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デザイナー秋田道夫氏と巡る「国際文具・紙製品展」
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Reported by
今西 絢美 / 編集部
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会場の東京ビッグサイト前。秋田道夫氏によるガイドで『第19回国際文具・紙製品展』を巡った
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文具の祭典、「国際文具・紙製品展」が今年も東京ビッグサイトで開催された。アジア最大級の規模を誇り、今回は世界20カ国から過去最多の600社が出展した。一般の人にあまりなじみのないイベントだが、それもそのはず。このイベントは、「仕入れ/注文」の場であり、入場が雑貨店や文房具店などの小売店事業者に限られているためだ。
せっかく「プロの買い付け人」が集まる場に潜入できるのだから、ここはシロウト目線によるレポートではなく、プロの目線でレポートしたいと思い、プロダクトデザイナー・秋田道夫氏に今回の展示会のガイド役を務めていただいた。
秋田氏はケンウッド、ソニーのインハウスデザイナーを経て独立、70年代後半から第一線で活躍し続けているプロダクトデザイナーだ。彼のデザインによる主な製品として、デバイスタイルのワインセラーやサーモマグコーヒーメーカー、ドウシシャのMAシリーズ、六本木ヒルズ森タワーのオフィスエントランスにあるセキュリティゲート、関西の人には馴染み深い、ICOCAの入金専用機などがある。秋田氏の名前は知らなくとも、これらの製品ならば知っている、という人も多いことだろう。
実は今回の取材、本当のお目当ては併催されている「デザイン雑貨展」の方であった。しかし、家電製品自体の出品数が少なく、秋田氏のお眼鏡にかなうものがない。そこで急遽、「文具の方が面白いよ」ということで、ターゲットを変更することにした。
● 機能をデザインした印鑑ホルダー
秋田氏のイチオシはシャチハタの「ワンタッチ式印鑑ホルダー ハンコ・ベンリ」。手持ちの印鑑をホルダーに入れるだけで、朱肉をつける手間なく、キレイに捺印できる印鑑ホルダーだ。いちいち印鑑に朱肉をつけるのが面倒だという人にとって、非常にありがたい。もちろん、フタ部分にはロック機能が付いているので、持ち運びにも便利。印鑑の向きの調節も、上部の回転ネジを指で回すだけでいいので手が汚れない。また、インクカートリッジも交換して繰り返し使えるので、お財布にも優しい。
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『ワンタッチ式印鑑ホルダー ハンコ・ベンリ』。カラーも豊富
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普通のシャチハタ印と同じように使える。朱肉をつける手間がいらないので便利
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「形をデザインするというよりも、朱肉なしで三文判を押す、という行為、機能をデザインしているところがイイ!」という理由でこれに注目されたという秋田氏。「捨てることを考えるのではなく、継続的に使えるというのはとても重要」というお眼鏡に叶った文具だ。
アイテム名:シャチハタ「ワンタッチ式印鑑ホルダー ハンコ・ベンリ」
本体カラー:全9色
標準小売価格:525円(発売中)
● 発想が素晴らしいスタンプ台
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このスタンプ台の良さを解説してもらった。たくさん並ぶ姿はスタンプ台に見えない
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もう1つシャチハタで秋田氏が注目したのが「シャチハタ スタンプ台」。深澤直人氏がデザインしたことで知られるこのスタンプ台、我々にはただシンプルなデザインにしか見えないのだが、そうではないという。
