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そこが知りたい家電の新技術 東芝「真空圧力炊き RC-10VGB」
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~米どころのこだわりが産んだ“真空”炊飯器の3代目を見る
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Reported by
林 佑樹
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東芝ホームテクノ株式会社
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米は日本の主食であり、長く食文化の中心にあった。またこれから先も日本人である以上、お米をたくさん食べるべき、朝からパンはダメ!絶対 というのが農家生まれで苗作りから収穫までマスターした筆者の持論だ。またお米のおいしさは生産工程だけでなく「炊飯」も重要。稲作と炊飯が融合してこそ、真のおいしいご飯が生まれると考えている。
炊飯器はすっかり圧力IHがメジャーになった。ふっくらと炊きあがり、ご飯がとてもおいしくいただける。また、高級炊飯器そのものも一種のブームで、純銅釜を採用した三洋電機「匠純銅 おどり炊き」、火力の限界に挑戦したナショナル「大火力竈釜」、土鍋でかまどを再現したタイガー魔法瓶「土鍋IH炊飯ジャー 炊きたて」など、個性的なアプローチが加速している。
そんななか、東芝が2006年に送り出した「真空圧力炊き RC-10VGB」は、これまでにない炊飯器として注目を集めた。東芝は「真空による減圧」を取り入れ、その技術を熟成。いまだ他メーカーの追従を許さない機構となっているのだ。2006年9月5日の記事でも、真空機構について紹介されているが、今回はさらに掘り下げて、どう進化してきたのか、「味」を決めるプログラムが生まれた背景などを探っていこう。
もちろん、取材先は3年前と同じく米どころ新潟に事務所を構える東芝ホームテクノ株式会社である。田園に囲まれた社屋には工場が隣接しており、おいしい米が生まれる場所でおいしく炊ける炊飯器が生み出されているのだ。
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振り返ると田園が広がっていた
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さすが米どころ。粒揃いで脱穀しなくてもおいしそう
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● 2台のポンプを搭載したRC-10VGB
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真空圧力炊き RC-10VGB
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まずはなぜ「真空」にする必要があるのかを説明しよう。我々が生活するいわゆる平地は1気圧で、高度が上昇していくごとに気圧は低下していく。富士山頂へ持って行ったポテトチップスの袋がパンパンに膨らみ、袋が膨らんでいる絵を見たことはないだろうか。この現象は、気圧が低下することで、内圧と外圧の差が生じて空気が外へ抜けだそうとするのが原因。これをお米に置き換えると、気圧の低下でお米のなかの空気が外へ抜けだし、お米はスポンジのようになる。そのとき、周辺に水が満ちていると……効率よく米が水を吸収することができるというわけだ。
「真空」にするメリットは、吸水だけでなく、炊きあがり後にもある。炊きあがり直後に減圧することで余分な蒸気を飛ばし、水分のムラを押さえるのだ。この行程は炊きあがりのあとにしゃもじを入れることと同様で、ご飯が固まることも押さえることができる。真空パックで保存した生鮮品が長持ちするように、また保温時に空気を抜くことで酸化やごはんの乾燥、黄ばみ、ニオイを抑制。炊きたてのような状態をキープしてくれる仕組みも持つ。
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経営企画部ブランド推進担当主任・依田氏
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では3代目となったRC-10VGBはどのように進化したのだろうか。なぜ真空ポンプを2つにする必要があったのだろうか。経営企画部ブランド推進担当主任・依田氏は語る。
「3年目で真空をどの方向に進化させていくか。真空ポンプは1個でもいいのですが、2個あればより減圧できるし、いままでに以上に早く真空にできる。1個のときよりもできることが増えた点もダブルにする意味はあったと考えています」(依田氏)
従来機種は真空ポンプ1個なのに対して、RC-10VGBは真空ポンプを2個搭載し、減圧能力を高めている。また気圧は0.6から0.55となり、よりお米の吸水率が上昇した。よりお米の中の空気が外へ出て行くことになり、結果として芯まで均等に吸水されるのだ。
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正面から見て奥にある2個の円柱形の物体が真空ポンプ
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そもそもなぜ「真空」にする必要があったのだろうか。編集I氏だけでなく、筆者も閃きのきっかけが気になっていた。
「真空パックに代表されるように、保存に真空が適しているのはよく知られています。だけど炊飯にどう使っていいものか最初は迷いました。他のメーカーさんとの火力競争があって、どこのが一番火が強くて早く炊けるか、というものが。そこで真空を使って水のほうをなんとかできるか、ということからですね」(依田氏)
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技術センター家電技術部調理技術グループ主任・杉崎氏
