ソフトバンク孫正義氏、自然エネルギーを普及する6つの“緊急提言”を発表

~200MWのメガソーラー建設を申請。「事例を身をもって示したい」
ソフトバンク 孫正義 代表取締役社長

 自然エネルギーの普及と促進を目指す、ソフトバンク・孫正義代表取締役社長と全国35の道府県の首長による協議会「自然エネルギー協議会」は、21日、東京で第2回目となる総会を開催。同会の事務局長を務める孫氏が「自然エネルギー推進への緊急提言」として、電力会社をまたぐ送電線の増設や規制改革などを訴えた。

 さらに孫氏は、ソフトバンクが全国十数カ所に、合計で200MW(メガワット。200MWは20万kW)以上を発電するメガソーラー発電所を作る申請を、電量会社に提出したと発表。発電所を運営する「SB(エスビー)エナジー」という会社を10月に設立したことも明らかにした。

送電網への接続義務、規制改革……自然エネルギーを加速するために重要なこととは?

自然エネルギーの普及に関する提言を行なう「自然エネルギー協議会」。孫氏は同会の事務局長を務める

 自然エネルギー協議会は、太陽光や風力、地熱といった自然エネルギーの普及促進政策を提案してくことを目的とした協議会。7月25日に発足し、現在全国35の道府県が参加している。資金や技術などのオペレーションをソフトバンクが担当し、孫氏は同会の事務局長を務める。

 協議会が開催されるのは、7月13日に秋田で開催された第1回目に続いて2回目。第1回目では、協議会の行動宣言や政策提言を行なったが、今回は8月に衆議院で可決された「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(再生エネ法)」を受けて、2012年7月1日の施行に合わせて自然エネルギーの導入を加速するための環境づくりを、「自然エネルギー推進への緊急提言」として発表した。

 提言の内容は、(1)自然エネルギーの意欲的な目標値の設定、(2)全量買取制度の効果的な制度設計、(3)地域の意見反映、(4)送電網への接続義務の徹底と付随措置、(5)技術開発の推進、(6)規制改革の推進、という6点。これらの提言は、全国の道府県から寄せられた課題や問題を、協議会でまとめたものという。

 「法律の運用開始まであと8カ月しかない。すでに(自然エネルギーの発電施設を)着工していれば、法律の運用と同時に発電できるが、価格も期限決まっておらず、規制もがんじがらめで、刻々と時間を失っている。そこで、今回の緊急提言となった」(孫氏)

再生エネ法が施行されるのは2012年7月今回提言された、自然エネルギーを普及するための6つの提言

 孫氏はまず、「全量買取制度の効果的な制度設計」を重要とした。

買取価格と期間の早期決定と、価格見直しルールの明確化を提言した

 「(自然エネルギーで発電した電気の)買取価格や買取期間がどれくらいになるのかが、まだ決まっていない。例えば、すでに着工しているプロジェクトの途中で、もし価格や買取期間が大幅に変更になった場合、根底から条件が狂うと、プロジェクトファイナンス(特定のプロジェクトに対して行なわれる融資)も狂い、金融機関がついてこない。買取価格や期間の見直しはあって当然だが、頻度とタイミングが明確に示されていないと、すべてが止まってしまう。明確なルール化を是非していただきたい」(孫氏)

 孫氏はまた、さらに重要なポイントとして、「送電網への接続義務」を挙げた。

 「今回の法律では、系統(電力会社が持つ電力系統)への接続が義務化されることになっているが、不透明な抜け道みたいなものがある。法律では『安全性に恐れがある場合は、(接続を)拒否できる』ことになっているが、この“恐れ”というのは、誰がどういう基準で判断するのか。これがあやふやなままであると、何にでも恐れはありうるわけで、尻抜け状態になって、接続義務が有名無実になる可能性がある。国内では実際に、10年間連続で(風力発電の系統への接続を決める)抽選に外れたケースがある。ドイツであれば、接続の申し込みは、原則的にすべて接続されており、拒否された事例もない」(孫氏)

