藤本健のソーラーリポート

FIT制度が終了した今、99万円と安価なテスラの家庭用蓄電池「Powerwall」の導入を考える

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)

 先月11月から、国内でもFIT制度が終了し、古くから太陽光発電をしてきた人にとっては、厳しい時代に突入した。先週、筆者の自宅にも単価変更後の売電伝票が初めて届き、そのあまりの少額さに、改めてFITが終了したことを感じたところだ。

 今後、発電した電気をいかに有効的に自家利用するかが求められるわけだが、そのキーとなるものの1つがバッテリーだ。各社とも、太陽電池本体よりも高額なバッテリーを販売している中、驚異的な低価格で、太陽光発電と連携可能なバッテリーを出すメーカーが現れた。

 そう、電気自動車メーカーである米・テスラだ。「Powerwall(パワーウォール)」というバッテリーは、13.5kWhの容量で99万円(税・工事費別)という価格で、kWh単位の価格で見れば国内メーカー製品の1/4程度と、破壊的な安さを実現しているのだ。

 先日パシフィコ横浜で開催された「ET&IoT Technology 2019」に、同製品が展示されていた。そこで、Powerwallは実際に国内の太陽光発電ユーザーにとって使えるものなのかなど、いろいろと話を伺ってきた。

テスラのホームバッテリー「Powerwall」
メーカー名テスラモーターズ
製品名Powerwall
価格990,000円(税・工事費別)
パシフィコ横浜で開催されたET&IoT Technology
テスラの電気自動車

安価な「Powerwall」、実際の導入コストは

 ご存知の方も多いと思うが、「Powerwall」はテスラの家庭用バッテリーとして2015年に発表され、その後ずっと品薄状態が続く大ヒットとなっていた。2016年10月に新バージョンである「POWERWALL 2」がリリースされるとともに国内でも予約サイトが登場し、当初は65,100円の予約金を支払うと、予約可能という状態だった。

 筆者も非常に気になりつつも、Powerwallとはどんなスペックの製品なのか、国内仕様と海外仕様に違いがあるのか、そしていつ設置されるのか、といった情報が何もなかったため、予約する勇気をもてなかったのが実情だ。

 そのPowerwallが2019年10月15日、ついに国内でも正式発表され、来春から発売されることになった。容量は13.5kWhで99万円という圧倒的な低価格であり、卒FITユーザーにとっては非常に魅力的に見えるバッテリーだ。国内他社製品と比較して約1/4という価格は、テスラ以外選択肢はない、と思えるほど魅力的だが、報道されている内容だけでは、よく分からないこともいっぱい。

来春から日本国内でPowerwallの購入が可能に

 卒FITユーザーに限らず、日本の住宅で太陽電池を設置しているユーザーにとって本当に使えるものなのか、元を取ることが可能な価格なのか、制限などはないのか……などなど、太陽光発電システムユーザーとして気になることを片っ端から聞いてきたので、順に見ていこう。

 まず、その本体はとってもシンプルなもので、スマートな白いボックスタイプ。サイズ的には、755x155x1150mm(幅×奥行き×高さ)で114kgの本体と、Backup Gatewayという配電盤に接続するシステム(380x127x884mm(同)、11.4kg)の2つで構成される。

厚さは155mmとスリムな設計
本体サイズ詳細

 この本体は基本的に屋外へ設置するものだが、北海道などの寒冷地においては屋内への設置もできるようになっているとのことで、-20~50℃の気温の範囲で使えるという。

 4年前のアメリカでのリリース時は、6,500ドルと常識外れの低価格であったことから大きく注目されたが、現在のPowerwall 2も6,500ドル。国内販売価格の99万円は、他社メーカーと比較して激安とはいえ、アメリカ価格と比較するとやや割高なのでは……とも思ったが、6,500ドルはPowerwall 2本体のみの価格であって、Backup Gatewayは別売で1,100ドル。

 両方を合わせると7,600ドルなので、現在のドル円レートでは約83万円となる。日本国内仕様に合わせて変更を行なっていることや、輸送コストなどを考えると、99万円は悪くない価格といえそうだ。

 ちなみに99万円の内訳はPowerwallが825,000円で、Backup Gatewayが165,000円となっている。なお、国内ではPowerwallという名称だが、実際には海外で販売中のPowerwall 2と同じもの。国内で初代のPowerwallは発売されなかったため、初めての発売においてPowerwall 2という名前は妙ということで、Powerwallという名称にしたそうだ。

 一方で気になるのが、施工費を入れた実際の導入価格。これについては導入する家庭によって違いが出てくる。床置きにするか、壁掛けにするかなどによって差はあるが、だいたい50万円程度になるのではないか、とのこと。

 したがってPowerwallを実際に導入するには、150万円∔税を見込んでおくのがよさそうだ。そうはいっても、国内製品でも工事費は別途かかるわけで、トータルで見ても断然安い。何か落とし穴があったりはしないのだろうか?

HEMS機能ももちろん搭載。国内メーカーに劣らない充実機能

 まず一番重要な太陽光発電システムとの組み合わせ、相性についてだが、展示会場の説明員の話によれば、国内のどのメーカーの製品でも基本的に組み合わせ可能とのこと。分電盤を介してPowerwallおよびコントローラであるBackup Gatewayに接続するだけで、特殊な接続や工事があるわけではないので、太陽光発電システムのメーカーや製品を選ばないという。

 この接続によって、Powerwallは分電盤全体を最大80Aまでバックアップすることができるため、もし系統電力が停電になっても、自動的にPowerwallへ切り替わり、ユーザーはまったく気づくことなく電気が使えるとのこと。13.5kWhの容量は4人世帯の約1日分の電力に相当するため、1日程度の停電であれば何ら不自由なく過ごせるという。

 ちなみにPowerwallからの出力は連続運転で5kW、最大ピークで7kWと大きく、電子レンジやドライヤーなども利用可能だ。また前述の通り分電盤全体をバックアップするため、エアコンやIHクッキングヒーターなど200Vの電化製品なども、そのまま利用できるのは大きなメリットだ。

 もちろん長期の停電になればユーザーにも節電が求められるが、日中晴れていれば、太陽光発電でPowerwallへ充電することが可能なので、かなり余裕をもった使い方ができそうだ。

 ところで、国内メーカーの太陽光発電と連携する蓄電池はAI機能などが搭載されており、天気や気温などに応じて賢く充放電してくれる仕組みになっているが、その辺、Powerwallはどうなっているのだろうか?

