取材時は、こちらも担当者もオール女性。ベジータ好き同士ということもあり、取材は盛り上がった

 わが家の冷蔵庫は東芝の「ベジータ」だ。野菜の鮮度をキープでき、使い勝手もよい大容量の「野菜室がまんなか」が特長。毎日の生活に欠かせない愛着ある製品で、その実力に見合うほど知られていないのが「ベジータ好き」としてはもどかしいぐらいだ。2013年秋の新製品では庫内カメラを取り付けて、スマホで外から中身がチェックできるなど未来的な取り組みも行っている。今回はこの「ベジータ」について、開発者に話を伺うチャンスを得た。冷蔵庫の歴史からベジータの最新技術まで、その魅力を探ってみたい。

冷蔵庫の国産第一号機は東芝製!いまだに動きます

 東芝は日本における白物家電のパイオニアだ。1930年に発売された冷蔵庫の国産第一号機(SS-1200)も東芝製。今年で85周年を迎えるが、東芝未来科学館(※1)にはまだ動くものが展示してあるそうだ。当時は、まだ氷で冷やす「氷室式」の冷蔵庫が主流。銀行員の初任給が70円の時代に「SS-1200」は720円で発売されたという超高級品で、主にホテルなど業務用的な用途で使用され、家庭への普及にはまだ時間がかかった。

 その後、1950年代後半に冷蔵庫がいわゆる家電の「三種の神器」のひとつといわれる時代へ。東芝も1957年に日本初のマグネットドアロック機構を採用した「GR-830」を発売した。この商品は直冷式という冷蔵庫の下に霜取り用の水をためるトレイがあるタイプだ。じつは東芝は他社が冷蔵庫の冷却方式をファン式に切り替えるなか、長く直冷式にこだわった。これは、直冷式の方が早く冷え、庫内の湿度が高くできるという利点があるためで、これも東芝こだわりの商品づくりを物語るトピックだ。

(※1)移転のため休館中。2014年2月1日リニューアルオープン予定

冷蔵庫の国産第一号機である東芝の「SS-1200」 1950年代の後半「三種の神器」と言われた当時の白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫

“ベジータ”誕生と野菜にこだわる理由

 その後東芝は、1972年に日本初の自動製氷器「かってに氷」採用冷蔵庫を、1990年には日本初の冷凍庫が引き出し式の製品を発売。そして性能面でターニングポイントになった機種は、1998年に「ツイン冷却システム」を採用した「GR-470K」だ。

 このツイン冷却システムとは、ファン式の冷却器を「冷蔵室+野菜室」用の冷却器と、「製氷室+冷凍室」用の冷却器の合計2台搭載したもの。現在、ほとんどの冷蔵庫が1台の冷却器で冷やす「シングル冷却方式」なのだが、わざわざ2台搭載するのは、こうすることで冷気を別々に管理して、それぞれ最適な冷気温度で庫内を冷やすことができるからだ。具体的には、冷蔵ゾーンは高めの温度で湿度を高く制御し、冷凍ゾーンはより冷たい冷気にする。冷やし過ぎのムダがないので霜がつきにくく、冷蔵庫のなかで一番電力を使う霜取りを省エネできる効果もある。つまり、この1998年の「ツイン冷却システム」の搭載がなければ、後のベジータ誕生にはいたらなかったわけだ。

1950年~1960年代の東芝製冷蔵庫のあゆみ(※2)。日本初、世界初の機能を搭載した機種が多い。アイスクリームが普及したことで、2ドア式冷蔵庫「GR-150NT」が人気に 1990年~2000年代の東芝製冷蔵庫のあゆみ(※2)。1998年発売の「GR-470K」で日本初のツイン冷却システムを採用したことがターニングポイントとなった 東芝独自のW-ツイン冷却は、冷蔵ゾーン、冷凍ゾーンそれぞれに適切な冷気のコントロールができる。シングル冷却に比べて冷蔵ゾーンの温度が安定することが特長

