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マジ!? トンネルのジェットエンジンみたいなのまで作ってるパナソニック! 大阪の高速道路にある実物を間近で見てきた!

 パナソニックといえば、洗濯機に冷蔵庫、炊飯器にエアコンなどの“白物家電”を思い浮かべる方が多いはず。女性には、ナノイードライヤーをはじめとした“ビューティー家電メーカー”としても名をはせている。そんなパナソニックが意外なものを作っているということで、壁コンセントやスイッチ住宅の分電盤などを家電 Watchでご紹介してきた。

 今回紹介するのは、究極のショッキング記事!? なんと! トンネルの中にある“ジェットエンジンみたいな送風機”をパナソニックが作っているという話だ。マジか!?

これこれ! パナソニックはこんなものまで作ってる!

 そう、あの送風機は通称「ジェットファン」と呼ばれており、国内重工業メーカーに交じって、パナソニックも手掛けている。それだけでもマジ!? なのだが、ジェットファンを作って高速道路へ設置している、パナソニック環境エンジニアリングという会社は、国内ナンバー1の納入実績で、これまで2,000台も納入したというのだ。たった2,000台と思うことなかれ。業務用のなかでも究極の業務用、トンネル用なのだ。

 さて、送風した空気はどこかでトンネルの外へ吐き出さなければならない。そこでパナソニックは、ジェットファンだけでは飽き足らず、トンネルのエアフローソリューションを統括して提供しているという。

 そんな超レアアイテムのパナソニックの重工業製品を、これまた超レアな工事中の高速道路で、しかも目の前で見せてくれるという話が舞い込んだ。読者がまったく興味なくても、筆者は猛烈に興味ある! ということで、大阪まで見に行った! こりゃスゲーわ!

工事中の阪神高速道路 大和川線。壁のコンクリートには穴が開いており、トンネルボーリングマシン(TBM)で掘ったのがよくわかる

阪神高速道路 大和川線はロジスティクスの未来を担う

 ここは大阪府の堺市。江戸時代から、海外との接点として名高い港町だ。しかしここから市外に荷物を輸送しようとしても、市内の渋滞している高速道路を抜けねばならない。また、長距離を結ぶ近畿自動車道や西名阪自動車道、阪和自動車道へ乗り継ぐにも、市内の高速道路を経由しなければならず、混雑の原因となっていた。

 それを回避するために建設しているのが、阪神高速 大和川線だ。かつて東京の首都高も、高速道路を乗り継ぐには、とにかく環状線を経由しなければならず、渋滞を引き起こす原因となっていた。それを回避するため、東京では首都高大環状線を建設することで、放射状に伸びる遠距離の高速に中心部まで行かなくても乗り継げようにしたところ、昔ほど混雑しなくなった。

大和川線経路。大阪湾と内陸をバイパスして、各地への長距離高速道路に接続できる

 今回建設している大和川線も、市内に進入する余計な車をバイパスする高速道路。堺の港から大和川線を通ることで、近畿の長距離高速道路に乗り継げるようにするものだ。

 また大和川線は、全国でも珍しいトンネルの構造となっている。それが避難経路だ。トンネルボーリングマシンで掘削したトンネルなので、その断面は円になっているが、通常は円の下部をふさいで道路にして、その下には排水や配電をするスペースとするのだが、大和川線では道路下部の空間の一部を避難経路にしているのだ。

大和川線のトンネル断面。左側の非常口のドアを開けると地下に降りる滑り台があり、道路の下が避難経路になっている

台風並みの風を送り、排気ガスや火災時の煙を排気する

 トンネルの換気システムの概要は、こんな感じだ。

 トンネル内の汚れた空気や、火災などが発生したときの煙は、ジェットファンで排気施設まで送る。排気施設では、汚れた空気を電気集塵機できれいにして、空中に排出する仕組みだ。

ポイントは、トンネル内の空気を排気施設まで送るジェットファン、排気口の電気集塵機、きれいな空気を排出する排風機の3つ

 さて、まずはトンネル内のジェットファンから見ていこう。上下線で別のトンネルになっている場合、ジェットファンはそれぞれの車の進行方向に送風する。車にとって追い風が吹いていることになり、上下線で風向きが逆なのだ。へー!

