インタビュー

富士通ゼネラル「プラズィオン DAS-301V」

~除菌・脱臭の頂点を目指した脱臭機
by 鬼塚 光一郎/編集部

プラズィオン DAS-301V
 このところ空気清浄機が本来の機能に加え、さまざまな付加機能を備えて市場を賑わせている。メーカー各社も花粉やハウスダストの集塵はもちろん、除菌やウィルス撃退、加湿・除湿といった機能を競っているが、これは室内環境の快適化や清潔化といった時代の指向に応えるべく製品化を推し進めてきた結果といえるだろう。

 この状況下にあって、あえて脱臭と除菌にポイントを絞り、「脱臭機」として製品を送り出しているのが富士通ゼネラルだ。4代目となる製品「PLAZION(以下、プラズィオン) DAS-301V」について、商品企画の意図、それを実現する技術を、ホーム機器事業部技術部長の水谷一弘氏に話を聞いた。

なぜ脱臭専用機なのか

富士通ゼネラル ホーム機器事業部技術部長の水谷一弘氏
 まず、気になるのは「脱臭機」というほぼ唯一といっていい、独自の立ち位置だ。

 「このジャンルの製品を市場に出してから4年目になります。商品開発の段階から、お客様は空気清浄機に何を求めているかという調査をしたところ、“ニオイを取ること”を求めていらっしゃる方が3割以上いることがわかったんですね。その要因は、住宅の機密性が以前よりも格段に上がって、ニオイの逃げ場所がなくなっている。そしてもう1つがペットの増加です。2010年には室内飼育世帯が1,900万世帯(2000年比135%)に増えるだろうといわれています。こうしたことがあって、暮らしのなかのストレスに“ニオイ”が占める割合が大きくなってきているのが判りました。そこで、ニオイの除去に特化した製品が必要なのではないか、というのがそもそものスタートでした」

 ここで一度確認しておきたいのだが、空気清浄機と脱臭機の違いだ。

 「空気清浄機というのはフィルターで空気中のホコリやペットの毛、花粉やカビの胞子などを集めてキレイにする、というものです。空気清浄機によっては活性炭などでを使った脱臭フィルター付きのものはありました。しかしフィルターでニオイの元を取り除いたところで、根本的な解決にはならないんです。集めるよりもニオイの元を分子レベルで分解して、なくしてしまうことができれば、市場やお客様も納得していただける製品になるのではないかと考え、そこにこだわって製品を開発したんです」

 ニオイの元をフィルターや集塵装置で捕まえる、というのが空気清浄機。ニオイの元を分子レベルで分解して無臭分子に分解する、というのが脱臭機ということだ。

 

開発の拠点、川崎市高津区にある富士通ゼネラル本社ロビーにはプラズィオンシリーズが展示されていた
 

「プラズィオン」脱臭の3ステップ

 ではどうやってニオイの元を分解するのだろう。プラズィオンでは、3つのプロセス階で脱臭する「3WAYデオドラント」という機構を持っている。

WAY-1。触媒にニオイを吸着させる。ここでほとんどのニオイは取れる
 まずは最初の段階。

 「プレフィルターと集塵フィルターとを通過して物理レベルでクリーンになった空気は、まずWAY-1と呼ばれる、金属酸化触媒ハニカムフィルターが空気中の酸素を使って強力にスピードに脱臭します。技術的には金属酸化触媒にニオイの元となる成分を吸着させ、ニオイ成分の分子に空気中の酸素と結合、つまり酸化させて無臭分子に分解するんです」

WAY-2。オゾンと紫外線でニオイの元をさらに分解する
 そして2段階目。

 「ここでほとんどの脱臭が行なえるわけですが、取り切れなかったわずかなニオイを、次段階のWAY-2である“UVデオドラントユニット”で徹底脱臭します。このユニットの内部にはUVランプが搭載されておりまして、このランプの発するオゾン生成波長(185nm)の紫外線で、低濃度オゾンを生成します。このオゾン分子にさらに消臭ブースター波長(254nm)の紫外線をあてて、オゾン分子をバラバラにして酸素ラジカルを発生させ、ニオイの元となる物質と結合させて無臭分子に分解するんです。オゾンというのは酸素原子が3つくっついている状態ですが結合力の弱い、非常に不安定な分子なんです。酸素にもどりやすい性質をもっています。不安定だからこそ酸素ラジカルになって他の成分であるニオイ分子に吸着しやすいので、そこで酸化作用が促せるというわけです」

