【特別企画】

eneloop bikeを太陽光で充電する「ソーラー駐輪場システム」を見た

by 白根 雅彦


eneloop bike

 先月、徳島県と三洋電機が共同で徳島県庁に「ソーラー駐輪場システム」を設置した。これは太陽光で電動アシスト自転車「eneloop bike(エネループ・バイク)」を充電するためのシステムで、これから半年間、試験運用が行なわれる。弊誌の長期レビューでeneloop bikeに乗りまくった筆者として、太陽光発電もeneloop bikeも気になったので、現地へと飛んだ。

3台のeneloop bikeを余裕で充電する充電システム

 ソーラー駐輪場システムは、既存の職員用駐輪場の一部を改装する形で作られている。雨除けの屋根の上に太陽電池パネルが、そして駐輪スペースの一角に機器が収納されたボックスが設置されている。


ソーラー駐輪場システム。屋根の上に太陽電池パネルが設置されている機器を収納するボックス。通常は扉を閉めて鍵がかけられるようになっているボックス内部にeneloop bikeの充電器が置かれている

 太陽光で発電された電力は、いったんボックス内部のリチウムイオン電池に蓄えられる。蓄えられた電力は、交流電源に変換されて出力され、eneloop bikeはこの交流電源から充電する。太陽光発電をいったん大型のリチウムイオン電池に電力を蓄えることで、悪天候時や夜間などリアルタイムに発電できないときでも、蓄えた電力を使って充電が可能になっているわけだ。

 交流電源は家庭用のプラグに100Vが出力されるため、eneloop bikeは市販のものと同じ充電器で充電を行なう。また、充電器以外の機器でも利用可能で、同システムでは駐輪場を照らすLED照明の電源としても利用されているほか、災害時の非常用電源としても利用できるとアピールしている。

手前の標準サイズのリチウムイオン電池が325本内蔵されているボックス上に設けられた残量計駐輪場の自動照明もソーラー駐輪場システムから電力を供給する

 太陽電池パネルの発電容量は最大で630W、つまり1時間あたり630Whを発電できる。三洋電機が開発したHIT(Heterojunction with Intrinsic Thin layer)太陽電池パネルが3枚使われている。内蔵するリチウムイオン電池は、標準サイズのセルが325本使われ、合計容量は1.7kWh。たとえ内蔵電池が空になっても、最大効率の発電が約3時間続けば満充電となる計算だ。

 ちなみにeneloop bikeの電池容量は、今回提供されたリチウムイオン電池モデルでも150Wh程度なので、ソーラー駐輪場の能力は、3台のeneloop bikeを充電するには十分以上の性能となっている。空っぽになったeneloop bikeの電池を毎日3個充電しても約450Whなので、内蔵電池が満充電ならば、3日間まで日照がなくても利用できる。

 このように太陽電池パネルと蓄電池を組み合わせることは、「無日照補償」として太陽発電システム設計時の重要なポイントの1つだという。そもそも昼間にeneloop bikeを使い、夕方に戻ってきたら日照がなくて充電できない、ではお話にならない。今回のソーラー駐輪場システムには、目立つところに電池残量計が設けられていて、どのくらいの電力が蓄えられているかがわかるようになっている。

駐輪場には「実験中」の表示が出ていた

 ちなみにeneloop bikeの場合、電池を使い切るのは大変なので(37km走って使い切ったが、本当にキツい)、1台あたり150Whを毎日消費することはまずあり得ない。また、太陽光で発電ができないほどの悪天候では、そもそもeneloop bikeに乗れないかもしれない。三洋電機の担当者によると、今回の駐輪場システムも、8台くらいのeneloop bikeを運用できる能力があると予想している。

 しかし、現時点ではどのくらい電力が発電され、消費されるかわかっていない。太陽光による発電量は設置場所の気候の影響が大きく、eneloop bikeの消費量も使用頻度や周囲の地形(坂の多さ)などによって変わってくる。そのため、まずは余裕を持って3台のeneloop bikeでスタートした、ということらしい。三洋電機は、今回の実証実験で、そのあたりのデータを収集することも狙っていて、システムの内部には、運用データを記録する装置も内蔵している。

 なお、現在のシステムは完全にスタンドアローン型で、外部との電力のやりとりはない。外部からの電力供給は不要だが、逆に余った電力を売ったり、別の用途への利用は行われないという。三洋電機の担当者によると、今回の実証実験でデータが得られれば、それを元に余剰電力を活用することも検討するという。

商品化はこれから

 なぜ今回、ソーラー駐輪場システムが徳島県に設置されたか、というと、実は三洋電機は意外と徳島と縁があるからだという。三洋電機の本社は大阪で、三洋電機の二次電池事業の本部は淡路島の洲本市、そして淡路島につながる徳島県には、三洋電機の世界最大級となるリチウムイオン電池の生産拠点がある。つまり、地元産業振興的な意味合いもあるわけだ。

 また、三洋電機は徳島県の産官学共同事業「次世代エネルギー活用促進研究会」にも参加していて、その一環の活動、という位置づけでもある。

実証実験開始セレモニーで握手する徳島県の飯泉知事(左)と三洋電機の伊藤常務(右)eneloop bikeを試乗する飯泉知事。「軽いというより速い」と評価していた

 今回のシステムは、あくまで実証実験という形で運用される。運用期間は半年間が予定されていて、その期間に季節による発電能力の推移や電力消費の動向を検証する、というわけだ。

 今回のシステムで使われている太陽電池パネルやリチウムイオン電池、eneloop bikeなどは、一部を除き既製品を応用している形だが、システム全体はまだ商品化されていない。三洋電機では、今回の実証実験で得られるデータを元に、システムの商品化を進める。

徳島県庁徳島県に提供されたeneloop bikeには、県章が描かれている。いわば公用車eneloop bikeも3台寄贈された

 今回のシステムは、商品化前の実験用試作品なので、価格については計算できないが、太陽電池パネルやリチウムイオン電池、eneloop bikeなどの価格は、実はそれほど高いものではなく、むしろ駐輪場の工事費の方が高い、というレベルらしい。さすがに個人宅に設置するようなシステムではないが、将来的には営業所や学校などの施設向けの商品化を考えているという。

 家庭や企業が太陽光で発電した電力の売電については、現在、制度の整備が進められていて、経済産業省は2010年度から新制度を施行することを目指している。新制度では、電力会社による買い取りを義務化や買い取り価格の倍増などが盛り込まれている。この制度が導入されれば、太陽光発電システムの普及も期待できる。

 売電で新制度が導入されれば、太陽光発電システムの設置費用は10年で回収できるようになると期待されている。実際の制度がどのようになるかはまだはっきりせず、長期運用には太陽光発電システムの寿命などの問題もあるわけだが、10年で回収でき、数十年単位で運用できれば、投資として悪くない。太陽光発電というと、「エコロジー」の観点で見られがちだが、今後は「エコノミー」の観点からも注目するべきものとなりそうだ。




2009年4月6日 00:00