家電レビュー

水が流れて背中ヒンヤリ「水冷式ウェア」を試してみた

「DIRECT COOL」シリーズのプロ仕様「DIRECT COOL DC-B02」

ポータブルなUSBファンなど、猛暑の日本を生き抜くためのアイテムが続々とリリースされている。そんななか、既報の通り、山善から水冷式のウェア「DIRECT COOL」シリーズが発売された。

同品の見た目は、ジョギングやトレイルランで使われるようなバックパック。異なるのは、物を入れるスペースはほとんどなく、冷たい水を循環させるためのタンクがあり、チューブが張り巡らされていること。

実際にどんな製品なのか、本当に身体を冷やしてくれるのか? そんな疑問にかられて、メーカーからプロ仕様の「DIRECT COOL DC-B02」を借りてみた。

バックパックの外側
身体に密着するバックパックの内側

冷凍ボトルで冷やした水を循環させて、身体を冷やす

まずは構造を知ると、製品を理解しやすい。

先述の通り、形は小容量のバックパックだ。その外側にあるカバーをめくると、大きく頑丈そうなフタが配置されている。そのフタを回して外した水タンク室に、凍らせておいた500mlのペットボトルと、150mlの水を入れる。

冷凍ボトルで冷やされた150mlの水を、搭載ポンプで吸い上げる。そして、バックパックに張り巡らされているチューブを循環させるのだ。チューブは、バックパックの背中に接する部分と、ショルダーストラップ部分を、這うように張り巡らされている。

身体がチューブに接する部分を中心に、身体が冷えるのだ。

冷凍ボトルや水を入れる水タンク室につながる大きなフタ
水タンク室のフタを外したところ
冷凍ボトルを入れているところ。500mlのペットボトルだと、けっこうギリギリ
500mlの冷凍ボトルを完全に入れたところ
冷凍ボトルを入れたら、150mlの水を注ぐ
バックパックに張り巡らされているチューブ
ボックパック下部に収納されているポンプが、水を吸い上げてチューブ内を循環させる

身体中に冷たい氷を当てているような冷たさ

バックパックは、トレイルランニング用のバックパックを参考にして作られたとあって、フィッティング用のストラップを締めると、身体にピタッとフィットする。バックパック自体も軽く、500mlの冷凍ボトルや150mlの水、それにバッテリーやポンプの重量を含めても、それほど重さを感じない。左右の腕も動かしやすく、これならなにか作業をしても邪魔にならなさそうだ。

筆者は、さらに薄手のナイロンパーカーを羽織り、首元近くまでチャックをきちんと上げて、着用した。薄手ということもあって、周囲の人からは「あれ? なんか変だな」とは思われたかもしれないが、ものすごく異様なわけでもないと思う。

本体がスリムなので、背中や肩の部分のサイズに、ゆとりのある衣類であれば、上に着用できる。見た目については、例えばビジネス用のジャケットなどであれば目立つだろうが、防水ジャケットや雨合羽、ポンチョなどであれば許容範囲だろう。

実際、この格好で人の多い観光地を歩いたが、特に誰かの視線を感じることもなかった。

「DIRECT COOL DC-B02」を装着したところ
背中にピッタリとフィットする
胸の位置にはフィッティング用のストラップを2本配置。これを締めると、ピタッとフィットする
「DIRECT COOL DC-B02」の上に、薄手のナイロンパーカーを羽織ったところ

どれくらい冷えるかと言えば、冷凍ボトルがある限りは、チューブが接している部分がヒヤッとした冷たさを感じられた。例えば、筆者は気温30℃前後の日に、「DIRECT COOL」の上に、超薄手のナイロンパーカーを羽織って使ったが、その際には、背中や肩を中心にだが、ナイロンパーカー内の全体が涼しく感じた。

全身の温度をサーモグラフィーで見てみると、バックパックの水タンク室やチューブのある箇所が、よく冷えていることが分かった。

サーモグラフィーで見ると、バックパックの水タンク室やチューブのある箇所が冷えているのが分かった

冷凍ボトル1本で、効果は2〜3時間続く

500mlの冷凍ボトル1本での効果は、だいたい2時間半くらいだった。これは、20秒の作動と1分30秒の停止を繰り返す「ロング運転モード」で、1時間は外で遊び、1時間半は屋内で歩き回った結果。もし、屋外で、夏の猛暑の中で使用する場合には、もう少し短くなるかもしれない。

「冷凍ボトルを2〜3本入れておけば長持ちするのでは?」とも考えたが、入れるには無理があった。また入れられたとしても、使用後に取り出せなくなる危険があるだろう。

「ロング運転モード」では、冷凍ボトルがの氷が完全に溶けたあとも、バッテリー残量はまだまだ十分にある。筆者は、氷が溶けてしまっても、水が流れればいくぶんは身体を冷やしてくれるだろうと予想していた。ただ、これに関しては期待が外れた。水が循環していても、冷やしてくれる冷凍ボトルの氷が溶けてしまうと、ときどき「コポコポッ」と水が流れる音がするものの、背中などに冷たさは感じなかった。やはり、凍ったボトルが必要なのだ。

なお、「DIRECT COOL DC-B02」に搭載されている専用バッテリーの容量は5,200mAh。「ロング運転モード」での使用時間の目安は、約10.5時間〜約38時間。市販のモバイルバッテリーは使えない。

バックパックに搭載されている専用のバッテリー
専用バッテリーの出力端子。市販のモバイルバッテリーは接続できない(使用不可)

ライバルは、ファン付きの作業着

「DIRECT COOL」のライバルとなるのが、電動ファン付きの作業着だろう。今や夏の工事現場で多く見かけるようになった。このファン付きの作業着は、いくぶん涼しい外気を作業着内に取り込むことで、作業着内を涼しくする。

この電動ファン付きの作業着が空冷式だとすれば、「DIRECT COOL」は水冷式と言っていいだろう。

当然、それぞれメリットとデメリットがある。電動ファン付き作業着は、例えば衣類やTシャツに電動ファンが内蔵されているため、汗をかいても着替えられない。いっぽうの「DIRECT COOL」は、同機の上に作業着を着てもいいし、汗をかけば作業着を脱いでもいい。

「DIRECT COOL」は、この着替えられるというのが大きなメリットの一つだ。例えば、梅雨や夏の雨の日などに、外で作業する際には、雨具を着るか着ないかを迷うことがあるだろう。着れば雨は防げるが、雨具内で汗を大量にかくことになりかねない。そんな時に、電動ファン付き作業着は、その上から雨具などを事実上着られない。着た場合には、外気を取り込めなくなるからだ。だが「DIRECT COOL」であれば、同機の上からでも雨具を着られる。

また、電動ファン付きの作業着は、使用時に空気で作業着が膨れる。これが気にならない現場であれば良いが、例えば樹木の剪定などは、胴回りなどが膨らむと枝の間を通って登っていくのが困難だし、剪定バサミを使うときに手元が膨らむのも気になるだろう(筆者は一時期、剪定の仕事をしていた)。

逆に、電動ファン付き作業着の優位点も少なくない。まず、電動ファン付き作業着の多くが、市販のモバイルバッテリーを利用できる。また、バッテリーさえあれば、ファンが回り、涼しくしてくれる。

いっぽう、「DIRECT COOL」のバッテリーは、専用のものしか使えない。またバッテリー以外に、凍ったボトルが必要だ。冷凍ボトルは、コンビニなどでも売っているので、いざとなれば購入すれば良いが、その分、コストがかさむ点には注意が必要だ。

河原塚 英信