これまで送電網へ接続するには、クジで選ばれた事業者のみに限られる例があったドイツの場合は、系統接続を拒否した事例はないというドイツは系統の接続率が非常に高いという

 これに加えて、自然エネルギーの需要と供給のミスマッチを補うため、送電網を増強し、需要地へ送電する体制を整えるよう提言した。

 「北海道や九州は自然エネルギーの宝庫。例えば北海道は、道民が使う電力を超えるほど自然エネルギーの供給能力がある。しかし、道民だけで使うには余ってしまう。本州は自然エネルギーが足りないので、これを一貫運用できるようにしたい。国内で分断されているようでは、話にならない」(孫氏)

 規制改革については、工場法や農地法といった土地を規制する法律の改革を指摘した。現在の法律では、メガソーラー発電所は工場地扱いになり、敷地の半分しかパネルが置けず、さらに20%以上緑地を作らなければいけないという。

「本来使えるものは目一杯使わないと。狭い国土で何を自ら規制するのか。そもそもメガソーラーは工場ではなく、どこにも煙突はない」(孫氏)

電力会社ごとに送電網を運用するシステムを一体的に運用するように提言一体的に運用できれば、北海道で自然エネルギーで発電した電力のうち、余った電力を東京などの需要地に送電することもできるというメガソーラー発電所は、工場立地法で「生産工場」という扱いを受けるという

 協議会が今回挙げた緊急提言については、会の終了後に、関係省庁に直接渡されるという。


200MWメガソーラー建設を電力会社に申請。“「自然エネルギーに消極的になった」は誤報”

 孫氏はまた、過去にソフトバンクが、全国10数カ所以上に200MWのメガソーラー発電所を建設すると表明した件について、そのプロジェクトの進捗状況を発表。10月6日に自然エネルギーの事業会社「SBエナジー」も設立し、11月21日時点で、メガソーラー発電所を建築するための事前手続きを各電力会社に申請したという。全国10数カ所、総発電量200MWについて変更はない。

 「日本国内で現在稼動している、また着工済みのメガソーラーを全部足しても100MW。その倍の規模の発電所を、ソフトバンク1社が手続きに入っている。この中で電力会社から接続が拒否される事例が出てくる気がするが、それが出たらさっそく『こういう事例がありました!』と、身をもって示したい。また、実際にうまくいった場合は、『このようにうまくいった』と示して、もっと多くの事業者がどんどん手を挙げてくれるのが望ましい」(孫氏)

 メガソーラー発電所の具体的な土地については「手続きの最中」ということで明らかにしなかったが、「知事の了解を得た」として、鳥取県米子市の崎津工業団地の名前を挙げた。

 「日照や規模、系統接続の距離など、諸条件の間尺に合いそうなところから事前申請をした。電力会社によって、手続きのプロセスは異なるが、場所は既に特定している。すぐにでも着工したい」(孫氏)

 また、自然エネルギー発電が生み出す雇用効果については「雇用創出の宝庫」と評価した。

 「(メガソーラーは)パネルの設置や造成などもあり、風力に地熱についてもたいへん多くの人出を要する。実際に手続きを開始して、地元の雇用を中心に、良い意味で経済を刺激すると実感している」(孫氏)

 また、一部で「北海道・帯広のメガソーラー発電所を1/10に縮小した」という報道が流れた件については、「帯広は(太陽電池の)温度による影響を試すのための施設。寒い中でどれだけ発電量がでるか、というテストの規模を縮小したのだが、何か勘違いされて報道された」と完全に否定。さらに「最近は、ソフトバンクは自然エネルギーに対する熱が冷めた、消極的になったなどという一部で間違った報道もある。野球も優勝したことだし(注;11月20日に福岡ソフトバンクホークスは日本シリーズで優勝)、このまま突っ走ろうということでございます」と、自然エネルギーに対する意欲を改めて明らかにした。






(正藤 慶一)

2011年11月22日 00:00