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KC-51C1
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花粉やハウスダストなどを取り除く空気清浄機は、健康を重視する現代人にとってもはや必需品と言ってもいい存在だろう。その空気清浄機の中で、「除菌イオン」という機能を盛り込むことで、空気清浄機ブームを作り出してきたシャープ。
そのシャープが発売する空気清浄機の最新モデル「KC-51C1」では、空気清浄機能だけでなく、加湿機能が新たに盛り込まれている。加湿機能が加わることで、いったい何が変わったのか、また除菌イオンとはなんなのか。開発者に話を伺った。
● スギ花粉の大発生が空気清浄機の市場を拡大
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シャープ 電化システム事業本部 空調システム事業部 国内商品企画部 係長の齋藤淳氏
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もともと、一般家庭用として発売されていた空気清浄機は、そのほとんどが、タバコ対策のための製品であった。確かに、'80年代~'90年代前半にかけては、空気清浄機のCMなどでも“タバコのニオイを吸い取る”といった紹介がされていたように思う。つまり、その当時の空気清浄機は、汚くなった部屋の空気をきれいな空気に近づけるためのものだたわけだ。
しかし、'95年に空気清浄機の位置づけを大きく変える出来事が発生した。それは、スギ花粉の大発生だ。今でこそ「花粉症」という言葉は普通に使われているが、当時はまだ医学用語でしかなかった。この言葉が一般的に使われるれるようになったのは、'95年以降だと言われている。当時のテレビの情報番組などで、連日のように花粉症という言葉が叫ばれ、一種の社会問題となったように筆者も記憶している。
そして、この'95年を境に、タバコ対策の製品であったものが、花粉を除去する製品へと変化したのである。花粉対策として空気清浄機が有効であると報道されたこともあり、それ以前では30~40万台ほどであった空気清浄機の市場規模は、一気に100万台を超す市場へと成長した。
現在の状況はどうか。
「マイナスをゼロにする(タバコのニオイを除去する)のではなく、ゼロからプラスにする、つまり空気の質を高め、住環境を良くするという方向に訴求が進んでいます」とは、空気清浄機の製品企画を担当している、シャープ 電化システム事業本部 空調システム事業部 国内商品企画部 係長の齋藤淳氏の言葉。つまり、現在の空気清浄機は、喫煙者や花粉症といった特定の人をターゲットにした商品ではなく、すべての人が対象となってきているわけだ。
● 花粉の次は除菌がキーワードに
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左がコスメティックベージュ、右がシルキーホワイト
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'95年のスギ花粉大発生以降、一気に出荷台数がふくらんだ空気清浄機だが、その後第二の転機を迎えることになる。それは「除菌」だ。
'90年台後半より、空気清浄機の新たな機能として脱臭機能が盛り込まれるようになった。ただ、脱臭機能といっても、ニオイの元となるものを取り除かなければ、それほど大きな効果は得られない。
では、ニオイの元とは何なのか。その多くは“菌”が原因だった。特に、湿気の多い日本ではカビが発生することが多く、ニオイの元となっている。そこで、カビを筆頭とする菌を除去する「除菌」機能が空気清浄機に取り入れられるようになった。
そして、空気清浄機に除菌機能をいち早く取り入れたのがシャープである。シャープが2000年に発売した空気清浄機に組み込んだ「除菌イオン」。これが、空気清浄機の除菌ブームの火付け役だ。
除菌イオンは、イオンを空中に放出し、ニオイの原因である菌を直接除去するという、それまでにはない方法を取っている。もともと、空気清浄機はフィルターを利用して、吸い込んだ空気に含まれている菌などの浮遊物などを取り除く、というのが基本的な構造であり、除菌イオンのようにフィルターを使わずに直接除菌するというのは、従来にない方法だった
当時の空気清浄機では、除菌効果のあるフィルターを取りつけて除菌機能を実現するものがほとんど。シャープは、大学や研究機関ら第三者機関に検証を依頼するなどして除菌効果を実証。そうしたトレンドは業界全体に波及し、空気清浄機の市場は180万台を超える規模へと成長した。
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HEPAフィルター。集塵は主にこのフィルターで行なう
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HEPAフィルターの表面
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取り外して水洗いできる脱臭フィルター
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● 菌やウィルス、ニオイ分子から水素原子を抜き取り破壊する
