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東芝「かまど本羽釜」の新潟工場で“ミニ羽釜”誕生の秘密に迫る!

 東芝から、まさに羽釜そのものという形をした内釜を備えた真空圧力IHジャー炊飯器「備長炭かまど本羽釜」が発売されたのは今年1月のこと。これは、同社が1955年(昭和30年)に日本で初めて自動式電気釜を作り上げてから60年の記念碑的モデルであり、売上も好調だという。

 その「備長炭かまど本羽釜」にこの秋、新しく2.5合炊きの少量炊きタイプがラインアップに加わると聞き、11月中旬の発売を前に、新潟県にある東芝ホームテクノの工場に取材した。独自の技術である溶湯鍛造製法で作られる内釜の製造工程や、"ミニ羽釜"誕生までの開発陣の苦労、そして新製品で炊いたごはんを実際に食べてみての感想までを含め、その詳細をお伝えしたい。

「備長炭かまど本羽釜」2.5合炊きの少量炊きタイプ
羽釜そのもののような内釜

原材料から部品を作り、組み立てまで国内で一貫生産

東芝ホームテクノ

 今回、取材に伺った東芝ホームテクノは新潟県加茂市にある。東京からだと上越新幹線「燕三条駅」で下車し、車で20分程度。道中は梨などの果樹園や水田が広がり、穏やかな風景に心がなごむ。水田の近くに炊飯器の工場、なるほどと納得する。

 東芝ホームテクノで作られている家電製品は、レンジ、炊飯器などの調理関連や、アイロンなどのリビング製品、扇風機、空気清浄機などの空調関連、さらにはエネファームや家庭用蓄電池システム、冷却ファンなどの環境製品・部品にわたり幅広い。

 47,280平方mと東京ドームに匹敵する広さの敷地面積の中にはA・B・C棟の3つの工場を有し、素材加工から組み立てまですべてを国内で一貫生産している本物の"メイド・イン・ジャパン"なのだ。

東芝ホームテクノ生産製造統括部 製造部部長の溝口和茂氏

 「昨今は内製化の拡大で日本製を強調する傾向が強いですが、炊飯器についても原材料から部品を作り、板金プレスからPC板、成形、塗装・表面処理、そして組み立てとすべてを国内で一貫して生産しているのがこのホームテクノの特徴です。東芝の白物家電では唯一の国内工場になります」と東芝ホームテクノ生産製造統括部 製造部部長の溝口和茂氏。

 これまでの取材時や炊飯器の発表会の際に常に語られてきた「国内一貫生産」という言葉が実際に工場に来てみて、重みを持って実感できた気がする。独自の技術「溶湯鍛造」で作られる羽釜も早く見てみたい。

 だが、工場を見学する前に、東芝の炊飯器の歴史や「溶湯鍛造」について今一度おさらいをしておいたほうが良さそうだ。

東芝炊飯器の停滞を救った起死回生の技術こそが「溶湯鍛造」だった!

東芝ホームテクノ 家電事業統括部 家電商品企画部 調理機器グループ 担当主任の守道信昭氏

 冒頭で述べたとおり、東芝は1955年に日本で初めて自動式電気釜を作り、毎朝早起きしてかまどにつきっきりでいなければならなかった主婦たちを"かまどの番"から解放したのが、その歴史の始まり。炊飯が「つきっきり」から「おまかせ」へと変わった革新的な発明だ。

 その後、1978年には加熱方式が進化して高火力を実現させ、「かまど炊き風炊飯器」が発売された。北欧風のデザインがキッチンを明るくしそうな、今見てもなかなか魅力的な炊飯器だ。"炊飯器といえば東芝"と言っても過言ではないほど、人気を博していた時代だったのだ。

 「ところが1988年に他社さんからIH釜が出てきたわけですよ。当時高級と言われている炊飯器が2万円だった時代に、5万円の高価格で注目されました。でも、東芝はその後もIHには参入せず、ようやくIH釜を発売したのが1993年。東芝の炊飯器の低迷時代といっていいかもしれません。炊飯器から撤退か? なんて声も聞かれたときに、当時多く採用されていた『クラッド鋼板』を使った内釜より、熱伝導・熱対流に優れた溶湯鍛造厚釜のIH炊飯器を発売したのが1994年なんですね。それから20年経って、このかまど本羽釜へとたどり着いたということです」

 こんな衝撃的な説明をしてくれたのは、前回、川崎のCS評価センターでの取材でもお世話になった"釜仙人"こと、東芝ホームテクノ 家電事業統括部 家電商品企画部 調理機器グループ 担当主任の守道信昭氏。

 IH炊飯器への参入が遅れた東芝にとって、炊きムラを防いで高火力での炊飯を可能にする、ステンレスとアルミを合体させた溶湯鍛造厚釜の開発というのは、東芝炊飯器復活のきっかけとなる重要なターニングポイントだったとは。

 ここまで理解したところで、帽子と耳かけイヤホンを身につけて、いざ、工場内へ出発!

