東海大学、パナソニックの太陽電池で世界最大級のソーラーカーレースに挑む

~バッテリーもパナソニック製リチウムイオン

 東海大学は、同大学のソーラーカーチームが参戦する世界最大級のソーラーカーレース「ワールド・ソーラー・チャレンジ」に、パナソニックのHIT太陽電池とリチウムイオン電池を採用したソーラーカー「Tokai Challenger(東海チャレンジャー)」号で挑戦することを発表した。

ワールド・ソーラー・チャレンジに挑戦する「Tokai Challenger」号を前に、東海大学のプロジェクトメンバーと、協賛する企業による記念撮影大学構内を試走するTokai Challenger号。これがオーストラリア3,000kmを、太陽光エネルギーだけで縦断する
 

2009年に化合物系太陽電池で優勝。しかし今年は規定変更でシリコン太陽電池へ

ワールド・ソーラー・チャレンジの走行ルート

 ワールド・ソーラー・チャレンジは、太陽光のみを動力源として、オーストラリア北部のダーウィンから、南部のアデレードまでの総延長3,000kmの距離を縦断し、そのタイムを競う自動車レース。1987年に第1回が開催されて以来、24年の歴史を持つ。

 東海大学では、1993年より同大会に挑戦。2009年に行なわれた前回大会では、アメリカのマサチューセッツ工科大学やスタンフォード大学、イギリスのケンブリッジ大学など13カ国32チームが参加する中、見事、総合優勝を果たしている。

オーストラリアを走行中のTokai Challenger号(2009年のようす)2009年の大会では見事優勝。この時はシャープ製の化合物系太陽電池を使用していた

 2011年大会は、10月16日から23日まで実施されるが、今年は2009年大会からレギュレーションが変更。ソーラーカー1台に搭載できる太陽電池の合計面積が、シリコン系太陽電池を使用する場合は6平方mで変更はないが、化合物系太陽電池の場合、3平方mに限られることになった。東海大学は2009年の同レースで、シャープ製の化合物太陽電池を使用していた。

ソーラーカープロジェクトチーム「東海大学チャレンジセンター ライトパワープロジェクト」のチームマネージャーである、東海大学 工学部 電気電子工学化 木村英樹 教授
 同大学のソーラーカープロジェクトチーム「東海大学チャレンジセンター ライトパワープロジェクト」のチームマネージャーである、東海大学 工学部 電気電子工学化の木村英樹 教授は、大会のレギュレーション変更について「2009年大会で使用したマシンは、南オーストラリア州の制限速度である時速110km/hで走行した(同大会は一般道を走行する)。十分な走行性能が実証できたため、技術的なハードルを高める方向で変更されたようだ。また、比較的安価なシリコン太陽電池を選択させるよう、大会側が誘導したと考えられる」と分析する。

 そこで今年のプロジェクトでは、太陽電池のスポンサード企業をパナソニックグループに変更。同グループの三洋電機が製造するシリコン系太陽電池「HIT太陽電池」を新たに採用した。


変換効率が“世界最高水準”のHIT太陽電池を搭載。バッテリーもパナソニック

住宅用太陽光発電システムにも採用されているHIT太陽電池がエネルギー源。コックピット脇には「HIT」のロゴが貼られている

 HIT太陽電池は、結晶シリコン基盤と、アモルファスシリコン薄膜を用いて形成した“ハイブリッド型”のシリコン太陽電池。高い変換効率に加え、高温時に出力低減を抑える点が特徴。パナソニックグループでは、変換効率について“世界最高水準”としている。

 Tokai Challenger号では、HIT太陽電池を屋根に搭載。基本的な性能は、一般住宅の屋根用に使われているものと同じだが、ソーラーカー用にセルサイズをカットするなど、チューニングが行なわれている。またTokai Challengerは、空気抵抗を考慮して屋根になだらかな曲面を付けた「3次元ルーフ」としているため、軽量でフレキシブルなラミネートモジュールを用いることで、HIT太陽電池を取り付けている。

 Tokai Challengerに設置されたHIT太陽電池6平方mの出力は1.32kW。3平方mの化合物系太陽電池で期待される出力「0.9kW」よりも高い数値となっている。