 まず充放電に関する各種制御を行なうのがBackup Gatewayの役割であり、ここにはHEMS機能ももちろん備わっている。そしてスマートフォン用の専用アプリである「Tesla app」を利用することで、いつでも、どこでも、Powerwallや太陽光発電システムの稼働状況、家庭内の電気の使用状況などをモニターできる。さらに「Tesla app」から運転モードの設定の変更も可能になっている。

スマホ用アプリ「Tesla app」で、外出先から稼働状況などを確認できる
家庭内の電気の使用状況
アプリ上で運転モードの変更も可能

 この運転モードというのが重要なポイントで、セルフパワーモード、バックアップ専用モード、詳細設定モードという3つのモードが存在する。まずセルフパワーモードは、発電した電気をできる限り自家消費し、CO2排出をできる限り抑えるためのモード。国内でもグリーンモードなどとして打ち出しているメーカーがあるが、それと同様のものだ。

 一方、バックアップ専用モードというのは、常にバッテリーを満充電状態にしておくもの。いざというときのために確実に備えておくことを目的にしたモードだ。

 それに対し、詳細設定モードは、時間帯別の電気料金の情報、売電価格情報などを設定しておくことで、それに合わせたもっともバランスの良い売買電を行ない、エネルギーコストを下げるためのモード。どう使うかはユーザー次第だが、これらをうまく使うことで効率よくPowerwallを活用できそうだ。

時間帯別に売電価格情報を設定することで、バランス良く売買電できる

 アメリカではオプションモードとしてStorm Watchというモードを備えている。これはハリケーンなどの暴風雨が来る前にPowerwallを最大容量まで充電し、万が一に備えるという機能。

 アメリカ国立気象局と通信でやりとりしながら、暴風雨などがいつくるかを予測しつつ、Storm Watchを自動的に起動させるようになっているのだ。国内版では現在は利用できないが、今後同様の機能を持つ「暴風雨警告機能」を実現できるよう準備を進めているという。

暴風雨に備えてPowerwallを最大容量まで充電する「暴風雨警告機能」を搭載予定

国内で「Powerwall」を導入するにあたって、デメリットは1つもない

 それにしても、国内メーカーのバッテリーとどうしてここまでの価格差が生じるのか。展示場にいた担当者は、テスラは1社で採算から流通まですべてを扱っていること、世界規模でビジネス展開していること、また電気自動車を含むトータルビジネスで展開していることから安く生産できるのだ、と話す。

 採用しているバッテリーの詳細は非公開とのことだが、パナソニックとの合弁会社であるアメリカ・ネバダ州にあるギガファクトリーで生産しているものだという。

 ここまで聞いた限りでは、国内メーカーの蓄電池と比較してデメリットになるところがまったく見当たらない。しかも、もし13.5kWhでは物足りないという場合は、最大10台まで拡張可能だというから、容量面でも向かうところ敵なし。

 もちろん、価格面や太陽光発電システムの容量とのバランスを考えて、むやみに拡張することもないとは思うが、バッテリーを1台追加して27kWhという莫大なものになっても、工事費込みで240万円程度で入手できるのだから、今後はテスラの一人勝ちになるのではないだろうか?

 ただし、国内メーカー製品とはいくつか異なる点があるので、その点を整理しておこう。まずパワコンはPowerwall本体の中にあり、太陽光発電用のものとはまったく別で独立しているという点。国内メーカーのものも別であることがほとんどだが、太陽光発電用のパワコンと有機的な連携を行なうわけではない。

パワーコンディショナーはPowerwallの本体に内蔵されている

 それに関連し、電気自動車との有機的連携機能、いわゆるVtoH(Vehicle to Home)には対応していない。たとえテスラの電気自動車を導入しても、自動車に貯めた電気を家庭に送ることはできない。もっとも、Powerwallに貯めた電気を自動車の充電に使うことは可能とのことだ。

 また国内メーカーでは、蓄電池と太陽光発電システムの両製品を揃えているが、現時点でテスラは、国内での太陽光発電システムの販売をアナウンスしていない。アメリカでは先日「Solarglass Roof」というデザイン性に優れた太陽電池をリリースし話題になっていたが、日本国内への導入はもう少し先になりそうだ。

 展示会の担当者によれば、ぜひ太陽光発電は日本でも展開したいと思っているが、まずはPowerwallが先であり、当面は他社製品の太陽光発電と連携させることになる、とのことだ。

 前述の通り、実際の発売や設置スタートは来春で、これまでに5万~6万円強の予約金を支払ったユーザーから優先で設置していくとのこと。現在はもう予約金が不要で、すぐに予約できるという。今年6月までに、世界中50,000カ所での設置実績があり、国内でもスムースに設置していけるはずだと担当者は話す。

 そう聞くとすぐにでも予約しようという思いと、安いとはいえ150万円もかかるとなると、元を取るのはかなり難しいという計算で悩むところ。まずは実際の設置例などを見ながら検討しようと考えている。

藤本 健