三菱電機は、家庭電器事業における営業利益の通期業績見通しを下方修正すると発表した。
エアコン、冷蔵庫などの不振が要因だが、その一方で、本炭釜を採用したIH炊飯ジャーなど、三菱電機ならではの高機能製品が予想を大きく上回る実績となっている製品も目につく。
「いまは、三菱電機のプレゼンスを高めることに力を注ぎたい」と語る三菱電機リビング・デジタルメディア事業本部家電事業部・田代正登事業部長に、三菱電機の家電事業戦略を聞いた。
● 「エアコン、冷蔵庫が苦戦したが、住設、IHは好調」
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三菱電機 リビング・デジタルメディア事業本部 田代正登氏
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――三菱電機全体では、先頃、通期業績予想の上方修正を発表しましたが、家庭電器事業では、営業利益の見通しを200億円から140億円に下方修正しました。厳しい環境で上期を折り返したことになりますが。
田代 エアコン、冷蔵庫といった主力製品において、前年を下回る実績となったことが、通期で営業利益を下方修正せざるを得ない要因となっています。また、素材の値上がりといった要素が、予想以上だったことも、収益の悪化に影響しています。
私は、エアコン以外の家電製品事業を担当しており、エアコン事業に直接言及することは避けたいのですが、過去に、長年に渡ってエアコン事業に携わってきた立場からいえば、他社がフィルター自動掃除機能の訴求を徹底したことで、当社の特徴ともいえる「ムーブアイ」の機能の良さ、省エネという特徴が、なかなかユーザーには伝わらなかったという反省があります。
ただ、エアコンは世界で戦うという戦略を推進しており、欧州では順調に推移しているといった成果もあがっています。世界で勝つという観点で、評価すべき製品だといえるでしょう。
また、電材・住設分野の換気扇、電気温水器、IHクッキングヒーターといった製品群では、リーディングカンパニーとしての三菱電機の強みを生かして、日本国内で好調な収益をあげています。
● 「利益やシェアより、まずはプレゼンスの確立」
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累計10,000台の出荷を達成した「本炭釜」
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――エアコンを除く、国内の白物家電全体の収益性も相変わらず厳しいようですが。
田代 これは当社に限らず、他社でも同じ状況ではないでしょうか。ただ、いくつかの製品分野では、我々の予想を上回る実績をあげている分野もあります。
例えば、最たる例が、本炭釜を採用した炊飯器です。今年3月の発売時点では、マスコミ向けの報道発表や、積極的な告知はしなかったのですが、その良さが口コミで徐々に広がり、当初は5,000台を目標にしていたものが、先頃、10,000台の出荷を達成した。半年を経過せずにこれだけの台数が出荷できたのは予想外のことでした。
また、これまでの炊飯器の価格では考えられないような価格でありながらも、販売店への卸価格を一切変更することなく推移しています。三菱電機ならではのこだわりが、消費者に受け入れられた好例だといえます。
現在、家電事業を取り巻く環境は、高付加価値化という流れのなかにはありながらも、材料の高騰といった問題もあり、決していい状況ではありません。そのなかで、三菱電機は、家電事業において、なにを優先すべきか。
それは、利益やシェアを確保することにこだわるのではなく、まず、どうプレゼンスを確立するかを優先することだといえます。
● 原点に立ち返るのを目的とした“0次コンセプト”
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冷蔵庫を中心としたキッチン家電
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――具体的にはどんな取り組みをしていますか。
田代 家電製品は、もともと不満解決型を前提として、製品コンセプトを作り上げることが多いのです。つまり、顧客のアンケートをもとにして、いま利用している家電製品でなにが不満なのか、それを解決するにはどうするか、といった視点から製品コンセプトを作り上げるわけです。これが製品の1次コンセプトとなるものです。
だが、よく考えてみると、それ以前に、生活のなかでどんなものが求められているのか、という原点に立ち返って物事を考える必要があると思うのです。
根本的にはどんな製品が欲しいと思われているのか、そこまで遡ってみようと考え、2004年10月から、「0次コンセプト」を検討するプロジェクトチームを発足させました。1次コンセプトをさらに遡るという意味での造語です。
このチームは、特定の家電製品の開発担当を集めるのでなく、冷蔵庫の設計者や、炊飯器のマーケティング担当者などというように、さまざまな製品担当部門から社員を集め、家電製品そのもののありかたを考えることを目的としています。
さらに、外部機関からもこのプロジェクトに参加してもらい、意見を得ました。そして、このチームの最大の特徴は、すべての参加者を女性で構成したという点です。女性の視点から、あるいは主婦の視点から、いまどんな家電製品が求められているのか、といったことを定期的なミーティングを通じて検討していったのです。
結果として導き出したのが、プチセレブ層を対象とした製品づくりというものでした。
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田代氏が説明する、競争領域
