ミラノサローネのキッチン用品展、「Eurocucina」で見たシステムキッチンのトレンドをお伝えしている。前編では、LED照明やIHといった技術的なトレンドを紹介したが、後編では、そうした技術によって可能になったキッチンデザインのトレンドを紹介していこう。
もっとも、同展の出展者は135社もあり、それぞれが廉価デザインやクラシック、モダンそしてデザイナーブランドのキッチンなど複数のキッチンソリューションを展示しているのだから、全体を総括するトレンドを見つけ出すことは難しい。キッチンの横にそのままダイニングキッチンをくっつけた長い直線基調のキッチンが目立った一方で、調理者の周りをぐるっと円形に囲むキッチン、シェフが対話をしながら向かい合わせで調理できるS字型のキッチンなど形も千差万別。白いキッチンが多いかと思えば、木目やビビッドなカラーのキッチンも少なくない。技術革新で、コンロが薄型のIHに変わるなどの技術革新を受け、キッチンデザインのバリエーションも豊かになってきているというのが本当のところだろう。
後から家具を入れ替えるだけで雰囲気が変わるリビングや書斎と違って、キッチンやバス、トイレ周りは、一度、作ってしまうとなかなか変更することができない。それだけに家の顔であり、その家の主のライフスタイルの象徴といった側面もある。
従来通りのキッチンをただ使いやすくするだけでなく、一家が、そしてパーティーで集まった友人達が集まってくる場所として、これからのキッチンのあり方、キッチンを中心としたライフスタイルやコミュニケーションスタイルを提案する会社も多かった。
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30年の歴史を持つキッチンデザイナー、MK kitchen designは、メタル、ウッドといった素材を巧みに使い直線基調が美しいキッチンを展示。こちらはキッチンの横にアルミの1枚板のハイカウンターをくっつけたキッチン
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MK Kitchenのブースの中央に展示されていたのは、横長のキッチンに天然木から削りだしたハイカウンター(根元部分がキッチンにしっかり固定されているため、支柱がなく宙に浮いて見える)を組み合わせた超ワイド型キッチン。同社はキッチンを中心にした新しい対話の場、新しいライフスタイルづくりを提案している
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50年の歴史を持つキッチンデザイナー、Pedini。最近ではリサイクル素材の活用で定評があるが、同社の人気ラインが調理者を取り囲むような円形にデザインされたArtikaシリーズ
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フェラーリなどを連想させる、ビビッドな赤で統一したCOLOMBINIのキッチン
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モダンアートのようなポップな色使いが楽しいLAGOのキッチン
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展示されていた冷蔵庫の中には、食べ物の変わりに本が入っていた。展示の仕方までアーティスティックだ
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● キッチンに革命を
今、キッチンに起きている変化で、もっとも重要なのが、前編でも紹介したIH採用とタッチパネル操作による「フラット革命」だ。
IHでキッチン台の上は、巨大な1枚の板のようにフラットになり、タッチパネルの採用で側面のボタンによる凹凸も消えた。
耐熱対策が大変だった内部配線もタッチパネル操作と無線通信技術によって、オーブンの扉も薄くなり、配管技術の向上で、キッチンシンクもかなり薄型のものが登場している(使い勝手には疑問が残るが、見た目はかっこいい)。
フラット化が進む最大の理由は、メンテナンス性の向上、つまり「拭きやすさ」だが、実はこのフラット化によって、それ以外にも副次的なトレンドが生まれている。キッチンというスペースの再定義だ。
これには2つの方向性がある。
1つは、先のMK Kitchen Designに見るようなキッチンという「部屋」の再定義だ。調理者だけをキッチンという場に隔離してしまうのではなく、キッチンという場を中心に、新しい家庭内コミュニケーションを生みだそうという方向性、そしてもう1つは、使い終わったら所帯臭さを感じさせるキッチンという存在を消してしまおうという方向性だ。
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LINEA QUATTROは、使い終わったら蓋をして隠してしまうキッチンを提案。シンクやIHクッキングヒーターなど、すべてを木材の蓋で覆い隠してしまう
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DADAはキッチン横のグラス棚を薄型テレビと一緒に隠せるような提案をしていた
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Binovaは食器や、調理器具が並べられた壁面に電動モーターをつけて昇降できるようにしていた。この棚を降ろすとリビングとキッチンがつながる
