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そこが知りたい家電の新技術
シャープ ウォーターオーブン「ヘルシオPro」

~“水で焼く”その仕組みとは
Reported by 平澤 寿康

ヘルシオPro AX-1000
 “水で焼く”という、刺激的なキャッチフレーズで登場し、話題となったウォーターオーブン「ヘルシオ」。余計な油分や塩分を落とし、内部の栄養素を壊さずに調理できるという特徴から、ヘルシー嗜好のユーザー層を取り込み、すぐさま大人気商品に成長した。

 このヘルシオの第3世代モデルとなる新機種が9月より発売となっている。従来機種と比べてどういった点が進化しているのか、また基本的なヘルシオの構造や水を使った調理の仕組みなどについても、話を伺った。


なぜ水で焼けるのか

【動画】過熱水蒸気の生成過程。水が沸騰し、白い水蒸気が現れる。これをさらに熱すると、無色透明の過熱水蒸気になる
 ヘルシオの最大の特徴である“水で焼く”仕組み。しかし、実際には、なかなかイメージしにくい部分でもある。なぜ水を使って肉や魚が焼けるの、と疑問に思っている人も多いのではないだろうか。そこでまず、ヘルシオの“水で焼く”原理を説明しておこう。

 水は、100℃まで熱すると沸騰して気化する。そのとき発生する100℃の水蒸気を、ヘルシオでは、330℃まで加熱。白い湯気から無色透明の「過熱水蒸気」という高温な状態にし、それを食品に直接吹きかけることで調理している。

 しかし、なぜ水蒸気で加熱すると、肉や魚が焼けるのか。これは、水蒸気が持つ高い熱量に秘密がある。

 たとえば、ドライサウナの室内は、約90~100℃と非常に高温となっている。しかし、中に入っても耐えられないほどの熱さを感じることはなく、火傷をすることもない。

 それに対し、お湯を沸かしたときにやかんの口から吹き出す湯気は、約100℃だが、その湯気に手をかざすと非常に熱く感じ、火傷してしまう危険性がある。

 同じ100℃であっても、こうした違いが出るのはなぜか。

 これは、乾いた空気に比べ、水蒸気が非常に大きな熱量を持っているから。紙に黒い焦げを付けるくらいの、熱エネルギーを調理に使うというのが、ヘルシオの基本的な原理だ。


水を使うのになぜベチャベチャにならないのか

シャープ 電化システム事業本部 電化商品開発センター 第二開発室係長の門馬哲也氏
 では、なぜ中に入れた食品が水を含むことなく、パリッとカリッと焼けるのか。それは、100℃の水蒸気ではなく、300℃以上の過熱水蒸気を吹きかけるからだ。

 ヘルシオ庫内に入れた食品の温度は、もちろん最初の状態では100℃以下。調理開始直後は、食品表面で過熱水蒸気の温度が下がり、結露してしまう。これは、冷水の入ったコップを室内に置いておくと、コップに水滴がつくのと同じ原理だ。

 この原理からすると、食品表面が水を含むのでは、と思うかもしれない。しかし、調理を進めるにつれ、食品自体の温度も急上昇し、ついには食品表面の温度が100℃を超す。

 この状態になると、いくら過熱水蒸気を吹きつけても、水分は気化してしまい、食品の表面で結露することもなく、それどころか、食品が含んでいた水分も飛ばすことができる。


 そのため、過熱水蒸気で調理しても、水分を含むことなくパリッとカリッと調理できるのである。

 今回の取材では、実際に駅前のスーパーで買ってきたというエビの天ぷらをヘルシオで温め直したものを試食させてもらった。表面はパリパリで、電子レンジで温めたときのような、衣に水分が含まれている感じは一切なかった。

 また、油分もかなり落ちているようで、天ぷらとは思えないほどあっさり食べられたのも印象的だった。

 「過熱水蒸気で物質を乾燥させようという発想は、100年以上前からありました」。


 こう語るのは、シャープ 電化システム事業本部 電化商品開発センター 第二開発室係長の門馬哲也氏。

 同氏によれば、10~20年ほど前から、すでに調理の世界で過熱水蒸気が使われるようになっており、業務用機器も存在していたそうだ。つまり、過熱水蒸気を利用するという発想自体は、決してこの数年で生み出されたものではないようだ。