 このWEY-1とWAY-2が吸引脱臭と呼ばれる脱臭方法だそうだが、脱臭機内部の人間の目ではわからないミクロの世界では分子レベルの働きが作用しているというのだ。

 WAY-1とWAY-2は吸い込んで脱臭する方式だ。しかし、最後の段階、WAY-3は少し、異なる機構となっている。

低濃度オゾン脱臭で、家具やインテリアもニオイの元から消臭


WAY-3。取り込んだ空気ではなくて、放出する空気で脱臭する
 「最後のWAY-3 というのは、WAY-2でUVランプによって生成された消臭成分である低濃度オゾンを吹き出し口から放出し、部屋に染みついたニオイを強力脱臭しようというものです。放出されたオゾンが部屋のカーテン、ソファやカーペットの繊維の中にまで入り込み、染みついたニオイも強力に分解していきます。布製品だけでなく、家具や壁紙のニオイも脱臭します。これが、放出脱臭と呼ばれる方法なんです。WAY-1とWAI-2の吸引脱臭とWAY-3による放出脱臭、両方の方法で脱臭するのは当社だけですし、3つの方法を合わせた3WAYデオドラントは世界初の技術なんです。今、脱臭効果のあるイオン系の技術が空気清浄機でもクローズアップされていますが、吸引と放出をやっているのはウチだけですし、脱臭力の違いもここにあります」

 

三段階の脱臭がキモWAY-1でほとんどのニオイは取れることがわかる脱臭スピードは前機種の3倍になった

つまり、プラズィオンは、WAY-1と2で、吸い込んだ空気を脱臭し、WAY-3ではオゾンを放出して外部の空気を脱臭するという、ハイブリッドな脱臭システムを持っていることになる。

 ところで、オゾンは脱臭には優れた特性を持つ物質だが、高濃度のオゾンは人体に有害であるという。現実には日本を含めて、海外でもオゾンによる重大事故は一件も発生していないが、日本では、0.1ppm以上が人体への影響(咳や涙が出る等)が出る数値として、日本産業衛生協議会が勧告する作業環境基準濃度と定められている。安全性は確保できているのだろうか。

「プラズィオンが放出するオゾンは、0.03ppm以下の低濃度オゾンで、これは森林や海岸海岸付近の晴天時の濃度より低いものです。ここも当社独自の技術のポイントなんですが、放出するのは低濃度のオゾンで、しかも放出したオゾンは吸着脱臭でもう一度吸い込んで使用します。つまり部屋の空気といっしょに循環させますから部屋のオゾン濃度も一定以上高くはならないんです。余分なオゾンは分解され、時間とともに酸素に戻りますので安心してお使いいただけます」


濃度とニオイの微妙な関係

 ところで、脱臭能力の測定は、どういった方法でなされているのだろうか。

「人の感覚というのは敏感で、ニオイの元の濃度が低くなったからニオイが取れたということにはならないんです。いやなニオイだと、ほんのわずかでも鼻につくものです。最終的には濃度数値だけでなく、嗅覚的にニオイが取れたかという評価、つまり人間による官能試験で行なっています。臭気の評価方式には、6段階臭気評価法というのがありまして、国家資格である臭気判定士に認められたテスターが複数人集まって行なっています。取りやすいニオイがあれば、取りにくいニオイがあったりいろいろな種類があるので、苦労はしていますが」

【6段階臭気評価法の基準】
6段階評価評価基準
5強烈な臭い
4強い臭い
3楽に認識できる臭い
2何の臭いかわかる弱い臭い
1やっと感知できる臭い
0無臭


 取りやすいニオイ、取りにくいニオイというのは、何が要因なのだろう。

 「一般的に酸化しやすいものが脱臭しやすいもの、と言い換えることができますね。活性炭やフィルター方式による物理的脱臭は、ニオイの元を集めはしますが酸化させるわけではないので実は取れないニオイがたくさんあります。化学的脱臭と比較するとその差は一目瞭然です」

