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ダイニチ工業が、石油ファンヒーターと加湿器市場でシェアNo.1を守り続ける理由

 ダイニチ工業が、同社初となる製品発表会を8月21日に開催。石油ファンヒーターと加湿器の新製品発表と同時に、代表取締役社長・吉井 久夫氏が、同社の企業戦略の一端を語った。

石油ファンヒーター「SGXシリーズ」
ハイブリッド式加湿器「RXシリーズ」

 ダイニチ工業の沿革は、もととなる東陽技研工業が設立された1957年まで遡り、ダイニチ工業となったのは1964年のこと。1971年には業務用石油ストーブ「FM-2型」、1980年には家庭用石油ファンヒーター「FA-32」を開発し、製造販売を開始している。

1971年に業務用石油ストーブ「FM-2型」を発売

 吉井社長によれば、世界初の家庭用石油ファンヒーターが三菱電機から発売されたのは1978年のこと。当時、業務用を手がけていた同社にとって、発売された家庭用石油ファンヒーターは、驚きだったという。

 「三菱電機さんの石油ファンヒーターの発売から、今年は40年という節目の年です。石油ファンヒーターは、日本の冬の暖房の主力製品となる画期的なものでした。

 現在では、ヒートポンプ式の冷暖房兼用のエアコンが普及したことで、石油ファンヒーターのシェアは減ってきています。ですが、今でもエアコンと併用されて、毎年200万台から300万台の需要が続いています」(吉井氏)。

代表取締役社長・吉井 久夫氏
石油ファンヒーターの出荷台数の推移

 多くの人が、毎年発表されるエアコンの新製品と比べて、石油ファンヒーターは、進化の速度が遅いと感じているだろう。だが、吉井氏は「石油ファンヒーターは、市場こそ成熟しているものの、製品に関しては成熟しているとは思わない」と語る。機能や性能、デザインや安全性といった点で、まだまだ進化させる余地は多いというのだ。

 一方の加湿器は石油ファンヒーターよりも古く、50年以上の歴史があるという。初期には、水を電気ヒーターで温めて蒸気を出すスチーム式が主流だった。その後、超音波式や気化式、ハイブリッド式などが開発され、現在でもそれらの方式の加湿器が混在して販売されている。そんな中で、同社初となる加湿器を開発・製造販売したのは2003年のこと。現在は、石油ファンヒーターとともに加湿器もシェアNo.1だとする。

主な加湿方式と違い

 吉井氏によれば、石油ファンヒーターと加湿器には共通点がある。前述のとおり、今ではエアコンが普及してきている。それに伴い、室内の湿度が低下する環境が多くなり、これら2つの製品に、新たな需要が生まれているというのだ。

エアコンでは部屋が乾燥しがちなのに対して、石油ファンヒーターには加湿効果があるとする
エアコンは、冬場の室内乾燥を加速させるため、加湿器が必要だと訴求する

 また、いずれも市場規模が極めてニッチな点でも共通する。ニッチゆえに、大手メーカーは同カテゴリーの市場を手放しているのだ。例えば石油ファンヒーターに関して言えば、かつて13社あったメーカーは、現在4社しかないという。

 「こうしたニッチな市場でやっていくには、トップであることが重要だと考えております。ニッチトップの考え方は、中小企業による事業創生や地方再生の掛け声にもなっていますが、簡単にできるものではありません。長年にわたる努力の積み重ねを通して、ユーザーに認められて成り立つものだと感じています」

シェアNo.1であるために続ける細かな改良

 そうした考えのもと、石油ファンヒーターと加湿器市場で、同社は共にシェアNo.1を維持している。シェアNo.1であり続けるため、特に石油ファンヒーターに関しては、エアコンに対する弱点を改善し続けてきたという。

 エアコンに対する石油ファンヒーターの弱点とは、着火するまでの時間がかかる点、灯油のニオイがする点、給油が面倒な点だ。それぞれに改良を加えているが、最新モデルの着火時間に関しては、これまで40秒だったのを35秒にまで縮めている。

 「実は、1980年に当社が初めて開発したモデルの着火時間は40秒です。そして今回発表したものが35秒。この間、40年弱も経つのに、5秒しか縮められていません。

 でも、他のメーカーさんのは4分から5分かかるんですよ。当社になにかブレイクスルーとなる技術があったかと言えば、ありません。画期的な開発が行なわれて5秒を縮めたわけではないんです。あそこの鉄板をもう少し薄くできないか、ここの溶接をどれだけ少なくできるか、そうした本当に細かいことの積み重ねで、着火時間を縮めてきました」(吉井氏)。

「細かいことの積み重ねで改良してきた」と語る吉井氏

 「商品や事業の寿命は、30年くらいと言われています。そんな中で、石油ファンヒーターは40年目となります。(ほかの製品に)撲滅されるのではないかと思っていましたが、まだ生き延びているんですよね」(吉井氏)。

 新しい製品を開発するのは、同業他社との競争だけでなく、エアコンなど他の製品に市場を奪われないようにするためだとする。そのために、今後も魅力ある製品を開発していき、市場を確保と拡大を目指していくと語った。

発表会場にはダイニチ工業のレジェンド製品も並べられた

 同社は東陽技研工業が前身。当初は、石油バーナーや石油風呂釜、石油コンロなどを主力製品として製造販売していたという。当時の製品ブランド名が「ダイニチ」であり、昭和39年(1964年)に、社名をダイニチ工業に変更した。

 発表会場には、東陽技研工業の時代からの、ダイニチ工業の歴史が振り返られる製品が並べられていた。その一部を紹介する。

同社の前身である東陽技研工業から発売された「加圧式石油コンロ S型」。ガスコンロが普及する前の昭和30年代に、多くの家庭で使われていたという
東陽技研工業からは発売された「加圧式石油ストーブ FB型」。加圧式石油コンロと同時期に普及したストーブ。より操作が簡単な芯上下式タイプが登場するまで人気を博したという
燃料が薪や炭だった風呂釜を、石油風呂釜として使えるようにする「落差式バーナ RD-2」
昭和42年(1967年)に発売された「気化式石油風呂釜 Hi-S型」。ヒーターで灯油を加熱気化してノズルより噴射させる仕組み。使用中の各種風呂釜をそのままに、バーナを取り替えるだけで使えた
昭和43年(1968年)に発売された「加圧式フレームガン」。火炎放射器のようなもので、玄関口やガレージの凍結を溶かす目的で使ったという。アメリカやカナダなどに輸出され、2年間で約20万台を出荷
業務用石油ストーブ「ブルーヒーター FM-712」。セラミックヒーターの採用で、約5分かかっていた点火時間を、1/4の80秒に短縮した
昭和50年(1975年)に発売された家庭用石油ファンヒーター「FA-32」。当時の他社製品が、着火に5〜7分かかるなかで、40秒で着火し、圧倒的にニオイが少なかったとする。初年度に73,000台を販売した