コックピット脇には、小さくカットされた状態でパネルが設置されているTokai Challengerは表面が緩い曲面になっているが、パナソニックのラミネート技術を使うことで取り付けているHIT太陽電池の採用で、化合物系太陽電池(3平方m)の出力よりも高くなった
リチウムイオン電池もパナソニック製。ノートパソコン「レッツノート」に採用されている電池がそのまま入っている

 また、太陽電池で発電した電気を蓄えるバッテリー(蓄電池)もパナソニック製で、ノートパソコン「レッツノート」などに使用されているリチウムイオン電池「NCR18650A」を、2009年度に続いて装備する。総本数は450本で、重量は21kg。蓄電容量は5kWhで、これはTokaiChallengerに搭載された太陽電池が3時間45分で発電するエネルギーに相当するという。

パナソニック コーポレートブランドストラテジー本部 宣伝グループの小関郁ニ氏

 パナソニックのコーポレートブランドストラテジー本部 宣伝グループの小関郁ニ氏は、「パナソニックのHIT太陽電池は、世界最高水準の変換効率を誇っており、またリチウムイオン電池は業界最高レベルの高容量と耐久性、軽量を実現している。ソーラーカーのポテンシャルを最大限に引き出せるのではないか」と期待する。

 パナソニックではまた、今回のチャレンジをスポンサードすることで、車体にパナソニックのロゴを掲示したり、同社ホームページでレースを中継することなどによる、PR効果も狙っている。

 「それ以外にも、当社の技術発展への貢献も期待できる。若く情熱に溢れるチームを積極的にバックアップし、世界中の“グリーン革命”に貢献することを強く願っている」(小関氏)

 なお、同社のリチウムイオン電池は、ワールド・ソーラーカーレースに参戦するオランダの2大学、シンガポールの1大学、アメリカの2大学に提供されているが、スポンサードはしていない。


日本の最先端技術が詰まったTokai Challenger

 Tokai Challengerにはこのほかにも、日本の技術が結集されている。車のボディには、東レの炭素繊維「トレカ」を採用。軽量が特に求められる部位には、カーボン繊維が薄く細かく織られた「1K品」と呼ばれる素材を使用している。これにより、車体重量は160kgから140kgへと、約20kgの軽量化となった。

ボディには東レの軽い炭素繊維を採用2011年のTokai Challengerの諸元。全体的に小型、コンパクト化が図られている
東レ 複合材料事業部長 トレカ事業部門 河村雅彦 部門長
 東レの複合材料事業部長 トレカ事業部門 河村雅彦 部門長は、レースに挑むプロジェクトメンバーに対し「世界一を目指して、初めて日本の技術といえる。なでしこジャパン(ワールドカップで優勝したサッカー日本女子代表)に続く第2のグッドニュースを、東海大学の学生が持ち帰ることを期待している」とエールを送った。

 なお、今回のプロジェクトチーム「ライトパワープロジェクト」は、東海大学が2005年に設置した、社会人としての素養を身につけるためのプログラム「東海大学チャレンジセンター」という教育組織の活動の一貫として結成された。同プロジェクトは、学部を問わずメンバーを集い、ひとつのプロジェクトに取り組んでいくというもの。ソーラーカーのほか、18のプロジェクトが始動している。

東海大学 山田清 副学長

 「このプロジェクトに東海大学3万人の学生全員が関わるというわけではないが、大学の使命である教育と研究を、ソーラーカーという新たな技術に挑戦することで実現しようとしている」(東海大学 山田清 副学長)

 また木村教授は、今回のプロジェクトにより、太陽光エネルギーを広める狙いもあるという。

 「原発の事故や電力不足、計画停電などで、やはりこれからのエネルギーは、太陽光など再生可能なエネルギーが良い。特に日本では、人口が密集していることを考えると、(太陽光発電は)もっともっと拡大していい。日本が得意とする『創エネ』と『省エネ』、それを蓄える『蓄エネ』を結集して、ソーラーカーを作り、日本をすこしでも元気にしたい」(木村教授)


