“家電コンシェルジュ”誕生のルーツは三菱のIHクッキングヒーター

 実は、私と三菱電機のIHクッキングヒーターとの出会いは2007年にまで遡ります。オーブンレンジの発表会会場の片隅で、発売されたばかりのIHクッキングヒーターの新製品の実演が行われていたのです。そのIHにはトリプルリングコイルを搭載したIHヒーターによる「煮込み機能」がついており、わずか20分ほど煮込んだだけなのに、長時間コトコト煮込んだような味わいの煮物やスープができるという説明がありました。従来のIHと、新製品の煮込み機能を使って作ったミネストローネを試食してみると明らかに違う! この時の驚きと感動がきっかけとなって、IHクッキングヒーターに興味を持ち、詳しい説明を聞きに工場まで取材に出かけることとなりました。そして調理実習も踏まえた取材を終えた後、「この感動を広く生活者に伝えたい」という思いが高じて、これまで幅広いジャンルにわたって取材をしてきたフリーランスライターから、家電に特化していこうという気持ちに。

 つまり、“家電コンシェルジュ・神原サリー”誕生のルーツは、この三菱のIHクッキングヒーターとの出会いにあったのです。

 それから約7年。三菱のIHクッキングヒーターは、庫内3面を炭コートした「遠赤外線炭焼き加熱」を搭載したり、パン焼きも可能な「グリルディッシュ」を開発したり、「高感度光センサー」や「予熱機能」が搭載されたりと、どんどん進化を続けています。最新の「びっくリングIH」とはいったいどんなものなのか? 久しぶりの小前田への取材に心が高鳴ります。

IHクッキングヒーターではなく「IH調理器」

 まずは、この10年間のIHの進化について、プロジェクトリーダーを務める三菱電機ホーム機器の亀岡和裕氏にお話を伺いました。

左が2000年頃にIHに使用されていた「シングルコイル」。右が2001年に誕生した「ダブルリングコイル」左が2007年に誕生した「トリプルリングコイル」。右が最新の5分割マルチコイルを採用した「びっくリングコイル」

 「他社では、どんな金属の鍋でも使えるオールメタルIHの開発など、IHクッキングヒーターをガスの代わりとなる“加熱手段”として捉えています。しかし三菱がずっと目指してきたのは、おいしさや本格的な調理性能、利便性といったものです。だから本当はIHクッキングヒーターではなく“IH調理器”と呼びたいところです」と亀岡氏。

 調理性能にこだわった“IH調理器”として、重要な役割を果たすのがコイルの進化。3口のビルトインタイプのIHが誕生した1999~2000年頃のIHでは、1つのコイルをぐるぐると渦状に巻いたもの(=シングルコイル)が一般的で、巻線の内側・外側で磁束の強いところと弱いところが発生し加熱ムラが発生するという欠点があったのですね。

 こうした加熱ムラをなくすために、中心部と外側との間にすき間を開けてコイルを配置した「ダブルリングコイル」が誕生したのが2001年のこと。ただし、この段階では鍋底の加熱ムラはなくなっても鍋肌部分が熱くはならず、「ガスと比較した場合、調理の仕上がりがよくないのでは?」という消費者からの声もあったようです。

 ここから開発チームが目指したのは、ガスと同じような調理ができることではなく、IH加熱だからできること。2007年に誕生した「トリプルリングコイル」では、コイルを分割して3重に巻くという新たな発想を採択し、外側のコイルと内側のコイルの火力を交互に強弱をつけることで対流を起こすことに成功。煮物に合わせた最適なかき混ぜ効果を発揮して、具材の1つ1つにしっかりと味をしみ込ませることを可能にしました。

 「次に考えたのは、大きいサイズのコイルという発想でした。IHの天面全体にコイルを配置するというようなことも考えましたが、『どこに置いてもいい』ということは『どこに置いていいかわからない』という使いにくさにも通じます。大きい鍋にも対応するコイルを配置するにしても、今までの形を崩すことへの抵抗もありました。結果として、リング状に巻くのではなく、5分割のマルチコイルを採用した直径約26cmの“びっくリングコイル”が生まれたのです」と亀岡氏。

“自動で吹きこぼれ抑制、自動でかき混ぜ効果を実現”―その理由は制御基板にあり

 びっくリングコイルを採用したことで、大きな鍋でもしっかりと加熱できる「全面加熱」、小さい鍋の大きさにぴったり合わせてムダを省く「スポット加熱」、卵焼き器など縦長・横長の鍋にも対応できる「タテ加熱」「ヨコ加熱」という分割エリアごとの制御を可能にした“びっくリングコイル”。外側と内側のコイルの強弱の切り替えを頻繁にし、対流の方向を切り替える交互対流で吹きこぼれを抑えつつ、沸騰状態をキープして職人が麺をゆでる技を再現してくれる「ゆでもの加熱」機能も魅力です。