黄色のツブツブがジェットファン。青い矢印が風の方向

 車を運転したことがあれば、トンネル内の天井にジェットエンジンのようなものが一定間隔で吊るされているのを見たことがあるだろう。首都高の地下区間や帰省ラッシュで高速道路のトンネルで渋滞を経験したことがあれば、ファーン! と唸りを上げるジェットファンの音を耳にしたことがある方もいるだろう。

 送風機のパワーはかなり強い。羽の直径は1.25mあり1,200rpm(回転/分)とう速さで回転している。風速はなんと35m/s。ちょっとした台風レベルだ。

 実際に停止状態から運転してもらったのが次のムービー。

運転開始

 400V駆動の三相交流モーターが徐々に回りだすと、最初は静かに回っていた羽も、次第にファーン! と音を立て始め、30秒程度で音と回転が安定する。運転中のファンの音は、まるでプロペラ機が巡行速度で飛行しているようだった。少なくとも、扇風機やラーメン屋の油にまみれた業務用換気扇とは別物だ。

 この2台のジェットファンしか動かしていないのに、トンネルの中を風が抜けるの分かる。ムービーを見ると、天井に吊ってある照明が大きく揺れるほど。僕らはファンの真正面ではなく、下に立っているので直接風が当たってはいないが、それでも体に風を感じるほどなのだ。たとえて言うなら、エアコンの風量を強にした時の感じ。

天井に吊り下げてあるので小さく見えるが、羽の直径は1.25mもある

 万が一トンネル内で火災が発生した場合は、風量を最大にしたり、人が避難する方向と反対側に送風する。意外だったのは、ファンはONかOFFだけ。DC扇風機のような細かい調整はおろか、昭和時代の扇風機にもある強弱の設定もできない。風量はどのように制御しているかというと、稼働する送風機の台数でコントロールするというのだ。

 つまり火災などで、煙を一気に外に吐き出すためには、すべての送風機を稼働させ、そうでない場合はところどころの送風機を作動させる。確かにトンネルを走っていると、動いていないジェットファンを見かけるが、それにはこんな理由があったのだ。

避難者がトンネルの前後へ向かっている場合は、火元の両側のジェットファンは火元に向け風を送り煙をそこにとどめる。その周りのジェットファンはトンネル外に排気するように送風する

 なお風向きは双方向に切り替えが可能なので、ファンは特定方向に向けて最適化したスクリューのようにはなっておらず、武骨な板状の羽が2ついていた。

ファンは逆回転することもあるので、スクリューのように回転の向きに最適化された羽ではなく、武骨な板状の羽となる

 さてパナソニックのジェットファンだが、普段から車を運転している方は、いつもとちょっと違うのに気づくだろうか? 実は長さがすごく短くなっている。一般的なジェットファンは4mほどあるが、大和川線に入っているものは、軽く省エネでかつ騒音も静かなものというオーダーを受けて、2.5mと半分ほどの長さしかない。

従来型は騒音軽減のために4.3mあった筐体だが、新型は2.5mまで短くなり25%の軽量化ができた。しかも騒音は従来レベル
その秘密は内側にある無数の穴。この奥に吸音材を挟み込み、ファン自体が消音機になっている

トンネルの汚れた空気はキレイして静かに排出!

 ジェットファンが送り出す排ガスや万が一の火災の煙。トンネルには一定区間ごとに何カ所かの排気施設があり、これを換気所と呼んでいる。換気とはいえ、主に排気がメインのようだ。この換気所では、排ガスなどで汚れた空気を外気に排出する前に、集塵→消音→排気の3ステップが行なわれる。

  1)巨大空気清浄機で排気をきれいに

 ジェットファンで送られてきた汚れた空気は、排出施設に送られ、この施設内にある集塵機に送られる。読んで字のごとく空気中の微細なゴミを取る装置で、花粉より小さくPM2.5より大きい、粒子状のゴミが取れる。

この部屋の壁が集塵機。空気清浄機のフィルターと同じだ
1.5m四方の箱が集塵機の1ユニット。エアコンの熱交換器のように薄い金属板が何枚も重なっている

 集塵機は、エアコンの中にある熱交換器のように、金属板がたくさん重なったいくつものユニットがある。写真の奥側がトンネルにつながる部分。集塵の仕組みは、まずユニットの奥で4万Vの電圧をかけて、ゴミをマイナスに帯電させる。空気は手前側に送られるとき、プラスに帯電した金属板のあいだを通り抜ける。ここでマイナスに帯電したゴミがプラスの金属板に吸い付くことで、ゴミを分離できるという仕掛けだ。こういうと難しく聞こえるかもしれないが、要はプラスチックの下敷きで静電気を起こすと、髪の毛が下敷きにくっつく原理とほぼ同じだ。