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たしかに、内釜の素材にスポットが当たっていた当時の状況からすれば、トレンドから外れた「暴挙」に近いものだ。では開発開始当時の真空ポンプはどれくらいの大きさだったのだろうか。にこやかに語ってくれたのは、技術センター家電技術部調理技術グループ主任・杉崎氏だ。真空ポンプの開発の中心的人物である。
「一番最初のポンプの大きさはお弁当箱クラスでしたね。そこから小型化していって、初代に搭載されるまで2年かかりました。」(杉崎氏)
RC-10VGBではおよそ単一形乾電池ほどのサイズにまで小型化されている。
「1個より2個のほうがパワーが高いので、2個が入れるよう小さくするのに苦労しました。当然、蒸気が入ってくるので、耐久性を考慮して部品を選ぶのが一番苦労しました。市販のポンプから自社の専用部品に変えるために開発が2年かかってますね。かなり過酷な条件をクリアしています」(杉崎氏)
ポンプにとって炊飯器は、高温多湿という劣悪な環境だ。旨さを引き出すためとはいえ、作りの悪いポンプではすぐに問題が生じてしまう。2個の真空ポンプにした理由は、おいしくなるだけ以外にも、負荷分散という意味もあるのだ。小型化の他にもクリアすべき課題はあった。
「技術面では苦労しませんでした、むしろ2個を入れるスペースが問題でした。内容的にもそうなんですけど、外見的に魅せるということにも力を入れています。あと、これ光るんですよ」(杉崎氏)
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ぎっしりと機構がつまっている
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光る部分は真空ポンプの両隣にある。正面から見た場合はあまり気にならない
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真空ポンプはフタの内部に2個あり、想像しやすいと思うがスペースはない。写真を見ても、プロセッサーユニットだけでなく、蒸気を排出する機構などところ狭しとギミックが並んでいるのがよくわかる。スペースが問題だったといいながらも、外見にもこだわり青色LEDによるライティングを搭載するところに、職人の技を感じる。
またユーザーが使いやすいようにするための改善も行なわれており、炊飯のキモとなる内釜も大きく進化している。まずは重量。初代の釜は1,300gで、ご年配の方から重いという意見が多かったという。そこで、強磁性ボロン合金とステンレスを採用し、重量800gにまで軽量化を行なった。発熱体がふたつになったことで、内釜の発熱性は約38%上昇。さらに内側にはダイヤモンドチタンコート、外側には銀コート、いずれも熱伝導率の高い素材でコーティングして熱対流の効率を高めたのだ。
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RC-10VGBの釜
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左が三代目、右が初代の釜。外側の大きな違いは釜の下部である
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三代目は釜底に凹凸がある。加熱をスムーズに行なうための処理だ
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内側を見てみると、内側には「ダブル剛熱リング」が新たに追加されている
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RC-10VGBの釜底には波状の処理がなされており、熱対流の効率性を高めているという
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● 東芝炊飯器の味はひとりの女性が作り出した
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技術センター家電技術部調理技術グループ主任・斎藤氏
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あまり各メーカーの炊飯器を持ち寄り「食べ比べ」をする機会はない。お隣さんや親戚の家でご飯をいただくときに「味が違うなぁ」とわかるくらいで、プレミア炊飯器すべてを並べてというシーンを体験した人はいないのではないだろうか。実際のところメーカーごとで味は香りや硬さなど、微妙に異なっている。東芝の場合はどう意識しているのだろうか。東芝の味について語ってくれたのは、技術センター家電技術部調理技術グループ主任・斎藤氏。炊飯プログラムを開発した人物だ。
「硬さと粘りのバランスがよく、ほんのり甘みがあり、のど越しがよくなるようにプログラムしました」(斎藤氏)
味はデータにはしにくいもので、香りの値などが同じであっても「舌」は異なる結果を示す。まだまだ解明されていない分野だが、ベストな味へのプロセスはどんなものだったのだろうか。
「白米だけを食べます。1日に何度も(苦笑)。たとえるなら修行ですね。基本は普通の炊飯器とそれほど違わないんですけれども、圧力をかけると粘りが出て、かけすぎるとぐちゃっとしてしまう。真空と圧力と加熱のバランスを考えて、最後の炊き上がりのときに合わせるのがとても大変でした。自分の舌が頼りなので、客観的な意見が欲しくなりましたね。本当に微妙なことなので大変でした」(斎藤氏)
味とは見えないもの。それでも客観視した味を得るために、斎藤氏は食味鑑定士の資格を得た。また味を求めるあまり寝込んでしまうこともあった。
客観的な味を得るためには、まず平均的なところも押さえなくてはならない。東芝が基点にした味とは、どんなものだろうか。
「硬さと粘りのバランスが良く、ほんのり甘みがあり、のどごしがよいご飯ですね。こうしたご飯は冷めてもおいしいんです。そうですね、コンビニのおにぎりを想像していただければわかりやすいでしょうか」(斎藤氏)
