家電Watch logo
記事検索
バックナンバー
【 2009/03/30 】
やじうまミニレビュー
DO-SEE「LEDライト付きスタンドルーペ」
[00:01]
家電製品ミニレビュー
ツインバード「コンパクトフライヤー EP-4694」
[00:01]
【 2009/03/27 】
家電製品ミニレビュー
三菱「蒸気レスIH NJ-XS10J」
[00:02]
やじうまミニレビュー
L.L.Bean「ボート・アンド・トート・バッグ」
[00:01]
【 2009/03/26 】
やじうまミニレビュー
アイリスオーヤマ「サイバークリーン」
[00:01]
家電製品長期レビュー
三洋電機「eneloop bike」(4/4)
[00:00]
【 2009/03/25 】
やじうまミニレビュー
オーエフティー「自動給餌機 Newビストロ」
[00:01]
家電製品ミニレビュー
日立「クリエア7 EP-CV1000」
[00:00]
【 2009/03/24 】
やじうまミニレビュー
「家庭菜園 かいわれくん」
[00:02]
長期レビュー
シャープ「プラズマクラスターイオン発生器&加湿空気清浄機」 (4/4)
[00:01]
【 2009/03/23 】
やじうまミニレビュー
撥水ペーパーのメモ帳と“現場仕様”のボールペンを試す
[00:01]
長期レビュー
三洋電機「eneloop bike」 (3/4)
[00:00]

三浦優子の「家電業界通信」
冷蔵庫の電気料金表示が4倍になった理由

~使用実態に迫った新JIS規格
Reported by 三浦 優子

大型化、高機能化が進む冷蔵庫
 約1年前。冷蔵庫の新製品ラッシュを迎えた年末頃、あるフレンチドア冷蔵庫の年間電気料金は「3,960円」と、カタログや店頭表示に記載されていた。

 ところが半年後の今年5月、その表記は、一斉に「年間電気料金 16,280円」へと書き換えられた。冷蔵庫そのものはまったく同じだというのに、4倍以上のこの差は、いったいどこから来るのだろうか。

 今年5月1日、経済産業省の主導のもと、消費電力量の測定方法を定めた日本工業規格(JIS C 9801)「家庭用電気冷蔵庫及び電気冷凍庫の特性及び試験方法」が改正・公示された。

 「冷蔵庫のカタログに表記されているデータと、家庭で冷蔵庫を使用している際の消費電力にはずいぶん差があるのではないか」という指摘が消費者から寄せられた。それをきっかけに、利用実態に即した測定方法へと切り替えが行なわれたのである。

 省エネルギーをアピールするために、最近の家電製品は、冷蔵庫に限らず、「低消費電力」をアピールポイントとするものが多い。

 今回の規格改定は、どのような背景のもとに行なわれたのか。JISの制定とはどういった手順で行なわれるものなのか。経済産業省を尋ねた。

400L以上クラスの新旧規格による消費電力の違い
メーカー機種名定格内容積(L)旧JIS
年間消費電力量(kWh/年)
新JIS
年間消費電力量(kWh/年)
ナショナル(松下電器産業)NR-F450T445170
(3,740円)
670
(14,740円)
三菱電機MR-G45J448180
(3,960円)
740
(16,280円)
日立アプライアンスR-SF47VM465180
(3,960円)
610
(13,420円)
シャープSJ-HV46K460160
(3,520円)
640
(14,080円)
東芝コンシューママーケティングGR-W45FB451170
(3,740円)
650
(14,300円)
三洋電機SR-S44K438150
(3,300円)
530
(11,660円)


自動製氷機や中央に設けられた野菜室による消費電力増を反映できない旧JIS

実際の利用状況は、庫内に食料が詰まっているが、旧JISではほとんど負荷をかけていなかった
 「今回のJIS改正は、旧測定方法によって算出された消費電力が実態とはかけ離れているという消費者の指摘によって改正されたもの」――経済産業省産業技術環境局 環境生活標準化推進室の石田宏美 電気係長はこう説明する。

 実態を調査し、新たにまとめたJISは、2006年5月以降に生産されたすべての冷蔵庫に対して適用される。実際に旧JISで測定した場合と、新JISの場合で、特に大型・高機能な機種において消費電力には3倍以上の差があることがわかった。

