トピック

水だけでウイルス対策!? ヒントは「滝」そのしくみを取材した

プルガティオ社のmoya Craftは、水だけでウイルス対策を行なうという製品

空気をキレイにするといえば、菌やウイルスをフィルターで濾し取る「空気清浄機」が一般的だ。最近は、独自の粒子やイオンを空間に放出して、空気中の浮遊菌を抑制する機能を持った家電も登場している。

そこに、「水だけでウイルスを減少させる“ウイルスリデューサー”」という製品が2025年末に登場。それがプルガティオ社が発売する「moya」シリーズだ。

「いやいや、水だけを空間に放出するのは“加湿器”でしょ?」ということで、その真偽を確かめたら、実はいろいろ興味深い部分があったので取材してきた。

moya Craftは水しか使わない
編集部注

本記事はメーカーの試験環境(密閉空間)における実証実験をもとに構成しており、実生活空間での効果を保証するものではありません。また、ウイルス抑制のメカニズムをはじめ、一部にメーカー側で現在も研究・検証中の技術が含まれています

純水をナノサイズまで粉砕

「プルガティオ」という会社名はほとんど知られていない。実は加湿器でおなじみの国内メーカーの元役員が独立して立ち上げた会社だ。プルガティオの製品であるmoyaは、大手ゼネコンの株式会社安藤・間(あんどう・はざま)と共同開発を行なっている。

プルガティオの森久康彦 代表取締役。右側の大きな初代「moya Ultra」(プレハブ44畳まで)と小型化した「moya Craft」(プレハブ13畳まで)のスケルトンモデルでしくみを説明

しかしなぜゼネコンがウイルス対策機器を? と思う人も多いだろう。昨今のコンクリートは経年劣化でひび割れなどが生じても、コンクリート中に菌を混入させておき、ひびから酸素と水が入るとその菌が活性化。菌は炭酸カルシウム(石灰)を排出するため、ヒビ割れが自動修復できる。つまり同社は、建築・土木のプロかつ、菌やバイオの先端技術も持っているのだ。

そして両社が共同開発したのが、水道水をナノレベルまで粉砕して、菌にアプローチするという“moya”だ。

moyaには菌を濾し取るフィルターも、イオンを発生する放電ユニットもなく、薬剤も一切使用しない。使うのは「水」だけ。

moyaの中では水をナノレベルまで粉砕して、極小のミストを作り部屋に送り出す

基本的な原理は「水道水をナノレベルのミストまで粉砕する」こと。つまり超音波加湿器のスゴいバージョンともいえる。

水をどのように変化させる?

プルガティオの森久代表取締役によれば、「最終的に菌を無効化するのはマイナスイオンこと『空気イオン』ではないか?」という。断定できないのは、ウイルスを不活性化する実証は得られたが、原理はまだ研究中であるためだとしている。

ここでは「マイナスイオン」という仮定のもと、水道水からマイナスイオンを発生させる工程を説明してもらった。工程は全部で5つあり、家電メーカーの放電を使ったイオン発生とは少し異なるようだ。

水道水を濾して純水にする

森林や滝の近くに行くと、マイナスイオンが多く存在するという学術結果がある。後述するが、川の水が滝などで粉々に粉砕されると、水滴の表面に張り付いているマイナス電子が衝撃で飛び出し、周りの空気に付着することで空気イオン(マイナスイオン)が発生する。マイナスと対になっている水滴の内側のプラスは、そのまま水に付着したまま落下するため、まわりの空気はほとんどがマイナスイオンになるそうだ。

しかし川の水に不純物が多く含まれていると、マイナスイオンが発生しない、もしくはしづらくなる。

moyaは、専用カートリッジによってミネラル分などを除去して、水道水を純水にしている。なおmoyaのカートリッジ交換の目安は、不純物が多い水道水の場合は1カ月、最長6カ月ということだ。

