家電製品ミニレビュー

三洋電機「eneloop plus」

~ショートしても発熱しない秘密は? 普通のエネループと比較
by 藤山 哲人
三洋電機「eneloop plus(エネループ プラス)」

 三洋電機が発売するニッケル水素電池シリーズ「eneloop(エネループ)」に、2011年末から新たに「eneloop plus(エネループ プラス)」という電池が加わった。

 eneloopとeneloop plusの一番の違いは「安全性」だ。一般的な電池は、誤った使い方をすると、誤作動や大電流が発生する「ショート(短絡)」という現象が起こり、電池が異常発熱したり、電池が爆発する恐れがある。

 だがこのeneloop plusでは、後に詳述する「PTC」を搭載することで、たとえショートが起きても、異常発熱や爆発の恐れがないというのだ。そのため製品のリリースには「子ども向けのおもちゃ用に最適」と記載されている。

eneloop plusのパッケージ。plusのイメージカラーとなっている白が目印だ本家のeneloopの性能はそのままに、ショートさせても発熱せず、子どものオモチャ用として安全に使えるeneloop plus

 しかし実際のところ、その安全性とはいかほどのものなのだろうか。この記事では、plusが熱くならないしくみの紹介と、実際にショートさせてみて本当に熱くならないのかなど、その安全性を確かめてみた。

 なお、eneloop plusの基本スペックは、通常のeneloopと同等。実売価格は、4本セットで1,600円前後となっている。通常のeneloopで4本1,300円前後なので、安全性を300円(1本当たり75円)で買っているという勘定だ。


メーカー三洋電機
製品名eneloop plus(エネループ プラス)
HR-3UPT-2BP(2個入り)
希望小売価格オープンプライス
購入店舗Amazon.co.jp
購入価格980円


eneloopはショートさせると120℃近くまで熱くなる! 

 eneloop plusの安全性を確かめるには、通常のeneloopとplusをそれぞれショートさせて、いったい何℃まで加熱するのかを比較する必要がある。

 というわけで、まず通常のeneloopをショートさせてみた。乾電池をショートさせるのは、筆者もはじめての経験なので、防護メガネに手袋、防護ケースなどを使い、十分な安全対策をとって実験に臨んだ。

■■注意■■

・電池はショートさせると加熱するだけでなく、爆発する恐れもあります。この実験では十分な安全を配慮して行なっていますので、決して真似をしないようにしてください。
・分解/改造を行なった場合、メーカーの保証は受けられなくなります。
・この記事を読んで行なった行為(分解など)によって、生じた損害は筆者および、家電Watch編集部、メーカー、購入したショップもその責を負いません。
・内部構造などに関する記述は記事作成に使用した個体に関してのものであり、すべての製品について共通であるとは限りません
・筆者および家電Watch編集部では、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。

実験装置はこんな感じ。銅版と板を使って耐熱の電池ボックスを作成した。電池左側のメーターは温度を示し、右側は電流を示している。机が汚いのはゴメンナサイ!

 実験装置は、右の写真のようなもの。測定器がたくさんついているのでややこしく見えるが、2本の電池を直列につなぎ2.4Vとして、電池のプラスとマイナスを電線で直結し、ショートする状態にしている。

 いよいよ実験本番。通常のeneloopをセットして実験開始すると、電池が急激に熱を持ち始め、およそ7分で100℃に達した。電流は13~14Aも流れている。電圧こそ違うが、電子レンジや大型のオープントースター並みの大電流だ。

 その後も温度は上昇し続け、9分を過ぎたあたりで、最高114℃まで上がった。しかしその時点では電池はほぼ使い尽くされ、電流も8Aまで落ちる。10分も経つとほぼ電池切れの状態になり、電流も1A以下まで落ち込み、それに伴い電池の温度も徐々に常温に戻っている。