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イオン発生の仕組み(資料提供:シャープ)
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ところで、空気清浄機の新たな市場を創るきっかけとなった「除菌イオン」とは、いったい何なのか。
その正体は「水素原子のプラスイオンと酸素分子のマイナスイオンの集合体」だそうだ。空気中の水分子(H2O)に高い電圧を加え、2個の水素原子イオン(H+)と1個の酸素分子イオン(O2-)にプラズマ分解する。
また、空気中の酸素分子(O2)にコロナ放電し、酸素イオン(O2-)を発生させる。
これらのイオンは分子構造的に不安定で、すぐに別のイオンと結合して安定した形に戻ろうとする。これでは、菌に届く前に変質してしまうので、イオンを水分子で取り囲んでクラスター状にし、イオンを保護する仕組みだ。
これによって、比較的安定した状態で水素イオンを放出できるようになっている。ちなみに、クラスター状の構造を取っているということから、除菌イオンは技術名として用いる場合、「プラズマクラスターイオン」と呼ばれている。また、除菌イオンのシンボルマークが“ぶどうの房”をイメージしたものになっているのも、この構造からきたものだ。
では、なぜイオンで除菌や消臭という効果が得られるのか。その原理は、空気中に放出したイオンが菌やニオイ分子の表面に付着。水素イオンと酸素分子イオンの両者が結合して「OHラジカル(OH)」という物質が生成される。
この時、カビ菌の細胞膜を構成する物質のなかから、水素原子を取り出して、OHラジカルは水分子となる。これによって水素原子を抜き取られたカビ菌の細胞膜の構成が崩れて破壊され、細胞内部の水分が蒸発するなどして、細胞自体が死滅するのだ。イメージとしては、風船に針で小さな穴を開けて潰していくようなものである。
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水分子がイオンの周りに集まってクラスター状になる(資料提供:シャープ)
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OHラジカルが浮遊菌を攻撃。除菌効果が得られる(資料提供:シャープ)
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● ウイルスにも効果あり
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KC-51C1に搭載されている、第6世代の除菌イオン発生ユニット
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花粉などのアレル物質に対する効果やウイルスに対する効果についても、基本的な原理はこれと同じである。
ウイルスの表面には「赤血球凝集素」と「ノイラミニターゼ」というタンパク質でできた2種類のとげのようなものがある。赤血球凝集素によって、ヒトなどの細胞の赤血球に吸着。ノイラミニターゼがウイルス遺伝子を細胞内に送り込み、ウイルスが増殖する。これが、いわゆる“感染”と呼ばれる状態だ。
しかし、OHラジカルは、赤血球凝集素やノイラミニターゼから水素分子を奪い、それらを破壊する。ウイルス自体を完全破壊せずとも、表面構造の破壊により、無力化されるというわけだ。
アレル物質についても同様で、アレルギーを引き起こす“カギ”となるアレル物質のタンパク質構造を破壊し、抗体が反応しないようにする。
以上のような菌やウイルス、アレル物質に対する効果は、ドイツのアーヘン応用科学大学・アートマン教授をはじめ、国内外のさまざまな第三者機関による検証の結果、その仕組みが科学的に解明されているそうだ。
こうした第三者の研究機関によるデータ検証を行ない、その効能をPRする手法は、「アカデミック・マーケティング」と呼ばれている。
● 部屋の隅々まで効果が及ぶのが除菌イオンの利点
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歴代の除菌イオン発生ユニット。確実に、軽量小型化が進んでいる
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こうした除菌イオン機能は、なぜ今トレンドとなっているのか。
それは、従来型の空気清浄機が持つ、宿命的な弱点があるからだ。
空気清浄機の基本的な構造は、吸気口から部屋の空気を吸い込み、フィルターで花粉やハウスダストなどの浮遊物を除去、そして本体上部からきれいになった空気を送り出すというものだ。ただ、実際の部屋には、どうしても空気が澱む場所ができてしまう。
「空気清浄機が利用される部屋には、絨毯やカーテン、家具などが置かれ、そういった場所で空気が澱みます。そこに効果を発揮するには、従来型の吸い込んで、吐き出す形の製品では限界がありました」と齋藤氏。
空気が澱んだ場所こそ、ハウスダストやアレル物質、カビなどが発生しやすい場所である。それに対し、除菌イオンはイオンを空中に放出して、澱んだ場所に届き、直接カビなどに作用して除菌するという機構のため、そういった空気の澱んだ場所にも有効に作用するという。部屋の隅々まで除菌や消臭といった効果が得られるわけだ。