 脱臭しにくいニオイとは。

 「たとえばアンモニアのニオイというのは活性炭のフィルターでは取ることができませんし、低濃度でも非常に鼻につくニオイなんですね。でも金属触媒による脱臭なら非常に効果的に脱臭できるんです。実際の生活のニオイで例を挙げると、生ゴミや糞便などの硫化水素系のニオイは活性炭などの物理的脱臭ではなかなか取れませんが、化学的脱臭なら非常に効果的に脱臭できます。当社の3-WAYデオドラントでは、化学的な脱臭方法で2段階にわたってニオイの元を分解しますから、より完全に近い形で脱臭できます」

 やはりここでも、吸引、放出の2系統から脱臭していることによるメリットが現われている。

 「ニオイの強いモノを弱いところまで下げることは触媒で可能ですが、人間の嗅覚として感じられるニオイまで取れているのかというとそうではないんです。完璧に脱臭しようとすれば、酸素ラジカルを利用した脱臭やオゾンを放出するなど多角的な消臭手段を経ることでニオイを元から断つ、つまり人間に感じられないレベルにまで落とさなくては脱臭したとはいえないんです」


脱臭機でありながら、空気清浄機にも負けない除菌力


プラズマ除菌とUV除菌の2つの仕組みで除菌する
 プラズィオンの大きな特長の1つが、脱臭機というカテゴリーの商品でありながら除菌力にも優れていることである。「放出除菌」と「吸引除菌」、2つの方法による「ツイン除菌」で菌やウィルスを徹底除菌するという高い除菌能力についても説明いただいた。

 「除菌についてですが、我々はもともとニオイを除去する製品作りから始まっていますが、ニオイの元は何かというと、やはり菌になるわけで、除菌技術も脱臭と同時に開発できたというわけです。今回の商品では、除菌に「ツイン除菌」を採用したわけですが、この両方を備えているのは、当社だけです。他社さんの製品を見ていただければわかりますが、他社さんはどちらか1つの方式しか採用していません。両方備えているのは当社だけで業界初なんです。なので、ネーミングも「ツイン除菌」として押し出しています」

 では除菌とはどんな技術なのか、具体的に語っていただくとしよう。

除菌についても、取り込んだ空気、放出する空気の両面からアプローチしている。これは他社の空気清浄機にはない特徴だ
 「放出除菌というのは、放電させてつくったプラズマイオンと低濃度オゾンを利用します。空気中に1立方cmあたり4万個のプラズマイオンと脱臭機能で発生させた低濃度オゾンをいっしょに放出して、空気中の浮遊ウィルスだけでなく家具やインテリアなど部屋にあるものに付着した菌もパワフルに除菌するという方法です。そしてもうひとつが吸引除菌という方法で、部屋の空気を吸い込んで、空中の浮遊ウィルスを本体内に取り込み、UVランプの紫外線照射で徹底的に除菌するんです。除菌という面で検証してみると、やはり吸引除菌だけでは空気中の除菌はできても、壁や家具、インテリアについたニオイまで取るには不十分なんです。では放出さえしていれば部屋のニオイも取れて空気中の除菌もできるかというと、部屋に存在する菌の量は多いですから、放出だけでも足りない。この両方を行なわなくては除菌としては十分とはいえないので、2つの除菌機能を搭載したというのが経緯ですね」


空気は通すが、紫外線はもらさない。ここが企業秘密

このルーバーの奥に、取り込んだ空気を除菌するユニットが入っている
 除菌での特筆できる技術や他社が追いつけないアドバンテージはどの辺にあるのだろうか。

「吸引除菌の紫外線でオゾンを発生させて除菌する方法は医療機器などでも証明されていますが、業務用のUVランプを家電に使用したのは当社が初めて。富士通ゼネラルだけです。UVランプをいかに安全に使いこなすかが開発のポイントでした。絶対に紫外線が外に洩れてはいけないわけですが、空気は通さなければならない。そこがこの脱臭機の特許にもなっているわけです。光は漏らさずに空気だけを通していくという矛盾点を解決する手段を考えなければならなかったということがこの商品を開発する上でのいちばんの苦労でした」