「さすが深澤さんですね。シンプルだけどよく考えてますよ。普通のスタンプ台って、フタのほうが大きくて、台のほうが小さいでしょ。台の部分をフタが覆い隠しているんです。でもシャチハタのスタンプ台はそれとは逆。台のほうが大きくなっています。こうすることで安定感を得られ、片手でフタを開けようとしたときに間違えて手を汚すこともない。手に取ったときに、自然と台座の方を手に取るようにデザインしている。目立たないようだけど、実はユーザーの立場に立って考えられているんです。こういうの、なかなか難しいんですよ」。
確かに言われてみればその通り! フタの台の大きさなんて、インクが乾かなければいいと思っていた筆者にすれば、まさに目からウロコだった。
アイテム名:シャチハタ スタンプ台
インキカラー:全6種(別注色としてほか4色)
標準小売価格:682~2,520円(発売中)
● 頭を柔らかくすれば面白い文具が生まれる
「ここは見ておいたほうがいい」。そう言って秋田氏が連れて行ってくれたのがメタフィスのブースだ。メタフィスはプロダクトデザイナーの村田智明氏が率いるブランドだ。これまでは家電製品や雑貨が中心だったが、文具も新たに手がけている。製造パートナーは、糊で有名な不易糊工業。多くの人が小学生の頃に使っていたであろう、あの黄色い入れ物のフエキ糊を作っている会社と、デザイナーが手を組んで、新たな文具を提案しているのは新鮮だ。
秋田氏が最初に目をつけたのが「ヴィス・消しゴム」。これはネジの形をした消しゴムで、面と線で消すようになっている。消しゴムを使うと「常に角で消したい」と思うことがあるだろう。そんな希望を形にしたのがこの消しゴムだ。この手の製品では、コクヨが「カドケシ」を発売しているが、やはり角は使ってしまうと丸くなる。この「ヴィス・消しゴム」だと、常に線が表れるので、いつでも角で消しているような使い心地が得られる。デザイナーや図面を書く人など、図形を書く仕事をしている人にとってありがたい設計だ。
<製品情報>
アイテム名:メタフィス ヴィス・消しゴム
カラー:全3色
参考価格:315円(2008年8月発売予定)
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全3色のカラーバリエーション。細長いのでペンケースにも収まりやすい
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面でも線でも消せるので、いろんな使い方が可能
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『ソウ・電子計算機』の閉じたところ。一見すると電卓には思えないスタイリッシュさ
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『ベーグル・テープメジャー』は全3色。とてもコンパクトで、真ん中に穴が空いている。紐を通せば引っ掛けておける
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メタフィスで秋田氏が「しまわれ姿がとてもイイ」と誉めていたのが「ソウ・電子計算機」。無駄のないフォルムには品がある。ほかにもベーグルのような形をした「ベーグル・テープメジャー」や、ボードゲーム好きなデザイナーによってデザインされたという○×の形をした「クアーレ・マグネットセット」など、遊び心に溢れているにも関わらず、無駄なものは一切ない文具が目立っていた。
「知性を形にしているのがとてもよく伝わるのがメタフィスのいいところ。どの要素を加えて、どの要素を落とすのか、そこがプロダクトデザインのキモなんだけど、極限まで考えて、そして抑制しているのを感じるね」と、メタフィスはかなりお気に入りのようだ。
アイテム名:メタフィス ソウ・電子計算機
参考価格:3,990円(2008年秋発売予定)
アイテム名:ベーグル・テープメジャー
参考価格:1,260円(2008年秋発売予定)
アイテム名:クアーレ・マグネットセット
参考価格:1,260円(2008年8月発売予定)
● 複合ペンがブーム!?