※2:東芝資料〈日本の冷蔵庫・洗濯機75年の歴史〉より抜粋

 そして、2011年遂に“野菜にとことんこだわった”ベジータが登場する。よく使う野菜室をまんなかに設置することで、かがまなくてもスムーズに出し入れができ、引き出すのもラク。キッチンの高さにほぼ合わせてあるから調理するにも便利。キャベツや白菜、大根やかぼちゃなど、野菜って結構重たいものも多いから、主婦は特にうれしいはず。そんな東芝の使いやすさと野菜への愛情とこだわりが生んだ商品、それがべジータなのだ。

 じつはべジータ誕生までのこの期間、ツイン冷却を続けるかどうか、何度か検討されていたそうだ。2006年当時の高容積ブームがその一因だ。冷却器をひとつにすれば高容積化は容易と思われたが、東芝はツイン冷却のメリットにこだわり、冷却器、コンデンサーのスリム化、配置の工夫等をして高容積を実現。さらに2009年には、「家電エコポイント制度」による省エネ合戦の時代が到来。各社とも、シングル冷却方式にして製氷室と冷凍室をまんなかに集めることで、効率よく冷やして省エネを追求。これまで野菜室がまんなかにあったメーカーも、この時期に冷凍室をまんなかに持ってきた。

べジータ最新モデル「GR-G56FXV」も「まんなか野菜室」に引き続きこだわる

 東芝も悩んだうえ、どう考えても野菜室はまんなかの方が使いやすい。そして野菜室を中心に考えれば、やはり鮮度と省エネを両立させるツイン冷却システムは必要だ──という結論に至った。担当者としては「実際に家事をしていれば、どこが使いやすいかは感覚でわかりますから、どうしても譲れなかった」とのこと。

 あとから考えると、ここがターニングポイントだったのだという。のちに行ったアンケートでは、実際にべジータを購入したユーザーの多くが「野菜室がまんなかにあるから」という点を重視していたとわかり、このときの判断が正解だったと判明する。

 他社が冷凍室の位置をまんなかに変えたことに、じつは省エネや冷却器の数も影響していたというのは意外かもしれない。店頭では、冷凍室がまんなかの冷蔵庫を買ったものの、慣れずにベジータに買い換えるユーザーも少なくないそうだ。開発者の使い勝手へのこだわりが功を奏した形だ。

 やはり使いやすさを重視すれば「野菜室がまんなか」は譲れない!そのこだわりが、ツイン冷却が残せたことでブレもなくなり、野菜室がまんなかで、鮮度に強い「野菜がおいしい冷蔵庫」ベジータが誕生。そして今や東芝だけとなり、べジータの代名詞となった「野菜室がまんなか」へのこだわりは、最新モデル「GR-G56FXV」にもしっかり引き継がれているのだ。

ベジータ最新モデル「GR-G56FXV」。2012年モデルからは操作部には「スマートタッチパネル」が採用された タッチパネル部

ベジータは野菜の保存機能がすごい “雪下野菜”の甘さに衝撃!

 そして、2013年秋のベジータ最新モデル「GR-G56FXV」は、野菜へのこだわりを継続。ベジータの特長である湿度約95%の野菜室、野菜そのまま冷凍、W-ツイン冷却による高湿度・安定低温のメリットを生かし、野菜へ強みをよりはっきりと打ち出している。

 前モデルである「GR-F56FXV」をレビューで使用したときの私の実感でも、ベジータの「うるおい補給野菜室」に入れた野菜は、ラップなしで1週間後もシャキッとしたままだった。それが最新モデルでも、「専用冷却とうるおい冷気、そしてピコイオンの効果で、野菜の持ちが良い」そうで、保存機能が高いのが特長だ。

 さらに、ベジータの野菜室は、W-ツイン冷却による“雪下野菜のような保存”ができるのが特長なのだが、数日ベジータの冷蔵庫に入れておくだけで、本当に野菜の甘みが増すのだ。資料では糖度が約18%アップするとされているが、食べると確かに甘いのだ。家族からも「確かに人参もグリーンアスパラも甘いしうまい!」とお墨付きをもらったほどだ。