 それはどう実現しているのか――しかしここは、「企業秘密」だという。

 では実際にどれだけの脱臭能力があるのか、記者の鼻と嗅覚で効果を体感してみた。

 およそ1立方mほどの透明アクリルの立体の中にプラズィオンを置き、その横にアンモニアの瓶を蓋を開け数分蒸発させた。開けた小窓に顔を近づけただけで、猛烈なアンモニア臭が漂ってくる。すでにアクリルの箱の中はアンモニア臭が充満していると思われた。そしてプラズィオンのスイッチをオン。30秒経ったところでもう一度、小窓を開けておそるおそる顔を近づけてみると、先ほどの鼻に突き刺さるようなアンモニアのニオイは一切しない。アンモニアの瓶は開けたままなので、蒸発は続いているはずだがまったくニオイがしない。顔をさらに小窓に近づけ空気を思い切り吸い込んでみたが、アンモニア臭は完全に消えている。脱臭機と銘打って市場展開する富士通ゼネラルの自信を実感できた瞬間だった。

密閉された空間の中でアンモニアを放出こちらがアンモニアの入った瓶30秒間、運転して小窓からニオイをかいだが、ニオイが消えていた

 確認の意味でもう一度、最新のプラズィオンの高性能を確認する意味でこの質問を投げかけた。従来機より進化した技術というのは脱臭スピードになりますか、それとも除菌力ですか、と。

 「たしかに、触媒である金属酸化触媒ハニカムフィルターの素材を変えることで酸化力が向上し、脱臭スピードは最大で約3倍になりました。当社従来機がタバコのニオイの脱臭に約10分かかっていたところが3分になりましたし、ペットのニオイも約10分から6分に短縮しました。しかし進化したのはそれだけじゃないんです」

 力強く語る口調にただならぬ自信が窺えたので、さらにそこをきいてみた。


ヒーターを内蔵し、熱でニオイを飛ばす
 「今回のプラズィオンのセールスポイントの1つが、脱臭フィルターのオートクリーンユニットです。このシステムでは触媒をつかってニオイ成分を分解していますが、ニオイの元がフィルターに付着したまま分解しきれない成分も残ってしまう可能性もあるわけです。それをフィルターを125℃の高温にすることによってさらに酸化分解能力をさらに促進させて触媒の性能を維持しているんです。自動的に24時間に1回のペースで1時間、ヒーターユニットが金属のハニカムフィルターを加熱し、フィルターに付着したニオイの元を分解除去して脱臭性能を維持しているんです。自動運転ですからなにも操作しなくても除去率100%性能が一日一回再生するわけです。一世代の前の機種にもこの機構は備えていましたが、その時は温度は40℃、12時間に一回だったんです。今回が触媒の熱伝導を上げることによって、3倍の温度にも対応できるようにしました。焼き肉の油成分などはフィルターからなかなか取れなかったのですが、この機構で最高の脱臭能力を毎日回復できるようになりました」

 どんな使われ方をしても大丈夫なよう、断熱構造には配慮しているため、触媒部分が125℃になっても危険なことは一切ないそうだ。

脱臭器が役立つシーンは暮らしのなかにたくさんある

  最後に、今後はどのような点に着眼して製品開発していくのか、次世代の脱臭機はどういったものになるのか、という質問を投げかけてみた。

「これまでの製品は、家庭のリビングやダイニングキッチンで使用されることが多かったのでそれを想定した仕様になっています。今後は、ご家庭のパーソナルな場所での脱臭にも目を向ける必要がありますね。現在のものも壁に掛けたりもできるんですが、もっと小型にするのも需要を広げる方法だと思っています。でもその前に、感染症からの予防や、ペットの飼育や在宅介護など脱臭や除菌が役立つシーンが暮らしのなかにたくさんありますから、まずはプラズィオンの脱臭力を多くのみなさんに知っていただきたいですね」

 ニオイは視覚的にも確認できないし、また慣れてしまうという一面もあるのでついなおざりにされがちだが、こうして効果を実感してみると、ぜひ家庭に一台は欲しくなる家電だ。





2010年1月21日 00:00