ヘルシオで調理した鶏肉。大量の油分が落ちているが、皮はパリッと仕上がっている 天ぷらも、余計な油を落としながら、サックリと仕上がっている

食品に過熱水蒸気を勢いよく吹きつけて調理する

庫内天井部分の穴と左右壁面の穴から過熱水蒸気が高速に吹きだし、庫内の食品に吹きつけられる
 アイデア自体は新しいものではないにしても、それを家庭用の調理器具に取り入れるには、さまざまなハードルがあった。

 まずは電力。家電製品で利用できる電力は1,500Wほどが上限となるが、その中で豊富な過熱水蒸気を発生させることが難しい。

 また、小型化もハードルの1つ。小型化すると過熱水蒸気の発生量が減ってしまい、庫内に充満させるのが難しくなる。一方で、日本の住環境を考えると、サイズは必然的に、抑える必要がある。

 そして、これらハードルを克服するために考え出されたのが、過熱水蒸気を直接食品に吹きつける、という仕組みだ。

 ヘルシオの庫内には、天井および左右側面に過熱水蒸気の吹き出し口が用意されており、そこから過熱水蒸気が勢いよく吹き出す。そして、その吹き出し口の近くに置かれた食品に直接吹きつけられ、効率よく調理する仕組みになっている。

 開発当初は、過熱水蒸気を庫内に送り出すために、庫外の空気を取り入れていたそうだ。ところが、外気を取り入れると、温度が下がってしまい、過熱水蒸気の量を出すことが難しくなる。


シャープ 電化システム事業本部 調理システム事業部 商品企画部副参事の田中隆氏
 過熱水蒸気は空気より軽い。勢いよく吹きつけるには、豊富な量が必要となる。そこでヘルシオでは、庫内の過熱水蒸気を再利用する構造を採用。一度噴出した過熱水蒸気を、再び取り込んで、“リサイクル”することによって、発生量を確保。大型のファンを使って加速させ、一気に過熱水蒸気を庫内に送り出している。

 「完全に庫内に充満させるには、1,500Wという電力では足りない。過熱水蒸気が持つ熱量を食品に集中させる必要があります。それを実現できたのは、この機構を開発できたからです」と門馬氏。家庭用機器に応用するため、“リサイクル”という発想を持ち込んだことが、ヘルシオを生んだというわけである。

 現在、さまざまなメーカーから過熱水蒸気を利用する製品が発売されているが、レンジ加熱および食品を焼くためのヒーターは併用せず、過熱水蒸気だけで調理を行なうのは、ヘルシオだけである。

 シャープ 電化システム事業本部 調理システム事業部 商品企画部副参事の田中隆氏は、「過熱水蒸気を勢いよく食品に吹きつけるというトータル的な仕組みを作り上げたことがいちばんのポイント」と語っている。

 「過熱水蒸気を使う」だけならば、難しくない。「過熱水蒸気だけで調理する」ことこそが、本当に難しかった、というわけだ。


過熱水蒸気の元となる水をタンクに入れてセットする 庫内。もちろんターンテーブルなどはなくフラットな構造だ 調理中。水蒸気で窓が曇っている

過熱水蒸気を調理に使うメリットとは

仕組みそのものだけではなく、操作メニューにも、健康に配慮したモードが用意されている
 なぜヘルシオは、ここまで過熱水蒸気にこだわるのか。過熱水蒸気で調理する場合のメリットとして、ヘルシオでは3つの特徴をあげている。

 まず1つめは「脱油効果」。先ほど説明したように、過熱水蒸気は非常に高い熱量を持っている。そのため、調理時に食品の中心部まで、温度をすばやく上昇させることができる。これによって、溶け出した食品内部の油分が素早く落ち、一般的なオーブンに比べて、より多くの油分を落とすことが可能となる。