 また、全13個のセンサーで冷やしすぎのムダを防ぐ「ecoモード」も引き続き搭載。そして新モデルでも、ecoモード通常運転よりも約10%節電できる「節電」機能、ecoモード通常運転よりも約20%節電できる「おでかけ」機能も搭載。

 特にこのおでかけ機能は、泊まりがけの旅行や、年末年始の帰省などで長期間留守にする際にムダが省けておすすめ。このモードは帰宅してドアを開閉すると自動で解除されるので、設定を戻し忘れていた、ということもなく安心して使える。電力需要ピーク時に、霜取り運転を回避する「ピークシフト」機能も搭載されているので、さらに節電できる。

ゆでずに冷凍できる「野菜そのまま冷凍」の開発ではひたすら食味

 「野菜室がまんなか」以外にも、ベジータ誕生から現在もこだわり続けているのが「野菜がおいしい」というコンセプト。そこから生まれたのが、それまで野菜は肉と異なりゆでる作業(ブランチング)をしてから冷凍する必要があったが、水分の多い野菜の細胞でも、ゆるやかに冷凍することで、そのまま冷凍できる機能「野菜そのまま冷凍」を可能とした。最新モデルにも当然継承されている。

 開発当時、担当者はさまざまな種類の野菜を、ひたすら冷凍してから解凍して食べたそうだ。「野菜だけ食べて太るという経験は初めてでした」と笑う。結果としてコレならおいしい、と提示するまでは大変だったことだろう。理論的には「この野菜は大丈夫なはず」という推測はできるそうだが、実際おいしいかどうかは結局は食味までしないとわからない。女性社員数十人の協力を得て、開発を担ったという。

 実際、私はベジータの2012年モデル「GR-E62FX」を自宅で愛用中だが、「野菜そのまま冷凍」した野菜と、普通に冷凍した野菜では味や食感がまったく違うのだ。野菜の便利でおいしい食べ方を追求してくれた開発者に心から感謝したい。

 またこのベジータから、野菜冷凍のさらなる可能性を提供したいと、「ドライモード」を搭載している。「冬の屋外に天日干しするイメージ」だったそうだ。私もよく使っているが、大根やキノコなどをドライモードで加工すると味のしみこみがよくなる。お味噌汁の具にはいろんな種類をちょっとずつ使えて便利なのだ。

「野菜そのまま冷凍」下ゆで不要でそのまま冷凍できる。時短料理に便利 「野菜そのまま冷凍ドライ」機能で水分を抜きながらゆっくり冷凍すると天日干しのような効果になる

庫内カメラはドアを開けたときの記憶を外部記憶にする装置

 べジータは、こだわりの機能を継承しながらも、常に新しい試みにもチャレンジしている。特徴的な試みとして最新モデルでは、スマート家電サービス「家電コンシェルジュ」への対応もスタートした。なんと庫内カメラを設置して、外出先からスマホで冷蔵庫内を確認できる。「冷蔵庫の前に立ってドアを開け、ざっと見たときの記憶を、外部記憶にできればいい」と考えたそうだ。

庫内カメラは「フェミニティ」に加入して利用する。外出先からスマホで中身を参照できる、未来的な機能だ
女性目線で進化し続ける、使いやすいベジータの将来にますます期待したい

 今後の展開について話を伺うと、「冷蔵庫の庫内の画像を日々クラウドに上げているわけですから、その画像を分析するツールがあれば、賞味期限も推測できるかもしれないですよね」と話していた。ただ、開発者の目線はあくまで現実的。「冷蔵庫は食品をどう管理するかが役割。使いやすく収納することと、食品を入れたときの鮮度をなるべくキープすることがすべて」だという。意欲的な最新技術は取り込みつつも、技術ではなくユーザーを見るという、女性目線が生かされた製品だからこそ、ベジータにここまで魅力を感じるのだろう。

ベジータを日々使っていて感じるのは、このシリーズの利点は効果が誰にでも「実感できる」点にあると思っている。これほど毎日「買ってよかった」と満足できる製品はそう多くない。個人的に、今後もベジータのブレない進化を見守りたい。


(構成・文:西村敦子)

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