文房具を見て回っていて、秋田氏が一言、「複合ペンの流行がキテるんですよ。知ってました?」。「『ほぼ日手帳』が流行っているでしょ。あれをきっかけに、複合ペンを使う人が多くなった」というのが流行の理由だそう。「なるほどー」と言いながら、メモをとっている筆者の手には4色複合ペン。しかも普段使っている手帳はしっかりほぼ日手帳だった。
トンボ鉛筆の『リポーター4コンパクト』はコンパクトサイズが売りの4色ボールペン。通常のボールペンでは胸ポケットに入れた際、ポケットからはみ出し、はみ出た部分を引っ掛けてペンを落としていまいがち。しかし、『リポーター4コンパクト』は全長11.7cmで胸ポケットにすんなり収まるサイズ。
今までミニサイズの文房具は使いにくいと思っていた筆者なのだが、このマルチペンは実に持ちやすかった!秋田氏も「このペンは小さいけど持ちやすくていいね」とお気に入りのご様子。ちなみに9月からは新たに7色のカラーが加わり、全部で12色になる。服に合わせてボールペンをコーディネイトするのもアリかもしれない。
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9月に発売するカラーも含めると全部で12色。男性なら渋い色を選ぶと、スーツのポケットに入れても違和感がない
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このようにポケットに入れられる。女性の服の浅いポケットでも安心
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トンボ鉛筆の商品企画部デザイナーの井関さんと秋田氏
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ゼブラで9月から発売されるのが「クリップ・オン マルチ」。1本に4色の油性ボールペンとシャープペンシルが内蔵されている。クリップ部分は厚いものを挟むために、折れにくく丈夫な可動式バインダークリップを採用。頭部には消しゴムも内蔵されているので、本当にこれ1本ですべてが事足りる。本体カラーも元気の出るビビッドカラーが5色揃っているのがウレシイ。
アイテム名:ゼブラ クリップ・オン マルチ
本体カラー:全5色
標準小売価格:525円(発売中)
● 極細ボディで美しいボールペン
トンボ鉛筆で注目したいのが「Design Collection」シリーズ。ユニークなデザインと機能をコンセプトにしたラインだ。特に秋田氏オススメは「ZOOM 707/707 de Luxe」で、「ミニマル中のミニマル!」と絶賛。無駄のないそのデザインは、“削ぎ落とすデザイン”を心がけている秋田氏のコンセプトに通じるものがある。実際にペンを持ってみると、極細ボディにも関わらずしっかりとバランスを取りやすく、iF賞をはじめ、3つの国際デザイン賞を受賞してのも納得だ。
複合ペン同様、手帳にぴったりなコンパクトサイズ『ZOOM 717』もあり、”コンパクトで使いやすい”というのは文具においてかなり重要なポイントになってきているようだ。
アイテム名:トンボ鉛筆 ZOOM 707/707 de Luex
本体カラー:全3色
標準小売価格:2,000円/2,500円(発売中)
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たくさんの種類が並ぶ「Design Collection」シリーズ。ちなみに広告の右端に写っているのは秋田氏がデザインを手がけたサーモマグコーヒーメーカー
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こちらが『ZOOM 717』。コンパクトながらも細部にまでこだわったデザインはさすが老舗メーカーの成せる業だ
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● オフィスにもデザインを
近頃はオフィスのデザインに力を入れている会社も多いが、やはり日常的に使う仕事道具にもデザインと使いやすさを求めたい。
プラス株式会社のデザインスチールデスク「ステージオ」はそのシームレスなデザインが秋田氏も気に入ったようだ。「オフィス机は取っ手の部分に下から手を入れるようになっているものが多い。でも、この机は上から手を入れるようになっているでしょ。ここにホワイトボード用のマーカーなどを入れてもいい。しかも全体的にフラットな設計で、無駄な出っ張りが1つもないというのも、今までのオフィス机だと珍しいですね」
しかしデザイナーとしてはまだ気になる部分もある様子。「私だったらこの角も失くしたい。せっかく取っ手を上下逆にして怪我の恐れを減らしたんだから、角も取ってしまったほうがより使いやすいはず」。1つの物事から、”こうしたらもっと良くなる”というアイデアの出てくる秋田氏の頭の中の引き出しは一体いくつあるのか……「さすが」とうなってしまう。
アイテム名:プラス株式会社 ステージオ
販売標準価格:片袖机(L字型)124,950円~(発売中)
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すっきりとしたデザインが目を引くオフィス机。どこにも出っ張りはない
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この取っ手がほかの机にはないところ。いい部分も多いが、溝の掃除は必要になりそう
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● 「個人情報保護」と「エコ」
