家電レビュー

パナソニックとブラウンの頂上シェーバー、どっちがなめらかに剃れる?

パナソニックが2021年6月に発売した「ラムダッシュ ES-LS9AX」(実売価格62,000円前後)と、P&Gが2021年8月に発売した「ブラウン シリーズ9Pro 9477cc」(同60,000円前後)

パナソニックが6月に発売した、同社初の6枚刃を搭載する新ラムダッシュシリーズと、P&Gジャパンから8月に登場した、「シリーズ9」(2014年)を超える新モデル「シリーズ9Pro」。

ラムダッシュ、シリーズ9Proともに往復式を採用しており、シェービングスタイルは似ているが、これらの2シリーズはどのように異なり、それぞれにどのような魅力があるのか、比較してみることにした。

ホールドのしやすさはほぼ互角

本体サイズと重さはラムダッシュが72×59×172mm(幅×奥行き×高さ)/約220gで、シリーズ9Proが66×44×168mm(同)/約215g。ヘッドの大きいラムダッシュの方が大きくて重いように思えるが、実際には重さはほぼ同じで、シリーズ9Proの方がずっしりと感じる。

ヘッドはラムダッシュの方が大きいが、重さはほぼ同じだ

グリップの形状がラムダッシュとブラウンで違うのが面白い。ラムダッシュは手に持った時にホールドする人差し指がはまるように背面がくびれているのに対し、ブラウンはなだらかな凸面のカーブを描いている。親指側はブラウンがすべり止め加工を施したサムレストを中央上部に配置するのに対し、ラムダッシュはそのような部分をデザイン的には配置していない。ブラウンが親指を中心にしてグリップするのに対し、ラムダッシュは人差し指を中心にしつつ、ほかの指で思い思いの持ち方をするという思想なのだろう。改めて比較してみると、対照的で面白い。

人差し指がはまりやすいラムダッシュ(写真上)と、なだらかな凸面のカーブになっているブラウン(写真下)
ラムダッシュは親指を置く場所が決まっていないが、ブラウンはすべり止め加工が施されており、「ここ」と決まっているような印象だ

ちなみにブラウンのサムレスト部分は、従来はヘッドのロックをオン・オフするヘッドロックスイッチを兼用していたが、シリーズ9Proではその下にスイッチが配置されるようになった。親指をホールドする部分が動くのはユーザーインターフェース的におかしいし、電源スイッチと間違える可能性もあったので、ここは使い勝手が改良されたといっていいだろう。

従来の「シリーズ9」(写真左)と「シリーズ9Pro」(写真右)のヘッドロックスイッチの違い。従来はスイッチ自体がサムレストになっていた

ラムダッシュ、ブラウンともにブレードを一新

まずは注目の剃り味について比較してみよう。筆者は人一倍ヒゲが濃く、アゴ下のヒゲは結構なクセがあって1回ではなかなか剃りづらい。3日間ヒゲを伸ばしてから剃ってみたが、どちらのモデルも1回ではパッと見て分かるほどの違いは出なかった。どちらも何往復かすればしっかりと深剃りできるため、刃の密着具合や動き、音などで比較してみることにしよう。

ラムダッシュはシリーズとして初めて独自の新構造「6枚刃システム」を搭載した。従来の5枚刃は中央にスリムコームスリット刃、その外側にくせヒゲリフト刃2枚、さらに外側にフィニッシュ刃2枚を配置していたが、新6枚刃システムでは中央にくせヒゲリフト刃2枚、その外側に新搭載の「アゴ下トリマー刃」を2枚配置し、その外側にフィニッシュ刃2枚という配置になっている。

ラムダッシュ(写真左)とブラウン(写真右)のヘッドの違い

新構造の6枚刃システムと高速リニアモーター駆動によって長いくせヒゲのカット率を従来品の約4倍にまで向上したというのが新ラムダッシュの売りだ。

一方のブラウン シリーズ9Proは、くせヒゲをより多くとらえるようにトリマー刃(プロブレード+くせヒゲキャッチ刃)の幅を従来モデルから35%広く、かつ30%薄く仕上げた。これに900パターンの網目を持つディープキャッチ網刃を組み合わせたシステムになっている。

ブラウンは深剃りしにくい“寝たヒゲ”も極限の0.05mmまで深剃りでき、一度に多くの種類のヒゲを捕らえられることでシェービング時間を従来より10%短縮できるというのを売りにしている。