グラフ中の「PTC」とは、eneloop plusの中に入っている電流を抑制する素子のこと。詳しくは本文で後述する

eneloopの実験中の動画

 これがもし、実際の使用シーンで起きたらどうだろう。大人であれば、100℃以上になった電池に触れた瞬間、反射的に手を離せるだろうが、子どもの場合反射的に手を離せなかったりする。実際に筆者の娘は、幼稚園に上がる前に裸電球を手で掴み、大きな水ぶくれができてしまい、1週間以上通院したなんてこともあった。


eneloop plusは最高でも使い捨てカイロ程度しか熱くならない

ここからはeneloop plusの実験に移る。爆発の危険性はなさそうなので、防護ケースは外して実験

 というわけで、電池の発熱抑制機構を持たない通常のeneloopでは、最高114℃まで熱くなった。しかしeneloop plusは、メーカー曰く「PTCという素子を組み込んでいるため熱くならない」という。果たして本当だろうか。ここからはeneloop plusの実験に移ろう。

 スイッチを入れeneloop plusをショートさせると、2秒ほど、eneloopの時と同じ14Aほどの電流が流れる。しかし、すぐに電流が0.5Aまで降下して、電池の温度は常温の25℃のままになる。確かに、温度は上がっていない。

 そこで8分になった時点で、いったんスイッチを切り入れなおしてみると、PTCがリセットされたようで、再び電流が流れるようになる。


グラフは8分の時点で2つに分かれている。8分の時点では、いったんスイッチを切ってもう一度スイッチを入れ直している。これでPTCはリセットされ、再び5A程度の電流が流れている


eneloop plusでの実験中の動画

 しかしeneloopのように、14Aも流れることはなく、最大で5A程度にとどまった。しばらく5A程度の状態が続くと、電池の温度は次第に上がり、22分ごろになると60℃ほどになった(オレンジの線)。すると、それまで5A流れていた電流は、スルスルと降下して0.2A程度まで落ちてゆく(青い線)。これは再びPTCが機能して、電池の温度が上がったために電流を抑制しているからだ。

 実験の結果、eneloop plusは最大で63℃まで熱くなった。この63℃というのは高温に感じるかもしれないが、使い捨てカイロとほぼ同じ熱さ。長時間触れていれば火傷する恐れもあるが、比較的安全な温度と言えるだろう。なにより通常のeneloopの114℃と比べれば、圧倒的に温度は低い。


発熱しない秘密はPTCという小さなブレーカー

 eneloop plusにあってeneloopにないもの、それが極々小さなブレーカーの役割をする正式名称「ポリマーPTC(Positive Temperature Coefficient)」という素子だ。

 このPTCは、例えるなら電池におけるブレーカーみたいなものだ。一般家庭にあるブレーカーは、ホットプレートと電子レンジ、ドライヤーなどを同時に使い、規定の電流以上の大電流が流れると(一般的にはおよそ20A)、自動的にOFFになり、電気が遮断される。PTCもほぼ同じような働きをして、大電流が流れるとPTCがそれを検知して、電気をほぼ遮断するようになっている。

電子パーツ店などでも入手できるPTC。eneloop plusに入っているPTCは、極小サイズのもの。中には電気をよく通す物質と、電気を通さない樹脂が封入されていて、熱により樹脂が溶け出すと電気を通す物質の間に溶け出した樹脂が入り込み、電気が通りにくくなる

 PTCは常温では電気をよく通す(抵抗が小さい)が、温度が上がると急激に電気を通さなく(抵抗が大きく)なるという性質があり、床暖房やホットカーペットの過熱防止などにも使われている。eneloop plusで使われているポリマーPTCは、写真よりももっと小さいものだが、電池の内部に仕込まれていて、先のグラフからも分かるとおり、およそ60℃になると電気を通しにくくなるようだ。

 さて似たような機能をするブレーカーは、落ちる(電気が遮断)されると、再びスイッチをONにしてやる必要があるが、PTCは温度によってスイッチがON/OFFするため、リセットする必要がないというのも特徴。eneloop plusの先のグラフでは、8分経過したところでいったんスイッチを切って、再びONにすると、電気が流れはじめている。