 なぜ、ここまで大きな開きが出ているのだろうか。

 その疑問に対し、電機器具類の業界団体、社団法人日本電機工業会(JEMA)の家電部・佐藤建彦課長は次のように説明する。

 「これまで使ってきた旧JISが、実態に合わなくなった。特に最近の機種でいうと、野菜室。最近の機種では中央部分に野菜室を設けるものが大半となっている。この野菜室の冷えすぎを防ぐために、冷蔵庫の構造が従来よりもエネルギーを食う構造になっていったことが大きく影響している」

 最近の冷蔵庫は、上部が冷蔵室、その下に自動製氷機と利用者自身が冷凍、冷蔵の設定が行なえる切り替え室が用意され、その下に野菜室があり、さらに最下部に冷凍庫という構造のものが主流。


野菜室の存在が、消費電力に大きく影響している
 標準的な冷蔵庫の冷蔵室の温度は4℃、冷凍室や製氷室の温度はマイナス18℃、それに対し野菜室の温度は5℃にそれぞれに保たれているが、野菜室は自動製氷室、冷凍庫の影響を受けて温度が下がりがちになるため、ヒーターを入れ、5℃をキープする仕組みになっているのだという。

 このヒーターの存在が冷蔵庫の消費電力を大きくする要因となっている。しかし、「改正前のJISの試験条件は、冷蔵庫に新しい機能が付加されていくことを想定していなかった」(佐藤氏)ために、測定値と実態に大きな開きが生まれてしまった。

 野菜室以外にも現在では大型冷蔵庫のほとんどについている自動製氷機も、電力を消費する要因となっている。水を製氷皿に送り込む給水ホースの中で水が凍ってしまわないように、凍結防止ヒーターが使われているためだ。旧JISで測定する場合、こうした付加機能はすべてオフにして、計測するという。

 また、実際の使用状況では当たり前の動作となる、稼働中の食品の出し入れも、旧規格では行なわれていなかったうえ、そもそもの試験環境も、室温25℃に固定された状態だった。

 佐藤氏は、「自動製氷機は数年前の段階では高級機のみに使われていた機能だった。しかし、現在では大型冷蔵庫にはほぼこの機能が完備されている」と話す。野菜室同様、冷蔵庫に機能が増えていくに従って電力消費もまた、増えていく傾向にあるようだ。

 それでは、旧JISと新JISを比較してみよう。


新旧JISの比較(資料提供:三洋電機)

多くの行程が必要な規格制定までの道のり

今や高級機では当たり前になった製氷機能も、旧JISではオフにして試験していた
 なぜ、旧JISの試験条件は、実態とかけ離れたものとなってしまっていたのか。

 その理由の1つが、旧JISが作られたのが7年前だということだ。

 JISも定期的に試験方法を改正しているが、冷蔵庫の機能が変わるたびに即改正というわけにはなかなかいかないそうだ。

 今回のケースでは、2005年6月に消費者の声により「実態と測定値がそぐわない」という実態を把握。翌年1月に、電気技術専門委員会で原案が議決され、5月に公示された。

 「状況を把握してから、1年で公示まで実現できたのは、スピーディーな対応だったと考えている」と、経済産業省の石田氏。

 この1年という時間に対しては、色々な意見があるだろう。が、JIS制定には、まずJIS原案作成委員会で、メーカー、消費者、学識経験者など全ての利害関係者の意見を入れた原案を作成し、それを主務大臣に提出する。その後、原案は消費者側の代表、業界側の代表、大学の教授など識者などによって構成される日本工業標準調査会(JISC)の中の関係技術専門委員で審議され、その結果を主務大臣に答申し、60日間のパブリックコメントを受け付ける期間を経て、制定される。規格という厳密さを要求されるものを決定するためには、必要な行程であるともいえる。

 「今回の場合でいえば、JEMAの中で標準的な使用実態を調査し、試験条件を調整しながら、原案のたたき台を作成していった。この調整にも時間がかかる」とJEMAの佐藤氏は苦労を明かす。

 確かにこうした行程があると聞くと、少し機能が増えたからといって、すぐにJIS改正、とはいかない理由がよくわかる。


新しいJISの表示

文化の違いによる機能の差を反映しにくい国際標準

ついには温める機能まで搭載した冷蔵庫。こうした動きが一般化すれば、規格改正にもつながる可能性はある
 国際化の流れの中、規格策定に関してもグローバル化が進んでいるが、生活に密着する生活家電では、なかなか難しいのだという。

 「国際規格では、欧州の冷蔵庫を基準としている。欧州の冷蔵庫は、直冷方式で、日米で普及している冷気強制循環方式とは全く違ったもの。日本の実態にはなかなかマッチしない」(佐藤氏)