 ところで、びっくリングコイルを採用し、直径を大きくしただけで、このような機能が実現できるのでしょうか? 否。次なるポイントは対流技術を実現するためにインバーターを複数搭載し、IPM(Intelligent Power Module)でコントロールしていることにあり。それを詳しく説明してもらうことにしましょう。

 「IPMとは、短絡、過電流、制御電源電圧低下、過熱等からコイルを保護する機能を専用IC化した高機能モジュールのことです。普通のIHクッキングヒーターに搭載しているシングルコイルやダブルリングコイルはインバーターを1つ搭載しています。2007年のトリプルリングコイルでは2つ、びっくリングコイルでは3つ使っています。だからこそ、びっくリングコイルは細かなインバーター制御が可能になり、5分割のコイルの強・中・弱や3方向交互対流などの制御が自在にできるのです。ただし、インバーターの数を増やせば制御基板そのものが大きくなってしまい、限られたスペースに配置することはできません。今回のびっくリングコイルの配置においては、さらに空きスペースがなくなったわけですから、よりコンパクトなものでなければ収まらず、IPMを遣うことにより実現しました。三菱電機では独自に技術を駆使しIPMを作っているため、A4サイズの半分ほどの大きさという小さいサイズが実現できているのです」と亀岡氏。

 なるほど、今回のような直径26センチという大きなコイルを採用できたのは、そもそも三菱ならではのIPM技術(制御技術)があったからということだったのですね。

左の小さな方が、三菱電機の独自技術で開発されたIPM(Intelligent Power Module)を搭載した基板。大きな方がIPM非搭載の従来型の基板
IHインバーター回路の小型化・薄型化を実現するIPMの単体写真

調理体験で驚きの連続! 肉じゃがもカレーも餃子も

 IH調理器として進化やその技術についてレクチャーしていただいたところで、いざ、調理体験へ。営業部販売推進課の新井好夫氏に調理の仕方を教わりながら、煮込み機能や大きなフライパンを使っての焼きもの、ゆでものなどを実践してみました。

 最初に挑戦したのは、肉じゃが。煮込み機能のないIHクッキングヒーターと、びっくリングコイル採用のIHとで同時に調理を始めます。私は煮込みモードのあるびっくリングコイルのほうを担当。鍋にじゃがいも、人参、玉ねぎの半量を入れ、その上に豚肉の薄切りの半量をくっつかないように並べます。再び、野菜、肉の順で残りの半量を投入したら、白滝を入れ、水と調味料を入れたら「あく取りシート」を上にのせて加熱。あとは30分ほど待てばOKです。

まずは肉じゃがにチャレンジ。具材、水、調味料を入れて、煮込みボタンを押すだけ。複雑な操作も不要です

 そしてもう1つ煮込み機能を使って作ったのが、カレーです。肉じゃがと同じように玉ねぎなどを炒めたりせず、材料と水を鍋に入れるだけ。20分後にカレールーを投入するため、タイマー設定をしておきます。

 続いては餃子! びっくリングコイルでは鍋底直径30cmのフライパンにも対応できるので、なんと一度に30個の餃子が入ります。しかも全くムラなくこんがり焼けるではありませんか。一方、従来のIHでは一度に焼ける餃子の数は20個。裏を返してみると、鍋肌に近いほうは少し焼き色が薄くて残念な仕上がりに。この差は大きいですよね。30個焼ければ1度の調理で済みそうですが、20個だと育ち盛りの子どもがいる家のママは、みんなが食べている間に2回目を焼きにいかなければならないかもしれません。

とてもおいしい羽根つき餃子が完成。鍋底直径30cmのフライパンに対応しているので、一度に30個焼けるのは魅力です

 まだ肉じゃが完成までに時間がありそうなので、うどんもゆでてみましたが、鍋のお湯がひと煮立ちしたら、めんを投入して「ゆでものボタン」を押すだけと簡単。分量に応じて「1(=1200W)」「2(=1700W)」「3(=2000W)」と選べるのもわかりやすいですし、何度もかき混ぜなければならないイメージだったうどんを、お任せでゆでられるのは本当に便利です。

交互対流で上手に吹きこぼれを抑えつつ、沸騰状態をそのままキープ。めん類をゆでるのに本当に便利な機能です

 と言っている間にカレーのタイマーが鳴ったので、ルーを投入しに向かいます。ガスでの調理と同じように、一度電源ををオフにして、ルーを砕いて入れようとしたら「サリーさん、そのままで大丈夫」と新井さんの声。通電したままで、しかもかき混ぜなくていいなんて本当でしょうか!?