電気の力で空気中からゴミを取り除くので「電気集塵機」と呼ばれる

 使っているうちに金属の板には、細かい粉塵がたくさん密着する。そのままだと集塵効率が悪くなるので、いったん電気を止めて水をドバッ! とかけて洗い流すようになっている。つまりこの集塵機、自動お掃除機能がついているというワケだ。

集塵機の施設には、洗浄水のパイプも通っている。この水で金属板を丸ごと水洗いするのだ

 実はこの電気集塵機もパナソニック製品(笑)。自動お掃除機能がついているあたりが、家電っぽいにおいもするが、日本で初めて実用化した質実剛健な業務用機だ。しかもどこを見てもパナソニックのロゴがない。そんな集塵機だが、これも国内シェアの60%を握っているパナソニックが、国内ナンバー1なのだ。

 また集塵するためには、トンネル内から空気を吸いださなければならない。そのため専用の巨大ファンを持っている。主な役割は、空気を排出するためのものなので「排風機」とよばれる。これは集塵機の次の部屋に設けてあり、トンネルから空気を吸い出す。

 トンネル内のジェットファンと違って、排風機はファンの角度を変えて、吸い込める空気の量を調整できるようになっていた。フル稼働すると、1秒間で学校のプールいっぱいの空気を吐き出せる能力があるという。

向こうに見えるのが集塵機、手前の天井に排風機がある
施設の敷地は限りがあるので、排風機は上向きに設置されている
排風機の大きさは幅4m、高さは10mもある

  2)猛烈な風の音とファンの音を消す

 排風機で吸い出したトンネル内の空気は、集塵機できれいになって、次に消音室に回される。とはいえ、そこは巨大な丸いゴミ箱が重なったような部屋。

 実はこのゴミ箱のような金属製の筒1個1個が、車のマフラーと同じ消音装置だ。金属が二重になった筒の外と内側には小さな穴が無数に開けられ、外側と内側の金属の間に厚さ数十cmの吸音材が挟まれている。

ステンレス製のごみ箱(笑)には、厚み10cmほどの消音材が入っている
内側と外側には、小さな穴が無数に空いていて、この奥に消音材が入っている
消音

 その消音効果は絶大で、唖然とするほど。消音機の向こうで、メガホンを持って大声で叫んでも、こちらに聞こえるのは「アリのささやき」ほどで、かろうじて話している内容が聞き取れるくらい。これで風切り音やモーターの騒音を30dbほど軽減できるという。たとえるなら地下鉄の車内の音が、静かな事務所レベルになるということだ。

  3)排気

 あとは建物の巨大な煙突から、きれいな空気を上空に向けて静かに吹き出すだけ。建物の天井にぽっかり穴が開いているのだが、稼働させると雨を吹き飛ばすほどの風の勢いなので、雨はさほど入ってこないという。とはいえ停止中は雨が入りこんでしまうので、煙突の下は升型になっていて、雨水を集めて排水するようになっていた。

建物の一番高い部分が煙突。下から見ると煙突には見えない

 煙突は消音室よりも大きいので、ここで風速が落ちるため、さらに静かに、ゆっくりと風が吹き出すようになっている。こうしてきれいな排気を静かに排出することで、近隣に迷惑をかけないように配慮している。

 さらに建物自体も工夫がされている。煙突を備えた大きな建物なので、そのままではどうしても目立ってしまう。そこで建物のデザインに横のラインを入れることで、周りの風景に溶けこませ、さらに高さを低く見せているという。

裏舞台の社会インフラを支えるのもパナソニック

 華々しい家電やAV機器ばかりが目立ってしまうパナソニックだが、日本を代表する家電メーカーでありながら、その裏ではパナソニックのロゴすらついていない装置も開発・製造していることが分かった。

 今回は阪神高速道路 大和川線を見学させてもらったが、実は東京湾アクアラインのジェットファンや換気装置の一部にも、パナソニック製品が使われているという。さらに東京の人にはおなじみの、山手通り地下の首都高速の一部にも使われている。実はパナソニックは、家庭でも街でもあなたに寄り添って、僕らの生活を豊かに、安全に、安心にしてくれる会社なのだ。