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なぜ飲食店での検温は低めに出てしまうのか? オムロンに聞いてみた

店先での検温が日常となった現在。オムロンに正しい検温方法を聞いてきた

新型コロナウイルスの流行により、検温の機会が激増した。飲食店をはじめ様々な施設において、額で計測する非接触の体温計が使われているのだが、普段の体温よりもかなり低めまたは高めの温度が出る、エラーで測れないといった現象も起きがちだ。そこで今回は、オムロン ヘルスケアの担当者に、「非接触体温計の特徴と正しい検温方法」を語っていただいた。お話しいただいたのは、同社 商品開発統轄部 商品設計部 体温計開発リーダーの佐藤泰雅さんだ。

国内工場でも体温計を増産

――2020年は世界的に新型コロナウイルスが流行し、すっかり非接触のおでこ式が知られるようになりました。

実は赤外線で測るおでこ式は、海外ではコロナ前から普及しており、当社でも海外で販売をしていました。

――同じ赤外線体温計でも、日本では耳式が主流でしたが、おでこ式との違いは何でしょうか?

人体から放射される赤外線から体温に換算する原理は同じです。耳式は主にわきでの検温が難しい赤ちゃんの検温で多く使われていました。耳式は、プローブ(先端部分)が皮膚(耳穴)に密着するので、安定した計測が可能です。一方、おでこ式は、外部環境の影響を受けやすいですが、衛生面からも、完全に人体に触れずに計測できるおでこ式の需要が高まっています。

――わきで測る体温計や婦人用体温計など、御社だけでも様々な種類の体温計がありますが、それぞれの違いや特徴について教えていただけますか。

まずは測る部位によって、⼀般的な「わき式」、口で測る「口中式」、耳で測る「耳式」、額で測る「おでこ式」があります。そのほかにも、一般的ではないですが直腸で測る「直腸式」の製品もあります。そして、わき式と口中式は、「実測式」と「予測式」に分類されます。実測式はわきで10分、口中で5分の測定時間が基本です。それに対し、測定開始からの温度変化をもとに計算、15秒から60秒ほどの短い時間で体温を表示できるようにしたのが予測式です。

電子体温計「けんおんくん MC-687」
耳式体温計「けんおんくんミミ MC-510」

――短時間で結果が出る予測式は便利ですが、精度に差はあるのでしょうか。

差はありません。予測式体温計の精度は、JIS規格で実測式に対して±0.2℃以内に収まるよう規定されています。その範囲に収まらないと、医療機器認証を得ることができません。

――家庭での使用ではまったく問題ない範囲ですね。婦人用体温計は一般的な体温計とどのように違いますか?

基礎体温の記録に用いられる婦人用体温計は口中式で、起床後すぐに安静状態で測ります。一般的な体温計よりも細かい0.01℃単位で表示されます。

――直腸で測ることもあるそうですが、これはどのようなシーンで使われるのでしょうか?

主に手術中のモニタリングに使われます。また、病院では新生児の体温を直腸で測ることもあります。日本では発売されていないため一般的ではありませんが、海外では家庭でも使われています。

婦人用電子体温計「MC-652LC」
持ち運びしやすいように配慮されたデザイン
直腸式体温計。国内では販売されていない

――新型コロナウイルスの流行によって販売にも影響はあったのでしょうか。

全世界的に需要が高まりましたので、中国の工場では増産を実施しました。さらに、主に血圧計を作っている三重県の松阪工場に生産ラインを新設して、日本市場向けにペンシルタイプ(わき式)の体温計の生産を開始しました。

――2020年7月には、事業者向けに非接触の赤外線体温計「MC-720」も販売を開始されていますね。家庭用ではなく、事業者向けに限定しているのはなぜでしょう?

公共施設や病院、イベント会場などで、多くの人を短時間で衛生的に体温スクリーニングするのに適しているからです。昨年7月以降、全国の自治体、内閣府に寄付を行ない、9月から一般事業者へ対しての販売を開始しています。

おでこで体温が低めに出る理由

――おでこ式では34℃台など、低めの値が出ることが多いですが、精度の点でほかの方式に劣るのでしょうか。

いいえ。おでこ式も他の体温計と同じく医療機器認証を受けていて、正確に体温を測るという意味では、接触式と非接触式で違いはありません。しかし、表面に露出しているおでこは外気の影響を受けやすく、また冬には体温計本体が冷えていることもあります。実際の使用においては外気などの影響が大きいおでこ式の値は変動が大きくなります。そのため、使用時には正しい測り方をしてください。

なお、体温は部位によっても異なるので、わき下など普段測っている部位の体温と異なることは当然です。わき式を主に使ってきた日本の方は平熱が36.5℃、37℃を超えたら微熱というように、一定の数値に一定の基準を持っています。わきで10分測った温度や、耳、口中、直腸の奥まったところで測る温度は、体の内部の温度に近いですが、表面に露出しているおでこは外気や測定部位の表面温度の影響を受けやすいため、自分の知っている体温と異なる値が出て当然なのです。様々なタイプの体温計を使われている海外の方は、おでこでは34℃、わきでは36℃というように、各部位での平熱を認識されていることが多いです。

――発熱の基準を37.5℃以上と決めつけると、おでこ式では発熱している人を見逃している可能性があるかもしれませんね。

可能性はゼロではありません。しかし集団の中で特異的に高い人を探すスクリーニングであれば問題ないでしょう。体温は個人差も大きく、平熱でも35℃から38℃近い方まで、3℃ほどの差があります。当社ではスクリーニングで体温が高く出たら、わき式の体温計であらためて測定していただくことを推奨しています。

オムロン ヘルスケア 商品開発統轄部 商品設計部 体温計開発リーダー・佐藤泰雅さん

――おでこで測れない時、手首で測ることもありますが、手首での計測も有効なのでしょうか?

体温計は、機種ごとに測る部位が決まっています。決まった部位で測ることが大前提です。指先の冷えなどに比べれば、おでこの表面温度は安定していますが、それでもやはり表面に露出しているので、外気の影響を受けます。寒いとおでこの表面温度が低くなって、体温も低く出たり、寒いところから急に温かいところに入ると、顔が火照って高い数値が出てしまう。また、赤面したり恐怖で青ざめたりといった心理的な状態が体温に影響することもあります。

――外気などの影響をなくすために、屋内に入って何分待つなどの目安はありますか。

何分とはっきり言ってあげたいんですが、一概には言えません。自分の状態が測定場所になじんで、安定したと思ったら測るのがいいと思いますね。

――逆に、夏場に注意することはありますか。

汗をかいた状態では、体温は低めに出ます。汗による放熱作用で皮膚温度が下がるからです。ですので、汗が引くまで待ってから測っていただくのがよいでしょう。非接触ならではの難しさではあります。お化粧されていると低い方に振れますし。

――メイクが測定結果に影響するのですね。なぜ、そうなるのでしょうか。

ファンデーションなどは肌の凹凸を少なくし、赤外線が出にくくなるからです。逆に日焼け止めを塗っていると、外からの赤外線を反射するため、高く出る場合があります。

――正確に測るには化粧なども拭き取った方が良いということですね。病院などでもない限り化粧落として来てとはなかなか言えませんが(笑)。

非接触体温計は直射日光の影響を受けやすいので、少なくとも屋外で使用する場合は、日光の当たらない場所で使用するように注意していただきたいです。

――今後も検温の機会が減ることはないでしょうし、可能な限り正しく測ることはもちろん、体温計の種類や測る環境によって数値に幅があることを知っておくことは重要であり、結果的に感染の予防にもつながるのではないでしょうか。本日はありがとうございました。

小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>