 国際規格であるISO規格では、「誰が測っても、同じ結果となること」を重視した内容となっている。家電製品は利用する国の文化や生活スタイルによって、機能、性能が大きく変わってくるものの、その点はあまり配慮されていないのだという。

 「欧州では、日本ほど、飲み物を冷やして飲むことにこだわっていない側面がある。そのため、国際会議の場で、“扉の開閉回数を測定の要件としている”と説明しても、“どうして冷やす必要があるのか”と逆に疑問を呈される場合もある」(佐藤氏)

 そのため国際整合を重視すると、利用実態とは違う測定となってしまうといったマイナス面が出てきてしまう。では国際規格は無視して、利用実態だけを考慮すればよいではないかという見方もできるが、国際規格を無視して利用実態だけを重視してしまうと、非関税障壁につながる懸念も出てくる。

 また、利用実態を重視していくあまり、新しい規格制定の中での問題点も出てきた。再現性と試験期間の長期化である。

 再現性とは、「誰が試験をしても同じ結果が出る」ということだ。が、扉の開閉や冷蔵庫の中に負荷を投入するとなると、試験に人間の手で行なう要素が増加することにつながる。「誰が試験をしても同じ」とはいえない要素が増えていくことになる。

 試験期間についても、従来の4倍の期間が必要になったとされているが、「正確にいうと、以前に比べて8倍の期間がかかるようになった」と佐藤氏は指摘する。

 試験には、テスト期間のデータを積分平均する補間法を用いているが、切り替え室を設けた冷蔵庫が多くなっているため、テストしなければならない条件も増えてしまった。ほぼ1台の製品を評価するのに、4週間という時間がかかることになる。メーカーは、製品開発を進めていく中で、それだけの時間をとって測定を行なわなければならない。

 「本来、原案が議決された後、すぐに公示するのだが、新測定法による試験期間を考慮して、3カ月の猶予期間を設けた」(石田氏)

 規格の改正には、色々な影響が出てくるものなのだ。


「ほかの家電製品ならこれほど大きな影響はなかった」

 ところで、冷蔵庫以外にも消費電力をアピールポイントとした家電製品が増えている。他の製品も、冷蔵庫のように規格が改正されて、表示されていたデータが大きく変わってしまうということにはならないのだろうか。

 それに対し、経済産業省の石田氏は、「そうはならないと考えてもらっていい」と断言する。

 「冷蔵庫は家庭内で利用する電気製品の中で、利用時間が飛び抜けて長い。測定条件の変更でこれほど大きな影響を受ける製品はほかにはない」(石田氏)

 確かに、冷蔵庫の利用時間は24時間、365日。1日平均5分という掃除機に比べればはるかに利用時間は短いし、エアコンの場合も冷蔵庫ほど利用時間は長くない。冷蔵庫は、“規格変更の影響を受けやすい特異な商品”だとさえいえるという。

 実はエアコンの測定基準も今年変更になっているが、冷蔵庫ほど大きな影響を与えるものではないと判断され、告知活動も冷蔵庫ほど大がかりには行なわれていない。

 冷蔵庫の場合は、影響の大きさを考慮し、告知活動を徹底している。主要販売店に対しても、今年5月の公示前後に説明を実施。店頭に並んでいた商品の測定基準が混在するといったトラブルを避けるための措置を行なった。

 「本来、JISは製造者向けのものが多いのに対し、今回の場合は消費者に直結する内容だった。できるだけの告知活動は行なった」と経済産業省の石田氏。

 質問がある場合は、「個々の製品については各メーカーさんに問い合わせてもらうのが一番だが、今回の規格改正全般であれば、JEMAに問い合わせをして欲しい」と佐藤氏は話している。





URL
  経済産業省
  http://www.meti.go.jp/
  ニュースリリース
  http://www.meti.go.jp/press/20060425001/20060425001.html
  日本工業標準調査会(JIS)
  http://www.jisc.go.jp/
  家庭用電気冷蔵庫の消費電力量の試験方法に関するJISの改正について
  http://www.jisc.go.jp/newstopics/2006/C9801kaisei.html
  財団法人日本電機工業会(JEMA)
  http://www.jema-net.or.jp/
  冷蔵庫の規格改正について
  http://www.jema-net.or.jp/Japanese/kaden/reizou/knowledge7.htm


2006/11/21 00:05

- ページの先頭へ-

家電Watch ホームページ
Copyright (c) 2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.