● デザインで生まれ変わった三洋
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三洋電機 アドバンスドデザインセンター所長 清水正人氏
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10月17日、東京の表参道で三洋電機のプライベートイベント「SANYO TG-Forum」が開催された。イベントでは、同社アドバンスドデザインセンター所長 清水正人氏の「環境のためにデザインは何ができる?」と題した講演が行なわれた。
講演では、いかに同社がデザイン改革を行ない、どのようにして環境に貢献しているのかを紹介した。大ヒット商品のeneloopによって既に「600億本」の乾電池を節約できたこと(すべて並べると地球と月を4往復できる長さになる)などのいくつかのおもしろい統計も紹介された。
講演によれば、3~4年前、同社の製品に対するイメージに関する市場調査を行なったところ、「品がない」、「デザインがバラバラ」、「ごちゃごちゃしている」、「ダサい」、「安っぽい」、「インテリアにあわない」など散々な回答が寄せられたという。
これを受け、同社では現状分析と目指す姿を明確にする必要を痛感し、その結果、「Think GAIA 地球といのちがよろこぶ商品創り」をブランドビジョンとして掲げることとなったという。
これに伴い組織も大幅に見直した。それまでは各製品開発部門に数人のデザイナーを置くという体制だったが、全社、全事業を串刺しするデザイン部門をつくり、部音横断的メンバーでのデザイン開発を行なう体制を整えた。例えばポーダブルナビゲーションシステム「Gorilla」のデザイナーがムービーカメラ「Xacti」のデザインに関わったり、といった具合だ。
こうした横断的な取り組みは、デザイナー自身のモチベーション・アップやスキル・アップにも貢献しているという。また、eneloopのヒットを生んだだけでなく、単発の製品として終わらせず、同じコンセプトを持った「eneloop universe」という製品群を生み出した。
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会社として一貫性のあるデザインを目指す
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日本のグッドデザイン大賞をはじめ、世界の著名なデザイン賞を受賞している
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eneloopだけでなく、他の製品もデザインしなおされている
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「eneloop universe」は、「eneloop」シリーズの商品群と、「eneloop universe products」と呼ばれる同社製の関連製品、そして「eneloop friend」と呼ばれる他社による関連製品によって構成される。
「eneloop universe product」には、新発売の両面が暖かくなる充電器も兼ねたカイロ「eneloop kairo(両面発熱)」や、膝などにかけて使う「eneloop softwarmer」、水の力で空気を洗う「eneloop air fresher」(12月1日に黒モデルが発売予定)などの自社製品がある。
一方、コラボ製品にあたる「eneloop friends」としては、KORGのハンディシンセサイザー「カオシレーター」やウィルコム社のどこでも無線LANスポットを実現する新製品「Mobile WiFi Station」(バッファローから発売予定)などを紹介したが、三洋電機がeneloop friendの筆頭に挙げたのは、タカラトミーだった。
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アドバンスドデザインセンターがデザインしたフラワーロック
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タカラトミーと三洋のコラボで生まれ変わった
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eneloopの販促品として生まれた犬のキャラクターをかたどった
電池チェッカー「eneloopy」は、タカラトミーが制作した
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「TG フォーラム」では、タカラトミー社開発本部戦略開発室室長の小林弘志氏も登壇し、両者が協力関係を結ぶきっかけとなった犬型のバッテリーチェッカー「eneloopy」開発の経緯から、eneloopの利用を前提にした世界最小の2足歩行ロボット「i-SOBOT」、そして「Flower Rock 2.0」を紹介した。
「Flower Rock」は、20年前の1988年に、世界で850万個を売った大ヒット商品だが、同社ではこの人気製品を復活させるにあたってサンヨーのアドバンスドデザインセンターにデザインを委託したという。
● MoMA
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eneloop universeの製品群
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実は今回のイベントでは、もう1つ重要な発表があった。三洋電機のeneloop universeの製品がニューヨーク近代美術館のミュージアムショップ、「MoMA Design Store」に展示されることが決まったのだ。このため、今回の「TGフォーラム」もまもなく1周年を迎える「MoMA Design Store」東京のあるビルの地下で行なわれた。
「MoMA Design Store」は、同美術館のキュレーターが世界を歩き回って見つけた、優れたデザインの製品だけを厳選したショップであり、メーカーが頼んで商品を置いてくれる場ではない。今回、「MoMA Design Store」では、三洋の「eneloop universe」のアイディア全体を高く評価し、「eneloop universe product」すべてを店頭に並べることになった。
これを記念して同社では11月4日までの期間は店舗の一角に特設コーナーを設けて、商品群として展示するという。
店内ではプロジェクターを使った店内表示でも、さまざまなeneloop productsのデザインコンセプト画が披露されていた。
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電子楽器メーカー、コルグともコラボレーションしている
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MoMAのショップに、eneloop universeの製品が置かれることになった
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MoMAストアの特設コーナー
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一定期間、特設コーナーを設けて、商品群として展示するという
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● ミュージシャンにも拡がるeneloop
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ギタリストの吉田次郎氏
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「TGフォーラム」の第2部では、グラミー賞にノミネートされたこともあるギタリスト、吉田次郎氏のミニライブも行なわれ、吉田氏と三洋電機の本間充氏によるトークセッションも行なわれた。
吉田氏によれば、今日では、ギター、エフェクター、チューナーなどあらゆる楽器で乾電池が使われているという。以前は、ライブの度に新しい乾電池を用意し、ライブが終わるとその乾電池を捨てていた吉田氏だが、そのことに対して常に後ろめたさを感じ、そんな時に出会ったのがeneloopだったという。
それまでの通常の充電池では、電圧の弱さや急激な変化が音に影響を及ぼす心配があり、プロのパフォーマンスには使うことができなかったが、 eneloopではそうした問題がない。この発見の後、吉田氏は自ら三洋電機を訪れeneloopの詳細について取材をしたという。そしてeneloop なら大丈夫という確信を得た吉田氏は、以来、音楽雑誌などを通して積極的に他のミュージシャンにもeneloopの利用を呼びかけている。
吉田氏は「電池の持続性、毎日持ち歩ける携帯性もさることながら、一目で分かるデザインと、私たちが求める電池の理想を全て充たしてくれている」とeneloopを評価している。
一方で、三洋電機では吉田次郎氏をeneloop friendとして掲げている。
なお、eneloop friendsとして紹介されたKORGのカオシレーターとタカラトミーのFLOWER ROCK 2.0は、eneloopと共に10月25日、26日に開催される楽器フェスティバルに出展する。
また10月31日には、MoMA Design Storeで開店1周年記念のイベントが行なわれる。また同店周辺の青山一帯では10月30日(木)から11月3日まで東京デザイナーズウィークが開催される予定で、世界中のトップデザイナーがこのエリアに集まる予定だ。
洞爺湖サミットでは世界の首脳陣や環境系のマスコミへのアピールをしたeneloopだが、この秋は同社に大きな方向転換をもたらしたデザインの分野でアピールを図るようだ。
■URL
三洋電機
http://www.sanyo.co.jp/
eneloop 製品情報
http://www.sanyo.co.jp/eneloop/
MoMAストア
http://www.momastore.jp/
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・ 家電業界デザイナーインタビュー 第3回:三洋電機(2007/12/19)
・ 「eneloop universe products」が2007年度グッドデザイン大賞を受賞(2007/10/26)
( 林 信行 )
2008/10/20 17:54
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