|
シャープ株式会社 電化システム事業本部長の庵 和孝氏
|
高付加価値路線で確実にヒット製品を連発しているシャープ。「水で焼く」という新たなコンセプトのもとに大ヒット製品となったヘルシオをはじめ、洗濯機、冷蔵庫、エアコンなどでも独自の技術を活用した製品が相次いでいる。
シャープの白物家電における付加価値戦略のキーワードは、「エンジン革命」によるカテゴリーシフトだといえる。それに向けて、シャープはどんな取り組みをしているのか。
シャープ株式会社 電化システム事業本部長の庵(いほり) 和孝氏に、同社の家電事業の取り組みを聞いた。
● 「冷蔵庫、ドラム型洗濯乾燥機、ヘルシオが牽引」
|
冷蔵庫にもかかわらず「保温庫」をも内蔵した斬新な発想がヒットを生んだ「愛情ホット庫」
|
――上期の実績はどうですか。
庵 ひとことでいえば、善戦したといえます。エアコンが4~6月は天候不順の影響を受け、また、材料高を背景にして、収益を圧迫するという要因もありますが、全体的にみると、商品性、デザイン性といった観点で、独自のものを投入できたこと、超省エネを実現しながら、高い性能を実現する付加価値製品の比重が高まったことなど、ほぼ目的とした成果は出せた、と考えています。
――付加価値型製品の成果という観点からみた場合、代表的な製品はなんですか。
庵 1つは冷蔵庫ですね。マイナス17℃から60℃まで温度を切り替えて利用できる「愛情ホット庫」の機能が前年以上に評価されています。
1ラインから3ラインに増やしたという点もありますが、昨年は愛情ホット庫の搭載製品の販売比率は3割程度だったものが、今年は約7割まで上昇させる計画です。いままでは冷やして保存するといった使い方だけだったものが、温めて保存するという使い方ができるようになった。この機能が、いまの生活パターンに合致したといえます。
|
ドラムと外装を切り離して静音性を高めた洗濯機
|
いまは、夕食の時間に、家族全員が揃いにくい環境にあります。子供は塾があるとか、お父さんの帰りが遅いとか。しかし、夕食に作った天ぷらを、55度で保温しておけば、数時間たっても、揚げたてのようなサクっとした食感で食べられる。これが、現在の生活パターンを支援する機能として評価され、売れ行きにつながっています。
一方で、ドラム式の洗濯乾燥機も、ドラムとキャビネットを分離した独自の免振ドラム構造が評価されています。他社は、ドラム式の洗濯乾燥機で振動対策に苦労されているようですが、当社は、独自の技術で解決することができました。
それと、もう1つの付加価値路線の成果としては、やはり、ヘルシオでしょうね。
|
2段調理機能を搭載したほか、レシピを増強し、さらに高級・健康路線を進めた第3世代ヘルシオ
|
――ヘルシオは、今年は第3世代の製品に入っていますね。
庵 2004年秋にヘルシオの第1世代を投入した際には、単価ダウンが進み、縮小傾向にあった電子レンジ市場において、「水で焼く」というコンセプトを導入することで、健康調理という新たな市場を創造することができました。おいしさと健康を両立するという考え方が市場に合致したといえます。
第1世代は年間10万台の出荷実績、第2世代は17万台。今年の製品では25万台の出荷を目指しています。第3世代では、これまでの内容積20L、26Lに加えて、新たに30Lタイプのモデルを追加したことで、本格調理が可能となり、家族構成が多い家庭でも安心して利用していただけますし、2段調理といった使い方もできるようになりました。また、「健康セットメニュー」を開発し、健康な食生活をご提案しています。
発売が始まったばかりですが、第3世代のヘルシオの売れ行きには、強い手応えを感じています。第1世代では40代以上の方々が多かったのです、第2世代では徐々に30代にも購入層が広がってきました。第3世代では、さらに幅広い層に受け入れられると思っています。
● 「単なる機能アップではなく、“エンジン”を変えることにこだわる」
――シャープの付加価値型製品の人気の要素はどこにあると。
庵 例えば、ヘルシオが人気を博した要因は、いわば「エンジン革命」にあります。
たとえば、電子レンジはマグネトロンで加熱するが、ヘルシオは過熱水蒸気で加熱する。これによって、脱油・減塩といったコレまでにない健康調理ができるようになりました。
つまり、エンジンそのものを変えることで、機能が大きく進化するわけです。電子レンジでは、温めるという機能ばかりが使われていましたが、ヘルシオの登場によって、調理器という使い方がクローズアップされるようになったことも見逃せません。
こうしたエンジン自体が変わることで、新たな価値を提供できます。これは、すべての家電製品にいえることです。ですから、社内には、単なる機能のアップではなく、エンジンを変えるということにこだわって欲しいといっています。