待つこと30分。味がしっかりしみ込んだ肉じゃがの完成。肉じゃがに限らず、煮物に合わせて最適なかき混ぜ効果を発揮しますルーを砕かずにそのまま投入しても、見事なカレーが完成。焦げつきも全くありません

 そうこうしているうちに、肉じゃがの調理終了。具材と調味料を入れただけで、放ったままだった肉じゃがの味やいかに? まずはびっくリングコイルの煮込み機能で作ったお鍋から取り分けて「いただきます!」―ん? おいしい! じゃがいもが崩れていないし、肉にも白滝にもしっかりと味がしみ込んでいます。人参が甘い! それでは、煮込み機能なしのほうで作った肉じゃがはどうでしょう? 味のしみ込みがイマイチだし、崩れているし、なぜだか甘みも足りないようです。

 カレーのお鍋をのぞいてびっくりしたのは、誰もかき混ぜていないのにきれいにルーが溶けてとろみが出ていること。お玉で底を返してみても、焦げついている様子もありません。おそるおそるお皿によそって口に運んでみると、「どうして? なんで?」こんなにおいしいなんてずるいくらいです。対流効果なのか味わいがクリーミーだし、じゃがいもが切った時のままの形を保っているのに、食べてみるとほっくりちょうどよく煮えている。トリプルリングコイル採用のIHクッキングヒーターでも、その昔、調理体験をして感動したけれど、もっと進化しているのですね。これまでの外側・内側の交互対流だけでなく、5分割コイルで3方向交互対流も可能になっているからこその、この仕上がりのよさ&味のよさ。カレーも焦げつかないなんてびっくりです。

 そのほか、鍋肌まですばやく加熱される“鍋肌加熱”でチャーハンもフライパンをあおりながらパラッと炒められることも体感。グリルディッシュ機能を利用したパンや、煮込みハンバーグなども作っていただき、調理の楽しさやおいしさを心ゆくまで堪能。亀岡氏のお話にもあったように、三菱のIHクッキングヒーターはガスの代わりではなく、このIHだからできる“特別な加熱調理機器”として捉えるべきだということを実感できたのでした。


ほかにもグリルディッシュ機能で焼いたパン、煮込みハンバーグも食べましたが、どれもおいしくて、いろいろな料理を作りたくなります
グリル調理時のうっかりタッチを防止するグリルガード(オプション)もあります。特に小さな子どものいる家庭にオススメです

家族との食事を大切にし、料理好きな人のためのIH

 昨今の家電、特に調理家電においては、できるだけ手間を省いたり、料理が好きでない人にも作れるようにしたり…といった傾向が顕著なように思います。でも、三菱のIHクッキングヒーターのことを知れば知るほど、それとはちょっと違うと感じました。いつもの「焼く・煮る・ゆでる・炒める・揚げる」といった調理が、より多彩に楽しめる調理機器なのだと。

三菱のIHクッキングヒーターなら、料理が苦手な人も料理が楽しくなって、料理が好きな人はもっと料理が好きになると思います

 便利で快適に使える工夫は随所にありながら、それは楽をするためというよりは、調理のレパートリーを広げたり、失敗なく作れたりするためのもの。このIHクッキングヒーターを使って毎日のお料理を作ることで、自分も家族も笑顔になれる、そんな気がします。

 亀岡氏は「上手に楽しく使いこなしていただくために、Webを活用して動画でさまざまなコンテンツを発信していきたいと思っています」と語ってくださり、今後が楽しみです。そうそう、最後にもう1つ。IHクッキングヒーターは電気代がかかると思っている人が多いようですが、4人家族での1ヵ月の電気代は約850円(※1)とのこと。これなら安心して使えるのではないでしょうか。

 何気ない毎日を笑顔にしてくれる三菱のIHクッキングヒーター。これからのさらなる進化にも目が離せません。

(※1) 標準的な4名家族世帯にて、朝・昼・夕食時に標準的なメニューでIHクッキングヒーターを使用した場合の1ヵ月の電気代は約850円です。一般社団法人 日本電機工業会(JEMA)IH調理技術委員会調べ。JEMAホームページ(https://www.jema-net.or.jp/)小冊子IHクッキングヒーターQ&A(PDF)より電力目安料金は、公益社団法人 全国家庭電気製品公正取引協議会「電気料金目安単価」から22円/kwh(税込)として算出(平成25年6月現在)

(神原サリー)

関連情報

関連記事