 2つめは「減塩効果」。調理開始後の、食品温度が低い状態で、吹きつけられた水蒸気が食品表面で結露する。この時、結露した水分に食品の塩分が溶出。溶け出した塩分は、油などと一緒に下のトレイに排出される。

 3つめは「酸化抑制」。ヘルシオで調理を行なう場合、庫内は過熱水蒸気が充満した状態になる。水分量としては、庫内を水で浸しているのと同じ。当然、水で浸されていれば、空気が入る余地はない。空気が追い出されれば、酸素濃度も低くなり、油の酸化が起こりづらくなる。酸化を防ぐと、ビタミンCやビタミンEなどの残留率も高くなる。

 これらのメリットはすべて、過熱水蒸気がもたらすものであり、そして、すべて健康につながるものでもある。


電子レンジで生卵を温めるのは不可能(爆発する)だが、ヘルシオであれば温野菜を作るのと同時にゆで卵を作ることも可能だ 野菜を切って、ヘルシオに入れるだけでヘルシーな「温野菜」が完成する

“新たな市場を切り拓く健康調理”をキーワードに開発

 ここで、シャープと過熱水蒸気との出会い、そしてヘルシオ誕生までの経緯について、簡単に触れておきたい。

 2000年頃から、シャープでは、年々、低価格化が進み、市場が縮小していた電子レンジに変わる新たな事業を模索していた。21世紀では、“環境”や“健康”という部分が重要視されると考え、健康志向のオーブンレンジの開発に至った。

 その目的に合致していた技術が、過熱水蒸気だった。実際に技術検討を進めていくと、脱油効果や減塩効果、酸化抑制効果が高いことがわかり、ヘルシオへと結実する。

 こうした経緯があったからこそ、ヘルシオをただの“高級調理器”として売ることはしなかった。“健康調理”というキーワードを前面に押し出した、新たなジャンルの製品に位置づけたわけだ。

 “健康調理”をPRするため、カタログに記載する効能については、第三者機関による分析試験のデータを載せるなど、その試みは徹底している。

 科学的裏付けと、「ヘルシーなーブン」を意味するネーミング(ここにはもちろん、“塩が減る”もかかっているだろう)をはじめとした、マーケティング戦略。ヘルシオを語る際、シャープの技術力はもちろんだが、こうした要素も、決して無視することはできないだろう。


地味な技術開発が支える、ヘルシオの進化

右が第2世代、左が第3世代のファン。フィンが増え、より強力な風力を生み出せるようになっている
 ヘルシオの価値の根本となっている、健康面の機能は、脱油効果や減塩効果、酸化抑制効果は代を追うごとに進化を続けている。

 基本的なアプローチは、過熱水蒸気を発生させるエンジン部分の効率化、小型化だ。

 エンジンは、水を沸騰させて水蒸気を作り出すためのヒーター部分と、そこで作り出した水蒸気を加熱して過熱水蒸気を作り出す部分。そして過熱水蒸気を勢いよく庫内に送り出すためのファンによって成り立っている。

 ヒーターの構造を改良することで、より高速な加熱を可能にしたり、ファンの羽を高密度に配置することで、より強力な風力を発生できるよう改良されている。

 パワーアップしたエンジンにより、高速加熱を実現し、過熱水蒸気の最高温度は第3世代では330℃に上昇。また、より効率よく過熱水蒸気を作り出せるようになっていることに加え、本体のシーリング能力を高めることなどによって、庫内の過熱水蒸気濃度も97%にそれぞれ上昇している。庫内の過熱水蒸気濃度が上昇すればするほど酸素濃度が下がり、油分の酸化やビタミン類の損失をこれまで以上に抑えられるようになる。

 「画期的なデバイスが登場して進化しているわけではありませんが、地道な進化が重要なのです」とは田中氏の言葉であるが、家電製品の開発とは、まさにこういった地道な努力の積み重ねによって成り立っているのであろう。