 つまりeneloop plusはたとえショートさせてしまっても、温度は常温のまま、もしくは60℃近くまで上昇するが、ショートに気づいてスイッチをOFFしたり、電池を取り出して常温まで冷やせば、元通り電気が流れるのだ。結果、たとえショートさせてしまっても、電池がほとんど劣化しないというのも、eneloop plusの特徴と言えるだろう。

 なお、eneloop plusが発熱しない理由については、過去に筆者が記した「そこが知りたい家電の新技術 開発者に聞く ニッケル水素電池「eneloop」がやっぱりスゴい理由」の取材記事で触れている。ご興味のある方は、こちらもご覧いただきたい。


ショート後のeneloopは使用禁止! plusは継続しても大丈夫そう

 ここまでeneloopとeneloop plusのショート実験をしてきたが、確認したのは温度と電流のグラフだけ。実際の電池の様子はどうなっちゃうのかというと、こーなっちゃうのだ! 

上が新品の電池、下がショートして120℃近くまで発熱した電池。シールがボロボロになっているのが分かる熱でシールが縮んでしまい、中の金属ケースが一部露出してしまっている
熱で加熱されたシールはボロボロになり、手で擦るとポロポロとはがれてしまうシールが収縮してプラス端子に近い場所から、マイナス端子につながる金属ケースが露出(○印のところ)してしまっている

 114℃以上まで熱せられたeneloopは、そのシールが劣化してポロポロと剥がれるだけでなく、シールが縮んで側面から金属のケースが見えてしまっている。しかも、側面の金属ケースはマイナス側とつながっているので、プラス側に近いところのシールが剥がれると、ショートしやすくなってしまう。もし、電池がショートしてしまって、シールがこのように剥がれたら、使用は控えたほうが良い。

 一方のeneloop plusは、外傷はまったくなし。さすがに安全に配慮されたニッケル水素電池と言っていいだろう。

最大で63℃までいったものの、シールに影響はまったく見られず、外観は無傷のまま

 ショートさせたeneloopとeneloop plusは、見た目にかなりの差が出たが、電池としての性能はどう変化したのかを確認したところ、次のグラフのようになった。なお、ショート前のeneloopとeneloop plusの曲線はほとんど同じなので、グラフ中ではeneloop plusの線を細くしてある。

eneloopとeneloop plusのショート前後の電池寿命比較

 ショート後のeneloop plusは5時間3分で寿命を迎えているが、ショート前と比べると5分(1.6%)しか違わないので、ほぼ誤差レベルと考えてもいいだろう。

 一方ショート後のeneloop(水色の線)は、4時間54分で寿命となっており、ショート前と比べると14分(4.5%)となった。plusに比べると劣化しているようだ。なにより、シールが剥げた状態の電池は、使わない方が良いだろう。


eneloop plusは、安全面でもコスト的にも、乾電池より優れている!

 今回の実験では、電池をショートさせると120℃近く発熱するという結果に驚かされたが、その一方で、eneloop plusの、まったく温度が変わらない、もしくは発熱しても使い捨てカイロ程度の60℃程度にしかならないという安全性の高さにも驚かされた。

 通常のeneloopに比べると、eneloop plusは75円ほど高くなるが、この安全性を買っていると思えば安い買い物だろう。子供のおもちゃ用に使えば火傷の心配がなくなるだけでなく、マイコンを内蔵した高価なおもちゃを熱で溶かしてしまうこともない。eneloop plusは1800回繰り返し充電して使えるので、電池2本と充電器や充電に必要な電気代を含めたとしても、1回あたりのコストはわずか約2円程度。乾電池の場合は、たとえ100円ショップの激安品でも1本25円となり割高なうえに、発熱防止機能は一切ないのだ。

 つまりeneloop plusは、安全面でもコスト的にも、乾電池より優れている!

 子供向け以外にも、電池をケースに入れて歩くのが面倒、という場合にもeneloop plusをオススメしたい。1本75円の差が、万が一カバンの中でショートしてしまったときの保険になるからだ。






2012年2月10日 00:00