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「消すキッチン」という方向性の究極の形は、こちらの記事で触れたIndesitのKUBIKに体現されているが、それ以外にも料理が終わった後のシンクや調理台に蓋をかぶせようとしたものが多かった。
中には、このキッチンを隠す機構として電動式モーターを活用しているものもある。タッチボタンなどを押すと戸棚の戸が降りてきたりするのだ。
またキッチン全体ではなく、特定の調理器具だけを電動式モーターで隠すケースもある。例えばキッチン家電の後編でも紹介したように、普段は調理台として活用している部分が、調理が終わってスイッチを入れると迫り出して、フードウォーマーになるといったものがある。
またキッチン家電同様に薄型化が進んだテレビにスイッチで出し入れできる昇降機能をつけているものもあった。
キッチンを覆い隠すわけではないが、リビングとキッチンの間のしきりを昇降させる提案もあった。
主婦(や主夫)が多くの時間を過ごすキッチンにテレビを置くという提案も少なからずあったが、これも調理器具同様にテレビのフラット化、薄型化が進んだおかげで、キッチンの構成パーツとして使いやすくなったためだろう。
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Binovaの昇降型キッチンをリビング側から見たところ。薄型テレビが埋め込まれたバーカウンターになっている
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見た目の退屈なIHクッキングヒーターをどうやってなじませるかも各社が取り組んでいた課題の1つだ。Miele Die Kuche(Mieleから独立したスイスの会社)は、IHヒーターを四角いユニットとして組み込むのではなく、ヒーター部をキッチン台になじませる提案
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DICAも同様にヒーターの丸い部分だけをキッチン台になじませる提案をしていた
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Miele Die Kucheのさらに進んだ提案はキッチン台そのものをIHヒーターに近い黒のプラスチック素材にすること。これでヒーターがさらになじむ
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ヨーロッパ人がここまでIHヒーターの美観にこだわるのは、ヨーロッパのガスコンロが芸術品のように美しいからという理由もあるのかもしれない。これはGicinqueのガスコンロ
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これはDoimo Cucineのガスコンロ。シンプルな美しさとメンテナンスのしやすさを兼ね備えている
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フラットテレビのキッチン進出が進んでいる。MK kitchen designはアルミの調理台にアルミフレームのテレビをなじませていた。テレビには収納機能はないが、奥に見えるフードウァーマーはスイッチで昇降して隠れる
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ARaerreによるキッチン用テレビの提案
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その他にもいくつかおもしろい試みがあったので、以下では写真で紹介しよう。
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PEDINIは、薄さを強調したキッチンを提案。シンクの右側に薄型化が可能な機能を集約し、足下の空間の開放感を強調した
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Eurocucina展ではないが、Boffiはミラノ市内の同社ショールームで、電動開閉式のキッチンを展示
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シンクなどの機能を開閉式の扉で隠すことができる
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Boffiの開閉式キッチンは側面がタッチセンサー式のスイッチになっている。この何もない真っ白な側面をしばらく触れていると開閉が始まる。無粋なスイッチまで廃してしまおうという発想だ。なお、リモコン操作もできる
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Boffiはキッチンシンクにも蓋を用意して使い終わった後、隠せるようにしている
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■URL
ミラノサローネ公式ページ
http://www.milanosalone.jp/
ミラノサローネ2008レポートリンク集
http://kaden.watch.impress.co.jp/static/link/event_salone.htm
( 林 信行/編集部 )
2008/04/24 13:13
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