神原サリーの家電 HOT TOPICS

家電は買って終わりではない 海外メーカー編

~“使いこなす”ための説明書とアフターサービス

家電製品本当に使いこなせていますか?

 家電の機能の進化に伴い、ボタンの数が増えたり、多機能すぎて使いこなせなかったり……ということが言われて久しい。毎日使う白物家電だというのに、デジタルカメラやレコーダーなどのように取扱説明書が厚くなり、読みこなせないどころか読んでいない人がどれだけ多いことか。いつも同じボタンだけ押して、決まった機能だけを使っているという話をよく耳にする。

 でも、本当にそれでいいのだろうか。家電メーカーはUI(ユーザーインターフェース)に気を配り、少しでも直感的に使えるようにと努力しているようだが、iPhoneのような直感操作ができる白物家電にはなかなかお目にかかることができないのが現状だ。そもそも、ここまで多機能・高機能になった白物家電を「自動」や「おまかせ」のようなボタン1つで使おうというのは何だかもったいないようにも思うのだ。取扱説明書をよく読んで、家電の特性や機能を理解して“使いこなす”ことができたとしたら、家電の価値はもっとあがる。家電製品自体は、どんどん高額化してきているのに、中に入っている機能のほんの一部しか使わないでいるとしたら、それは宝の持ち腐れだ。

 とはいえ、現状ではほとんどの取扱説明書(以下、取説)が、1~2色刷りで単調なデザイン。ページを開けば、注意事項の連発で全く読む気になれない。せっかく楽しく使いこなそうと思っても、著しくその気をなくし、「まっ、いいか」と電源をオンにして自動ボタンを押してしまう。せめて店頭に置いてあるパンフレットくらいの鮮やかさとわかりやすさの取説を作ってくれたらと思うのだが、家電メーカーにも都合があるのだという。

 というのも、パンフレットは販促費であり、取説は家電製品の一部だからだ。少しでもコストを抑えたい(その分、製品にお金をかけたいということでもあるのだが)ということで、現況のような取説になってしまうのだという。

 また、アフターサービスにしても「困った!」という時に電話をしてみると、自動音声通話で待たされた挙句、修理などの対応に時間がかかるということも多い。

 売ってしまえばそれでよし……という家電業界の現状はおかしい。家電は買って終わりではないはず。そんな疑問を持ち続けていたのだが、でもきっと取説やアフターサービスへの取り組みに熱心な家電メーカーもあるに違いないとアンテナを張って約1年。

 「これは!」というメーカーに取材してきたものを海外メーカー編・国内メーカー編の2回にわたってご紹介する。まずは、海外から日本市場に参入し、ファン作りに努めてきた海外メーカーだからこそともいえる、きめ細かいサービスや取り組みに注目していただければと思う。

ダイソンのファンづくりの秘密は“72時間サービス”にあり

 まず紹介したいのが、フィルターレスで吸引力が持続するサイクロンクリーナーの草分けとして知られるダイソンのアフターサービスの取り組みだ。英国に本社を持つダイソンだが、同社が日本法人を立ち上げてから15年経つ。

 日本では掃除機の価格といえば高くてもせいぜい3万円程度だった時代に、驚くほどの高価格で販売していたにも関わらず、積極的なCM展開や店頭でのPRが功を奏し、根強いファンを獲得。ここ数年は、日本の住環境に合わせたコンパクトなモデルやコードレススティッククリーナーを精力的に発表し、これまでこうした新モデルは敬遠しがちだった女性や、シニア層にもファン層を広げている。

2013年8月に発表されたコードレススティックタイプのサイクロンクリーナー「DC62」
DC62は日本の顧客からの要望を聞き入れて、改良が施されている

 では、日本向けの新モデルの投入がファンを増やしてきたのかといえば、それだけではない。その裏には同社の地道なアフターサービスへの取り組みがある。製品のパンフレットの裏表紙に必ず記されている「72時間サービス」がその代表的なものだ。

 これは自社のコールセンターで受けた不具合のある製品を翌日に回収し、サービスセンターへ運び込まれたものをその日のうちに修理して出荷し、顧客の元へ届けるという仕組みで、コールセンターへの入電から修理完了して手元に戻って来るまで72時間(3日)という短さ。これを15年間ずっと続けてきているのだ。