背面にはどちらもキワ剃り刃を搭載。ラムダッシュ(写真左)はキワ剃り刃を出すスイッチがヘッドロックスイッチを兼ねている

ヘッドの追従性はラムダッシュが圧倒的に上

ヘッドの動きも両シリーズでかなり異なる。ラムダッシュは前後・左右・上下に加え、前後へのスライドとツイストの5方向に動く「密着5Dヘッド」、さらに6枚の刃が独立して1枚ずつ上下に大きく可動する「密着フロート刃機構」を採用している。

ラムダッシュは前後方向だけでなく左右、上下、前後スライドとツイストの5方向に動く「密着5Dヘッド」を採用している

ブラウンは前後にヘッドが40度動き、上下に浮き沈みするサスペンションを備えた「プロスイング密着システム」と、コンパクトなヘッドによって密着性の良さをうたっている。

ブラウンは前後にヘッドが40度動き、上下に浮き沈みするサスペンションを備えた「プロスイング密着システム」を採用している

実際に肌に当ててみると、その密着具合というか、肌の凹凸に追従する感じはラムダッシュの方が上に感じる。ヘッドを持って揺らしてみると、その動きのなめらかさに驚く。まるでカメラやスマホの揺れを防止するジンバルのように、あらゆる方向に動きながら凹凸に沿おうとしている感じだ。

ラムダッシュの方が肌の凹凸に追従する感じがある

ブラウンの場合ヘッドが動くのは前後のみで、可動域は広い一方で、その動きはラムダッシュほど“ヌルヌル”した感じにはなっていない。ブラウンはヘッドをロックする「ヘッドロックスイッチ」をすぐ操作できる前面に配置している(ラムダッシュは背面)こともあって、ヘッドのなめらかな動きで凹凸に追従させることにそれほど重きを置いていないのかもしれない。

ブラウンは前後にのみヘッドが動くようになっている

剃り味と音の質ではラムダッシュの方が上

実際に剃ってみたものの、一度のストロークではっきりとした差は出なかった。しかしラムダッシュの方がヘッドのすべりの良さを感じる。ヘッド中央に配置したスムースローラーが肌への摩擦を低減するため、肌の表面をすべるようにヘッドを動かしていくことができる。一方、“密着性”を特徴とするブラウンはそこまですべらないため、ほほの肉を寄せながらヘッドを移動させていくようなイメージだ。

左側(右ほほ)をラムダッシュ、右側(左ほほ)をブラウンで剃った
右ほほとアゴのラインを、ラムダッシュを使って1回のストロークで剃ったところ
左ほほとアゴのラインを、ブラウンを使って1回のストロークで剃ったところ

さらに筆者が改めて強く感じたのがその「音」の違いだ。

ラムダッシュは毎分約14,000ストロークの「リニアモーター駆動」で剃るのに対し、ブラウンは毎分約10,000回ヘッドを振動させる「音波振動テクノロジー」を採用している。その音はラムダッシュの方が甲高く、ブラウンの方が鈍い音になっている。

この違いがもたらすのが「剃り味の実感」だ。ラムダッシュは音が甲高いため、剃り残しがあると「チリチリ」とヒゲが剃られていくのが音で分かる。一方、ブラウンは音が低いため、剃り上げている音が聞き取りにくい。剃り残しを仕上げている時には、掃除機にある「ホコリセンサー」のように「ヒゲを剃りきりましたよ!」というのを何らかの形で実感したいのだが、それがブラウンでは分かりにくいのだ。特に最後の仕上げでは、ラムダッシュの方が音で判断しやすい分、剃り残しをせずに仕上げられる印象を受けた。

洗浄機のサイズ感はラムダッシュ、爽快感と安心感、手軽さはブラウン

続いて、剃った後に置く洗浄機を比較してみよう。ブラウンも決して大きくはないが、ラムダッシュのコンパクトさは群を抜いている。また、注目したいのは洗浄液の収納スペースだ。

ラムダッシュ(写真左)とブラウン(写真右)の洗浄機と洗浄液の違い

ラムダッシュは濃縮されてパウチに入れられた洗浄液を水に溶いて使うスタイルになっており、洗浄液は旅行用の使い切りシャンプー程度のサイズしかない。水に溶いた洗浄液はしっかりと除菌性能も備えているとのことだが、見た目だけだと石けん水のようにしか見えない。

ラムダッシュは洗浄液カップに水を入れてから、洗浄液を入れて使うスタイルになっている

一方、ブラウンはプラスチックの容器に入った洗浄液を洗浄器のフタを開けてセットするスタイルになっており、1個のサイズはかなり大きい。洗浄液の交換頻度の目安はだいたい1カ月に1回程度なので、たくさんストックしておく必要はないものの、収納にスペースを取ることは確かだ。ブラウンは業界で唯一アルコール洗浄液を採用しているとのことだ。ラムダッシュでも他社でも除菌性能をうたっているので大丈夫だと思うが、アルコールの香りは安心感がある。