工場へ出発!
羽釜作りの製造工程によって分かれている建屋

羽釜の形状を一発成型できる溶湯鍛造製法と"切削"の大切さ

 3棟に分かれた工場のうち、板金プレスや溶湯鍛造を行なっているのは一番奥にあるA棟になる。11月に発売予定の少量2.5合炊きのかまど本羽釜(通称:ミニ羽釜)の内釜の製造も始まりつつあるようだ。

内ブタの板金プレス加工

 1つの機械で成型とプレス作業を同時に行ない、下からぽこりと内釜が出てくる様子に思わず目が釘付けとなる。向かいのラインでは、両掌に収まるような可愛らしくコロンとした形の切削前の内釜も並んでいるのが見える。

 これまでの内釜の形状とは異なった、羽付きの形状の成型と高圧プレスを一度に行なう"一発成型"を可能した『カムロック機構』の新設にたどり着くまでには大変な苦労があったという。

内釜が出てくる様子
コロンとした切削前の内釜が並んでいる
一発成型されたミニ羽釜

 「この形を実現させるためには金型構造を見直すなど、相当時間もかかりました。羽根付きという形だけではなく、高圧プレスによって気泡をなくさなければ熱の伝わりが悪くなって、せっかくの羽釜の形状が生かされません。また、気泡のない丈夫な肉厚の成型にしておかないと、この後の切削作業がうまくいかないのです」と溝口氏。

 5.5合の本羽釜も、新製品となるミニ羽釜もただ羽根付きの釜になっているだけでなく、釜の底には大きな対流を生み出してカニ穴を作る波状の"釜底WAVE"があったり、釜そのものの厚みもすべてが均等でなく、丸みを持たせながら最適化されたりしているのがわかる。

釜底WAVE
厚みが均等ではない

 切削のための機械に成型された釜をセットする作業をしていた製造スタッフの方に話を聞いてみると「外側の切削も大事ですが、内部の切削はごはんを炊く際に重要な役割をする部分になります。どのように削って仕上げるかは、すべて機械にプログラミングされているので、こんなに複雑な形状でも短時間できれいに加工できるのです。こうした切削が自在にできるのも、その前段階の成型が気泡もなく、肉厚にできているからですね」とのこと。

内釜の切削工程

 この溶湯鍛造製法による内釜の生産は1日に500〜1,000個という量産性の高さも特徴だという。これから新モデルも加わって、ますます人気に火がついても、どんどん生産できるので安心ということ。工場内には海外用モデルのラインもあり、炊飯器ブームの人気の高さがうかがい知れる。

 そのほか、タッチパネルの操作部のプリント基板の組み立て工程や検査工程、真空構造のワイヤレスチェック、重みのある本羽釜の上ふたのダンパー構造の仕組みなどを見せていただき、製造ラインを後にした。

タッチパネル操作部の基板
ダンパー構造の仕組み

60年前の1号機と最新のミニ羽釜のごはんを試食

 さて新モデルとなる2.5合炊きのかまど本羽釜の味のほどはどうだろうか? 今回は新しく麦ごはんのコースもあり、そちらも気になる。会議室には60年前に発売された初代機「ER-4」も置いてあり、しかもなんとこれでごはんを炊いている!

 「コードも残っているし、通電させてみたら大丈夫そうなのでせっかくだから炊いてみましたよ」と守道氏。"自動式"のヒミツは内釜と本体の間に入れた水にあり、この水の蒸発具合によってスイッチが切れるという仕組み。炊飯器に書かれた筆記体のToshibaのロゴが懐かしい。

 まずはこちらの炊きあがりを見てみると、驚くほどまっ平にきれいに炊けていてびっくり。ただ、ごはんの1粒1粒がやや小さく見えるのは、吸水や火力の足りなさのせい?