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――プチセレブ層とはなんですか。
田代 セレブ層の生活に憧れを持っている、あるいは少し豊かな生活をしたい、こだわりを持ちたいといった層といえばいいでしょうか。
もともと家電製品は、価格という横軸と、文化・資本という縦軸を引いたときに、低価格であり、文化・資本としては低い分野に向けて製品を提供していた傾向が強かった。決して、高価格で、文化・資本が高いというところには打って出なかったわけです。
ちょっと上を狙っていこうとしても、業界全体としても値下げ競争に陥り、自ら、低価格の領域に製品のポジションを引き下げてしまっているという反省もあります。
しかし、プチセレブ層という新たな需要層を狙っていくとなると、価格は高く、文化・資本が高いという領域を目指した製品が必要になる。では、そこに合致した製品コンセプトとはなにか。0次コンセプトのチームが検討を重ねてきた結果、導き出したのが「Wclass(ダブルクラス)」の製品というわけです。
● 高付加価値の“Wclass”製品で、プチセレブ層を狙う
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MR-W55J
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――Wclassの製品の定義とは、どんなものですか。
田代 一歩豊かに、上質な暮らしを提案する製品ということになります。価格についても、これまでとは異なる価格帯であり、それでいても、多くの人が欲しいと思う製品領域です。
本炭釜についても、ユーザー調査の結果、この機能ならば100,000円を出しても欲しい、という声が多数あがっていました。価格競争に左右されず、メーカーにとっても、販売店にとっても大切に売ることができるという点も、Wclassの製品の特徴だといえます。
――Wclassと定義する製品は、今後増えていくのですか。
田代 第1弾となったのが、昨年12月に発表した545Lの容量を実現した冷蔵庫「MR-W55J」です。
月産2,000台を目標にしていましたが、実際には、当初計画の3倍もの台数が売れるというヒット製品となりました。冷蔵庫では、さらにWclassの製品を投入していかなくてはならないと考えています。
そして、第2弾が、本炭釜のIHジャー炊飯器です。
ただ、すべての製品分野で、Wclassの戦略が通用するとは思っていません。Wclassを実現するには、ステータスを感じる製品でなくてはならない。冷蔵庫や炊飯器というは、家電製品のなかでも、女性がステータスを感じることができる製品なのです。
しかし、そうではない分野もある。例えば、掃除機はどうか。掃除は、どちらかというと、女性にとっては嫌な作業の1つです。嫌な作業を行なう製品に、ステータスを感じるのは難しいのではないでしょうか。
● 「三菱は、製品のメリットそのものを訴えることが可能なメーカー」
――ところで、三菱電機の家電製品の強みとはなんでしょうか。
田代 開発力というよりも、製品のメリットそのものを訴えることが可能なメーカーだという点です。製品開発の基準を、お客様志向にし、そこから発想していますから、メリットだけを語ることができる。
三菱電機の製品は、機能を語るのではなく、冷蔵庫でも炊飯器でも「おいしい」、「ヘルシー」、「使いやすい」ということを、まず訴えています。こうしたカタログの作り方をしているのは三菱電機だけではないでしょうか。
もちろん、それを実現するのは技術ということになりますが、顧客視点を大切にする企業であるということはこれからも訴えていきたいですね。0次コンセプトへの取り組みは、まさにその好例だといえます。
それと、もともと三菱電機は工場の意見が強い企業だと言われてきましたが、これも変化してきています。
例えば、本炭釜は、大船にある住環境研究開発センターから企画が出てきたものですし、掃除機の新製品に関しても、同じく大船にあるデザイン研究所から企画が出るようになってきました。つまり、研究開発拠点や、ユニバーサルデザインを手がけるデザイン部門も、積極的に製品企画に携わるようになり、それが採用されるようになってきています。
これから、オール電化という取り組みも大きな課題です。そうなると、事業部を跨いだ連携も必要になってくる。グループとしての総合力がますます試される段階に入ってきたといえます。
――家電事業における下期のポイントはなんですか。
田代 下期はますます高級志向が強まってくると考えています。
そうした需要に向けては、冷蔵庫や本炭釜といった製品によって三菱電機のプレゼンスを上げていきたい。
また、今、一時の勢いがない掃除機売り場をもっと元気にする製品を出していきたいですね。
当社では、ユニ&エコというキーワードでのものづくりに取り組んでいますが、当社ならではのユニバーサルデザイン、ハイパーエコ基準、ハイパーサイクルテクノロジーについても訴えていきたいと考えています。「“ユニ&エコ”ならば三菱電機」というブランディングの定着も大切な要素です。
ただ、一方で、積極的にシェアをとっていくという考えはありません。三菱電機のブレゼンスをどこまで引き上げることができるか、ということに、下期も取り組んでいく考えです。
■URL
三菱電機株式会社
http://www.mitsubishielectric.co.jp/
【そこが知りたい家電の新技術】三菱電機 炊飯器「本炭釜 NJ-WS10」(PC)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0913/kaden010.htm
2006/10/06 11:11
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