ダイソンの製品には「72時間サービス」と書かれた黄色いカードが取り付けられている
裏にはオンライン登録の案内も記載されている

 どうしてこんなにスピーディな対応が可能なのか。それはコールセンターもサービスセンターも、すべて自社のスタッフが対応しているからに他ならない。コールセンターで受けた不具合製品の台数やそれぞれの詳細を即座にサービスセンターへ連絡し、それに対応できるだけのスタッフや準備を整えて回収品を待つ。しかも、ダイソンのサービスセンターは、15年前の立ち上げ時から、鶴見のヤマト運輸の物流センター内にあるのだ。修理品を出荷する際にも全く時間のロスがないのだから、“最短”が可能になるわけだ。

ダイソン カスタマーケア マネージャーの鈴木 宏諭氏

 同社の企業理念の1つに“Different&better”がある。これは製品開発において「新しい技術で他社よりも前モデルよりもよいものを」ということでもあるが、アフターサービスでもそれを目指したのだという。

 同社では顧客のことを「オーナーさん」と呼んでいる。このアフターサービスの取り組みも「毎日使う掃除機だから1日も早くオーナーさんの元へお返ししたい」という想いから生まれている。パンフレットや取扱説明書はもとより、どの製品にも必ず「話そうdyson 買う前も買った後も」というステッカーが貼ってあり、フリーダイヤルの番号が記載されている。これも、単に不具合への対応だけでなく、製品へのアドバイスやアクセサリーツールなどについて、いつでも相談にのりますよという証だ。

 こうした取り組みの積み重ねから、根強いファンを作ってきたダイソン。コールセンターには「こうしてほしい」などの提案も多く届く。これをデータベース化し、英国の研究開発センターへ報告、新製品開発時に役立てている。最新モデルのコードレススティッククリーナー「DC62」でも、引き金式のスイッチの形状や力の入れ具合、取っ手の角度などに顧客の要望を生かしているという。サイクロンクリーナーとしての技術力の高さだけでなく、“オーナーさん”を大事にする姿勢こそが、製品の魅力をも高めているのではないだろうか。

アドバイスレターを修理品と共に返送する“カスタマーセントリック”なケルヒャー

 ドイツに本社をおくケルヒャー社は1950年にヨーロッパ初の温水洗浄機を開発、その後、事業を高圧洗浄に集中し、1984年にはポータブルタイプで家庭用の市場にも参入した。現在、世界190カ国で約3,000種類の製品を展開。業務用製品の種類も多いが、家庭用では高圧洗浄のほか、ホームクリーニング、散水システムなどのガーデニング製品を扱っている。

 ケルヒャー社の日本法人「ケルヒャー ジャパン」が設立されてから、25周年を迎えての記念モデルとなる日本向けの高圧洗浄機「ベランダクリーナー」を昨春発売。スチームクリーナーや窓用クリーナーも人気だ。

 同社では、1994年に本社ビルと工場を宮城県仙台市郊外に建設し、出荷や品質点検を一括管理する体制を整え、家庭用製品修理センターも敷地内に設けている。この修理センターには、日本中の販売店などから修理を依頼する製品が送られてくるが、それに迅速に対応するために、棚一面にそれぞれの細かな部品が収められ、切らすことのないように、常に在庫の管理がされている。過去10年間を振り返ってみても、部品を切らして待たせたことは一度もないという徹底ぶりだ。

宮城県の本社社屋に併設されている家電製品修理センターの部品棚
日本全国からの修理依頼品が集まってくる
高圧洗浄機の圧力テストをしている様子

 同社が全世界に掲げる中期戦略のキーワードは「カスタマーセントリック(お客様中心)」。製品の充実だけでなく、サービスの提供にもより一層の力をいれていきたいとしているが、日本での取り組みはさらにその上をいく。1日も早く修理して返送できるようにするのはもちろんだが、それだけでなく、返送品と一緒に、修理箇所から予測される今後の使い方のアドバイスの手紙も入れているのだ。

 というのも、全国から集まる修理依頼品のうち、「異常なし」のものがなんと15%もあり、単なる使い方の理解不足だったりすることが多いのだという。また、圧力が上がらない理由はノズルが詰まっているだけだったりと、ごく簡単な修理ですむことも多い。