 さあ、実食。固めの食感ながら、噛みしめるほどに口の中にごはんの味わいが増して悪くないかも……というのが正直な感想。粘りを求める向きには物足りないかもしれないが、初代機も思いのほか健闘している。

初代機「ER-4」と新モデルの2.5合炊きかまど本羽釜
ER-4の炊きあがり

 続いてミニ羽釜を同じお米で炊いたもの。あ、やっぱり違う。粒が大きくて弾力もあり、噛むほどに甘い。こんなに小さな羽釜だけれど、5.5合炊きの味わいと遜色ない炊きあがりといっていいだろう。初代機で炊いたごはんも悪くなかったけれど、60年の進化ここにあり! と実感できた瞬間だった。

 さらに麦ごはん。専用の水位目盛と専用コースで簡単に炊けるという。食べやすさのバランスを考えて麦の配合は2割にしたとのこと。口に入れると麦が主張してこないで、白米と絶妙になじんで普通に食べられる。特有のにおいも気にならず、白米との食感のバランスがとてもいい。これは今までにない麦ごはんの味わいだ。

ミニ羽釜の炊きあがり
麦ご飯もおいしく炊ける

小さい炊飯器、いったい何合炊きが正解?

 試食タイムが終了したところで、開発陣や商品企画チームにミニ羽釜誕生までの話をうかがう。あらためて5.5合炊きと今回の2.5合炊きの製品を並べてみるとその大きさの違いに驚く。とにかく小さい。その一言に尽きる。ふたをあけて内釜を取り出してみると、その気持ちはさらに高まり、両手のひらにすっぽりと収まる"なじみ感"に「可愛い!」と声が出てしまう。まるで釜めしの容器のようだ。

2.5合炊きと5.5合炊きを並べるとその大きさの違いは歴然
ミニ羽釜でもしっかりカニ穴ができて美味しく炊ける

 「5.5合炊きのかまど本羽釜、おいしく炊けるし、本当にいいものなんですが、いかんせん少し大きいんですよね。一升炊きですか? とよく聞かれましたし。それでとにかく本体サイズを小さくするというのが次の機種への課題だったのです」(東芝ホームテクノ 家電事業統括部 家電商品企画部 調理機器グループ グループ長 川元順子氏)

 実際、5.5合炊きの炊飯器でも2合以下の炊飯をしている家庭が5割以上を占めるという調査結果もあり、小容量炊飯器の開発を急いだという。

 「そこで大いに議論されたのが、小容量といっても3合炊き、3.5合炊きが主流の中で正解は何なのかということでした。すでに2合炊きのものも他社から発売されていますしね。結局、2合の炊き込みごはんまでを可能にする2.5合ということで落ち着いたのです」(川元氏)

 でも、内釜の小ささだけでここまで本体が小さくなるものだろうか? 再び本体を触ってみると、何かが違う。あれ? 真空圧力じゃないのでは?

 「そうなんです。今回、真空圧力方式をやめました。出来得る限りサイズを小さくしたいということがありましたから。でも、味は変わっていないでしょう? それが1,000Wの高火力や熱対流の力のなせる技なんですよ」(守道氏)

真空圧力方式をやめてもしっかり炊ける

真空圧力非搭載、まったく新しい思想の"ミニ羽釜"

 なんと、東芝ならではのあの「真空圧力」を非搭載とは。同社の真空圧力は、吸水においても長時間保温に際しても絶大な威力を発揮する独自方式だったはずなのに。

 それにしても、試食の際に全くその違いがわからなかったほどの炊きあがりになっているのは事実。一般的な小容量炊飯器では600W程度の火力のものが多く、1合に対しての火力は200W程度。それに対してミニ羽釜は1合あたり400Wという高火力での炊飯を可能にしている。

 また、内釜の厚みや本体側の力を引き出すソフトウェアの開発により、熱効率を高め、連続大沸騰で高温を維持してお米のおいしさを引き出しているのだという。保温についても最大24時間おいしさを保つというから「東芝炊飯器=保温釜」の歴史は健在だ。

本体はひと回り以上小さい
羽釜の大きさもかなり違う

 繰り返しになるが、このサイズ感はこれまでにない小ささで可愛らしい。見た目だけでなく、使い勝手にも優れる。5.5合炊きのモデルでも「1膳」のごはんをおいしく炊き上げるところが素晴らしかったが、あの大きさではさすがに1人暮らしの人にはおすすめしにくかった。

 新モデルが発売されることで、ラインアップが増え、1人暮らしの方から高齢の方まで、おいしいごはんを食べたいと願う、すべての人がこの「かまど本羽釜」を使うことができるようになるのがうれしい。11月の発売が待ち遠しい。

神原サリー

新聞社勤務、フリーランスライターを経て、顧客視点アドバイザー&家電コンシェルジュとして独立。「企業の思いを生活者に伝え、生活者の願いを企業に伝える」べく、家電分野を中心に執筆やコンサルティングの仕事をしています。モノから入り、コトへとつなげる提案が得意。生活家電・美容家電分野の記者発表会にはほぼすべて出席。企画・開発担当者や技術担当者への取材も積極的に行い、メーカーさんの現場の声を聞くことを大切にしています。