ハサミ型シュレッダーの「秘密を守りきります!evo(エボ)」は、5枚のギザ刃と2枚の平刃で縦横同時にカットしてくれるので、ワンカットで紙を粉々に切れる。また、秘密を守るという点では、シャチハタの「セキュア スタンパー&マーカー」も文字の上に小さなスタンプを一度に押せるので、個人情報の保護になる。こういった個人情報を守るための文具は今注目されているアイテムの1つといえるだろう。
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ご祝儀袋をハンカチで作るというのはなかなか斬新なアイディア。柄が12種類あるので、送る相手によって選べる
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「エコ」もISOT 2008では重要なキーワード。展示会のレセプションパーティーでは「ステーショナリー オブ ザ イヤー2008」が発表されたのだが、今年のデザイン部門でのグランプリはフォーラムアート有限会社の「ハンカチで出来たご祝儀袋」だった。何度も繰り返し使える上に、貰った人はそのハンカチを使えるというお得なご祝儀袋。この発想には秋田氏も「継続性があるデザインというのがいいね」と、その受賞には納得だったようだ。
ちなみに今回ご紹介したなかで、メタフィスの「ヴィス・消しゴム」とシャチハタの「セキュア スタンパー&マーカー」もそれぞれ賞をとっている。
アイテム名:アーネスト 秘密を守りきります!evo(エボ)
販売小売価格:2,480円(発売中)
アイテム名:シャチハタ セキュア スタンパー&マーカー
販売小売価格:945円/1,575円
アイテム名:フォーラムアート有限会社 ハンカチで出来たご祝儀袋
カラー:全12色
販売小売価格:840円(発売中)
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銀行の明細などは、これで数字の部分だけ切れば安心して捨てられる
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『セキュア スタンパー&マーカー』のスタンパー。これ1つでプライバシーが守れるというアイテムだ
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このようにスタンプで下の文字を隠せるので、住所が書かれたものを捨てるときに利用すると安心
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● もっと王道、定番を目指せ!
最後に、今回のISOT2008についての全体的な感想を秋田氏に伺った。
「全体的にカラーバリエーションを豊富にしたり、外観を変えたものは多かったけど、機能性を突き詰めたものが少なかったかな」と振り返る。
では、機能性を突き詰めるには、何が必要なのか。
「使う人への思いやりでしょう。モノを使うときの人の動作をどれだけ観察しているかということと、人そのものへの理解も必要だと思います。たとえば、50cmくらいの円柱があれば、イスだと知らなくても人はそれに座るし、板に、手のひらに収まるくらいの球がついていればドアノブだと思う。そういう明文化されていない知恵でもって人を動かせるデザインを私自身はいつも心がけています」
秋田氏がもう1つ、重要とするのが“抑制”だ。
「深澤さんにしても、村田さんにしても、本当はもっともっと新しい挑戦ができるのに、あえて抑制したデザインをしていることが素晴らしいと思います。どうして抑制するのかといえば、それは多くの人に共通してわかる良さを提供したいからです。デザイン文具が好きな人だけに向けてではなく、もっと多くの、不特定多数にわかってもらえるデザイン。そのためには無駄をなくし、本質的なものだけを選び取るデザインというのが必要になのです」
最後に、デザイナーにとって必要なものが何かを質問してみた。
「必要なもの? それは勇気でしょう。僕らのようなフリーのデザイナーにせっつかれなければ、いいモノができないっていうんじゃダメです。日本には優秀なインハウスデザイナーがいっぱいいるので、ぜひこの人たちに伝えたいのは、今、目の前にいる人とどう闘えるか、ということ。その相手は上司だったり、クライアントだったり、発注先であったりさまざまです。やはり妥協してできあがったものは、その妥協を使う人に悟られてしまう。妥協のないデザインをするためにも、闘う勇気が必要だと思います」
今回はプロのデザイナーの目線を交え、最新の文房具をご紹介したが、いかがだっただろうか。「今後はオフィス機器にもデザインの関与する余地があるはず」と秋田氏は言う。シュレッダーやコピー機にもデザインの波が訪れるのも、遠くないかもしれない。
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久々に再会した、自身のデザインによる「りんかい線現金専用チャージ機」を見かけ、思わず「ちょっと拭いてあげよう」と掃除。その素顔はお茶目な紳士だ
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1つだけ補足を。ここまで読むと秋田氏がとても気難しそうな人物のように思われるかもしれない。実際は、ブースを巡っている間中ギャグを飛ばす楽しい人物だった。ちなみに帰り際、ゆりかもめの駅で秋田氏によるデザインの「りんかい線現金専用チャージ機」を発見。“かわいいわが子”との再開を喜ぶ姿もしっかりキャッチ!
■URL
第19回国際文具・紙製品展 ISOT 2008
http://www.isot-fair.jp/
2008/07/15 00:01
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