こういった利点のある除菌イオンは、現在ではさまざまな業種での採用例が増えている。実際に、日産やトヨタなどの自動車メーカーをはじめ、INAXのシャワートイレ、ガス業界や建築業界も、除菌イオンを採用している。
その結果、シャープが自社の空気清浄機に搭載するだけでなく、異業種メーカーなどに出荷した除菌イオン発生ユニットも含めて1,200万台(2006年6月末現在)を突破する販売数を記録するまでに成長している。
● 加湿機能を取り込んだ本来の理由は、除菌イオンの効果を高めるため
さて、この除菌イオンを搭載空気清浄機の最新モデル「KC-51C1」では、空気清浄機能に加えて加湿機能が新たに盛り込まれている。
これは、冬場に空気が乾燥するので加湿しよう、と意味合いももちろんあるが、その本当の意図は、別のところにある。
「空気を浄化する力を高めるためにどうすればいいのか、その追求に対する1つの答えとして出てきたのが加湿という機能だったのです」と齋藤氏は語る。
従来までは、除菌イオンの保護役となる、クラスターを構成する水分子は、空気中に浮遊しているものを利用していた。それに対しKC-51C1では、加湿機能により水分子を同時に放出することにより、除菌イオンの安定度を高めている。加湿機能が加わったことで、除菌効果は従来機種の2倍に、また脱臭効果も大幅に向上しているという。
● 1年中使える加湿機能
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これはデモ用に空路を切り替える仕切りがオレンジ色に着色されているが、量産品は白色
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「これは、冬場だけではなく、1年中使っていただく機能として設計しています」と齋藤氏は加湿機能について語る。
夏場は湿気が多く、そこで加湿機能を使うと、ただでさえ蒸しているのにさらに蒸すんじゃないのか、と思うかもしれない。
しかし、現在の住宅事情を考えてみよう。多くの場合、夏場は窓を閉め切って、エアコンを稼働させているはず。そういった状態では、湿度が40%ぐらいになることも少なくない。つまり、冬場の乾燥した状態とほとんど変わらないのである。
そういった状況に対応するため、KC-51C1では、室内の湿度が低い場合には加湿をONにし、湿度が60%に達すると加湿を切るという構造をとった。
加湿機構には、消費電力を低く抑えるために、「気化方式」を採用。気化方式の加湿機能は、水を含ませた布などに空気を当てて水を蒸発させるというのが基本的な原理だ。
ただ、空気清浄機の場合、空気を清浄するため、常に空気が流れている。単純にそこに加湿機構を加えただけでは、電源をオンにしている間、常に加湿することになってしまう。
そこでKC-51C1では、本体内部にダンパーを用意。空気の流れを制御し、湿度が十分ある場合、加湿フィルターに空気を通さないようにしているのだ。
実際に内部の構造を見ると、さほど複雑ではない。フィルターの後ろに2系統の空気の流れる道を作り、片方にのみ加湿フィルターを配置。そして、湿度の状態によってダンパーが動き、空気の流れる道が変わるというものだ。
ただ、実際にこの構造にたどり着くまでには時間がかかったそうだ。齋藤氏も「コロンブスの卵のようなものです」と語っていたが、単純なものほど気がつきにくいということなのだろう。
気化方式の加湿機能で高い加湿能力を発揮させるには大きな風量が必要となるが、もともと空気清浄機は非常に大きな風量を確保できるような大型ファンが内蔵されているため、この点も問題ない。つまり、気化方式の加湿機能は、加湿能力や消費電力などの面なども含め、シャープが考える空気清浄機の加湿機能として最も適していたというわけだ。
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フィルターの横に湿度センサーが搭載されている
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操作パネル
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今回の取材では、今後、どういった機能を実現するかは詳しく聞けなかった。しかし、KC-51C1に搭載されている第6世代となる除菌イオン発生ユニットは、従来よりも大幅な小型化と省電力化が進んでおり、更なる応用を予感させる。
もはや空気清浄機だけにとどまらないブランドとなった「除菌イオン」。どういった新しい商品が登場してくるのか、今後が楽しみである。
■URL
シャープ株式会社
http://www.sharp.co.jp/
ニュースリリース
http://www.sharp.co.jp/corporate/news/060810-a.html
製品情報
http://www.sharp.co.jp/kuusei/kc/index.html
関連記事:【8月10日】シャープ、湿度を維持する機能を備えた加湿空気清浄機(PC)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0810/yajiuma.htm
2006/10/19 00:02
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