上部から水を注ぐことで純水を生成する

超音波で水を粉砕してマイナスイオンを発生させる

ここからは難しい用語が出てくるが、興味のある方は読んでほしい。一般的には「滝の原理を使ってマイナスイオンやOHラジカルを発生させている」といったイメージでOKだ。

moyaの中には滝がないので、水を粉砕するのに超音波式加湿器と同様の超音波モジュールを使っている。

こうして水滴が細かく分離するときにイオンが発生する物理現象を利用して、マイナスイオンを発生させている。

ちなみにマイナスイオンは科学的な根拠がないともいわれているが、水滴が細かく分離する際にはイオンが発生するという「レオナード効果」は、物理現象として認められている。根拠がないといわれるのは「マイナスイオンで健康になる、リラックスできる」といった点だ。

粒子の分別

moyaの内部でマイナスイオンやOHラジカルを帯びた水粒子が生成されると、そこから、小さく軽い微細な水粒子だけが吹き出すようになっている。その役割を持つのが、家の屋根のような形をした部分だ。

屋根のように見える部分から小さな水粒子が出てくる
moyaから出てくるミストに眼鏡をかざして見せる森久代表取締役。moyaのミストはごくごく小さいため、手をかざしてもまったく濡れなかった

moyaから出る白いミストは、加湿器と同じように見えるが、その実態は微細な水粒子(水の粒)が、マイナスイオンやOHラジカルを帯びたものだ。

このようにして部屋全体の空気ケアを行なうというものだ。

OHラジカルが酸化させる

部屋に拡散されたOHラジカルは、物質を酸化させる強い力を持っている。酸化の身近な例として、鉄は酸化するとボロボロの酸化鉄(サビ)」になり、鉄としての強度や機能を失ってしまう。OHラジカルはウイルスに対して、似たような作用があるとされている。空間を浮遊するウイルスにOHラジカルが接触すると、ウイルスの表面などを酸化させてその構造を破壊する。酸化されたウイルスが不活性化するというしくみだ。

このような4段階を経て、moyaの発生したマイナスイオンを含むミストが、ウイルスを不活性化させている。繰り返しになるが、不活性化のしくみはメーカーも研究中であり、ここでの説明はメーカーに取材した内容を筆者がまとめたものである点に注意してほしい。

検査で菌の無効化を実証

moyaの技術研究を行なう、つくば市にある「安藤ハザマ技術研究所」を訪れて、その効果と実証はどのように行なっているのかを取材した。

「もともとはミントの香りなどを噴霧するアロマディフューザーからはじまったんです」と説明するのは同社の技術研究所 環境研究部の青木貴均 主任研究員だ。

安藤・間の技術研究所 環境研究部 青木貴均 主任研究員。プルガティオと協力して効果の実証実験などを行なっている

「やがてコロナ禍となり、次亜塩素酸を噴霧して消臭・除菌する装置に舵を切りました。ところが実験を間違えて次亜塩素酸ではなく、純水を噴霧してしまったんです。でも結果は予想外で、ウイルスが減少しているんです。えっ? って。そこで本格的に研究をし始めました」(青木さん)

同社で菌の研究を行なっている土木研究部 コンクリート構造・材料グループの中村孝道 主任研究員は、「水だけで除菌できるわけないでしょ」と最初は疑っていたという。

青木さんからの依頼を受けて、moyaでウイルスを不活性化できるかを実証・研究している安藤・間の土木研究部 コンクリート構造・材料グループ 主任研究員の中村孝道さん。農学の博士号を持つ

「最初は半信半疑でした。私の研究室にはPCR検査装置などもあったので、徹底的に調べることにしたんです。もし仮にOHラジカルか何かが作用して、ウイルスを不活性化できるなら、そのウイルスは細胞内で自身のコピーを作れなくなる(増殖できなくなる)はずです。ウイルスの遺伝子が傷ついたり欠損すると、そのウイルスはもう増えることができなくなり、それがウイルスを不活性化できたといえます」(中村さん)

室内に完全密閉された実験空間を作り、この中に菌を放出。その後moyaを稼働して一定時間経過したら、空間の空気をサンプリングする
moyaを稼働するとイオンカウンターがマイナスに向けて増えだす。マイナスイオンが放出されているという証拠だ

そこで青木さんは、より本格的で小さな部屋を模した実験室を作った。

「外部の検査機関に依頼しようと思ったら、検査待ちで時間がかかるんです。ならば自分たちで実験室を作ってしまえと、4畳半ほどの密閉空間(チャンバー)を作ってmoyaの効果を試しました」(青木さん)

