助金の申請受付、交付という事務も行なっているのですが、2012年度の受付件数は33万件となっており、今年度は36万件を超える申請があるだろうと予測しております。この受付と実際の設置にはタイムラグがあるので、現時点で130万軒に至っているかどうかはわかりませんが、少なくとも120万軒は超えていると思います。
――なるほど120万軒もあるのですね。これは全体の何%程度になっているのでしょうか
日本全体の一戸建て住宅の軒数は2,600万軒といわれているので、130万軒だと約5%になります。国によって住宅の定義が変わるため単純比較はしにくいですが、これは住宅用としては世界一になる数値です。
――5%というのは、なかなか大きな数字のようにも思いますが、その設置数をどのくらいにしていくという目標はありますか?
経産省が出している数字として、2020年までに530万棟というものがあります。JPEAとしてもこれを目標に進めているところです。またJPEAとしては、2030年に1,200万棟という目標も作っています。その意味では、まだまだ広がる余地は大きく、普及啓発をしていく必要があると考えております。
――住宅に設置を考えている人にとっては、買取価格とともに、補助金というのも重要な要素だと思います。今年度は買取価格とともに補助金もかなり下がり、1kWあたり20,000円、または15,000円となっていますが、これは今後どうなりそうですか?
補助金は、導入コストの負担を軽減するために用意された制度です。しかし、導入コストそのものが安くなってきているため、果たすべき役割も少なくなってきたと考えており、補助金自体の交付も今年が最後になると思われます。少額になったとはいえ、補助金が廃止されたわけではないため、導入するのであれば今年は少し有利なのではないかと思いますよ。
国内外のソーラーメーカーが日本に集合。電力自由化後の売電の仕組みはどうなる?
――業界全体の話について伺います。先日、PV JapanやPV EXPOなど、太陽光発電システムのイベントを見学してきましたが、こんなに多くのメーカーが参入しているのかと驚きました。一昔前はシャープ、京セラ、三洋電機、三菱電機の4社でほとんどを占めていたのに、今は海外メーカーを入れて膨大です。競争もかなり激しくなり、だからこそ価格が下がってきたのだと思いますが、果たしてみなさん生き残っていけるのでしょうか?
ここは市場原理の働く世界ですから、私どもからどうこういう立場にはありません。またJPEAは国内メーカーだけでなく、多くの海外メーカーも入り、いっしょに日本の市場を盛り上げていこうというところでもあります。
ただ、やはりメーカーによって得意・不得意というのはあるようです。たとえば住宅用というのは、設置が非常に難しいのも事実です。日本の住宅の屋根の形状は多種多様・複雑怪奇であり、それぞれに合った形の部材を使い、それに合った工法で工事をしていく必要があります。やはり、こうした事情に対し、海外メーカーがそこまでフォローしていくのは難しいようです。また、台風や地震など日本特有の事情もありますから、やはり長年のノウハウを持つ日本メーカーが強いようですね。
一方、メガソーラーなどは、コストが最重要視されるので、海外メーカーにも大きなチャンスがあるようです。ただ聞くところによれば、20年間の安心・安全という観点、ファイナンスの観点から、日本メーカーを指定するケースも多いそうです。
とはいえ、先ほどお伝えしたとおり、需要が大きく、供給が追い付いていないのが実情ですから、新規参入のメーカーが攻めていく余地は大きいのではないでしょうか。
――買い取り期間が過ぎた後はどうなるでしょうか。再生可能エネルギーの全量買取制度では、早く導入すればより高い金額で買い取ってもらうことが可能で、しかもその後、住宅用であれば10年間、産業用であれば20年間、ずっと同じ単価で買い取ってもらえるわけです。ですが、例えば2009年11月に48円が適用された人は、あと6年経つと、有効期限切れを迎えます。その後はどうなるのでしょうか。2009年以前のように、買電単価と売電単価が同じということになるのでしょうか
いくらになるというのは分からないし、買っている単価と同じになるかというのも、何ともいえません。住宅用であれば10年間、非住宅用なら20年間を経過した後の買取価格は、その期間が終わる前に電力会社と相談すること、となっています。少なくとも、自家消費分に関しては買う単価と等価となるわけですからね。
ただ、その10年、20年という期間が過ぎた後は、おそらく現在とは事情が大きく変わってくると思います。というのは、近い将来、電力の自由化が行なわれるからです(編集部注:政府は4月、2016年を目処とした電力自由化を閣議決定した)。
たとえば関東に住んでいる人の場合、必ずしも東京電力に売るだけでなく、新電力会社に売るという選択肢も出てくるはずです。また極端な話をすれば、隣の家に売ってもいいかもしれないのですから。
再エネ賦課金は「極端な負担」にならない程度。ドイツのようにはならない
――もう1つ気になっているのは、太陽光発電を高く買い取ってもらう原資を電力会社が出しているのではなく、電力を使っている人たちすべてが、サーチャージ(加算金)の形で負担しているということです。現在電力会社からくる伝票を見ると「再エネ発電賦課金等」という項目があり、私の家の4月の伝票では65円を払っています。これについて不満の声が出ていたりしませんか?
サーチャージについては、みなさんに公平に負担してもらっているので、丁寧に再生可能エネルギーの重要性を説明していくしかありません。法律では「極端な負担にならないように」というのは書かれているので、それほど大きな金額にはならないはずですが……。
このサーチャージでよく議論になるのが、ドイツでの事例です。ドイツでは、サーチャージ額があまりにも高くなってしまったため、買取価格を下げたというのに、日本は高いままであると。
ですが、現在の金額を単純比較すればいいというものではないと思います。ドイツは10年近くFIT制度を取ってきた結果のことであり、日本はまだ1年も経っていません。当然、ドイツという見本があるので、その事例を見つつ、失敗しないようにするにはどうすればいいかを、日本の役所もしっかりと考えているはずです。