これが過熱水蒸気を生み出すヒーターだ。ファンによって送り込まれた水蒸気がこのヒーターで最大330度まで熱せられ、庫内に送り込まれることになる 左が第2世代の沸騰用ヒーター、右が第3世代の沸騰用ヒーターだ。第3世代ではヒーターの密度が上げられ、素早く水を沸騰させられるように工夫されている

“健康調理”を“日常調理”へ。そして更なる進化を遂げている

初代ヘルシオ。ヘルシオといえば、やはり右の赤色のカラーリングだろう。このカラーリングは第3世代にも受け継がれている
 こうして2004年に発売された初代ヘルシオは、“健康調理”という、それまでにない新しい切り口を見いだし、ヘルシー嗜好のユーザー層に受け入れられた。

 ただ、要望も多数寄せられた。最も多かったのは、電子レンジ機能だったようだ。

 初代ヘルシオは、従来のマグネトロンを使った、電子レンジ機能は搭載されていない。その理由は、「健康調理という新しいコンセプトを持った製品をお客様に提案し、市場を作っていこうという決意の表われ」(田中氏)だった。

 つまり、過熱水蒸気による調理がいかに優れているものか、それを伝えるために、電子レンジ機能をあえて外したのだ。

 しかし、市場は正直だった。「ヘルシオと電子レンジの2つを置くほど、キッチンは広くない」という声が多かった。

 利便性を考え、第2世代のヘルシオでは、電子レンジ機能が盛り込まれた。

 「電子レンジ機能は盛り込みましたが、基本的な考え方は変わっていません。あくまでも、電子レンジは“従”です」(田中氏)。

 ニーズも押さえつつ、基本のコンセプトは守った。これにより、ヘルシオは、「健康調理だけでなく日常をもカバーする調理器へと進化」(田中氏)したのである。

 そして、今年9月に登場した、第3世代ヘルシオの最上位モデルとなる「ヘルシオPro (AX-1000)」では、本格的な調理をするユーザーにアピールすべく、2段調理ができるようになっている。

 これまでのヘルシオでは、1段しか利用できなかった。お菓子やパンなどを良く作るヘビーなオーブンユーザーからは不満の声が大きかったそうだ。

 「健康志向はそのままに、本格的なオーブンユーザーにも対応できるような商品として作り上げた」と語っていたが、その言葉を聞く限りでは、ヘルシオは“健康調理”をさらに、進化させていくつもりのようだ。


ヘルシオPro AX-1000 もちろん電子レンジ機能も付いている ダイヤルを中心としたインターフェイス

他社との競争ではなく、この製品の裾野をもっと拡げていきたい

第3世代のヘルシオシリーズ
 ヘルシオの登場以降、さまざまな家電メーカーから過熱水蒸気を利用したオーブンが発売され、競争は激化している。

 そんななか、ヘルシオでは、日常的に調理されるメニューだけでなく、“健康メニュー”と呼ばれるメニューを内蔵。さらに、レシピ本を付属して、新たな健康メニューの提案を行なうなど、ソフト面にも注力している。

 「過熱水蒸気だけで調理するのはウチだけです。そういう意味では、他社のオーブンレンジと、同じジャンルの製品としては捉えていません。“健康調理”というヘルシオに一番大事な軸がブレてしまったら、存在価値はありません。他社との競争うんぬんではなく、とにかく“おいしさ”と“健康”というキーワードを絶対に忘れない商品に、今後も育てていきたいと思います」(田中氏)。

 その言葉からは、他社に先駆けてヘルシオを送り出したシャープとしての絶対的な自信と信念が伝わってくる。

 今後の課題は、更なる小型化を図り、設置の制約をなくすこと。この課題を乗り越えれば、さらにヘルシオユーザーは拡大しそうだ。

 初代ヘルシオが登場して2年。“オーブン”というカテゴリーはもはや成熟しきっているが、“健康調理”をコンセプトにした製品はまだまだ登場したばかり。料理をあまりやらない筆者ですら欲しいと思わせる魅力を持つヘルシオ、今後も更なる進化に期待したい。





URL
  シャープ株式会社
  http://www.sharp.co.jp/
  製品情報
  http://healsio.jp/


2006/10/04 00:03

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