言われてみれば、コンビニのおにぎりは意外と形が整っているし、硬すぎず柔らかすぎずとバランスがいいし、味も変でもなく、けっこうおいしい。おいしいご飯を目指し、コンビニのおにぎりなどを基点しつつ、何度も何度も修行ながらに白米を食べていき、その積み重ねで味が決定づけられたのだが、すべてひとりで試験したのだろうか。
「一応の見当は自分でつけて、最後にみなさんにチェックしてもらうという感じですね。複数の人がプログラムして、その味のなかから選ぶよりも、効率的ですし。チェック項目としては、外観、ツヤ、色、香り、固さ、粘り、甘みなどがありますね。でも最終的には複数の人間が、外観、ツヤ、硬さ、粘りなど総合評価を行ないます」(斎藤氏)
そのプログラムを図で見てみると加圧では1.4気圧、減圧では0.55気圧まで可変し、予約段階から0.55気圧⇔1気圧を繰り返す。長く水につけすぎてお米がふやけてしまうのを防ぎつつ、減圧によってお米の芯まで水を吸わせているのだ。加熱時には圧力を高め、小刻みに圧力を変更して芯まで加熱。その後、蒸らし、ほぐしとなって、保温時は0.55気圧で長時間の保存を実現した。ちなみに保温時間はなんと40時間。もちろん、黄ばみなどなく白いご飯のままである。
筆者が注目したところは、浸しの部分。この段階から加熱している場合、表面が溶けやすくなり結果としてお米の味を損なってしまう。冷蔵庫で冷やしつつ浸すケースもあるが、炊飯の全行程をフォローするため、東芝は低温での浸しにこだわった。またお米を長時間浸しておくことも味を損なう要因だが、ふたつの真空ポンプによって長時間の浸しもできるようにもなったのだ。
ここまでのこだわりだが、さらにまだポイントはあるのだろうか。およそRC-10VGBがすべてフォローしてくれるのでないように思えるが「タコ足」厳禁と依田氏が教えてくれた。タコ足であっても電圧は100Vで安定するが、それは接続している家電ひとつだけが全力運転のときだけで、複数の家電が運転している場合は別。95~100Vの間をうろうろしてしまう可能性がある。そのため、可能な限りコンセントに直接つけてほしいとのことだ。
● 食べ比べてわかる異なるおいしさ
依田氏、杉崎氏、斎藤氏への取材も終わろうとしたとき、RC-10VGBとRC-10NMDが運ばれてきた。実際に味の違いを知ってもらいたいというのだ。お米はコシヒカリで、研ぎなどの工程はすべて試験評価の際と同じ手順で行なったものという。
とても手慣れた手つきというか、日常的な動作でサクサクと盛りつけていく斎藤氏がとてもかっこよい印象だ。驚いたのは味を確認する際はしゃもじでまぜないところ。これはムラなどを調べるためで、お皿には「基準」といった目印があった。
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右が「RC-10VGB」、左が「RC-10NMD」
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お皿には5つの目印があり、釜のどの位置にあるお米かを示すためのものだという
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実際に食べてみての感想は、編集I氏の意見も合わせると以下のようになる。
・「RC-10VGB」
外側はしっかりしてるけど中はもっちりとしている。ご飯だけで食事が済みそうなおいしさ。
・「RC-10NMD」
ちょっとべちょべちょしてるが、普通においしい。ただ比べると「RC-10VGB」のほうがやっぱりおいしく感じるような。
どちらもおいしいというジャッジを下してしまったのは、お米自体の美味さもあるが、ローエンドの炊飯器であってもしっかりと炊飯している証拠だと思う。クリティカルに違う点は、やはりお米の外見で写真でもわかる通り、「RC-10NMD」は底のほうがややべっちょりしているが、「RC-10VGB」は場所を問わず形が整っている。
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「RC-10VGB」の場合、全体的にお米の形が整っている
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「RC-10NMD」は釜底の米がぐちょぐちょしている。「RC-10VGB」の差はわずかに思えるが、その差が味の違いとなるのだ
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入社当時からずっと炊飯器を作りづけてきた斎藤氏と杉崎氏。これからもおいしくいただける炊飯器を期待したい
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微妙なプロセスの違いで、味は変わる。そこを機械で、どうやってアプローチしていくのかが楽しいのだろう。杉崎氏と斎藤氏が発するオーラは楽しくて仕方がないといったものだった。段階を踏んで進化していく「真空圧力炊き」。さらにポンプを小型化させて3つ4つと増やしていくのか、真空ポンプはふたつのまま火力面をパワーアップさせるのか。近年、いい意味でとがった家電の多い東芝の家電らしく、今後もステキな利便性の高い家電を期待してしまう。最後に依田氏のいう東芝のスタンスを記しておきたい。
「究極、というのはあってないようなもの。やはりお客様に喜んでいただければと思います」(依田氏)
■URL
東芝ホームテクノ株式会社
http://www.toshiba.co.jp/tht/index_j2.htm
東芝ホームアプライアンス株式会社
http://www.toshiba.co.jp/index_j3.htm
製品情報
http://www.toshiba.co.jp/living/rice_cookers/pickup/rc-1018vgb.htm
炊飯器関連記事リンク集
http://kaden.watch.impress.co.jp/static/link/rice.htm
■ 関連記事
・ 東芝、2つの真空ポンプでおいしさをアップした高級炊飯器(2008/07/08)
2008/12/04 00:03
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