実験結果の空気を中村さんが受け取り、検査でウイルスや菌を調べてみると、確かな結果があったという。

「水だけなのに、確かにウイルスの遺伝子にダメージが入って不活性化できて(反応が減少して)いるんです。(試験空間で)10分噴霧すると120分後には99.9%を無効化できていました」(中村さん)

こうして水をきわめて小さなミスト状にして部屋に噴霧することで、空気(マイナス)イオンが発生し、ウイルスや菌を不活性化できることが証明された。しかしウイルスの不活性化のしくみは、今後の研究課題だという。

加湿器としての性能も問題なし。ただし湿度は50%程度の固定

しくみが分かったところで、加湿器としての機能もテストしてみた。moyaはスマホと連携させて使うことが前提で、利用や設定にあたってはスマホが必須となる。本体にあるのは電源スイッチのみで、前回の設定が引き継がれて電源が入る。

一般的な加湿器は湿度を指定するが、moyaは部屋の畳数を指定する。この仕様は少しとまどうが、一度設定すれば変更することはない。1時間あたり450mlの加湿ができる「moya Craft」は、一般的な住宅なら13畳まで(すきま風が多い日本家屋だと8畳)まで対応している。畳数さえ指定すれば、湿度はだいたい50%前後に保たれるようだ。

湿度を設定するのではなく、部屋の大きさを設定する。これでだいたい50%の湿度になるように運転する

また運転モードというものが存在する。ひとつは運転時間で、1日中、昼間のみ(デイモード)運転する、夜だけ(ナイトモード)運転するモードがある。それぞれに加湿のみか、加湿+空気ケアに使うかを選べるので、合計6個の運転モードから選ぶようになっている。

また月曜から日曜までの運転時間を個別に設定できるので、休日は電源をOFFにしたままで、平日は誰かが電源を入れなくても自動的に加湿がはじまるといった設定にもできる。ただし祝日は判定しない点に注意。昼休みの時間帯は電源を切ったりと、1時間ごとの細かな運転時間の調整が可能だ。

複数のモードから選べる
1日24時間ごとの運転・停止を1時間単位で指定できる。祝日判定はない

加湿+空気ケア用モードで実験をしたときの、気温と湿度の変化をまとめた。

夜間は加湿器機能を切っているため40%まで下がっているが、昼間はおおむね45%から50%まで加湿されていることが分かる。加湿器として使う場合も、一般的な製品に比べて運転時間などが細かく設定できる点が便利だ。

3日間の湿度変化。夜はOFFにしているので湿度40%を割っているが、運転中の昼は45~50%になっている。24時間運転すると50%を越えるときがある
同じ期間の気温の変化。昼は27℃近くまで上がっているが、夜は15℃まで下がる

これからも注目の空間ケア+加湿器

なぜウイルスを不活性化できるのか? という理屈については、メーカーもまだ研究中だが、実験で「ウイルスや菌を不活性化できる」という事実は証明されている。メーカーは、おそらくマイナスイオンかOHラジカルが関与していると説明するが、断定はしていない。

今後メーカーからは、どんな菌に有効なのか? どんな効能があるのか? などが発表されるはずなので、注目したい製品だ。

藤山 哲人

家電の紹介やしくみ、選び方や便利な使い方などを紹介するプロの家電ライター。独自の測定器やプログラムを開発して、家電の性能を数値化(見える化)し、徹底的に使ってレビューするのをモットーとしているため「体当たり家電ライター」との異名も。 「マツコの知らない世界」(番組史上最多の5回出演)「ゴゴスマ」(生放送2回)「華大の知りたいサタデー」(生番組4回)「アッコにおまかせ」「NHKごごナマ」(生放送2回)「カンテレ ワンダー」(5回)「HBC 今ドキ!(生中継4回)」はじめ、朝や昼の情報番組に多数出演し、現在インプレスの「家電Watch」「PC Watch」やサイゾー「ビジネスジャーナル」などのWeb媒体をはじめ、毎月ABCラジオなどで連載やコーナーを持っている。 趣味は、鉄道、飛行機、バス、車の旅行や写真とシステム&構造。電子工作、プログラム。あと神社めぐり。

Facebook