ただし、それは基本機能がしっかりしていて、初めて実現できるものです。冷蔵庫の愛情ホット庫にしても、その機能だけが評価されても売れるわけがない。生活パターンの変化によって増加しているペットボトルや冷凍食品を収納できるような大容量であるとか、省エネ機能、除菌イオンを活用することで保存の質を高める工夫、そして、価格やデサイン、操作性をしっかりと実現した上で、エンジンを変えることが重要です。アイデア1つで付加価値が高まるのではなく、こうした基本性能との組み合わせによって、初めてお客様に認められるといえます。
――エアコンが苦戦しているのは、その点での遅れがあるということですか。
庵 家電市場を俯瞰してみると、冷蔵庫、洗濯機、オーブンレンジ(電子レンジ)といったあらゆる領域で単価が上昇しているなかで、エアコンだけが単価が上昇していません。市場全体では、フィルター自動掃除機能が、注目を集めていますが、これはエンジンを変えたというものではないでしょう。
もっと本質的な、コアエンジンといえる部分での変化が必要であり、それによって、世代変わりした、という印象を与えなければなりません。シャープでは、除菌イオンによる空気浄化を特徴にしているが、こうした世代変わりを促進するような次のコアエンジンが必要だと考えています。
● 「他社が真似するような商品を作れ」
|
静音性を高めた洗濯機のシャーシ構造。シャープの技術力を示す好例だ
|
――シャープの家電事業の強みはどこにありますか。
庵 シャープのDNAは、創業者の早川徳次が語ったように、「他社が真似するような商品をつくれ」という点に尽きます。現在でもこのDNAはシャープのなかに脈々と受け継がれています。
実際、事業本部では、商品企画があがってきても、企画が通過するまでにいくつかの関所(笑)といえるものがあり、月並みの商品企画だと判断されたら、開発には着手できません。
関所における判断の基本的な考え方が、他社に真似されるような商品であり、世代を変えるものであり、そして、エンジンそのものを変えることだといえます。他社との機能比較の上で、ある機能を付属したというのではなく、エンジン革命によって、他社にはない製品、他社に1年ぐらいの差をつけられる製品を創出しなければならない。それを支えるのは、もちろん、シャープの技術力ということになります。
先ほど触れた除菌イオンは、他社への供給を含めて累計1,200万個を出荷した実績があり、応用範囲も、自家用車や公共交通機関、シャワートイレなどあらゆるところに広がっています。
|
「除菌イオン」搭載の空気清浄機
|
しかも、この技術は、シャープだけがいいといっているのではなく、大学や研究所などの第三者機関で効果を測定してもらい、先進性を認めていただいている。これを、“アカデミックマーケティング”と呼んでいますが、こうした取り組みもシャープの技術力を証明することにつながっています。
私は、シャープのブランド力をもっとあげていかなくてはならない、と考えています。
ブランド力という意味では、当社以上に強いメーカーがある。長期的な取り組みとなりますが、これは今後の大きな課題です。
そのためにはどうするか。知恵を使った創意工夫ととともに、技術力でプッシュしたニーズの掘り起こしが必要であり、それを繰り返しやっていきます。
言い方を変えれば、技術に裏付けされた、革新的な商品を出し続けていくということです。ここにシャープの強みがあることを訴えていきたいですね。
● 「高付加価値化家電、総仕上げの1年」
――下期はどんな展開になりますか。
庵 今年は、白物電化製品の付加価値化の総仕上げの1年になります。高付加価値路線の品揃えができ、それに対応した開発から営業までの体制が確立できた。高付加価値路線を前提としたご販売店様との協力関係も構築できたところです。
あとは、これをベースにして、次のステップに入っていくことになる。いまは、付加価値ゾーンの製品が約5割を占めているが、この比率を7割程度にまで引き上げたい。その推進力となるのが、シャープの技術力を背景にしたエンジン革命ということになります。
これからもシャープらしい製品を市場に投入していきますよ。
■URL
シャープ株式会社
http://www.sharp.co.jp/
【そこが知りたい家電の新技術】愛情ホット庫搭載 冷蔵庫 SJ-HVシリーズ(PC)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0724/kaden005.htm
2006/10/05 00:00
- ページの先頭へ-
|