 修理品を見るとどんな使い方をしたのかが予測できるため、今後、再び不具合を起こさず快適に使ってもらえるようなアドバイスをレターにしているとのこと。製品の種類や修理状況に応じて、パターン化した雛型を準備しており、取扱説明書の該当部分をコピーして同封することもあるという。また、購入からの期間が短い人は、使い方が把握できていない可能性があるため、直接電話をして使い方の説明をするといった対応もしている。

修理内容などに応じて同封されるアドバイスレター
必要に応じて取扱説明書の該当ページのコピーも同封される

 いずれも、会社の方針によって決められたことではなく、修理センターのスタッフが自発的に始めたこと。当初は社長もこの取り組みを知らず、知人から「ケルヒャーの製品に不具合があったので修理を依頼したら、素早く対応してくれて、しかも返送品と一緒に、修理箇所から予測される今後の使い方のアドバイスの手紙まで入っていて感激したぞ」という連絡が来て、知ったのだという。

 「自社製品を長く愛用してほしい。ファンになってほしい」という顧客に対する思いと、仕事への誇りこそが生んだ“本当のサービス”といえるだろう。

24時間365日、“究極のコーヒー体験”を届けるネスレネスプレッソ

 スイスのローザンヌに本社を置き、世界60カ国で事業を展開するネスレネスプレッソ社。家庭で淹れるには敷居の高かったエスプレッソを独自のカプセルコーヒー「グラン・クリュ」と、専用のマシンによって広め、パイオニアとして市場をリードしている。

 グラン・クリュは、すべてグローバル管理され、卸売を一切行なっていない。会員登録した人に直販、カスタマーサービスセンターでは24時間365日、注文や問い合わせに対応している。

 同社では2014年4月現在、22種類のグラン・クリュを発売しているが、味わいの強さや酸味、焙煎の強さなどの異なるコーヒーをどのように薦めているのだろうか。

 ネスレネスプレッソの日本支社のカスタマーサービスセンターは、注文受け付け、マシンの使い方やメンテナンス、新規登録、問い合わせの4つの部門から成る。コーヒーの知識や製品の知識などのコーヒートレーニングを2週間受けた後、コールセンター内でのオペレーショントレーニングを1カ月半受ける。つまり、2カ月の研修の後に、ようやく1人立ちすることになるわけだ。

 同社の受注システムでは、顧客の購入履歴から「おすすめ品」が提示されるようになっており、これは全世界共通とのこと。ただ、こうした機械的なおすすめ方法だけでなく、会話の中で引き出した顧客の要望によって、新しい切り口でのグラン・クリュを薦めることも多いという。中には、前回注文したグラン・クリュがどうも口に合わないと言ってくる人もいるが、その場合も食品の返品はNGということもあり、ミルクレシピを提案したり、濃すぎるようならお湯を足して飲んでみるなどの飲み方のアドバイスをする。

ネスプレッソ社内にあるサービスセンター
グラン・クリュのタイプ別ガイドブック(現在は22種類)
サービスセンターでのアドバイス時にはこうしたガイドブックを手にしながら、会話することもあるという
ネスプレッソクラブ マネジャーの大内和夫氏

 コーヒーは嗜好品であり、リラックスした時間に注文をしたいという人も多い。そのため、真夜中でもこうした注文電話を受けたり、問い合わせに対応しているのだという。製品はもちろんのこと、サービスにおいても“究極のコーヒー体験をお届けする”というのが、同社の理念。スタッフたちも皆、コーヒーが大好き。中でもネスレネスプレッソのエスプレッソが大好きという“ファン同志”のため、顧客とのよりよい関係を築きやすいという話には納得感がある。

 メンテナンス対応については、修理中は代替品(だいたいひん)を無料サービスしているが、問い合わせの電話の段階でアドバイスをすることで6割は解決してしまうという。決して安価ではないマシンやグラン・クリュ。だからこそ、会員制を敷き、丁寧なサービスを徹底しているということだろう。一度購入した顧客は愛着を持って使っている人が多いという話にも、家電製品の1つの理想を見たように感じた。

 明日掲載する後編では、日本の家電メーカーの取り組みについて紹介する。果たして、海外勢に負けないようなサービスはあるのか? どうかお楽しみに!

神原サリー