世界のライバル大学も続々参戦。東海大学が2連覇するチャンスは

 2011のワールド・ソーラー・チャレンジには、東海大学を含む42チームが参戦する。その中には、海外の有名大学によるライバルチームも数多く参戦する。

東海大学 工学部 動力機械工学科 3年 瀧淳一プロジェクトリーダー
 工学部 動力機械工学科 3年の瀧淳一プロジェクトリーダーは、ライバルチームとして、巨額の予算を持つオランダのデルフト工科大学、総勢100名以上のメンバーを擁するアメリカのミシガン大学、太陽電池の出力のみで世界最高速度を記録したオーストラリアのニュー・サウス・ウェールズ大学などを挙げた。

 「世界最高のソーラーカーを作り上げ、強豪チームと交流し、大会に連覇することで、日本を元気にしたい」(瀧リーダー)


世界各国の大学からも、ライバルチームが参戦している。オランダのデルフト大学チームは巨額な予算を抱えているというマサチューセッツ工科大学チームは、2009年のシリコン太陽電池クラスで2位に輝いている
アメリカ・スタンドフォード大学のチームは、出場チーム中で最も発電量が大きいという情報も瀧リーダーが掲げるワールド・ソーラー・チャレンジの抱負
 同大会には日本からも、芦屋大学、Team Okinawaの2チームも参加予定。木村教授は、「日本勢の中では芦屋大学が上位に来るはず。上位は、8チーム、または9チームの混戦になり、そのなかで頭ひとつが抜けたチームが優勝する」と予想した。

 木村教授は、レースに優勝するためのポイントとして「弱点が少ない、故障が少ないこと」が一番の要素とした。「太陽電池やバッテリー、モーターは直列に接続されているため、どこかが引っかかると、全体に問題が起きる」ことが理由という。

 レースに対する秘策としては、現地の日射量の推定シミュレーションを実施するという。

 「“この地域でこれだけの日射量がある”というデータをリアルタイムで、大学の情報技術センターより頂いている。情報については強化している」(木村教授)

レースのはソーラーカーのほか、たくさんの車が同行する衛星データを使用するなどのレース運行支援も行なわれる

ドライバーの篠塚建次郎氏も試乗に登場。注目のスタートは10月16日

 プロジェクト発表会の後には、湘南キャンパス内でTokai Challengerの試走も行なわれた。スピードは普通の乗用車と変わらない一方で、運転中のモーター音などはあまり聞こえず、タイヤとブレーキの音が大きく聞こえた。

運転中のようす高い場所からみたところ。途中でブレーキを掛けているのは、横断歩道があるため
試乗ドライバーはパリ・ダカール・ラリーへの挑戦で有名なリードライバーの篠塚建次郎氏が務めた。篠塚氏は本戦にも参加する

 試走のドライバーを務めたのは、同大学OBでラリードライバーの篠塚建次郎氏。篠塚氏は本戦のドライバーとして登録されている。篠塚氏は、チャレンジに当たって一番大切なこととして「チームのマネジメント」を指摘した。

 「初めて海外に行くメンバーもいるので、体調を管理できるか。アクシデントなく走れるか。(ソーラーカーと一緒に)サポートカーも何台も走るが、1つが止まると全部が止まる。ここがきっちりできてこそ、勝負に挑める」(篠塚氏)

 また、Tokai Callenger号については「パナソニックさんの太陽電池、東レさんのボティを採用しているだけあって、かなりのポテンシャルがある。本番までの間に、車をどうマネジメントするかも大切になるが、学生たちは非常にやる気が高く、ミスなく仕上がると考えている」とした。一方で、「ドライバーは4人登録をしており、皆レースの経験をしているが、気持ちの動きが上下するとミスが出る。平均して走れるかどうか、指示を出す通りに走れるかがポイントになる」と、挑戦を前に気を引き締めることも忘れなかった。

乗り込むには一苦労ハンドルには細かいボタンやモニターが付いている
コックピットを閉めたところタイヤは3つ運転中は非常に静か。加速のスピードも早い

 

プロジェクトの今後のスケジュール。本戦開始は10月16日

 プロジェクトチームの今後のスケジュールは、9月にソーラーカーを空輸し、10月初旬にオーストラリアへ出発。整備やテスト走行、予選を行なった後、16日から23日までレースが続けられる。総走行距離3,000kmを最も早く走ったチームが優勝となるが、プロジェクトチームでは20日中にゴールする見通しを立てている。







(正藤 慶一)

2011年8月25日 00:00