ブラウンは洗浄液カートリッジのフタを取ってセットするだけで完了する

また、ラムダッシュは収納面ではいいものの、洗浄液を交換するたびに洗浄液カップを水洗いして水を入れ、洗浄液を溶く必要がある。ブラウンは洗浄液のカートリッジを交換するだけでいいので、手入れのしやすさは上だ。

国内メーカーの空気清浄機が「プレフィルターのホコリを掃除機で吸うだけで、フィルター交換は10年不要」とうたっているのに対し、海外メーカーは「半年~1年でフィルターを交換するだけで手入れ不要」としているのと同じで、手間と手軽さのバランスが違うのが興味深い。どちらも性能面では申し分ないが、好みが分かれるところだろう。

トラベルケースはバッテリー内蔵のブラウンに軍配……?

ラムダッシュもブラウンも、どちらもシリーズとして初めて充電トラベルケースを付属したのが大きな特徴だが、その性格は異なる。

トラベルケースのサイズはラムダッシュ(写真左)とブラウン(写真右)ともにほぼ同じ
ラムダッシュはUSBケーブル経由でケース内の本体を充電できる
ブラウンはケース内のボタンを押すだけで内蔵バッテリーから本体に充電できる

ラムダッシュがUSB Type-Cケーブル経由で市販のUSB対応のACアダプターやモバイルバッテリーから充電できるのに対し、ブラウンはケースにリチウムイオン電池を内蔵しており、最大で6週間分充電が長持ちするという。ケース自体の充電は約1時間でフル充電になるが、充電端子がブラウンの専用端子を採用しているのが少し残念なところだ。

ブラウン(写真左)は専用端子で内蔵バッテリーに充電するスタイルで、ラムダッシュ(写真右)はUSB Type-C端子で本体に直接充電するスタイルだ

ブラウン製品をいくつか持っているのであれば、洗浄機には付属のACアダプターを接続しつつ、ほかの製品のACアダプターからトラベルケースを充電するといった使い方ができるが、そうでない場合は出張などの前にあらかじめ充電しておく必要がある。

一方のラムダッシュはバッテリーを内蔵していないため、ケースで充電するためにはUSBケーブル経由でUSB対応のACアダプターなどと接続する必要があるものの、端子が今後主流になっていくUSB Type-C端子になっているため、汎用性が高い。そもそも1~2週間程度の短期出張や旅行であれば、どちらも1回の充電で十分なので、いざというときにUSBケーブル経由で充電できる程度で十分かもしれない。このあたりも好みが分かれるところではないだろうか。

ちなみにラムダッシュをトラベルケースに入れた重さは実測で約444g、ブラウンは約471gだった。キャリーケースなどに入れれば気にならないが、手持ちのバッグに入れるのであればどちらもなかなかの重さだ。

ラムダッシュをトラベルケースに入れた重さは約444gだった
ブラウンをトラベルケースに入れた重さは約471gだった

ブラウンの洗浄液やトラベルケースもいいが、個人的にはラムダッシュに軍配

どちらもしばらく使ってみたが、ラムダッシュは肌の凹凸に柔軟に追従してくれるだけでなく、ヘッドのすべりの良さが圧倒的だった。音も甲高いため、ほほあたりにある剃り残しを、音を聞きながら確認して剃っていけるのも使い勝手がいい。ブラウンの場合は鏡を見たり手ざわりで確認しながら剃り残しをなくしていく感じになるので、剃りやすさという意味ではラムダッシュの方が上だと感じた。

上位モデルにのみ付属する洗浄機とトラベルケースについては、ライフスタイルや好みによって評価が分かれるところだろう。ブラウンのアルコール洗浄液の香りは、正直ラムダッシュの洗浄液よりも安心感がある(ここは完全に個人の感想)が、カートリッジが大きくて邪魔になるし、洗浄機も若干大きいのも気になるところだ。

トラベルケースも、汎用性の高いUSB Type-Cケーブルで手軽に充電できるラムダッシュと、バッテリーを内蔵するものの、ケースへの充電の汎用性が低いブラウン。どちらも一長一短があり、絶対的勝者にはならない感じだった。

個人的な感想としては、ラムダッシュの方がトータルで上回ったという感じだ。ヒゲの濃さやクセなどは人によって異なるため、読者の方が選ぶ場合に重視するポイントや優先順位は違うこともあるかもしれないが、シェーバーを選ぶ上での参考にしてほしい。

安蔵 靖志